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インタビュー風景(動画)
3つの環「三環舎」
「三環舎(さんかんしゃ)という名前にはとても思い入れがあります」と社会福祉法人三環舎・理事長の向井扶美さんは言います。「三環舎」という名には、障害のある人が生まれ育った地域で暮らしていけるように「仕事の環」「余暇活動の環」「将来の夢を実現するための人の環」という「3つの環(わ)」をつくっていきたい、そんな思いが込められているそうです。
三環舎は、鹿児島と沖縄の間にある奄美大島で就労移行支援、自立訓練をおこなう「あしたば園」を運営しています。法人は設立して3年目と、まもないのですが、地域で環をつくる向井さんの活動は15年以上に及んでいます。
保健師であった向井さんが出身地の福岡県から奄美大島に来たばかりの頃は、障害児を取り巻く環境に驚いたそうです。そこで、障害のある子供の支援ネットワークをつくるために「奄美療育研究会」(現「NPO法人チャレンジドサポート奄美」)を設立して、早期発見の場、子供達が毎日通える療育の場や、地域の小学校に肢体不自由児が通える学級づくり、さらには中学校にエレベータを設置するなどの活動に尽力されてきました。
こうした取り組みを通じて、市役所などの行政機関や地域の方々との繋がりができたそうです。離島である奄美大島のような狭い地域においては、こうしたネットワークづくりが非常に重要であり、「3つの環」の実現には欠かせない要素だと向井さんは言います。
多くの人との繋がりを活かす
もともと「あしたば園」は名瀬市 手をつなぐ親の会が福祉作業所として運営してきましたが、それを引き継ぐ形で平成19年に新たに開設したものです。
現在、「あしたば園」では生姜、はんだま(葉茎菜類の野菜)などの農作物の栽培とパン、ケーキ、クッキーの製造販売といった生産活動をおこなっています。
生姜については、生産した生姜を全て引き取る契約栽培の話を徳之島の知人から聞き、奄美 本島の農家と一緒に栽培を始めました。
奄美の生姜は黄金色で辛味が強いと評判も良く、需要も多くなってきており、3アールから始めた栽培も今では16アールまで増えたそうです。
しかし、年によっては病気などで収穫が大幅に減ることがあります。また、生姜の単価自体が低いため収入が安定せず、工賃アップに繋がっていかないなど、課題も多いそうです。
そこで、生姜という一次産品を生産して販売するよりも「加工」という付加価値をつけ、より高い収益を得るために「生姜の佃煮」の商品化に取り組みました。これは「加工作業」という新たな就労移行支援のメニュー化も狙ったものでした。
佃煮 づくりは施設の近くにある「奄美市農業研究センター」の加工場を借りておこなっています。加工・製造については、「NPOチャレンジドサポート奄美」の会員である障害のある子どものお母さん達の力も借りておこなっています。
佃煮 づくりは今年で3年目となりますが、ようやく本格的な販売が出来るようになりました。今年はより売上を伸ばすため、包装パッケージを新たに作成しました。デザインは奄美で障害者福祉の講演をしたこともある協力者にパッケージの絵を描いてもらったそうです。
多くの人々の協力によって佃煮 づくりはおこなわれています。これも今までに培ったネットワークがあるからこそではないでしょうか。
このことは主力商品であるパンの製造販売においても同じように言えます。
法人設立当初、授産種目としてパンの製造を考えていたとき、パンの製造機器の整備をしている知人に、大手製造会社の山崎パンを紹介してもらうことができたそうです。山崎パンとの契約では、冷凍生地を仕入れる代わりに、製造の研修や販売のシステムづくりなど一連のノウハウの提供を受けており、リスクを最小限に抑えた効率性の高い製造販売が可能になりました。
旅行情報誌「るるぶ」にも紹介された「奄美の熟成フルーツケーキ「黄金花」(くがねばな)」
また、皆既日食(平成21年7月22日)にあわせ、奄美大島にも大勢の観光客が来島することを見越して商品開発に取り組んできた「奄美の熟成フルーツケーキ「黄金花(くがねばな)」の製造販売も新たに開始しました。
「黄金花」は、「奄美のしずく」というヨモギやアマチャヅルなど、60種類の薬草をつかった酵素飲料の生成物を使用しているのが特徴です。黒糖に半年以上漬け込んだスモモ、パパイヤ、キンカンを使用しています。「奄美のしずく」は非常に高価なものですが、製造会社のご好意により原材料として使用することができるようになったのです。
商品化にあたっては、ケーキ店を3店も訪問し、プロのレシピや量産化するための業務用機材を使った生産方法などを教えてもらいました。また、経営コンサルタント、商工会議所、民生委員、主婦などの様々な協力者を商品開発の検討委員会に招き入れ、意見を聞きました。その意味で、正に地域が一体となって実現した新商品なのです。
施設では職員が何度もミーティグを重ね、「黄金花」を店頭に置いてもらえるようみやげ物店や量販店へ出向くなどの営業活動をして、販路を拡大・確保することができました。皆既日食の前後には職員自らが店頭に立って販売をおこなったそうです。
こうした経験は「利用者の工賃をアップさせるためには売上を伸ばさなければならず、そのためには利用者に力をつけてもらうことが大切です。そのことを職員と利用者が互いに認識し、一緒になって取り組んでいくことが重要であると、職員に再認識させてくれた」と言います。
この「黄金花」は、今では旅行情報誌「るるぶ」の奄美のお土産品として写真入りで紹介されるまでになっています。こうしたことがきっかけとなり、「黄金花」が奄美大島のお土産として定着していければ一層の工賃アップが図れることでしょう。
そのためには今以上に販路を拡大し、そして知ってもらうことが大事だと言います。
さらなる販路の拡大へ
あしたば園で生産された生姜の佃煮、パンやクッキー、そして「黄金花」などの商品は現在、奄美市の中心に近い「あしたば村」でも販売されています。
「あしたば村」は、近隣の福祉施設の陶芸品や野菜、紙すきなどの販売を通じて施設の紹介をおこなう、福祉施設のアンテナショップとして法人設立前の平成16年に立ち上げました。ここでの運営が後の三環舎設立へと繋がることになりました。
取材に訪れた日の午後2時頃には、既にほとんどのパンは売り切れで盛況でした。また、パンについては移動販売を中心に着実に販売数を伸ばしてきましたが、今後は「黄金花」や「おからクッキー」なども更に売上を伸ばしていきたいと考えているので、空港の土産物売り場や奄美の観光スポットのほか、ホームページのネットショップを充実させることにより、多くの人に知ってもらい販路拡大を目指しています。
現在、パンと「黄金花」については、同じ工房を交代で使用して製造していますが、より生産性をアップさせるため、現在工房の増築工事をおこなっています。さらに、生姜の佃煮の生産量を現在の倍に増やすことや、生姜チップスなど新たな商品の開発など、今後も工賃アップに向けた取組みを計画しています。
平均工賃3万円を目指す
向井さんは次のように話します。
「障害のある子どもは遊び(療育)を通して発達します。大人は仕事を通じて成長すると思います。障害の程度に応じて自分の持っている力を発揮し、それが人のためになり、工賃につながっていけば喜びになります。私たちは、利用者が自立する力を培うための支援をしていきたいと思います。」
あしたば園の一日の作業時間は午前2時間、午後2時間の計4時間と短時間のため、目標としている工賃30,000円を達成するのは、簡単なことではありません。
しかし向井さんの話を伺うと、様々なアイディアとそれを実行するだけのバイタリティを強く感じ、すぐにでも達成してしまうのでは、と思ってしまうほど熱意が伝わってきました。
今後も奄美の資源や培ったネットワークを活用して新事業に積極的に取り組み、「3つの環」をどんどん大きなものにしていくことでしょう。
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