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医療

千葉県佐倉市・社会福祉法人聖隷福祉事業団 聖隷佐倉市民病院

患者本位の良質な地域医療実現に向けて

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された千葉県佐倉市にある聖隷佐倉市民病院を取りあげます。同院は、地域の医療ニーズに対応するため、病院の機能強化に取り組んでいます。病院の概要とともに実践する医療の特色について取材しました。

※この記事は月刊誌「WAM」平成29年6月号に掲載されたものです。


国立病院の経営移譲を受け平成16年3月に開設


 千葉県佐倉市にある社会福祉法人聖隷福祉事業団・聖隷佐倉市民病院(304床)は、キリスト教精神に基づく”隣人愛“に立ち「患者本位のより良質な医療を求めて最善を尽くします」という理念のもと、地域に開かれた病院として地域医療の中核を担っている。
 同院の開設経緯は、腎疾患の治療・研究を目的とした国立佐倉病院が国立病院再生計画により、千葉東病院との合併統合が決まり、社会福祉法人聖隷福祉事業団(法人本部:静岡県浜松市)が後継医療機関として経営移譲を受け、平成16年3月に開設された。
 同法人は静岡県を中心に1都8県において包括的な医療・福祉事業を展開しており、国立病院から経営移譲を受けるのは、兵庫県の聖隷淡路病院(平成11年)、神奈川県の聖隷横浜病院(平成15年)に続き、3カ所目となっている。
 経営移譲を受けた際の苦労について、同法人執行役員・事務長の石川英男氏は次のように語る。
 「経営的には年間10億円以上の赤字を出していましたので、移譲を受ける条件として新病棟を建てる費用のうち、20億円を国と佐倉市に負担してもらい、開設から5年間は年間赤字額の半分を国が補填し、6年目から自前で運営するという内容でした。職員については、腎疾患の治療で中心的な医師をはじめ、看護師、事務など9割近くの職員が残りました。ただ前身の国立佐倉病院はどちらかというと研究に重きを置いていた面がありましたので、経営を立て直して患者本位の医療を提供していくために、職員に対しては法人の理念や方針を浸透させることに力を入れました」。


▲広々としたスペースの総合受付と外来待合室 ▲一般病棟の個室

▲病院に併設する健診センターは、待ち時間を快適に過ごせるよう専用のリラックスルームを設置

医療機能を強化し地域の医療ニーズに対応


 同院のある印旛医療圏は、近隣には3次救急を担う日本医科大学千葉北総病院(600床)や東邦大学医療センター佐倉病院(451床)、成田赤十字病院(716床)など、大学病院や大規模な急性期病院が点在する地域。そのなかで同院は国立佐倉病院から引き継いだ腎疾患の治療をはじめ、得意分野である整形外科、がん治療、健診部門の機能強化に取り組んできた。
 同院は経営移譲を受けた際に、400床の病床許可を受けていたが、医師不足や経営的に難しい面があったことから、人材を確保しながら段階的に400床にする計画を立て、開設時は新病棟(200床)と透析センター(50床)でスタートした。
 医療機能の強化では、平成17年に健診センター、平成19年に緩和ケア病棟(18床)を新設し、平成22年の第2期工事では、手術棟・リハビリセンターの増築、放射線治療部門を開設した。その後、外来患者数の増加や、医療提供体制が整ってきたため、平成26年の第3期工事で外来棟の拡張やニーズの高い健診センターを移転新築したほか、透析センターを50床から101床に増床した。現在の病床数は304床となり、平成27年には一般病棟286床のうち、38床を地域包括ケア病棟に変更している。
 また、医療設備への投資も積極的に行っており、MRI装置(3テスラを含む)3台をはじめ、高精度照射が可能な放射線治療システムや、安全で確実な手術を可能とする脊椎整形外科のナビゲーションシステム、手術用O-armなど最新の医療機器を導入している。


▲拡張したリハビリセンターでは、セラピストが患者1人ひとりにあわせた質の高いリハビリを提供


慢性腎不全や脊柱変形の症例数は全国トップクラス


 診療機能の中核となる「腎センター」では、腎臓内科専門医、小児腎臓専門医、外科・泌尿器科医を配置し、成人から小児を含め、予防にはじまり治療、透析、移植手術まで、すべての段階において対応できる体制を整備している。前身の国立佐倉病院は、腎不全対策病院として腎移植医療に積極的に取り組み、同院に移行してからも、国立病院から引き続き治療を行っている腎医療スタッフとともに新しい医師が加わり、レベルの高い腎医療を提供している。
 また、脊椎疾患の専門的な治療を行う「せぼねセンター」は、経験豊富な脊椎外科医により、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症のほか、手術の難易度の高い脊柱変形疾患(側弯症や後弯症)など、すべての脊椎疾患に対応している。
 さらに、一昨年には「関節センター」を立ち上げ、整形部門においては全領域を網羅できる体制を整備した。
 「慢性腎不全や脊椎変形の手術件数は、県内トップの実績があり、とくに脊柱変形は手術できる病院が少ないこともあり、全国でも有数の症例数を誇っています。このような専門性に特化していることが当院の特色であり、近隣の病院との差別化ができていると考えています」(石川事務長)。
 急性期治療を終了した患者の退院後のフォロー体制では、看護師7人を配置した訪問看護ステーションを併設し、在宅復帰後の生活を支えている。また、訪問リハビリテーションのニーズが高いこともあり、今年8月からリハビリスタッフが試験的に患者宅へ出向いて支援を行う予定となっている。


地域の医療機関と顔の見える関係を構築


 地域の医療機関との連携体制については、副院長をトップに事務職5人を配置した地域医療連携室が中心になり、医療連携を進めている。
 「地域医療連携室の職員が中心になり、地域の病院・診療所に出向き、当院の診療科の特徴を説明するとともに、情報を共有することで患者の紹介・逆紹介を推進しています。事務職だけでなく、医師を交えた顔のみえる関係づくりにも積極的に取り組むことで連携を図りやすくなることにつながっています。急性期病院との連携では、平成27年に設けた地域包括ケア病棟のニーズが高く、在宅復帰につなげる病棟としてフル稼働している状況にあります」(石川事務長)。
 そのほかにも、地域連携の取り組みとして、骨粗鬆症マネージャー(日本骨粗鬆症学会認定)の認定を受けた医師・看護師・リハビリスタッフ、薬剤師などの多職種で構成する「骨粗鬆症リエゾンサービス委員会」を発足し、地域の医療機関に対して、骨折の予防や防止に向けて運動や食生活などの指導を行っている。
 医療スタッフの確保については、人材不足が全国的な課題となっているなか、同院も開設時から医師の確保に苦労してきたが、少しずつ医師が集まるようになってきたという。
 医師確保の状況について、病院長の佐藤愼一氏は次のように語る。
 「診療科によっては医師1人の部門もあり、まだ十分ではないものの、現在は常勤医師60人を確保し、腎疾患や整形外科医については、それぞれ10人を超える医師を確保することができています。その理由として、当院は症例数が豊富で医療設備などのハード面が充実していることもありますが、国内に限らず海外の学会でも積極的に発表していることで意欲のある医師が集まるようになってきました。入職後も、学会活動の支援には力を入れています」。
 看護師については、急性期病院が密集している地域ということもあり、確保に苦労している面があるという。研修制度の充実で病院を選ぶ看護師が多いことから、教育制度ではキャリアラダーを導入し、段階ごとに研修を組み込むことでキャリアアップを支援している。
 働きやすい職場環境づくりとしては、病院の敷地内に職員専用の院内託児所を設置しているほか、有給休暇以外に年間4日間の厚生休暇があり、土日や有給とあわせて1週間の休暇を取得することを推奨するなど、リフレッシュして仕事に取り組んでもらうことにつなげている。


▲働きやすい環境づくりとして、病院の敷地内に託児所を設置

他部門の業務を体験する「院内留学制度」を実施


 さらに、同院は開設10周年を迎えた平成25年に新たなスローガンとして「笑顔に応えていく、笑顔で広げていく」を掲げ、職員が笑顔にならなければ患者によい笑顔で仕事ができないという考えから、「笑顔プロジェクト」を始動している。
 同プロジェクトの取り組みの一つとして、「院内職場間短期留学制度」を毎年実施しており、事務職が看護部門で仕事をするなど、希望する部署で業務を体験できる機会を設けている。他部門の現場を体験することで、互いの業務への理解やコミュニケーションが図れることができ、連携しやすくなる効果があるという。職員からも好評で、毎回100人を超える希望者が出ている。
 そのほか、地域に向けた取り組みとして、地域住民を対象にした医療や健康に関する市民公開講座(年6回)や、腎臓病・糖尿病教室、アーティストを招いたロビーコンサートなどを定期的に開催。市民公開講座は健康意識が高い地域であることもあり、多いときには100人を超える参加があるという。
 また、地域に開かれた同院では、院内のボランティア活動も活発に行われており、現在70人の地域住民が登録している。活動内容は、園芸活動や院内図書館を管理してもらうほか、緩和ケア病棟の入院患者の話し相手や、がんを経験したボランティアが中心になり「がんサロン」を開催し、患者に寄り添いながらピアサポート活動を行っている。


▲院内図書館では、地域のボランティアにより管理されている ▲多目的ホールを活用し、市民公開講座などのイベントを定期的に開催

経営状況が好転し400床への増床を計画


社会福祉法人聖隷福祉事業団
聖隷佐倉市民病院

執行役員・事務長
石川 英男氏

 現在の病院の経営状況について、石川事務長は次のように語る。
 「最初の5年間はかなり大きな赤字がありましたが、地域の医療ニーズに対応した病院機能を強化しながら患者を増やすことができ、直近の3年間は安定した黒字経営に転じています。病床稼働率も90〜95%と高水準で推移しています」。
 同院は、目標にする400床に向けて、段階的に304床まで拡張してきたが、医療スタッフの確保が進み経営面が安定したことを受け、第4期工事として5階建ての新棟を建て、増床する建築計画が決まり、平成31年夏頃に完成する予定となっている。
 今後の展望について、佐藤病院長は地域から求められる医療を適切に提供していきたいとしている。
 「地域住民が困っている疾患に対し、しっかりと手を差し伸べられることが継続的に存続できる病院となるための大きな要因だと考えています。具体的にいえば、高齢化が進んでいますので、糖尿病と婦人科の常勤医師を充実させることで、さらに地域の医療ニーズに応えられるのではないかと思います」。
 地域医療を中心的に担い、患者本位の良質な医療を提供する同院の取り組みが今後も注目される。


地域住民に選んでもらえる病院を目指す
社会福祉法人聖隷福祉事業団
聖隷佐倉市民病院 病院長

佐藤 愼一氏
 当院は、平成16年3月に国立佐倉病院の経営移譲を受け、前身病院の腎疾患治療の高い専門性を引き継ぐとともに、当法人が理念に掲げる“患者本位の良質な医療提供”を実践してきました。それぞれのよい部分を活かすことで、地域住民からサービス面が向上したと高く評価されることにつながっています。
 また、当初の計画では県から400 床を認可されていたものの、医師不足などを理由に実現が遅れていましたが、この数年間で医療提供体制が充実し、経営的にも安定してきたことから、ようやく悲願であった新病棟の建築計画を進める予定となっています。
 今後も地域から求められる医療ニーズに応えていき、地域住民に選んでもらえる病院を目指していきたいと考えています。


<< 施設概要 >>
施設の概要 社会福祉法人聖隷福祉事業団
聖隷佐倉市民病院
病院開設 平成16年3月
理事長 山本 敏博氏
病院長 佐藤 愼一氏
職員数 795人(平成29年4月現在)
病床数 304床(一般病床286床、緩和ケア病床18床)
診療科 総合内科、腎臓内科、消化器内科、内分泌代謝科、循環器科、神経内科、呼吸器内科、メンタルヘルス科、和漢診療科、緩和医療科、小児科、外科、乳腺外科、呼吸器外科、整形外科、形成外科、リハビリテーション科、脳神経外科、泌尿器科、眼科、美容外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、放射線治療科、放射線科、病理科、麻酔科、血管外科
併設施設 透析センター(101床)/健診センター/訪問看護ステーション
住所 〒285-8765 千葉県佐倉市江原台2-36-2
電話 043-486-1151 FAX 043-486-8696


■ この記事は月刊誌「WAM」平成29年6月号に掲載されたものを掲載しています。
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