サービス取組み事例紹介
高齢者福祉

医療法人誠心会グループ

地域と一体になって、地域包括ケアと地域貢献事業に取り組む ゆのもと記念病院グループ

医療法人誠心会ゆのもと記念病院グループは、高齢化が進行する鹿児島県日置市を中心に地域包括ケアの構築を進めている。運営する高齢者住宅で、低所得高齢者でも入居が可能となる法人独自の家賃減免制度を導入するほか、財政難の自治体に代わり、地域行事を法人負担で主催するなど、地域貢献事業に積極的に取り組んでいる。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年12月号に掲載されたものです。

高齢者多機能福祉施設「ふきあげタウン」を開設


 昭和42年に設立された鹿児島県日置市にある医療法人誠心会グループは、「日本一やさしい医療・福祉を目指して」を理念に掲げ、常に利用者の視点に立ち、地域に密着した医療・介護を実践してきた法人である。高齢化率30.5%の日置市の急性期医療を担う「ゆのもと記念病院」を中心に、診療所、介護老人保健施設、高齢者住宅、在宅サービスなど、医療・福祉・介護を中心に41事業を総合的に展開し、地域包括ケアシステムの構築を進めている。
 平成23年11月には地域包括ケアの拠点として、日置市吹上町に高齢者多機能福祉施設「ふきあげタウン」を開設している。3階建ての同施設には、1階にグループホームと小規模多機能型居宅介護事業所、2〜3階にサービス付き高齢者向け住宅「希(のぞみ)の里」がある。訪問介護事業所と訪問看護サテライトステーションを併設するほか、診療所とグループ法人である社会福祉法人佑心会が運営する養護老人ホームと盲養護老人ホームが隣接する。また、「ゆのもと記念病院」と24時間体制の医療連携をとることで、入居者・家族にとって安心して暮らせる環境を整備している。


▲ 高齢者多機能福祉施設「ふきあげタウン」外観

 サービス付き高齢者向け住宅は全50室で、個室には電動ベッド、エアコン、クローゼット、洗面台などを備えつけ、緊急時には24時間常駐のスタッフが対応する体制をとっている。通常、サ高住では安否確認と生活相談のサービス提供が義務づけられる以外に、施設自体に人員配置基準はないが、同住居ではスタッフが24時間常駐するとともに、日中のスタッフは5〜6人と手厚い人員配置としている。このような人員体制と医療連携により、入居者の安心を高める運営となっている。

                
 ▲ 利用者の家族にいつでも気軽に来ていただきたいと考えて作った、サービス付き高齢者向け住宅の玄関ホール。 ▲ サ高住の居室。緊急時には24時間常駐のスタッフが対応する。電動ベッド、クローゼット、タンス、エアコン、照明、トイレ、カーテン、洗面台は標準設備。

 なお、同法人グループではサ高住のほか、介護付有料老人ホームを2カ所運営しているが、居室の面積や備えつけなどは、ほぼ同様のつくりだという。


 法人独自の家賃減免制度を導入


 昨今、急速な高齢化が進行するなかで、低所得高齢者の住まいの確保が課題として取りあげられているが、同施設内のサービス付き高齢者向け住宅では、法人独自の家賃減免制度を導入していることが大きな特徴となっている。
 家賃減免制度を導入した経緯について、医療法人誠心会グループ理事長の前原くるみ氏は、次のように語る。
 「私は内科医として、常に患者・利用者と接していますが、地域の高齢者からは『家族の世話や生活保護を受けずに、自分の収入だけで入れる福祉施設をつくってほしい』という要望が多く寄せられていました。日置市のように高齢化が進行した地域では、所得が少なく、収入が国民年金のみの方が多いという現実があります。国民年金の満額は約6万5000円で、そこから社会保険料や光熱費等を差し引くと、残るお金は2〜3万円となりますが、そうなると施設への入居も難しく、自分の生活を支えられないわけです。老後は収入に関係なく、安心して幸せな生活を送るべきだという考えから、このような家賃減免制度をつくることにしました」。


 自らの収入だけで、安心して暮らし続けることを実現


 同制度は、経済状況に応じて7段階の料金設定を設けている。収入が国民年金約6万5000円のみの場合は家賃が免除となり、1日3食の食費と光熱費などをあわせた月額4万8000円を支払うことで入居が可能となる。それにより生活保護の受給や家族に頼ることなく、自らの収入だけで、いつまでも安心して暮らし続けられることを実現している。
 減免額の決定については、入居希望者から申請を受けると、外部の社会福祉協議会会長や地元有識者で組織する「家賃減免審査委員会」で検討を行う。公平性を保つため、同法人の代表者は委員に含まないルールを設けている。現在、サ高住は満室となっているが、免除・減額を希望しない場合の家賃4万8000円に対して、入居者が実際に負担している家賃額は、免除もしくは1万2000円ほどのケースが大半だという。なお、免除・減額分については、グループ全体の収益から負担しており、国や自治体などの補助金等は一切受けていない。
 同法人グループでは、平成25年にも小規模多機能型居宅介護事業所とグループホームを併設する介護付有料老人ホーム「光里苑(こうりえん)」を開設しているが、同様に家賃減免制度を導入している。


 フィットネスクラブを利用し、「介護予防の予防」に取り組む


 そのほか、同法人グループは、介護付き有料老人ホーム、クリニック、デイケア、フィットネスクラブを併設する高齢者多機能福祉施設「ビクトリア街」を運営しており、フィットネスクラブを利用し、地域住民の”介護予防の予防“に取り組んでいる。
 フィットネスクラブの開設にあたっては、民間大手に運営を依頼したが、会員数の予測では300人が限度であることから、たとえ家賃が無料であっても採算がとれないことを理由に断られたため、法人で運営することになったという。完成した本格的なフィットネスクラブは、ジム、プール、スタジオ、サウナ等を月額会費3000円からというリーズナブルな価格で利用できるようにした。
 現在、会員数は予測を大幅に超えた1162人にのぼっている。フィットネスクラブの会員は通常、20〜30歳代が中心となるが、同施設では60歳代が最も多く、40〜80歳代が全体の半数を占める。移動手段をもたない高齢者のために無料送迎も行っており、利用者は朝10時に来て、15時に帰るといった、まるでデイサービスのようなイメージになっているという。


▲ 介護付有料老人ホームに併設したフィットネスクラブでは、地域の高齢者を中心に“介護予防の予防”に取り組む。移動手段をもたない高齢者のために送迎も行っており、仲間同士の集いの場にもなっている。

 「フィットネスクラブなので食事はつきませんが、会員同士が担当して昼食を持ち寄り、みんなで食事をするなど、コミュニティの場にも活用されています。開設当初は会員が集まらず、大きな赤字で悩んだ時期もありましたが、経営状態を知っている利用者から『ここは自分たちの生きがいだからなくさないでほしい』といわれ、会員数を増やすために知り合いに声をかけて連れてきてくれたおかげで、現在の会員数になっています。正直なところ、これからも黒字化は難しいと思いますが、『介護予防の予防』に取り組むことで、高齢者の生きがいになったり、介護保険を使わずに元気に過ごすことに確実につながっているので、地域のためにも継続していかなくてはならないと考えています」(前原理事長)。
 自治体が公民館等で開催する健康教室には、フィットネスクラブのインストラクターを派遣し、介護予防のレッスンなども行っているという。


 法人主催で健康づくりや地域交流につながるイベントを開催


 そのほかにも日置市との連携として、地域包括支援センターが中心となり、デイケア、デイサービス、地域密着型サービス、訪問介護、居宅支援事業所のサービス提供事業所連絡会に参加するなど、市と共同で研修・交流を積極的に行うことで、ケアの質の向上につなげている。また、同法人グループは日置市との間で「災害時における一時避難施設としての使用に関する協定書」を交わしているという。
 「当法人では以前から災害時の避難施設として、自主的に地域の高齢者を受け入れてきましたが、市からの提案を受け、正式に受け入れ施設としての協定を結びました。各施設には畳収納庫を設置し、災害時には畳を敷き避難所にできるようにしています。地域のためには取り組まなくてはならないことだと考えています」と前原理事長は語る。
 さらに、さまざまな地域貢献事業の取り組みを進めており、地域を活性化し、元気にしていきたいという想いから、自治体の理解を得て、健康づくりや地域交流の場になるようなイベントを法人主催で実施している。
 健康づくりのイベントでは、高齢者のゲートボールやグラウンドゴルフのほか、子どものソフトボールや水泳大会などを毎年開催する。ソフトボール大会は、日置市だけでなく鹿児島県全域から400人の参加があるほど規模が拡大している。
 夏祭りだけでも6カ所で開催しているという。「吹上町の人口は約8000人ですが、『ふきあげタウン』の夏祭りには毎年3000人の地域の方々がお越しくださいます。地域にはダンスなど、さまざまなサークルがあるのですが、披露する場がないため、出し物として出演したいと申し込みが殺到する状況となっています。このようなイベントを通じて、地域が一体感をもって、活性化につながるよう、少しでもお手伝いさせていただきたいと考え、すべて当法人が主となって開催しています」(前原理事長)。


▲ 地域を元気にさせたいとの想いから、自治体の理解を得て、多くの地域行事を開催。夏祭りには約3000 人が参加する。

 有資格者を増やし、離職防止につなげる


 現在、介護分野では人材の確保・定着は大きな課題となっているが、同法人では職員に資格を取得させることが離職防止につながると考えている。そのため、介護職員初任者研修の講習を行う「ケアスクールのぞみ」を開校し、無資格の職員や入職予定者に対して、教科書代のみで受講できる環境をつくった。
 介護福祉士とケアマネジャーの資格取得のための勉強会も毎週1〜2回実施しており、1000人を超えるスタッフの大部分が有資格者だという。実際に有資格者を増やすことで離職者は減少しているという。
 また、出産や育児を理由にした離職が起きない環境を整えることも重要となるが、同法人では「ゆのもと記念病院」内に定員30 人の託児所を設置し、保育料3000 円(月額)で職員が安心して預けることができる。
 「子どもたちにゆとりは必要ないというのが私の考え方なので、託児所の子どもたちには、保育士のほかにも英語や書道の先生、スポーツインストラクターも加え、勉強とスポーツが楽しくでき、笑顔ですごせる環境を提供しています。非常に評判がよく出産前から予約が入ることもあり、育児休業後の復帰率も100%です。深刻な少子高齢化が進んでいますが、優秀な子どもたちに育てていきたいと考えています」(前原理事長)。
 高齢化の進行する地域において、地域包括ケアの構築にとどまらず、住民のニーズに応じた法人独自の家賃減免制度の導入や、地域貢献事業を実践する同法人の取り組みが今後も注目される。


安心して働き続けられる環境をつくる
医療法人誠心会ゆのもと記念病院グループ  理事長 前原 くるみ氏 (医学博士・内科医)

 当法人が理念に掲げる「日本一やさしい医療・福祉を目指して」は、患者・利用者さんだけでなく、職員に対することでもあります。職員が望んでいることは何かと考えたときに、やはり歳を重ねても大切にされることではないかと思っています。
 最近では、仕事の実力があれば給料を高くし、加齢とともに能力が落ちてきたときに給料を下げるといった実力主義をとるところもありますが、それでは職場への愛着や仕事への執念がなくなります。私の考えとして、できるだけ給与水準を維持し、病気や怪我をしても安心できる。それがあっての人生設計だと思います。いまでこそ定年を過ぎても働き続けるという流れが出てきましたが、以前からそれをずっと実践してきました。当法人職員の最高齢は79 歳ですが、みんな定年を過ぎても残ってくれますし、離職率が低いのは将来の安心があってのことだと思います。
 また、地方では人口の減少が深刻で町の活気がなくなっていますので、定住人口や交流人口の増加が図れるような制度・仕組みをつくり、住みやすい地域にしていきたいと考えています。

<< 法人概要 >>
法人名 医療法人誠心会グループ
理事長 前原 くるみ 氏
施設開設 昭和42年 職員数 約1000人
法人グループ事業所 ゆのもと記念病院(107床、居宅介護支援事業所)/介護老人保健施設「シルバーセンター光の里」(デイケア、ショートステイ)/前原やすしクリニック(デイケア、デイサービス、居宅介護支援事業所)/リミ眼科/めぐみクリニック/日置市診療所/高齢者多機能福祉施設「ふきあげタウン」(サービス付き高齢者向け住宅、小規模多機能型居宅介護、グループホーム、訪問看護ステーション、ヘルパーステーション)/高齢者多機能福祉施設「光里苑」(介護付有料老人ホーム、小規模多機能型居宅介護、グループホーム)/介護付有料老人ホーム「ビクトリア街」(クリニック、デイケア、フィットネスクラブ)/グループホーム「あったかハウス」7カ所
電話 099−274−0550 FAX 099−274−1120
URL http://www.seishin-kai.org/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年12月号に掲載されたものです。
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