サービス取組み事例紹介
障害者福祉

社会福祉法人日本介助犬協会介助犬総合訓練センター〜シンシアの丘〜

介助犬の育成や普及活動を通じて障害者の自立を支える

社会福祉法人日本介助犬協会は、平成21年5月に日本初となる介助犬専門の訓練施設「介助犬総合訓練センター〜シンシアの丘〜」を開設した。介助犬の育成や普及活動を通じて、障害者が自立し社会参加を進めることを目指している。その取り組みを取材した。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成28年2月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。

▲ 施設の外観

障害者の生活を支える介助犬の役割


 介助犬は、手足に障害のある肢体不自由者の日常生活動作の手助けをするために、特別な訓練を受けて認定された犬のことをいう。主な介助動作として、@落としたものを拾う(小銭、鍵、書類など)、A指示したものを持ってくる(飲み物、車いす、発券機のチケットなど)、B緊急連絡手段の確保として、電話の子機や携帯電話などを手元まで運んでくることが役割となる。そのほかにも使用者のニーズによって、車いすの牽引や歩行補助、脱衣補助といった約50種類の介助作業を行うことで障害者の生活を支えている。
 現在、介助犬をはじめ、視覚障害者の歩行をサポートする「盲導犬」、聴覚障害者に音を知らせる「聴導犬」の3種類が身体障害者補助犬と定められている。平成14年10月に身体障害者の自立と社会参加の促進に寄与することを目的に施行された身体障害者補助犬法(以下、補助犬法)では、公共施設(病院、スーパー、飲食店など)や公共交通機関(電車・バスなど)において補助犬を同伴する障害者の受け入れを義務づけているほか、平成20年には都道府県・政令市・中核市に相談窓口が設置されるとともに、一定規模以上の民間事業所での同伴受け入れも義務化されるなど、補助犬を通じた障害者の自立や社会参加に向けた環境の整備が進んでいる。

介助犬を通じて、障害者が自立し社会参加することを目指す


 このようななか、日本介助犬協会は、平成7年より介助犬の育成活動をスタートし、平成16年に社会福祉法人の法人格を取得している。「人にも動物にもやさしく楽しい社会をめざして」をモットーに、介助犬の育成・普及を通じて、より多くの障害者が自立し、社会参加できるよう取り組んできた。主な事業として、良質な介助犬の育成や訓練者の養成、普及・啓発活動、調査・研究活動などを実践している。
 介助犬の現状について、同法人専務理事で医師の蝸F子氏は次のように語る。
 「介助犬が介助作業を行うことは、当事者・家族の負担が軽減するという機能的な有効性だけでなく、使用者の精神的な支えになることも大きなメリットです。介助犬がいる安心感によって、一人で外出する意欲が生まれ、行動範囲が広がることが自信となり、人との会話が増えるなどの二次的効果もあり、社会とのつながりが生まれることが期待されています。現在、日本では介助犬の補助を受けることで自立できる障害者は全国に約1万5000人いると推計されていますが、平成29年9月現在の実働頭数は、比較的認知されている盲導犬の950頭に対して、介助犬は68頭と少ないうえ、都道府県の約半数で1頭も実働していないなど、まだ十分に社会に浸透していない実情があります。そのため、介助犬専門の育成施設を開設し、介助犬を育成していくとともに、さらなる普及・啓発活動に取り組んでいます」。
 リハビリテーション医である蜴≠ェ介助犬育成に取り組むきっかけとなったのは、短期留学先のアメリカで介助犬の存在を知り、感銘を受けたことだという。帰国後、介助犬の育成・普及活動に精力的に取り組み、補助犬法制定や育成施設の開設に尽力してきた。その功績から平成26年に東京弁護士会が人権擁護・啓発活動に貢献した個人・団体を表彰する人権賞を受賞している。


 ▲ 施設内のトレーニングセンターではトレーナーやリハビリ専門職が協働し、介助犬の育成を行う ▲ 犬舎では最大25頭の犬が訓練を受けながら生活している

日本初の介助犬専門の訓練センターを開設


 平成21年5月に愛知県長久手市に開設した「介助犬総合訓練センター〜シンシアの丘〜」は、日本初となる介助犬専門の育成施設である(WAM福祉貸付事業利用)。 施設名は、介助犬の存在を全国に広め、補助犬法制定のきっかけとなった介助犬「シンシア」から名付けられている。
 同センターの敷地面積は1600uで、最大25頭の介助犬を育成することが可能となっている。また、障害者が訓練を行う宿泊施設を併設していることが特徴である。


▲ 訓練室(5室)では、介助犬を希望する人が宿泊しながら介助犬について学ぶ

 介助犬の育成の流れは、図表のとおりである。介助犬になる可能性のある子犬は、生後約2カ月〜1歳までの間、パピーボランティアと呼ばれるボランティアの家庭で育てられ、1歳になると訓練センターに入所する。そこで介助犬としての適性が認められると、一般的な基本動作や介助動作を訓練した後に、介助犬を希望する当事者とのマッチングを行い、ニーズにあわせた追加の訓練を行っていく。なお、最終的に介助犬と認定されるのは2〜3割だという。適性がないと判断された場合はキャリアチェンジ犬として、PR担当になったり、ペットとしてボランティアに引き取ってもらうなど、介助犬の育成は多くのボランティアの協力によって支えられている。



 また、当事者に対しても、介助犬使用者としての機能的適応だけでなく、犬の飼育管理や衛生、行動管理の責任を負えるかを評価するとともに、補助犬法の目的とする介助犬を 通じてどのような社会参加を目指したいのかを確認することで、抱えている生活の課題を把握していく。その後、合同訓練として介助犬使用者と候補犬がセンター内にある訓練室に一緒に宿泊し、信頼関係を築くなど必要な訓練を実施していく。
 この合同訓練は、補助犬法で40日(在宅10日)以上の実施が定められている。合同訓練終了後に厚生労働大臣指定法人による審査・認定試験をクリアすることで、使用者と介助犬がペアとして認定を受け、介助犬が無償貸与される仕組みとなっている。

多職種が連携し、一人ひとりのニーズにあわせた訓練を実施


 介助犬育成の難しい点としては、目的がある程度決まっている盲導犬などと違い、身体状態や生活環境によって求められる介助の内容が異なるため、一人ひとりのニーズにあわせた訓練が必要になることがあげられる。
 「介助犬は10歳を目途に引退することが決められていますが、2歳で認定を受けたとすると平均で7〜8年間貸与していくことになります。障害の原因は進行性の疾患であるケースも多いことから、医師をはじめ、理学療法士や作業療法士のリハビリスタッフが連携し、正確な診断や予後予測に基づいた訓練計画を立て、貸与する段階から疾患の進行後も対応できる訓練を行っていく必要があります。トレーナーが一律に同じ訓練をすればよいというわけではないことが、介助犬育成の難しいところだと思います」(蜴=j。
 現在、全国で実働している68頭の介助犬のうち、同センターから23組のペアを誕生させている。  

普及・啓発活動として年間300件のイベントを開催


▲ 毎月開催する見学会には、全国から多くの参加者が集まる

   同協会の使命である介助犬の普及・啓発活動として、年間300件にのぼるイベントを開催している。
 「介助犬の存在を知ってもらうため、多くのイベントを開催していますが、何より普及につながるのは介助犬使用者が実際に活躍している姿をみてもらうことだと考えています。幸いにして当協会の使用者の方は、介助犬と幸せに暮らせる人を増やすお手伝いをしていきたいという方ばかりなので非常に助かっています。それが何よりも使用者の生きがいになっていることは大きな意味があると実感しています。また、介助犬を普及させていくためには医療従事者に浸透させることも必要です。例えば、車いすを使用する際には本人の判断ではなく、医師やリハビリスタッフが紹介し導入するわけですが、介助犬も同様に医師等が紹介しないと普及していきません。最近では学会などに出向いて介助犬の説明をしていますが、医療従事者にも浸透してきたことで、少しずつ希望者が増えています」(蜴=j。
 そのほかにも、介助犬に対する理解を深めてもらうことを目的に、同センターの一般見学会を毎月開催している。

一般見学会として訓練センターを開放


 平成27年12月に開催した見学会の様子を取材した。見学会のプログラムでは、介助犬の現状や役割についての説明のほか、介助犬によるデモンストレーション、介助犬使用者の話で構成しており、全国から多くの参加者を集めた。


 ▲ 介助犬によるデモンストレーションの様子 ▲ 介助犬使用者から、実際の介助犬との生活について聞く貴重な機会となった

 デモンストレーションでは、スタッフが車いすを使用する介助犬使用者役を演じ、介助犬が冷蔵庫のドアを開けてペットボトルの飲み物を持ってきたり、部屋に置いてある携帯電話を探して手元に運ぶ場面を実演すると、参加者から大きな拍手が送られた。
 介助犬使用者の話では、怪我によって突然何もできなくなり、家族などに何度も用事を頼むことは精神的につらいため、自分からは一切主張せずひきこもり状態になっていたという。介助犬と暮らすようになり、一つずつできることが増えていくことで「次はこれもできるかもしれない」と、新たなチャレンジをしていく意欲が湧くようになったと語った。現在は、介助犬の普及に向けて、小学校などで講演するほか、一人で飛行機に乗って全国で開催される介助犬に関する学会に参加するなど精力的な活動をしており、「介助犬によって人生を変えられることを一人でも多くの人に広めていきたい」と呼びかけた。
 同協会は今後の課題として、さらなる普及・啓発活動に取り組んでいくことをあげている。
 「補助犬法が十分に浸透していないことから、病院や飲食店などで介助犬の同伴拒否がまだあるのが現実です。障害者自身も関心があるのにもっと重度の人でなければ使用者になれないといった誤解や、介助犬は無償貸与だということも知られていません。普及・啓発活動を通じて、社会参加をしたいと考えている人には誰にでも可能性があることを伝えていきたいと思っています」(蜴=j。
 同協会の運営費の約9割が支援者からの会費や寄付で成り立っているが、介助犬一頭あたりの育成費は250〜300万円かかるという。より多くの人に介助犬が必要であることを知ってもらい、支援を募ることで運営が安定し、良質な介助犬の育成につながるとしている。
 介助犬が社会に浸透し、障害者の自立や社会参加につながることが期待される。

チャレンジする意欲が生まれる
社会福祉法人日本介助犬協会専務理事
蝸F子氏(医学博士)
 介助犬総合訓練センターは、ただ介助犬を育成していると思われがちなのですが、訓練の一番の対象者は障害者になります。介助犬を介して障害を持った方の人生を変えていくことが私たちの仕事だと思っています。
 私はリハビリテーション医として、当事者から「これにチャレンジしてみたい」といってもらえれば、さまざまな技術を使って大抵のことは支援できます。しかし、「結構です」といわれると何の支援もできません。介助犬をもつことでチャレンジする意欲が生まれることはとても重要だと考えています。また、犬というのは褒められることが大好きな動物なのですが、使用者も褒めているうちに自然と笑顔になるので、周りの人たちが話しかけやすくなり、コミュニケーション力があがることも介助犬の大きな効果です。



<< 施設概要 >>
法人名 社会福祉法人日本介助犬協会 施設開設 平成21年5月
理事長 伊藤 利之 氏 センター長 水上 言 氏
職員数 34人(平成29年11月現在)
事業内容 介助犬の育成および訓練者の人材養成/相談および情報提供活動/普及啓発活動/調査・研究活動
電話 0561−64−1277 FAX 0561−64−1278
URL http://www.s-dog.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成28年2月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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