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サービス取組み事例紹介
障害者福祉

千葉県香取市・社会福祉法人福祉楽団 栗源協働支援センター

養豚と福祉の融合障害者の「働く場」

社会福祉法人福祉楽団は、「地域の課題を解決する」という理念のもと事業を展開している。平成24年9月に開設した栗源協働支援センターでは、地域の産業である養豚と福祉を結びつけ、就労継続支援A型事業所として22人の利用者を雇用している。その取り組みを取材した。

※この記事は月刊誌「WAM」平成28年4月号に掲載されたものです。

▲洗練されたデザインの栗源協働支援センター

「地域の課題を解決する」を理念に事業を展開


 千葉県香取市にある社会福祉法人福祉楽団は、平成13年の設立以来、「地域の課題を解決する」という理念のもと、地域に根づいた介護・福祉サービスを提供してきた法人である。法人施設は香取市と埼玉県八潮市において、特別養護老人ホームを中心にデイサービスセンターやグループホーム、訪問介護ステーション、居宅介護支援事業所などの在宅サービスを組み合わせた「杜の家」を運営している。
 平成13年に開設した「多古新町ハウス」(千葉県多古町)は、高齢者や障害のある子どものデイサービスセンター、訪問介護などを展開し、地域の在宅ケアを支えるサービスを複合的に提供するほか、経済的な理由で学習塾に通えない子どもたちに無料で学習支援を行う「寺子屋」を併設する。退職した元教員などのボランティアが講師として経済的にゆとりのない家庭の子どもに教えており、宿題や受験勉強のために学校帰りの中高生が多く集まる。
 地域への取り組みについて、同法人常務理事の飯田大輔氏は、次のように語る。
 「当法人は、対象者を限定するのではなく、地域全体をケアしていくことを基本的なスタンスとしています。『多古新町ハウス』は、建物正面にオープンテラスを設置し、地域の多世代の人たちが会話を楽しむなど、誰もが気軽に共有することができる場所になっていますが、これからの福祉を考えていくうえで、このような視点が重要になると考えています」(以下、「」内は飯田常務理事の説明)。
 そのほか運営する特養では、毎月0のつく日は移動手段をもたない高齢者への買い物支援、5のつく日は「ご飯の日」として、地域でひきこもる高齢者を施設に招き、無料で食事を提供している。このような地道な取り組みで、地域との関係性を深めるとともに、地域の課題やニーズを把握することにつなげている。

地元の産業と結びつけた障害者就労に取り組む


   同法人は、平成24年9月に栗源協働支援センター(WAM福祉貸付事業利用)を開設し、障害者の就労支援に取り組んでいる。
 地域住民の相談を受けるなかで、障害者の働く場所が少ないという声があり、調べてみると福祉施設で働く障害者の平均月給は1万4000円程度(全国の就労継続支援B型事業所)であることを知り、とても自立した生活は送れないと考えたことが開設のきっかけとなった。そのため、利用者と雇用契約を結び、最低賃金を支払う就労継続支援A型事業所として、月給10万円を保障することを目指している。
 「障害者の就労といえば全国的にパンやクッキー作りが多く、よい取り組みだと思いますが、事業を継続させてしっかりと給料を支払える仕組みにすることは難しいと思いましたし、地元の産業と結びつけた取り組みにしたいという想いがありました。千葉県の北総地域は養豚が盛んな地域であり、当法人理事長が養豚家として良質な豚肉を生産していたことから、その豚肉を使った精肉やハム・ソーセージなどの加工品の製造・販売を行っています」。
 事業開始にあたり、一般市場で通用する商品をつくるために国内の大学や食品会社のほか、ハムやソーセージの本場であるドイツに職員を派遣し、2年間かけて製造工程を学んだという。


22人の利用者が職員として雇用契約を結ぶ


 同センターは、福祉施設とは思えない洗練されたデザインの建物で、1階は最新の衛生管理システムを導入した精肉工場、2階にはレストランを併設し、豚肉を使った食事を提供している。
 現在、22人の利用者が職員として雇用契約を結んでおり、豚肉の精肉加工やハム・ソーセージの製造、商品のパッケージ、清掃のほか、レストランの接客などの業務を行っている。利用者の年齢は、特別支援学校を卒業した18歳から50歳代と幅広く、障害の種類により利用者を限定する事業所も多いなか、同センターは必要な仕事に対して働ける人を採用していく方針から、知的障害・精神障害・身体障害のある人たちが健常者の法人職員や一般のパート職員と一緒に働いている。
 利用者は一つの工程に専門に従事するのではなく、全工程を担当している。各工程の作業には写真つきのマニュアルを作成し、どの業務を担当してもスムーズに作業できる工夫をするとともに、いつでも相談ができる体制をつくることで働きやすい環境を整えている。


▲工場で豚肉の精肉やソーセージの加工を行う利用者。レストランの接客などさまざまな業務を担当する

”福祉を売りにも言い訳にもしない“


 平成24年2月に販売会社となる「株式会社恋する豚研究所」を設立し、製造した商品は「恋する豚」というブランド名で販売している。販売会社を立ち上げた理由には、”福祉を売りにも言い訳にもしない“という強い想いが込められている。
 「福祉を全面に出して、商品を買ってもらったとしても持続的な購買にはつながりませんし、それをしている限りはしっかりと給料を支払える仕組みはできないと考えました。また、例えば製造の過程のなかで異物混入などの事故があったときに、福祉を言い訳にすることは許されません。そのような面を排除するため、商品や施設には”福祉“という文字は一切表示せず、『また買いたい』と思える高品質のブランドとして販売する戦略としています」。  また、品質だけでなく商品パッケージや施設設計にもこだわり、デザイナーや建築家などのクリエイターと協働し、洗練されたデザインをつくりあげた。販売部門では営業専門の職員を2人配置し、販売先の新規開拓を行っているが、商談の際も障害者が製造していることを伝えるのではなく、品質で選んでもらうという。
 「レストランのお客さんは誰も福祉施設であることに気づいていませんし、商品を買ってくれる人たちは日々の買い物で知らないうちに福祉を支える行動をしていることになります。このような新しい福祉の仕組みが、本当の意味でのノーマライゼーションにつながると考えています」。
 「恋する豚」は、デパートの食品売り場や高級スーパーマーケットなどで広く販売されており、販売先が拡大しつつある。また、レストランは平日のランチタイムは常に満席で、休日には県外からも多くの人が食事に訪れて行列ができるほどの人気があり、年間8万人を超える来客がある。
 現在、雇用する障害者の平均月給は約7万6000円で、12月の繁忙期には月給が9万円を超える人が10人になった。開設当初に目指した10万円の支給も目前となっている。なお、同センターが障害者に支払う時給額は、近隣にあるコンビニエンスストアの金額を上回るという。
 「平成25年4月から『恋する豚』の販売を開始し、昨年9月に初めて単月の損益分岐点を超えましたが、持続的な経営をしていくためにも今年度は年間で黒字にすることを必達の目標に掲げています。例えば、特養は満床にすれば黒字になるわけですが、この事業は利用者を集めるほど支出は多くなりマイナスになっていくので、そこが社会福祉事業の経営とは違い難しいところですね」と飯田常務理事は説明する。  


▲ランチタイムは常に満席で、休日には行列ができるほど。県外から食事に訪れる人も多い ▲レストランの入り口にある売店では、「恋する豚」のハム・ソーセージ等のほか、地域の特産品を販売

福祉と林業を組み合わせたプロジェクトを始動


 さらに、同センターでは新たな取り組みとして、福祉と林業を組み合わせた「里山はたらくプロジェクト」を始動している。高齢化などの影響により、林業の担い手が少なくなり里山が荒れていることが地域の課題であったという。
 プロジェクトでは障害者や高齢者が一緒に里山の間伐や手入れを行い、間伐材を薪や木材燃料に加工し、循環型のエネルギーとして活用していくことを構想している。
 「このプロジェクトが本格的に始動すれば、里山がきれいになるだけでなく、薪割りなどの作業を工夫して障害者の雇用を生み出すことができ、さらに地域に薪ストーブや農業施設などで薪ボイラーを普及させていくことで、地産地消のエネルギーにすることも可能です。このように地域課題と福祉を結びつけ解決を考えていくとともに、障害者の働く場や稼ぐことのできる仕組みを創造していくことは、社会福祉法人の大きな役割だと考えています」。
 同プロジェクトには、循環型エネルギーのパイロットモデルとして多数の企業から業務提携の申し入れがあり、注目を集めている。
 また、昨年から施設周辺にある耕作放棄地を地主から借り、サツマイモなどの栽培を始めており、将来的には障害者の働く場にすることを目指している。


▲人気メニューの「しゃぶしゃぶ定食」は、豚肉本来のおいしさが味わえる。野菜や塩など、すべて地元産の食材を使用している▲センター内にある広々とした法人事務所。薪ストーブを設置し、近隣の里山で間伐した薪を燃料にしている

職員にあわせた人事制度や福利厚生を整備


 今後の展望として、平成28年6月に千葉県成田市に「杜の家なりた」の開設を予定。定員100人の特養をはじめ、デイサービスや訪問介護などの在宅サービスのほか、地域に不足する障害者のショートステイや放課後等デイサービス、在宅診療所などを併設。高齢者にとどまらず地域の人たちの安心した暮らしを支えることを目指している。
 また、大規模施設の開設にあたっては、多くの職員を採用する必要があるが、すでに確保できる見込みだという。
 人材確保策としては、説明会を毎週開催し、栗源協働支援センターなど運営する施設の見学ツアーを実施している。また、採用パンフレットでは有給消化率や採用率などをしっかりと情報公開していくことが重要だという。
 「当法人の特徴として、男性職員の割合が多いのですが、近年はいわゆる”マイルドヤンキー“といわれる地域密着型志向の若者と向上心のある人とに二極化している傾向があると思います。地域密着型の人材はマイホーム・マイカー志向が高いのですが、住宅ローンを組みたいという相談があれば、当法人の取引する金融機関に取り次いでいます。一方、向上心の高い人材に対しては、研修の機会をきちんと確保し、さまざまな職種を経験してもらったり異動も適時に行うなど、それぞれのニーズにあった人事制度や福利厚生施策を考えていかなければなりません。職員の年齢層はバランスが重要ですが、若者を採用したければ、やはり若者の文化を知る必要があると思います」。
 さらには、運営するすべての特養に事業所内保育所を設置し、子どもをもつ職員が安心して働ける環境も整備している。
 「地域の課題を解決する」という理念のもと、先進的な取り組みを実践する同法人の今後が注目される。
 

大きな可能性や魅力のある仕事
社会福祉法人福祉楽団

常務理事栗源協働支援センター施設長
飯田大輔氏
 当センターは、障害者の就労に取り組んできましたが、まだ施設内の仕事に限定されていますので、もっと地域に出向き、地域のなかで仕事を作り出していくことが課題だと考えています。 現在、「里山はたらくプロジェクト」を始動していますが、地域の課題と福祉を結びつけ、解決を考えていくとともに、ヨソの「ヒト」がきて、「モノとカネ」が地域の中で循環して、いかに稼ぐことのできる仕組みをつくることが大事だと思っています。
 これからの福祉は、障害者福祉や高齢者福祉の制度の枠を超えて、地域に何が必要かを考えて、地域全体をケアしていく発想が求められています。社会福祉法人は地域の課題を解決するためなら、何でも実践していいわけですから、大きな可能性や魅力のある仕事だと実感しています。



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施設の概要 社会福祉法人福祉楽団
栗源協働支援センター
施設開設 平成24年9月
理事長 在田正則氏 施設長 飯田大輔氏
職員数 40人
事業内容 就労継続支援A型(定員25人)/レストラン
法人施設 杜の家くりもと(特別養護老人ホーム、ショートステイ、グループホーム、デイサービスセンター、居宅介護支援センター、訪問介護ステーション)/杜の家やしお(特別養護老人ホーム、ショートステイ、居宅介護支援センター、訪問介護ステーション)/多古新町ハウス(デイサービスセンター、訪問介護ステーション、児童デイサービスセンター、居宅介護支援事業所、相談支援センター)
住所 〒287-0105 千葉県香取市沢2459番地1
電話 0478−70−5234 FAX 0478−70−5235
URL http://www.gakudan.org/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成28年4月号に掲載されたものを掲載しています。
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