サービス取組み事例紹介
障害者福祉

東京都 社会福祉法人 東京都知的障害者育成会

民間企業の事業を継承し、果敢に挑戦し続ける 砧工房

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




民間企業の事業を継承


個包装された片栗粉

 東京都世田谷区の閑静な住宅街にある砧工房では、片栗粉や豆類を商品化するための個包装の事業を平成19年4月にスタートさせました。それまで民間企業が行なっていた事業を継承しました。
 障害者が働く事業所では非常に珍しい事業でありながら、スタートから2ヶ月程度の練習期間を経て、1年が経過した現在はすっかり軌道に乗っています。
 砧工房は、平成9年8月に世田谷区が設立し社会福祉法人東京都知的障害者育成会が運営する“公設民営”の施設で、従来は知的障害者の通所授産施設として、ダイレクトメールの封入やチラシを折る作業などを受注していました。しかし、「受注作業で利用者の力が本当に発揮できているのだろうか?」、「利用者の力を見くびっているのではないか?」との、強い 思いが職員に湧いたことから、平成18年度中に新たな事業の種探しを開始しました。


廃業する企業はないか?


個包装した片栗粉を納品用の大袋に詰める

 砧工房では、新たな事業の種を探すにあたり、利用者ひとりひとりの行動分析を行い、施設としてどのような仕事を行うことができるのかを明確にしました。
 そして、利用者が帰ったあとの午後4時以降に職員が手分けをして世田谷区内や隣接する地域に所在する企業に飛び込みで営業をかけました。「まじめにコツコツ働く」が売り文句でした。しかし、まったく仕事を見つけることができなかったといいます。
 そこで、たまたま職員の実家の家業であった片栗粉等を商品化するための個包装を行う事業が廃業予定であるとの情報を入手しました。3ヶ月程の時間をかけて利用者の特性に合う事業であるかの分析を慎重に行なったうえで、事業の継承を決断しました。
 企業で使っていた機械をそのまま譲り受けることができただけでなく、取引先についても大口の1件を除いて取引を継続してもらえました。しかし、好条件が揃っていた一方、初期費用や運転資金に要する500万円の捻出や商品のバーコードを発行する組合になかなか加盟できないといった困難にも直面しました。
 それでも粘り強く交渉を続け、くじけずに事業のスタートにこぎつけられたのは、「何としてでも利用者の力に見合う仕事をスタートさせよう!」という中野施設長をはじめとする職員の、強い思いがあったからに違いありません。


「袋のコスト知っている?」


大豆を計量しながら小袋に詰める

 本事業は、片栗粉や豆類の大袋を業者から仕入れ、それを小袋に詰め替えて、取引先に販売するというシンプルな事業です。
 利用者は、主に小袋に詰める作業や納品用に箱に梱包する作業に従事しています。
 例えば、片栗粉を紙製の袋に個包装する作業では、@消費期限をスタンプ押しして袋の準備をする、A機械もしくは手作業で大体の量の片栗粉を袋に詰める、B内容量に合致した量を詰めるための調整を量りで計量しながら行う、C袋の口を折りたたむ、D袋の口をミシンがけでとじる、という概ね5つの工程に分かれています。このうち、@からCまでの工程を利用者が行い、Dの工程のみ職員が行います。
 職員の手助けや指示が全くなくても利用者それぞれが自分の担当する工程の仕事を主体的にとても落ち着いてこなしており、非常にスムーズに作業が進む体制が出来上がっています。
 それは、固定した作業が毎日安定的にあること、そして、利用者ひとりひとりが自分のやるべき仕事をきちんと理解していることが理由であるということです。
 利用者が自分の作業の意味を理解し、仕事に誇りを持っている証拠に、職員がミシンがけの作業を失敗すると、利用者から「ここまでにいくつの工程があったんでしょうねぇ。」という声や「袋のコストはいくらか知ってる?」という声があがって職員がタジタジになるといった場面もまれに見られるそうです。
 利用者がここまで成長するには、やはり1年の時間を要したといいます。失敗した際には、単に「ダメ」と言うのではなく、利用者に合う、違う方法を職員が提示して本人が気付くのを待つ。また、一日の作業予定を事前に伝えることにより、それぞれの工程でどの作業を行い、どの機械が必要になるのかを利用者に意識してもらうことを促す。これらの働きかけを根気強く続けた結果が、現在の利用者の成長した姿に繋がっていると言います。


売り上げが3倍以上に!


施設長から給料を手渡す

 受注作業を行なっていた平成18年度と比較して、片栗粉事業を開始した平成19年度の売り上げは3倍以上と大幅に増加しています。平成20年度はさらに17%程度の売り上げ増を目標にしており、目下の一番の課題を生産効率の向上としています。
 生産効率向上の具体策として、利用者の作業能力をアップさせることと並行して、機械化投資を実施することにより、現在、作業をこなしきれずに下請けに回している分の仕事を施設内でこなせる体制を整えることを目指しています。
 また、商品の安全性を確保し、取引先に安心して取引を行なってもらうために、150万円をかけて金属探知機を導入し、金属片混入事故を未然に防ぐ手立てを取っています。


目指す姿は、障害者があたりまえに働き、あたりまえに暮らすことを支援できる施設


中野施設長

 現在、砧工房の利用者の平均年齢は、38歳に達しています。保護者の高齢化が進み、今後は今まで以上に利用者の経済的自立の実現が求められることになります。中野施設長は語ります。「障害者が地域で働き、地域で生活していくことを支援できる施設でありたい。そのためには、利用者の給料を多く支払える事業を行なっていかなくてはならない。もしかしたら、数年後はまた違う事業を展開している可能性もあるだろう」
 利用者の働く力を信じ、力に見合う給料を支払うための事業を展開していく“起業力”と、利用者の力を伸ばすための きめ細かな“支援力”が両輪となることで、施設の目指す姿がきっと実現することでしょう。


取材日 : 平成20年4月

今回のポイント


@ 障害者支援施設の既成観念にとらわれることなく、新たな事業の種を探し、果敢に挑戦した。
A 選択した新たな事業が市場性を持つとともに、作業内容が利用者の特性に合致している。
B 生産効率の向上や安全性確保のために必要となる投資を行なっている(行う計画がある)。


経営コンサルタント・中小企業診断士 大江 栄

施設概要


施設名世田谷区立砧工房
運営者名社会福祉法人
東京都知的障害者育成会
所在地東京都世田谷区砧4-32-14
電話番号03-3417-4604
代表者施設長 中野 雅義 氏
施設種類就労移行支援事業所
就労継続支援B型事業所
障害種別知的障害
開所時期平成9年8月1日
利用者数定員43名 契約33名
職員数常勤10名 非常勤2名 計12名
FAX03-3417-3342
連絡担当者主任支援員 大井 真美 氏
事業内容片栗粉等の小袋詰め事業
平均工賃月額17,500円(平成19年度概算)
URLhttp://ns2.ikuseikai-tky.or.jp/~iku-kinuta/

平成21年9月現在

事業所コメント


片栗粉製造の仕事を取り入れ3年目を迎えた。その結果「砧工房の名前が入った製品を一般市場に出しているのだから手洗い、身支度、作業態度をきちんと整え、欠陥製品を作らない」と一般的基準に合わせた行動をとる利用者がほとんどである。
その上で、社会で認知された仕事をしているという衿持とも取れる様な仕事振りをする利用者が居られる様になってきた。
説明しがたい不思議なパワーを醸しだしている。それが一体感がある作業室となっている。