サービス取組み事例紹介
障害者福祉

長野県 企業組合アップル工房イイダ

取引先の需要をつかみ、障害者の活躍の場を拡大 アップル工房イイダ

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




障害者が組合員として経営に参加する「企業組合」として働く場を創出


リネン部外観

 「アップル工房イイダ」(長野県飯田市)は平成15年に創業した企業組合です。代表理事の今村氏忠弘氏は経営コンサルタント。民間企業で活躍するビジネスパーソンでしたが、知人から「障害者の働く場を創りたい。協力してほしい。」と頼まれたことがきっかけで、アップル工房設立に関与することになりました。
 今村氏自身、障害児の親として、以前から作業所等障害者の働く場については知っていましたが、「介護の必要な人と働きたい人が混在している作業所」になんとなく疑問を感じていたこともあり、最低賃金を保障できる雇用の場を作ることに意義を感じ、思い切って引き受けることにしたのです。
 諸事情により、今村さんが代表理事となり、アップル工房イイダを支えていくことになります。

 企業組合は組合員が個々の出資金と労働を提供して事業活動を行う組織形態です。障害者も組合員として参加し、自分の仕事は自らつくるという意識で取り組むことが求められています。
 立上げ時には、オンデマンド印刷を事業の柱とすることが決まっており、身体障害者を中心に集団面接会で4名の従業員を採用しました。地域の企業や行政から受注する、リーフレット、パンフレット、名刺、ダイレクトメールなど少量・多品種の印刷は、障害のあるスタッフがやりがいを持って取り組めるビジネスではあるものの、価格、デザイン、スピードなど、あらゆる面で一般企業との競争が激しく、全員営業で臨まなければならない厳しい事業です。
 「自ら仕事をつくる」ことを目指す組織だという理想はあるものの、現実的には難しく、障害のある従業員は次々に脱落し、入れ替わりの激しい職場となりました。パソコンやプリンタの急速な進歩も相まって、競争はまずます激化し、経営は苦戦を強いられました。


リネンサプライ事業参入で経営危機を脱出。


2人1組で大きなシーツを手際よく乾燥

 印刷事業の限界を感じた今村氏は、営業に駆け回る傍ら、新規事業立上げに奔走します。本業のコンサルティング業を通じて地域の産業や企業経営者と多くの関わりを持っていたことが幸いし、工場閉鎖を考えていたある経営者との出会いによって、新規事業を見つけ出しました。
 地元でリネンサプライ業を営む企業が、分工場の閉鎖を考えているという情報を聞きつけ、事情を説明し、理解・協力を得て、分工場の経営を移管することが決まったのです。
 平成19年5月、創業4年目のことでした。
 「一時は毎月の資金繰りも危なくなり、経営者として本当に苦しい思いをした」と今村氏は語ります。折しも、障害者自立支援法が施行され、就労継続A型事業所として体制を整えれば、福祉の補助を受けながら、障害者の雇用環境を作れることがわかり、いち早くA型事業所設置の手続きをとりました。福祉ではなく、民間の企業組合がA型の認定を受けた例としてはまだ珍しい事例で、長野県や飯田市に何度も足を運び、相談したといいます。
 「平日はリネン部門の立上げ準備に駆け回り、土日はコンサル業で稼いでそれを全部組合につぎ込む日々。それでも印刷部門の当時の従業員はいったん解雇し、A型としてスタートするまで自宅待機してもらわねばならなかった」。
 リネン部門の立上げ、A型事業開始が、組合存続をかけたぎりぎりの選択肢であった様子がうかがえます。高い理想をもって作った障害者雇用の場。簡単にやめるわけにはいきません。強い思いが、経営危機を救いました。


強みを発揮しての下請け戦略


衣類を丁寧にたたむ従業員

 こうしてスタートしたリネンサプライ・クリーニングでは、元の企業の取引先を受け継いでいるほか、別のリネンサプライ業者からも下請けで仕事をもらっています。
 病院、介護施設、ホテルなど需要の限定されるリネンサプライ業で、後発企業が新たに取引先を開拓するのは容易ではありません。また、ホテル仕様のシーツ・タオルなどを請ける場合、これらの品はリネン業者が用意するのが慣例となっており、直接取引の場合は開始前の投資も必要になります。あえて下請けに特化した戦略をとったことは懸命な策といえます。

 分工場を譲ってくれた元の企業にも了解を得て、一部の仕事は直接契約に切り替えてもらったこと、またこの会社だけでなく、他のリネン業者からも仕事を受注できる体制を整えたことが安定的な経営につながっています。
 しかもアップル工房イイダの下請けは「戦略的下請け」。設備や規模は元請け企業に到底かなわないものの、「豊富な労働力」を武器に、強みをアピールし、元請け企業との分業体制をとっています。
 具体的に言えば、「たたみ」の仕事や、介護施設居住者の個人の洗濯ものの受注など「手間のかかる仕事」を積極的に引き受け、元請けとのすみ分けを図るということです。
 例えば、ホテルの浴衣は専用機械があるので自動で仕上げまでできますが、最近のホテルはガウンタイプの寝巻きを取り入れているところも多く、形もさまざまなため、どうしても手作業になります。そんなときはアップル工房にお任せです。手作業でふんわりきれいにたたんで納品し、喜ばれています。また、大型の機械乾燥で一気に乾かすとどうしてもしわになる、という顧客の不満を解消するために、アップル工房では、あえて、乾燥を2段階とし、仕上げは小さな乾燥機で少量ずつ乾かし、しわを伸ばしながらたたみます。
 人手がなければできないことで強みを発揮しているのです。こうなればもはや単なる下請けではなく、パートナー企業として、元請け各社にとっても、なくてはならない存在です。
 「これからも便利のいい下請けを目指します」。
 A型事業所としてのビジネスモデルに手ごたえを感じている今村さんです。


ともに働き自立する


代表理事今村氏

 順調に見えるリネンサプライ業ですが、最初からうまくいったわけではありません。従業員の配置、手順どおり行えたかどうかのチェック体制、たたみ方など作業品質の確保など、滞りなく作業を行うまでには予想以上に時間がかかりました。
 当初はクリーニングの品質や、たたみ方が悪いなどのクレームに苦労したといいます。分工場時代の従業員を職業指導員として迎え入れ、同じ機械で同じように作業しているのに、なぜか「おしぼりにカビが生えている」と苦情が。よくよくみると、カビではなさそう。障害者従業員の使用している薬とクリーニングの薬剤が何らかの原因で化学反応を起こしたのではないか…必死に調べましたがどうしても原因がわかりません。結局いつの間にかおさまったといいますが、最初の1年はとにかく無我夢中で、次々起こる課題を一つ一つクリアしてきました。
 経験とともに少しずつ落ち着いてきて、今は、それぞれが持ち場をしっかり守って、無理・無駄なく、作業をこなしています。指示・指導もほとんど見られず、全員が淡々と業務をこなしている姿が印象的でした。
 印刷部門は専門的なスキルやセンスが問われ、誰でもできるという仕事ではありませんが、リネンサプライは、さほど高度な技術は要らないため、障害者雇用の広がりはさらに期待できると今村氏は言います。
 採用条件は、「素直」「体力」「毎日出勤できる(通院などを除き決まった日に来られる)こと」。障害特性により、適した業務が異なるので、多様な障害者を受け入れバランスよく配置したいと考えています。
 印刷業からスタートし、リネンサプライ業への事業拡大により、ようやく経営の安定化が図られました。「今後は障害者従業員にもどんどんキャリアアップを目指してもらい、リーダーを養成してきたい」。
 理想は、全員が障害者スタッフのリネンサプライ工場。そのためには、障害者雇用をさらに拡大するとともに、能力のある人がやりがいを持って働ける人事考課制度を整えることが今後の課題です。「雇用される」という意識でなく、自分も経営に参加する、という趣旨で立ち上げた企業組合が本領を発揮するのはこれからです。

 一方、今村さん自身も同じ場所にとどまってはいません。彼の何よりの強みは経営コンサルタントとしてのキャリアと地元で培った産業界のネットワーク。
 アップル工房の将来を見据えて、あえて企業組合の仕事を専業とせず、今も地元企業のコンサルティングや地域産業活性化支援などの仕事を精力的に行っています。
 「地域経済を元気にすることと、障害者の活躍の場を広げることはきっとつながる。つなげるのが自分の仕事」どうやら、今村さんはさらに次の事業展開を考えてアンテナを張りめぐらしているようです。
 企業のもつ設備やノウハウとアップル工房のもつ人材という戦力の出会いが生む地域産業の新展開。長野県飯田市の障害者就労の動きにますます目が離せなくなりそうです。


取材日 : 平成20年10月

今回のポイント


@ 企業組合での就労継続A型事業所。障害者も組合員として、自ら経営に参加するという意識を醸成。
A 閉鎖予定の工場を引き受け、リネンサプライ業に参入。下請け戦略ながら、手間のかかる作業行程を積極的に担当することで、元請け企業にとって「なくてはならない存在」となっている。
B 代表理事は、組合業務の傍ら、自営のコンサルティング業を営み、地元企業や地域産業界とつながりを持つことで、事業拡大のための情報収集を常に行っている。


中小企業診断士 稲山 由美子

施設概要


施設名 アップル工房イイダ
設置者名 企業組合アップル工房イイダ
所在地 長野県飯田市座光寺1351-2
電話番号 0265-56-1322
代表者 代表理事 今村 忠弘 氏
施設種類 就労継続支援A型事業
障害種別 身体・知的・精神
開所時期 平成15年12月
障害者従業員数 24名
健常従業員数 常勤8名
FAX 0265-56-1157
連絡担当者 今村 忠弘 氏
事業内容 オンデマンド印刷・リネンサプライ・農産物の販売、菌床しいたけ栽培、販売
平均賃金


平成21年9月現在

事業所コメント


菌床しいたけ栽培を新たに始めました。今後が楽しみです。