サービス取組み事例紹介
障害者福祉

東京都 社会福祉法人 はる

障害者施設を中心に地域コミュニティをつくる パイ焼き窯

地域住民を巻き込んだ事業スタイルや、自治体との連携をした事業、地域の特産品を活かした事業等、地域と連携をしながら発展する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




サポーターのいる喫茶店


店内に設けられたギャラリー

 東京都世田谷区の閑静な住宅街、二子玉川と自由が丘の中間に位置する尾山台駅の商店街に社会福祉法人はるが運営する喫茶店「パイ焼き茶房」があります。植栽の緑と煉瓦色のコントラストが美しい外観は人目を惹き、また、木の温もりを感じさせる明るく落ち着いた雰囲気の店内は、地域住民の憩いの空間になっており、グループ客や小さな子供を連れた女性客で賑わっています。「パイ焼き茶房」は、一見すると世田谷区域に相応しいお洒落な喫茶店ですが、小規模通所授産所として精神障害を持つ人のための模擬職場の役割を担い、現在、一般職員やアルバイトと共に19名のメンバー(精神障害者)が働いています。
 ここ「パイ焼き茶房」には、「パイ焼き窯サポーターズコーナー」という展示スペースがあります。パイ焼き窯サポーターズは、社会福祉法人はるが運営する「社会就労支援センター パイ焼き窯」の設立主旨に賛同し、仲間・資金づくりを目的として地元の主婦やサラリーマンが集まってつくった社会福祉法人はるを支援するボランティア団体です。
 「パイ焼き窯」の法人化にあたっての資金集めに立ち上がったパイ焼き窯サポーターズの会員数は250人に達し、現在も、活動支援の一つとして、茶房の一角を利用して、チャリティー展覧会出展作家の作品やバザー品を販売したり、パイ焼き祭りやチャリティコンサートなどのイベントを開催したりして、収益金を社会福祉法人はるに寄付をしています。


ジョブローテーションで自分発見


焼き菓子グループで働く利用者

 「パイ焼き窯サポーターズ」という強力な応援団が現れたのは、「多様で高い技術を要する作業とそれに見合う高い工賃を保障し、障害の軽減と人としての誇りを目指す」(西谷久美子施設長)という信念に共感し、また、それを具現化すべく、企業的感覚を持って、普通に利用したくなるお洒落な店づくりや商品づくりにチャレンジする関係者の姿への共感があったからなのでしょう。そして、何よりも一般就労を目指して働くメンバーの存在が大きいのでしょう。
 茶房で働くメンバー以外にも「社会就労センター パイ焼き窯」には、46名のメンバーが、社会人としての自立を目指して働いています。
 「社会就労センター パイ焼き窯」では、焼き菓子、調理、清掃の3つのグループに分かれ、それぞれのグループで、就労、自立に向けたトレーニングを行なっています。
 焼き菓子グループは、焼き菓子の製造や袋詰め等を行っています。これらの仕事は、メンバーに体力をつけてもらうためにすべて立ち仕事で行われ、また、自分の作ったお菓子が、お客様に喜ばれる体験を通して自分の誇りをとりもどすために、仕込みから袋詰めまで一通り体験できるようにプログラムが組まれています。
 調理グループは、調理師の指導のもと、主に社会福祉法人はるのメンバーや職員向けの昼食をつくっています。昼食を12:00迄に完成させることが1つのゴールになっており、メンバーは時間の大切さを意識して手の空いた人は応援に入るなどして働きます。
 清掃グループは、パイ焼き窯の施設内外を清掃しながら一通り清掃の技術を身につけた後、区立公園や受託先企業で清掃業務を行います。3つのグループの中では比較的外部の方たちとコミュニケーションをとる機会が多く、単に清掃を行うだけでなく、対人関係を学べる場となっています。
 パイ焼き窯では、自分にどんな仕事が向いているのか、また、自分に足りない部分を見つけてもらうために、それぞれのグループを2ヶ月ごとにローテーションするプログラムが用意されています。このジョブローテーションを行うことで「“お菓子づくりをやりたい”といって入ってきた人も、清掃業務を体験することによって、自分が清掃業務に向いていることに気付き、民間の清掃会社に入社したメンバー方もいます」(管理部 鹿島法博氏)という成果もあります。


世田谷区産のリンゴを使ったアップルパイはいかが?


地元のリンゴを使ったアップルパイ

 このように「パイ焼き窯」は、メンバーにとって就職前の訓練機関としての役割を担う一方で、企業感覚を持つ施設として事業収益を上げる努力もしています。
 「パイ焼き窯」で製造される焼き菓子は約60種類。これらの焼き菓子はプロのパティシエのアドバイスを受けるとともに、国産小麦やベルギー産チョコレートなど素材にもこだわって手づくりされています。
 また、月に1度「パイ焼き窯」と「パイ焼き茶房」の職員によるミーティングが開かれ、「パイ焼き茶房」で拾われたお客様の声や一般消費者として客観的な視点を持つサポーターの意見を「パイ焼き窯」の商品開発や改良に活かしていきます。こうして開発された商品の一つに、世田谷区内の農家で採れたリンゴを使ったアップルパイがあり、人気商品の一つに育っています。
 これらの焼き菓子は、パイ焼き茶房の入口正面のショーケースや入口右手の菓子陳列棚いっぱいに並べられているため、喫茶はもちろんのこと、テイクアウトだけのお客様にとっても利用しやすく、年間売上2400万円(菓子部門のみ)の6割はパイ焼き茶房で販売されています。
 また、ギフト需要も多いため、ニーズに応えるべく包装やラッピングにも力を入れています。これらはサポーターズから紹介された大手企業の社販やイベントでの来場者向けギフト、地元商店街のお祭りの記念品等、地域や人のつながりを中心に販路が開拓されています。


地域コミュニティをつくる障害者施設の可能性


「パイ焼き茶房」の久留店長と利用者

 地方と比べると、都会は近所付き合いや地域住民が交流する機会が少なく、人と人のつながりが希薄であると言われています。パイ焼き窯を取材する前は、世田谷という地域に対しても同様のイメージを抱いていました。
 ところが、実際には地元の障害者施設と農家が連携して商品開発を行ったり、身内に障害者がいるわけでもない、普通の主婦やサラリーマンらが「パイ焼き窯サポーターズ」に参加し、パイ焼き窯の一室を利用してチャリティコンサートを開催したりするなど、様々な地域交流が行われている事実を知りました。もしも、「パイ焼き茶房」が営利を追求するだけの喫茶店だったとしたら、こうした地域コミュニティが生まれることはありえなかったでしょう。
 今、物質的な欲求は満たされてはいるものの、どこか心が満たされない……そんな時代になりました。利益至上主義の企業による不祥事や目を覆いたくなるような悲惨な事件が頻発する一方で、地域との関わりあいを求める人々やNPOや社会起業家等、何らかのカタチで社会に貢献したいと考える人々が着実に増えています。
 「パイ焼き窯」が中心となって、世田谷区で地域コミュニティが出来上がったように、今後、他の地域においても、障害者施設が中心となって、地域コミュニティを形成したり、町興しにつながったりする事例が増えてくるかも知れません。1つの新しい可能性を予感させてくれる事例でした。


取材日 : 平成20年2月

今回のポイント


@ 世田谷区の商店街に相応しいお洒落な店づくりを行っている。
A パティシエのプロの視点、消費者の視点、利用者の支援を行う職員の視点を刷り合わせしながら商品開発を行っている。
B 商店街や農家との連携や地域住民によるサポーター制度等、地域に密着した施設運営をすることで、地域コミュニティを形成することに成功している。


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 社会就労センターパイ焼き窯
(パイ焼き茶房)
設置者名 社会福祉法人 はる
所在地 世田谷区等々力2-36-13
電話番号 03-3702-0459
代表者 常務理事 西谷 久美子 氏
責任者  鹿島 法博 氏
施設種類 自立支援移行施設
就労移行支援(一般型)
就労継続支援(B型)
障害種別 主たる対象者(精神障害者)
開所時期 平成14年4月
利用者数 定員34名 登録46名
職員数 常勤8名・非常勤4名
FAX 03-3702-0439
連絡担当者 鹿島 氏
paiyaki@kc.catv.ne.jp
事業内容 菓子製造・販売
調理・弁当
清掃
平均工賃 20,000円(時給150〜600円)
URL http://www.paiyaki.net/


平成21年7月現在

事業所コメント


「パイ焼き窯」で製造される焼き菓子は、60種類以上です。それらは全て保存料を一切使用せず、国産小麦・ フランス産チョコレート・国産バター・地卵など、こだわりの無添加天然素材のみを使い、お菓子の製造に携わる利用者は、 パティシエの支援を受けながら心をこめて手作りの菓子を作っています。一度ご賞味下さい。