サービス取組み事例紹介
障害者福祉

島根県 社会福祉法人いわみ福祉会

後継者を育成し、地域で生きいきと働く いわみ福祉会

地域住民を巻き込んだ事業スタイルや、自治体との連携をした事業、地域の特産品を活かした事業等、地域と連携をしながら発展する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




神楽の里で


神楽衣装の作業場

 東西に長く広がる島根県は、出雲大社に代表される県東部の出雲地方と世界遺産に登録された石見銀山のある県西部の石見地方の大きく二つに分かれます。いわみ福祉会は、県西部の浜田市にある社会福祉法人で、昭和40年代に地域の親の会が設立した知的障害者更生施設「桑の木園」を成り立ちとしています。
 ここ石見地方では「神楽の里」と言われるほど「石見神楽」がさかんで、自治体の数だけ神楽団があると言われています。絢爛豪華な衣装をまとって軽快かつ激しい囃子と舞いを演じる「石見神楽」は、演劇性・娯楽性を強めた大衆芸能として子供から老人にまで幅広く人気があり、祭りごとはもちろんのこと、競演大会、民間の各種イベント、結婚式に至るまで年中を通して石見神楽を見られない月はないほどです。
 そして、“石見神楽”を 町 おこしのテーマに位置づけ「福祉芸術村構想」を掲げている金城町が、第三セクターと設立した温泉宿泊施設「リフレパークきんたの里」の隣接地に誘致したのが、今回の取材先である「くわの木&あゆみ(金城 分場)」の「神楽ショップ くわの木」と「神楽ショップ 桑の実工房」「カフェジーノ」です。


後継者不足に悩む伝統工芸を伝承


旗を織る利用者

 「神楽ショップ くわの木」では、14名の知的障害者が地域の人たちと一緒に石見神楽の演目「八岐大蛇(やまたのおろち)」の大蛇の胴体部分“蛇胴”の制作や手縫いによる神楽衣装の制作に打ち込んでいます。
 「神楽ショップ くわの木」と、同じく石見神楽の演目に登場する鬼、般若などのお面や玩具面、飾り面などを製造販売する「神楽ショップ 桑の実工房」は、伝統工芸の見学場所になっており、きんたの里を訪れる人たちの目を楽しませてくれます。とりわけ、絢爛豪華な衣装が飾られている作業場で、真剣な眼差しで黙々と日本刺繍に励む女性たちの姿が印象的です。
 「くわの木&あゆみ」が石見神楽の伝統工芸品の制作に挑戦したのは20数年前のこと。
 石見神楽の衣装や面を製作する職人さんたちが後継者不足に悩んでいる状況を知り「衣装や面の製作には高い技術が必要だが、地域の方々の協力が得られれば知的障害者でも制作に参加することができ、地域の役にも立てる」という思いで、伝統工芸品の制作にチャレンジしたそうです。
 「決して大きなことを考えたわけではなく、年商40万円からのスタートでした」と佐々木施設長。
 後継者が不足しているとはいえ、職人気質の先人たちから技術を伝承してもらうこと、知的障害者に高度な技術を習得してもらうこと、どれも想像を超える困難を伴ったそうです。お客様からお金をいただけるだけの作品が仕上がるようになり軌道に乗るまで、試行錯誤の連続で20年が過ぎました。


年商1億円を超える総合神楽ショップへ


神楽面の売り場

 神楽の衣装は特注ものが多く、製作に1年かかるケースも珍しくありません。一着15万円の作品から、高価なものでは100万円を超える作品もあり、ショップがあれば自然に注文が入ってくるわけではありません。「神楽ショップ くわの木」と「神楽ショップ 桑の実工房」では、職員が3つのチームをつくり、1チーム 月 2回、計 月 6回は神楽団を個別訪問し、販売促進、見積作業、受注の確保に努めています。こうした地道な営業活動を繰り返し、お客様のニーズに応えてきた結果、神楽商品なら何でも揃う総合神楽ショップへと成長しました。
 そして、技術の研鑽を続けるとともに、「親切丁寧な商談、適正価格、納期を守り続けてきた」(佐々木施設長)結果、今や島根県で120団体、広島県で130団体、九州まで含めると500近い団体と取引があり、年商1億円を超えているというから驚きです。
 石見神楽を金糸・銀糸で豪華に彩る衣装、蛇胴、染め抜き技法による幕やのぼり、蛇頭、箱烏帽子、鯛、神楽小道具の製作、その他神楽グッズなど商品品目が増えたことで、利用者の作業領域も拡大しています。個人営業店と相互に商品を提供しあい、顧客の要望に応えるという、よい関係を築きながら地域と共に成長を続けています。
 何よりも、地域の人に愛されている伝統芸能の衣装や面の製作技術を、障害のある人たちが引き継ぎ伝統技術の継承に貢献している点、職人としての誇りを持って働いている点が素晴らしいことだと思います。


緑に囲まれたオープンテラス


カフェジーノで働くみなさん

 伝統工芸品の製作事業が軌道に乗った今、次の芽を育てることが「くわの木&あゆみ」の課題となっています。浜田市の人口はわずか60,000人。「くわの木&あゆみ」は、「神楽ショップ 桑の実工房」と同じ棟にお店を構える「カフェジーノ」、パンと洋菓子の店「プチマタン」、洋菓子工房「トルティーノ」、県から委託を受けている島根県立大学の学生食堂やレストランの運営など、産業が限られているこの地域で、地域とのつながりを大切にしながら食の分野を中心に活動領域を広げています。
 このうち、カフェジーノは、緑の自然に囲まれているロケーションを活かしたオープンテラスと、くわの木&あゆみの養鶏部で生産する地鶏 赤玉 自然有精卵でつくる卵料理を売りとするモダンなカフェです。
 「きんたの里にも和食かいせき中心のレストランがあります。でも、毎回、同じレストランで食事するのは味気ないでしょう。また、食事は軽(かる)めにしてゆっくりと会話を楽しみたいというお客様向けに、軽食を提供するカフェがあったら喜ばれるだろう、と考えたのです」と佐々木施設長。オムライスやカルボナーラなど、きんたの里のレストランでは味わえない軽食を提供する「カフェジーノ」は、きんたの里のリピーター確保にも一役買っているようです。
 佐々木施設長と私がテーブルの席に着くと、若い男性スタッフが慣れた手つきでコーヒーをサービスしてくれました。彼も障害を持っているそうなので、店長に仕事の範囲を訪ねると「店の掃除から接客、厨房での仕込みまで何でもこなすうちのエース的存在です」と答えてくれました。ここ「くわの木&あゆみ」では、伝統工芸品の製作であろうとカフェ事業であろうと、もくもくと働く障害者の皆さんが欠かせない戦力になっているのです。


一つ一つの施設がお互いに連携し協力し合う


県立大学の学生食堂で働く利用者

 今後、「カフェジーノ」は、「桑の実工房」で行われている面 づくりや機織りなど利用者の作業風景を眺めながら喫茶や軽食を楽しめるようにレイアウトの変更を予定しているそうです。
 佐々木施設長は「知的障害者の自立を支援するだけでも大変と感じて自分の役割だけをこなせばいいと考えがちですが、一つ一つの事業所がお互いに連携し協力し合うのがポイント」と、今回のレイアウト変更の狙いを語ってくれました。それぞれの事業所が自分のところだけを考えるのではなく、他の事業所を助けるつもりで営業していくのが複数の事業所を運営していく秘訣のようです。
 最後に、島根県立大学の学生食堂を訪れた際、調理長の大達さんが語ってくれた言葉も印象的だったので紹介させていただきます。
 「調理人気質のせいか、最初は知的障害者と一緒に働くことに抵抗がありました。こちらが何か言っても彼らは返事さえしてくれませんでした。でも、ある時、こちらが心を開けば、彼らも心を開いてくれることに気づいたのです。教える立場なんだけど、大事なことを教わった気がしています。今は彼らに会えてよかったと思っています」
 ここ「くわの木&あゆみ」には、地域と共生する、事業所と事業所が共生する、障害のある人とない人が共生する姿がありました。小さな市場においては、“共生”がポイントになることを教えられた事例でした。


取材日 : 平成20年6月

今回のポイント


@ 長年かけて、後継者不足に悩む地域の伝統工芸を伝承し、地域一番の総合神楽ショップ事業に育て上げている
A 産業が限られている地域で、地域とつながり、また、一つ一つの施設がお互いに連携をとりながら事業領域を広げられている


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 くわの木&あゆみ
設置者名 社会福祉法人いわみ福祉会
所在地 島根県浜田市熱田町493-3
電話番号 0855-42-0039(金城 分場)

0855-27-0101(本部)
代表者 佐々木 善昭 氏
施設種類 知的障害者 通所 授産施設
障害種別 知的障害者、身体障害者
開所時期 平成元年
利用者数 70名
職員数 常勤16名 常勤以外54名
FAX 0855-42-0039(金城 分場)

0855-27-0291(本部)
連絡担当者 佐々木 善昭 氏
事業内容 豆腐製造、養鶏、縫製と工芸、学生とレストラン、喫茶、パン製造、神楽衣装、
神楽面、神楽道具
平均工賃 月額22,702円