サービス取組み事例紹介
障害者福祉

愛媛県 特定非営利活動法人ハートinハートなんぐん市場

温泉で障害者とともに町興し 山出憩いの里温泉

地域住民を巻き込んだ事業スタイルや、自治体との連携をした事業、地域の特産品を活かした事業等、地域と連携をしながら発展する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




観葉植物のレンタル事業と温泉施設を運営するNPO法人「ハートinハートなんぐん市場」


観葉食物のレンタルサービスについて説明する桝田道俊理事長

  高知県との県境、愛媛県の最南端に位置する愛南町は、足摺宇和海国立公園の美しい海に面し、北東の山里には緑豊かな棚田が広がる自然豊かな町です。
 その一方で、愛南町は、人口わずか約26,400人、高齢化率30%、有効求人倍率0.54(平成20年4月宇和島圏域)という深刻な過疎高齢化の問題を抱えています。
 町全体の雇用環境が厳しい中、地域住民と力を合わせ、「障害のある、なし、に関わらずみんながいきいきと共に働ける場をつくろう」と町興しに取り組んでいるのが「NPO法人 ハートinハートなんぐん市場」です。
 「NPO法人 ハートinハートなんぐん市場」は、障害者の就労支援、地域振興、環境保全を目的に、観葉植物のレンタルサービス等の事業運営をおこなうNPO法人として設立されました。
 観葉植物のレンタルサービス事業では、現在、4人の精神障害者が役所や商店など120の事業所に、月に1度、鉢の交換に訪問したり、回収した観葉植物のメンテナンスをおこなっています。
 そして、平成19年4月に町から指定管理を受け、「山出(やまいだし)憩いの里温泉」の運営管理も事業の一つに加わりました。山間の緑に囲まれた「山出憩いの里温泉」は、100%かけながしの温泉を中心に、キャンプ場やログハウス、バイキングを楽しめるレストランを併設した温泉宿泊施設です。
 温泉施設の敷地に沿って流れる僧都川で釣りや川遊びを楽しんだり、施設内に建てられた「いろり小屋」で炭火を囲みながら語り合えるなど、豊かな自然と温かな人との交流を楽しめるスポットとして、関西からも足を運ぶ人がいるなど、沢山のお客様が訪れます。


山の幸から海の幸まで旬な味でおもてなし


つがにを採る田村さん  現在、「山出憩いの里温泉」では、8人の障害者(身体1、知的3、精神4)が、町営時代から雇用されているパート従業員と共に働いています。「障害のある、なしに関係なく、従業員一人ひとりが施設を支える上で、なくてはならない存在になっている」とマネージャー中野良治さんは言います。
 田村さんは温泉の受付や清掃を中心に幅広い仕事を担当しています。「職場の仲間とおしゃべりするのが楽しい」。職場の仲間と共に働くのが本当に楽しそうです。
 今回、田村さんが「僧都川に蟹を採りにいく」というので筆者も同行させてもらいました。田村さんが慣れた手付きで清流に仕掛けた罠を引き上げると、見事に「つがに」と呼ばれる大きな蟹が3匹も罠にかかっていました。この「つがに」は、上海蟹の同種の蟹で「がに汁」という郷土料理として調理されお客様にふるまわれるのだそうです。
 このように山の幸から海の幸まで季節ごとの旬の食材を堪能できるのが「山出憩いの里温泉」の魅力の一つ。春には、従業員総出で山菜採りにでかけ、また、海にも近い立地を活かし、NPOの理事の一人で海産業を営む稲田豊さんの案内による海釣り体験ツアーが組まれ、町営時代から調理を担当するパート従業員がその日の釣果を調理して提供するなど、従業員全員一丸となって、施設を訪れるお客様をもてなすのだそうです。


町営時代の従業員を辞めさせることなく経営改善


ヘルシーバイキング  かつて、町営だったこの温泉施設は、経営的にふるわず、毎年、町の予算から1000万円の補てんを受けている状況だったそうです。
 町から温泉施設の運営を委ねられたNPO法人の理事たちがこだわったのは、町営時代から雇用されているパート従業員を誰一人辞めさせることなく、経営を改善することでした。彼らにとって、ここは障害者の働く施設ではなく、障害のある人もない人も同じ仲間として町興しに取り組むための拠点であり、地域住民と共に施設を活性化したいという強い思いがあったからです。
 NPO法人の理事たちは、障害者雇用にまつわる様々な制度を活用し、補助を受けながら様々な改革に取り組みました。
 売上を伸ばすためには、まず、従業員一人ひとりに客志向、消費者視点を持ってもらうことが大きな課題でした。そこで、コンサルタントを入れて1年間にわたる研修をおこない、従業員の意識改革を図りました。
 また、お客様に足を運んでもらうために、あまご(川魚)のつかみ取り」や「芋たき」など地域ならではのイベントを企画開催しました。十分に機能していなかったレストランでは、土日祝日限定で地産地消を売りとして地元の素材をたっぷり使ったヘルシーバイキングを展開しました。
 その一方で、自動販売機など「豊かな自然と温かな人々のふれあいを売る」という施設のコンセプトに合わないものは撤去し、コスト削減に努めました。
 そして、障害のある従業員も町営時代の従業員も関係なく、ペアを組んで、地元の官公庁に飛び込み営業をし、団地にはポスティングをするなど、ここでも全員一丸による地道な販促活動を続けました。
 こうした様々な経営努力の結果、町営時代の従業員を辞めさせずに、また、給与を下げることもなく、経営を軌道に乗せ、初年度は売上ベースで町営時代の40%アップ、今年に入ってからも毎月前年度比5〜10%アップで推移するようになりました。


障害者も地域住民もNPO法人の運営に参画


町興しについて語り合う理事のメンバーたち  この「NPO法人 ハートinハートなんぐん市場」の事業運営で特筆すべき点は、精神障害をもつ当事者、長年彼らを見守ってきた精神科医・精神福祉士といった専門家、自営業を営む地域住民など立場の異なるメンバーで理事が構成されており、それぞれの意見を反映させながら、また、住民支援者のネットワークを活用しながら、共に働ける場づくり、町興しに取り組んでいることです。
 「住民支援者の中には大工や植木職人の方もいらっしゃるので、キャンプ場の拡張や整備の際にはずいぶん手助けをいただいています」とマネージャー中野良治さん。
 こうした体制を組めるに至ったのは、長い歴史の積み重ねがあります。
 愛南町では、昭和37年に精神病院が設立されたことをきっかけとして、地域住民と精神障害者の関わりがはじまりました。当初は、精神障害者との付き合いにとまどっていた住民ですが、農繁期に彼らに仕事を手伝ってもらうといった交流を通じて、次第に、障害者も共に地域を支える貴重な担い手であり、仲間であるという意識が広まっていったのです。
 平成元年には、稲田豊さん(現・NPO法人理事)らライオンズクラブの会員が中心となって、地域住民を巻き込み「南宇和障害者の社会参加を進める会」というボランティア団体を結成しました。現在、その会員数は、なんと1200名を超えています。「進める会」では、支援する側、される側という関係を持ち込まず、「共に生きる街」を目指し、障害者も専門職もボランティアも同じ住民という視点を大切しながら、3障害、高齢者、子育て支援を中心にボランティア活動を続けています。
 こうした背景から「NPO法人 ハートinハートなんぐん市場」は、歴史のあるネットワークを基盤として結成され、地域住民と協働しながら事業運営をおこなっているわけです。


温泉施設を町興しのシンボルに


イベントの様子  「山出憩いの里温泉」で働く従業員の給与は、障害の有無に関係なく一律で時給660円支給されています。温泉施設の経営は軌道に乗りつつありますが、現在の売上では1日1人あたり4時間の勤務を上限とせざるを得ない状況です。より長い時間働くことを望む従業員の希望を叶え、より多くの従業員の雇用を増やしていくためには、さらに集客数を伸ばし、売上を上げていくことが大命題となっています。
 この点に関して、NPO法人では、キャンプ場に加えて、ドッグランを併設してペット愛好家のサークルを呼び込んだり、安心して子供たちを遊ばせることがスペースを設けて家族連れの需要を見込むなど、様々な知恵を出し合ってターゲットを絞りつつ施設の充実を図ろうとしています。
 豊かな自然に恵まれているものの、目玉となる観光資源がなく、交通アクセスの不便な場所に足を運んでもらうためには、「山出憩いの里温泉」自体が「足を運んでみたい」「もう一度、足を運びたい」と言われる施設になる必要があるからです。
 「山出憩いの里温泉」の活性化は、行政、障害者、地域住民など愛南町に住むすべての人々の幸せにつながります。障害者支援を中心に形成されてきた地域住民のネットワークが、「山出憩いの里温泉」の指定管理をきっかけとして、「町興し」という共通の目的に向かって、さらに心を一つにして大きく動きはじめています。
 最後に、理事の1人で町の精神科医療を担う長野敏弘さんが「“障害のある人も、ない人も分け隔てなく働いてこの町を活性化させていこう”というのが、“進める会”時代から続く私たちの一貫した考え方です。リサイクル事業、観葉植物のレンタルサービス事業に加えて、今回、町興しの拠点として温泉施設を手に入れました。理想を掲げるだけではなく、結果を示すために売上や経済効果、雇用の確保には今後もこだわっていきます」と、力強く語ってくださいました。

取材日 : 平成20年10月

今回のポイント


@ 「障害の有無に関わらず地域の人たちみんながいきいきと共に働ける場をつくろう」と、障害者の就労支援がそのまま町興しにつながる理念を掲げ、地域住民を巻き込んだ活動を続けている
A 「当事者」「専門家」「地域住民」といった立場の異なるメンバーで理事を構成することで、それぞれの意見やアイディアを反映させながら事業運営を進めている
B 恵まれた自然と住民の力という地元の経営資源を最大限活かしている

経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 山出憩いの里温泉
設置者名 特定非営利活動法人ハートinハートなんぐん市場
所在地 愛媛県南宇和郡愛南町御荘平山943
電話番号 0895-72-6263
代表者 桝田 道敏 氏
施設種類 NPO法人
障害種別 就労継続支援A型
障害種別 身体、知的、精神
開所時期 平成19年4月
利用者数 14名
職員数 常勤3名
FAX 0895-70-1608
連絡担当者 中野 良治 氏
事業内容 温泉施設管理(指定管理者)観葉植物レンタル
平均工賃 54,665円
URL http://www.nangun.org

平成21年12月現在

事業所コメント


今年度は、農業部門の立ち上げを予定しております。