サービス取組み事例紹介
障害者福祉

社会福祉法人 暁雲福祉会

企業と協働し、知的障がい者が働き続けられる仕組みを構築 社会福祉法人 暁雲福祉会

知的障がい者の就労支援については、雇用率が低いだけでなく離職率が高いことも問題となっている。社会福祉法人暁雲福祉会は、平成20 年に企業と共同出資の合弁会社を設立し、企業と社会福祉法人のそれぞれの強みを生かした仕組みを構築することで、知的障がい者の継続的な就労を実現している。その取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年4月号に掲載された記事を一部更新して掲載しています。

「人間礼拝」を理念に社会福祉法人を設立


  大分県大分市にある社会福祉法人暁雲福祉会は、昭和56 年の国際障害者年に設立し、知的障がい者福祉に携わってきた。設立者は僧侶であり、「人間礼拝(たったひとつの尊いいのち、お互い支えあっていきたい)」の理念のもと、法人化する以前から佛教福祉の実践を重ねてきた法人である。同年に大分市における通所授産施設の民間第1号として「八風園」を開設して以降、その時代に求められる事業を展開してきた。
 現在は、障がい福祉サービス事業所「八風園」(生活介護)、同「八風・マーヤの園」(生活介護)、障がい福祉サービス事業所多機能型「ウィンド」(就労継続支援事業A 型、就労継続支援事業B型、就労移行支援事業)、同「八風・be」(就労継続支援事業B 型、生活介護)、放課後等デイサービス「風の子クラブ」、指定特定相談支援事業所「風と未来」のほか、住まいの場としてグループホームの「八風・マナス」を4カ所、ケアホームの「八風・カルナホーム」を運営。延べ196人の利用者が元気に通所している。


▲ 障がい福祉サービス事業所多機能型「ウィンド」

 同法人は、障がいがあっても「働いて収入を得たい」という知的障がい者の願いに応えることを大きな使命として、就労支援に取り組んできた。
 暁雲福祉会では、平成7年からパンの製造・販売を行い、平成11年から就労継続支援A型(定員20人)として一般就労に近い雇用型となっている。

地域にとけこむ「森のクレヨン」


 パンやクッキーの製造に取り組むことにした経緯は、計量や粉を練る、焼くなどの工程ごとに作業を分けられることで、利用者1人ひとりの障がい特性にあった工程への配置が可能なためである。当時、大分県でパンの製造に取り組んだ事業者は同法人が先がけであった。製造している商品は、「森のクレヨン」というブランド名で、広く販売されている。
 「森のクレヨン」について、同法人常務理事・「ウィンド」施設長の丹羽和美氏は、次のように語る。 「『森のクレヨン』という名前には、クレヨンのさまざまな色を使って絵を描くように、障がい者1人ひとりがそれぞれの得意とする作業を担当しあい、みんなで力をあわせて1つのおいしいパンをつくるという想いが込められています。また、質にもこだわり、一般市場に通用する商品をつくることをコンセプトにしています。当法人の店舗のほか、さまざまな場所で販売しており、近隣の方々には福祉施設でつくられたパンではなく、地域のパン屋として認知されるまでになっています」。
 「ウィンド」では、毎朝6時30分に始業し、1日に60種類、約1000個(1日平均/年)のパンを製造しているが、始業時間の早い「森のクレヨン」のメンバーは、同法人のグループホームを利用している人も多いという。
 平成26年12月には大分市内に新たに「カフェ 森のクレヨン」を開店。挽き立てコーヒーをはじめ、パスタやピザ、デザートなど豊富なメニューを提供し始め、オープンから数ヵ月で延べ1万人が来場。「森のクレヨン」のパンも常設販売し、好評を得ている。
 フロアにはアビリンピック(障がい者技能五輪)の喫茶の部にて金賞・銀賞に入賞したホールスタッフが常駐し、丁寧な接客マナーを心掛けているという。
 2年に1度横浜にて開催される障がい者全国パン・菓子コンテスト「チャレンジドカップ」に平成25年、平成27年連続出場。2大会共に「チームワーク賞」を受賞している。

 ▲ 「ウィンド」では、毎朝6時半から1日60種類、約1000個のパンを製造している  ▲ 定員7人のグループホーム「八風・マナス2」の外観。同法人では4つのグループホームとケアホームを開設

 販売・納品先は幼稚園・保育所の給食や病院、一般企業など約30カ所のほか、百貨店における催事などへの出店は年間50回にものぼる。現在も口コミで販売する件数が増えているという。また、利用者は製造だけでなく、販売・納品にも必ず同行し、対面販売をする際には料金の計算や包装も行う。このように社会に出ていく仕組みは知的障がい者にとって必要だとしている。


▲ 製造したパンを外販する様子。商品の計算や包装も利用者が行う

それぞれの適性にあった支援サービスを用意


 同法人は、さまざまな施設形態と支援サービスをそろえているため、利用者それぞれの特性にあった働き方をすることが可能となっている。
 「どんなに重度の障がいがあっても、さまざまなメニューがあれば、その人の適性にあったステージを選ぶことができます。そのためには選択肢は広くなければならないと考えています。そのほか、すべての施設でミュージックセラピーとアートセラピーを導入し、知的障がい者の自己表現の場として積極的に取り組んでいます。利用者だけでなく地域の方と一緒になってコンサートや朗読会などを開催しているのは、当法人の特徴です」(丹羽常務理事)。
 そのほかの取り組みでは、障がいがある人たちの働くことへの理解、支援や防災意識の啓発などを目的とした「特定非営利活動法人チャレンジおおいた福祉共同事業協議会」を平成20年に設立し、県民に広く発信している。大分県内にある6つの社会福祉法人が加盟しているが、同法人が事務局となり丹羽常務理事が理事長を務めている。大分県庁本館1階に「けんちようのパン屋さん」をオープンし、加盟する法人で共同運営するほか、備蓄食品「いのちのクッキー」の製造・販売にも取り組んでいる。

▲ NPO 法人チャレンジおおいた福祉共同事業協議会では、防災備蓄食品「いのちのクッキー」の製造・販売にも取り組んでいる

 知的障がい者の就労は、雇用率が低いだけでなく、離職率が高いことも大きな問題となっている。就職して1年後の離職率は3割近くにのぼるといわれており、就職をしても個別のフォローがないため施設に戻ってしまう事例も少なくない。また、障がい程度の軽い人の一般就労と、重度知的障がい者の就労の間には大きな壁があるのが実情だという。


企業と合弁会社を設立し、重度知的障がい者を雇用


 重度知的障がい者の就労支援と、継続して働ける環境づくりを模索していた同法人は、平成20年に大分キヤノン株式会社との共同出資の合弁会社「キヤノンウィンド株式会社」を設立(平成21年から大分キヤノンの特例子会社となる)。企業と社会福祉法人が合弁会社をつくり、重度知的障がい者の雇用をしていることは全国的にも新しいモデルである。
 きっかけは、「森のクレヨン」の販売先であった大分キヤノンから、その働き方が認められたことであった。また、大分キヤノンは企業理念として「共生」を掲げており、暁雲福祉会の理念である「人間礼拝」と合致したことも大きな要因になったという。「ウィンド」の就労移行支援事業の実習生が大分キヤノンでの1年間の企業内実習を経て、5人が雇用され操業を開始している。
 キヤノンウィンドでは、就職することがゴールではなく、継続して働ける仕組みの構築を目標に掲げた。役割分担として、企業は仕事を創出するとともに、業務の改善、コスト・生産性の追求といった福祉側が弱いとされる業務を担当し、社会福祉法人は人員の確保や福祉専門職の配置、生活面を含めたサポートを担当することでお互いの強みを生かし、苦手な部分を補うことで継続的な就労支援が可能となっている。

 ▲ 「キヤノンウィンド」で作業する利用者たち。障がい特性にあった仕事に的確に配置することで、確実に効率よく作業することができる

 設立当初の作業内容は、デジタルカメラのストラップや電池パックなどの付属品や保証書の袋詰めである。これらの作業は正確さが求められ、部品が一つでも欠けると不良品となってしまうが、臨機応変な対応は苦手でも、こだわりが強く繰り返しの作業が得意という障がい特性にマッチした作業に的確に配置することで、驚くような作業能力を発揮していったという。

障がい者5人に対して福祉専門職1人を配置


 企業と社会福祉法人の役割分担について、大分キヤノン株式会社人事部長の野眞吾氏は、
 「キヤノンウィンドは合弁会社なので、大分キヤノンと暁雲福祉会から社員・職員が出向して一緒に働いています。われわれは彼らの様子をみて、障がい特性にあった仕事をもってくるのですが、障がい者のために作業をつくるのではなく必要な仕事を担ってもらっているので双方のメリットになっています。当社は生産技術の技術者がいるので、障がい者の動作をみて『ここを改良すれば作業が楽になり効率があがるね』と、工具の開発・制作にも前向きに取り組む体制がとれています。企業側は業務面に専念すればよく、1人ひとりのサポートは暁雲福祉会のスタッフが中心となってフォローしていただけているので本当に助かっています」と語る。
 また、丹羽常務理事は、「知的障がい者に対する就労支援は、ハード面に加えて、人的支援などのソフト面が必須となるため、企業だけで取り組むことは容易ではありません。当法人から福祉専門職が出向し、障がい者5人に対して1人の福祉専門職を配置しサポートしています」と補足する。
 また、社員は直接キヤノンウィンドに通勤するのでなく、毎朝「ウィンド」に集合し、働ける状態であるか体調をチェックしてから通勤バスで出社している。移動中の会話や様子で、トラブルやささいな気持ちの変化を福祉専門職が見逃さずに対応することで、支援が途切れることのない体制がとられている。
 その他、「障がい者の権利に関する条約」に基づく合理的配慮が随所で行われている。また、1人で就職するのではなく、仲間が多くいる職場の風景も違和感がなく、安心して仕事に取り組めることにつながるという。


就労定着率は100%を維持


 設立時は5人であった雇用者は毎年増え続けており、現在は21 人にのぼる。習熟度が高まり高度な作業もできるようになったことから、職域の拡大をするなど進化している。なお、労働条件は1日6.5時間労働、最低賃金以上の報酬だけでなく社会保険も完備だという。
 これらの取り組みにより、キヤノンウィンドは設立から6年が経った現在も、定年退職を除き離職者が1人もでておらず、就労定着率は100%となっている。知的障がい者の就労で、定年まで働き続けられることは非常に珍しいケースである。
 「現在、雇用者は21 人まで増えて定着率も100%を維持しているため、メンバーが固定化してきています。習熟度もあがり職域の拡大につなげて進化しているのですが、一方で雇用者を増やし続けるというわけにはいきませんので、新しく働きたい方に対して貢献できないことはつらいところでもあります。次はどのように発展させていくのかが課題になるのかもしれません」と野人事部長は語る。
 「企業と協働して重度知的障がい者が継続して働き続けられるキヤノンウィンドモデルが確立できたことは、知的障がい者福祉のなかでは大きな成果だと思います。当法人では、就職後もしっかりとした専門的支援を行い、職場定着を確実なものにしていますが、このような取り組みに対して評価する制度が未完成なのが残念なことです。就職がゴールではなく、定着を重視すべきだと考えます。ただ、彼らの暮らしの変わり方や生き生きした表情をみると、制度がなくてもやらなければならないことだと思っています。このような先駆的な取り組みを続けていくことで、制度もあとからついてくると信じています」(丹羽常務理事)
 企業と協働したキヤノンウィンドモデルなど、先駆的な知的障がい者の就労支援を続ける同法人の取り組みが今後も注目される。


企業と社会福祉法人が協働し、お互いの強みを生かす
 大分キヤノン株式会社 人事部長 野 眞吾 氏

 キヤノンウィンドを設立した経緯として、法定雇用率を達成できていなかったことが大きかったと思います。採用しても働き続けてもらえない状況で、ましてや知的障がいの方の雇用には高いハードルを感じていました。
 設立から6年が経ちますが、定年退職をのぞき、離職者は1人もでていません。それが実現できているのは、企業と社会福祉法人のそれぞれの強みを生かした役割分担の仕組みができていることがあげられます。
 企業側は繰り返しの作業に強いという障がい特性にあった仕事を切り出し、トレーニングをしますが、障がい者のために仕事をつくるのではなく、必要な仕事を担ってもらっているので双方のメリットとなっています。社会福祉法人からは、福祉専門職の職員に出向してもらい、送迎時の体調チェックや1人ひとりをしっかりとサポートする役割を担っていただきます。特例子会社を設立し、障がい者の方を雇用したとしても、ハード面とソフト面を支援する体制が構築されていなければ、離職率0%にはつながらなかったでしょう。
 現在、民間企業での障がい者の法定雇用率は2.0%ですが、当社では身体障がい者の雇用とあわせて2.42%と大幅に上回ることができています。
 全国に同様の取り組みが広がり、障がいのある方が継続して働き続けられる環境が整備されればよいと思います。

地域に向けた啓発活動は社会福祉法人の重要な役割
社会福祉法人 暁雲福祉会 常務理事  多機能障がい福祉サービス事業所「ウィンド」 施設長  丹羽 和美 氏

 キヤノンウィンドのモデルは、知的障がい者福祉のなかでは大きな成果だと思っています。仕組みとして確立しているため、例えば私がいなくなったとしても、キヤノンウィンドは継続し、進化していくわけです。人の人生をお預かりしていますので、責任をもって10 年、20 年と働き続けられる会社にすることは大切なことだと考えています。
 私どもは昭和56 年から知的障がい者福祉に携わっていますが、現在に至るまでには多くの法の変遷を経験してきました。どのように時代が変化しても、お寺の境内に開いたプレハブに通う数人から始まった1 人ひとりの知的障がい者への支援が私どもの原点です。
 お年寄りがいて、小さな子どもがいます。病気の人がいて、病気でない人がいます。障がいのある人がいて、障がいのない人がいます。その1 人ひとりの命のなかにお互いの可能性を探しあいたい。違いを認めあうまなざしを育み、そのうえで、利用者1 人ひとりの「笑顔」の保障に向かいたいと願います。
 当法人では福祉関係だけではなく一般県民に向けた障がい者を支える啓発活動にも積極的に取り組んでいますが、地域の方に理解していただき、個々ではなく、社会的にその方々を支えるということを実現するための活動は、社会福祉法人の重要な役割だと思っています。
 これからも「人間礼拝」の理念のもと、さまざまな先駆的な取り組みを職員とともに実践していきたいと考えています。

<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人暁雲福祉会
合弁会社 キヤノンウィンド株式会社(大分キヤノン株式会社の特例子会社)
理事長 丹羽 一誠 氏
事業および関連施設(平成26年4月現在) 「八風園」(生活介護)/「八風・マーヤの園」(生活介護)/「ウィンド」(就労継続支援事業A 型、就労継続支援事業B 型、就労移行支援事業)/「八風・be」(就労継続支援事業B 型、生活介護)/ 「風の子クラブ」(放課後等デイサービス)/指定特定相談支援事業所「風と未来」/「八風・マナス1・2・3・5」(グループホーム)/「八風・カルナホーム」(ケアホーム)
設立時期 昭和56年 職員数 66人
(平成27年12月現在)
電話 097−524−2424 FAX 097−524−2400
URL http://www.happu-en-1981.jp/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年4月号に掲載された記事を一部更新して掲載しています。
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