サービス取組み事例紹介
障害者福祉

東京都 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会

就労移行に特化した支援体制 ピアス

一般就労の実績が著しい事業者、企業内での実習の取り組みなど、一般就労へ向けた取り組みとして優秀な事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




就労移行支援のパイオニア「就労移行支援事業所 ピアス」


ピアス外観
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 「就労移行支援事業ピアス」(以下ピアス)の運営母体である社会福祉法人多摩棕櫚亭協会は、精神障害者の地域生活を支えるため、精神病院の職員たちが中心となって、1986年、国立市に棕櫚(しゅろ)の木のある一軒屋を借りて共同作業所をつくったのがはじまりです。






トゥリテ外観
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  1997年、同法人では、共同作業所で利用者が元気を取り戻す中、「働きたい」という利用者のニーズに応えるために、 作業所とは別の就労支援に特化した施設をつくりました。それが「社会就労支援センター ピアス」です。
 2007年に自立支援法の施行により就労移行支援事業所に移行したピアスは、すでに10年以上にわたって、障害者の就労を実現するという明確な理念のもと、利用期限を2年間に設定し、就労トレーニング、就労プログラム、就労相談を3本柱とした通過型施設として運営してきました。全国の就労移行支援事業所の先駆的な存在と言えます。

 現在、国立市のピアスでは20名の利用者が、また、立川に拠点を構えるピアスの分場「トゥリニテ」では12名の利用者が一般就労を目指してトレーニングを積んでいます。
 ピアスの活動時間は、午前2時間、午後2時間の計4時間。月曜から金曜の間、週20時間の就労訓練を利用者のペースに合わせて行なっています。雇用率アップを前提とした障害者雇用を進めたい企業のニーズに対し、一般的に長時間の労働が苦手とされる精神障害者は、週30時間以上の常用雇用の対象になりにくいと考える人事担当者が多いのが実状です。今年7月より週20時間以上の短時間労働に対応した雇用率制度の見直しも図られる見通しですが、それでも、ピアスの利用者にとって高いハードルであることは否めません。精神障害者の就労支援においては、一様に長時間働けるようになることを目指すのではなく、短時間のパート勤務でも受け入れてもらえる企業を探し、送り出すことも重要な仕事になります。
 そんな厳しい状況ながらも、ピアスでは、毎年、卒業生の5割近くを着実に一般就労へと導いています。どうして、そのような高い成果を上げることができているのでしょうか。


スキルよりも総合的なエッセンスの習得を目指す


事務補助部門トレーニング風景
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 前述の通り、ピアスの就労支援サービスは、「就労トレーニング」と「就労プログラム」と「就労相談」の3つが柱となっています。
 ピアスの「就労トレーニング」は「事務補助」「環境整備(清掃)」「弁当宅配」、分場のトゥリニテでは「喫茶」「環境整備(清掃)」「弁当宅配」の業務を通じて、それぞれ就労に向けた基礎体力と作業能力の向上を目指します。
 いずれの作業部門も、「スキルよりも、働く上で必要とされる総合的なエッセンスを身に付けること」(天野聖子理事長)に、主眼が置かれており、例えば、「弁当宅配」部門であれば、お弁当を作れるようになることではなく、お弁当の盛り付けや配達を通じて、上司の指示に従い、決められた時間内に正確に作業をこなすといった能力を養うことを狙いとしています。調理技術の習得が目的ではないので、調理は専門のスタッフが担当します。利用者はローテーションで作業に入りますが、実習に行ったり、就職が決まって退所したりと人の出入りが激しいため、人手の足りないところに職員が入り、商品・サービスの品質確保を図っています。

事務補助部門の掲示物
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 同様に、法人全体の事務サポートを担う「事務補助」部門では、電話対応や来客対応を通じてコミュニケーション能力を養うとともに、パソコン作業においても、操作スピードを磨くことよりも、むしろ操作に慣れることに主眼が置かれています。また、ここでは、例えば法人の他部門から大量の資料のコピーを依頼される等、ルーチン業務以外の仕事が入ることが多いため、利用者は仕事をどう組み直したらよいか、何を上司に相談すべきかといった判断力を養うことができるようになっています。
 さらに、「環境整備(清掃)」では仕事を続けるための基礎体力をつけることや周囲への配慮を学ぶことに主眼が置かれています。暑い時期と寒い時期では体力の消耗が異なるため、夏と冬の働き方を変えるといった指導も行なっています。


チェックリストを用いて強みを伸ばし弱みを克服する


就労相談時、チェックリスト使用
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 「就労プログラム」は、就労するために必要な知識と心構えを学ぶことを目的とし、月に2回、午後の活動時間を使って行なわれます。半年サイクルで一連のプログラムを体験できる構成です。就労に向けてのSST(社会生活技能訓練を取り入れたコミュニケーションの練習)をはじめ、ピアスを卒業し企業で働いているOBの体験談や企業の人事担当者から直接職業人としての心構えについての講義等を聴講します。プレゼンテーションといった、利用者にはやや難易度の高いメニューもありますが、授産施設時代から長年にわたる実践の中で、有効なプログラムを収斂していった結果、現在の形になったということです。

環境整備(清掃)部門トレーニング風景
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 また、プログラムをただ聴講するのではなく、聴講後、「何を学んだか」「仕事にどう活かせるか」といったアンケートの記入にも力を入れています。狙いは、自分の考えを文章化してまとめる力を養うことです。「論理的に考え、伝える」というコミュニケーション力の向上は、仕事をする上で必ず役立つスキルだからです。2年間のピアスでの活動では、日々、いろいろな形で他者との関わり方を意識することが求められます。ピアスで力を入れている職業リハビリの重点テーマには一貫性があります。実践で得られた就労支援のノウハウはこのあたりにありそうです。
 また、「就労相談」では、3ヶ月に一度、チェックリストを用いて、トレーニングの成果を振り返り、どこが強みで、どこが弱みかを把握し、伸ばすべき点、克服すべき点を明確にして、就労に向けて、次の3ヶ月間の目標設定を行います。
 チェックリストには、「調子を崩す前触れを知っている」「家族・知人・仲間に協力を求めることができる」といった精神障害ならではの項目が設定されており、「生活」「対人関係」「作業遂行能力」の三つの分野に関して、量的側面(何日、何時間通うことができたか等)と質的側面(実際に遂行することができたか等)について、本人と担当職員が4段階で評価し、お互いの評価をつきあわせて、強みと弱みを共有していきます。


「就労・生活支援センター オープナー」と一体となった支援体制


支援体制を語る天野理事長
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 さらに、ピアスの特徴として、職場開拓と定着支援を担う「就業・生活支援センター オープナー」と一体となった就労支援体制が挙げられます。
 「就業・生活支援センター オープナー」は、多摩棕櫚亭協会が2006年4月に国から受託して開業したもので、ピアスと 隣接した同法人の一室で運営されています。
 天野理事長は「授産施設時代、ピアスでは、職場開拓から定着支援まで、職員がすべてを担い、ヘトヘトになって支援していました。職員が疲れ、サービスの質が低下してはいけない、という危機感が高まっていたときに、オープナーを開業できて良かったと思います。今、ピアスとオープナーを併設で運営していることは私たちの強みになっています。」と語ります.。(もちろん国の事業なので、同時に半数以上は外部の利用者への支援になるため、より広域かつ多様な障害の人への対応をしています)
 つまり、オープナーの運営を受託したことで、ピアスは主に就労トレーニングや就労プログラム、オープナーは、職場開拓、職場実習、ハローワークと連携した求職活動、定着支援等をそれぞれ担当し、役割を分けて利用者の就労サポートを一貫して行えるようになったのです。就労に向けた利用者の相談にも双方が連携してきめ細かに対応することができます。

オープナーの門脇氏
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 例えば、オープナーを訪ねてきた相談者に対し、すぐに企業をあっせんするのは難しい、と判断される場合には、ピアスの利用を勧めることがあります。期間は個々の利用者の状況にもよりますが、最初の1年間はじっくりピアスで就労に向けた訓練に取り組んでいただき、心身ともに働ける力を養うとともに、適性の把握を行ないます。その後、就労の準備ができたと判断されたら、残りの1年間は、オープナーの支援を受けて、訓練と就職活動を並行して行います。ピアスのケースカンファレンスにはオープナーの職員も参加し、利用者の状況を共有しながらサポートする、といった具合です。
 就業・生活支センター併設のメリットは他にもあります。オープナーでは、ハローワークと共催で企業向けセミナーを行なっています。会場はピアスです。オープナーのコーディネーターである門脇さんは、「参加された企業の担当者に、実際にピアスの利用者が働く様子を見てもらうことで、雇用のイメージを持っていただくことができる」と語ります。日頃からハローワークと連絡を取り合っているので、担当者が企業の人を連れて施設見学に訪れることもしばしば。ピアスとオープナーの連携は、利用者の就労というゴールに向かって、相乗効果を発揮しています。


機能分化と目的の明確化がサービスレベル向上の鍵


喫茶部門トレーニング風景
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 取材を通して、ピアスの就労支援サービスは、非常にわかりやすく体系化されていて、無駄がなくシンプルであり、一つひとつのサービスの質が高いという印象を受けました。チェックリスト一つをとっても、項目が何度か見直されており、また、就労という一つの目的に向かって合理的に運用されています。






弁当宅配部門トレーニング風景
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 自立支援法の施行以降、全国的に就労移行支援と就労継続支援B型を併設する多機能型施設が数多く見られる中で、ピアスは、授産施設の時代から、組織の目的を明確にし、成長の過程で機能を分化させ、今日に至っています。「就業・生活支援センター オープナー」の運営を国から受託し、ピアスから職場開拓と定着支援の機能をオープナーに移管させたことも、方針が明確、かつ、センターで行うべき支援サービスがはっきりみえていたからこその取り組みでした。
 就労移行支援に専門特化することによって、職員、利用者双方が2年間で就労するという緊張感を保ちながら、かつ同一のベクトルにむかって、無理なく無駄なくシンプルにプラン(計画)→ドゥ(実行)→チェック(検証)→アクション(改善)を繰り返すことができるため、支援のあり方がぶれず、サービスレベルの質を向上できる点、また、オープナーと機能を分化しながらも一体となって取り組むことで相乗効果をあげている点が、結果として高い成果につながっていると推測されます。
 2007年、同法人では「精神障害者の就労支援ノウハウの構築のための調査研究」を厚生労働省から受託し、有識者とともにこれまでの活動を振り返り、より効果的な支援方法を探り、レポートにまとめています。「仕組みを作れば、他の事業所でも十分できる。私たちの実践事例が役立つならば、どんどん利用してほしい」。天野理事長からのメッセージです。ピアスのノウハウが広く普及し、精神障害者の雇用が底上げされることを期待したいと思います。


取材日 : 平成21年4月

今回のポイント


@ 自立支援法施行以前から、精神障害者の就労移行支援に特化して支援体制の整備に力を注いできたことで、着実な成果を出している
A 就労トレーニング、就労プログラム、就労相談など就労支援サービス内容を体系化し、改善を繰り返すことで、サービスの質的向上を図っている
B 同一法人内の「就労・生活支援センター オープナー」と密接な連携をとり、一体的に利用者のサポートを行なえる点が強みになっている


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 就労移行支援事業 ピアス
設置者名 社会福祉法人多摩棕櫚亭協会
所在地 東京都国立市富士見台1-17-4
電話番号 042-571-6055
代表者 理事長 天野 聖子 氏
施設種類 就労移行支援事業所
障害種別 精神障害者
開所時期 平成9年
利用者数 32名
職員数 常勤9名 常勤以外5名
FAX 042-575-5911
連絡担当者 就労移行支援事業所長
高橋 しのぶ 氏
事業内容 事務補助、清掃、弁当宅配、喫茶
平均工賃 12,269円
URL http://shuro.jp


平成22年1月現在

事業所コメント


立川事業所(トゥリニテ)ができてもうすぐ2年がたちます。
ひきつづきピアス・トゥリニテ両事業所で、1人でも多くの利用者が就労できるよう支援をがんばります。