サービス取組み事例紹介
障害者福祉

熊本県 就労移行支援センターらぽーる

多くの企業実習で就労をサポート 就労移行支援センターらぽーる

一般就労の実績が著しい事業者、企業内での実習の取り組みなど、一般就労へ向けた取り組みとして優秀な事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




法人の使命は“社会的自立への支援”


 社会福祉法人東康会は、熊本市の南に位置し、市域の3方を海に囲まれた宇城市にて平成7年12月に設立、平成8年5月に事業をスタートしています。
 設立以来、東康会では、地域社会との密接な協力・連携が必要との認識を持って事業運営をおこなっており、@利用者などに地域社会への積極的な参加を促し、地域社会への関心を高め、社会共生を図っていくこと、A地域の人々に対し開かれた社会福祉法人であること、B地域の人々に東康会、及び利用者をより理解してもらうこと、という3つの目標を掲げています。
 法人設立時に「ねんりん」(就労継続支援A型事業)および、共同生活援助事業を行なう「グループホームみすみ」を開設した後、平成18年10月に就労移行支援事業を行なう「就労移行支援センターらぽーる」を、平成20年4月に自立訓練(生活訓練)事業を行なう「生活訓練支援センターぷち・らぽーる」を開設し、地域で暮らす障害者の社会的自立に向けた支援を一体的に行なえる体制を整えてきました。

らぽーると同じ建物内に事務所を構える障害者自立支援センター
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 まずは、同法人の「ねんりん」と「ぷち・らぽーる」の紹介をします。ねんりんでは、システムキッチンの扉の加工(メラミン仕上げ)を行い、大手キッチンメーカーに納品しているほか、コンクリート製品メーカーとの提携によりコンクリート製品(U字溝)の鉄筋加工をおこなっており、‘プロを目指す集団’として働く利用者の平均賃金は7万円に達しています。







働く意欲向上の制度づくり


 自立訓練(生活訓練)事業を行うぷち・らぽーるでは、利用者とその家族の「意向・希望」や「生活状況・障害の状況」などに配慮しながら、自立を目指すことを目的に現在、18名の利用者を支援しています。
 ぷち・らぽーるでは、@引きこもっている人を通所のリズムをつくるように支援する、A安定して通所できるようになった利用者を生活のリズムが整えられるよう支援する、B生活のリズムが整ってきた利用者に就労や就労継続支援事業に移行するモチベーションを高める――ということを自らの機能と認識して3つのプログラムを用意しています。
 月・水・金曜日の午後は、利用者それぞれがゲームやスポーツ、マンガを読むなど、スケジューリングされているフリータイム。
 火・木曜日の午後に行なう事業所内訓練では、金銭管理・交通機関の利用・電話の利用など、社会生活を行なっていくうえで必要なスキルを身に付ける訓練を行ないます。
 月曜日から金曜日まで毎日、午前中に行なう事業所内での軽作業では、海藻に付着したゴミを除去し、利用者全員に一律300円を日払いで支払っています。
 ぷち・らぽーるではこの軽作業で、利用者に「働けばお金がもらえてうれしい」ということを強く認識してもらいたいと思っているそうです。さらに、「20日作業をして月額6,000円では自立は難しい」という金額設定になっていることで、「もっとたくさんお金を得るためには、ぷち・らぽーるから卒業して就労しなければいけない」という気持ちを喚起し、利用者の「働く気持ち・意志の向上」につなげようとしています。
 開設から1年が過ぎ、1名の利用者が一般企業への就職を果たしました。また、2名の利用者が他法人が運営する就労継続支援A型事業所へ移行し、1名がらぽーるへ移行する、という成果を上げています。


「働く意志」ありますか?


事業所内訓練場所の掲示。基本的なルールが写真入で掲示
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 就労移行支援事業を行なうらぽーるでは、通所希望者に前向きに訓練して就労をする意志があることを確認した上で、通所を受け付けます。条件はただ一点、「本人の働く意志」です。たとえ、障害が重度であっても、働く意志を確認できれば、通所を受け入れ、就労に向けて全力で支援していきます。






コミュニケーションタイムの様子
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 利用者は通所して最初のおよそ3ヶ月間、事業所内で「持続力」、「集中力」、「基本的な勤務態度の習得」、「作業に対する目標意識の確立」を身に付けるための訓練を行ないます。
 毎日、午前中に設定されているコミュニケーションタイムでは、1ヶ月ごとにプログラムが策定されており、具体的には、基礎学習として漢字の読書き・買い物計算、社会生活学習として「自分を知ろう」、「朝食を食べよう」、「図書館へ行きましょう」といったテーマでの学び、ボランティア活動としての公共施設の敷地内清掃等を行なって利用者の社会性の向上を図っています。


パソコンに向かってタイピングの練習
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 午後の時間帯は、就労に向けてより実践的な訓練を行ないます。取材時は、立ったままパズルの作成に取り組む利用者、おはじきとビー玉を1つずつセットにして袋詰め作業を行う利用者、パソコンに向かってタイピングの練習を行なう利用者の姿が見られ、みなさん、とても集中して真剣にそれぞれの作業を行う姿がとても印象的でした。







1年間で利用者 総入れ替わり


自動車販売会社でトライアル雇用中!
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 3ヶ月間の事業所内訓練が終了すると、利用者は、3ヶ月間をめどに企業などでの実習訓練に入ります。1つの実習先での実習期間は2週間程度。3ヶ月で3〜4箇所の企業での現場実習を体験することとなります。異なる業種・規模・雰囲気の企業で様々な就業体験を積むことで、利用者自身が働くことをより具体的に捉えられるようになるとともに、自身の適性・好みを把握することができるようになります。
 実際の就労先の選択に際して、「自分に不向きだと思う仕事」、「第一希望ではないけれど、意欲を持ってできる仕事」などが明確になっていることで、必ずしも利用者本人が第一に希望する業種・作業内容でないとしても、大きなミスマッチが生じることを防ぐことができるとしています。
 企業実習訓練を開始して概ね3ヶ月が経過した時点で、就労支援員が利用者の希望・立地条件等を勘案して、職場開拓に入ります。
 らぽーるでは、通所してから1年間で就労につなげることを目的にしており、平成18年10月の開設からの2年半で21名の就労を実現。当初の利用者は既に誰もいないことは当然のこととして、1年たつと“利用者総入れ替わり”の状況になっているとのことです。
 “通所から3ヶ月で企業実習、1年で就労”が常態化することで、利用者は自然と「次は自分の番だ」、「仲間が就職していったのだから当然、自分も就職する」という意識を持つようになり、訓練にも真剣に取組むようになるとの話です。


“賃金0円”で就労への意志を確かなものに


 ところで、ぷち・らぽーるで、軽作業に300円が日払いされるのに対して、らぽーるでは、利用者に工賃・賃金の類は一切支払われていません。
 これにも、きちんと理由があるのです。職員の水野さんは「訓練でお金を得られると、利用者はどうしてもそこに安住したくなります。訓練ではお金が得られないという状況を作ることにより、ハングリー精神を喚起し、お金を得るには就労以外に道はないと利用者に納得してもらうことを意識しています」と言います。
 利用者の就労という明確な目的の実現のために、施設として何を行い、何を行なわないべきかを的確に判断して実行していく強い意志と姿勢を感じます。


50箇所の実習先を確保!


実習先の自動車販売会社
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 利用者の実習・就労を継続的・安定的に行なっていくために、らぽーるでは、市内の多くの福祉関連団体、公共施設、一般企業と連携し、協力していく体制を整えることに注力してきました。
 特に、開設から1年経過するまでは職員が手分けして、企業やハローワーク、障害者就業生活支援センターへの訪問を積極的に行なうとともに、市内にある企業100社程度への障害者雇用制度の説明会を開催するよう市に働きかけたりしてきました。
 これらの取り組みを行なう上で、らぽーるが大切にしてきたことは、施設単独で全てを抱えこむのではなく、ハローワーク等の公的機関との連携関係を作り上げる中で、情報や学ぶ機会を得ようという意識でした。
 その結果、ショッピングセンターや保育所、老人ホーム、養鶏場、花の生産農家、自動車販売会社、ガソリンスタンド、クリーニング店など、さまざまな業種の企業・施設等、およそ50箇所の実習先を確保するとともに、先述の通り、21名の利用者の就労を実現しました。
 ここまで実習先を開拓できた理由として、最初からまったく接点のない会社を1件1件訪問するのではなく、まずは行政や商工会議所など社会的に信用のある組織から巻き込んでいけたことにあります。
 一度実習を受け入れた企業がさらに他の利用者の実習を受け入れたり、雇用したり、他の企業に実習の受入れを進めたりという、当初の想定を越えた波及効果が生まれてもいます。


ハートに火がついた!


自動車販売会社経営者の稲村氏
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 実習先の一つでもある自動車の販売会社を経営する稲村氏は、「障害のあるかたたちは、どういうことができて、どういうことが苦手なのかがわからなかったため、当初は戸惑いがあった」と話します。しかし、実習生を実際に受け入れることで、「多くの心配は無用であること、健常者が障害者から教えられることが多くあることを実感した」と言い、これまでに複数の実習生を受け入れるとともに、現在は本採用に向けて利用者をトライアル雇用中です。さらには、ご自身で障害者のグループホームを立ち上げられるほど、“ハートに火がついた”状態になっています。




利用者0(ゼロ)からのスタート


 らぽーるが実習先・就労先の開拓と同時に力を入れてきたのは、利用者確保のためのPRです。新体系である就労支援事業を早々に立ち上げたためか、あまり認知されず、障害者や家族、障害者を送り出す養護学校(特別支援学校)から見ると、どのような支援をしてくれる施設なのか?本当に就労できるのか?という疑問があったせいか、利用者0名でのスタートでした。
 支援プログラムの充実や実習先の確保、その結果として多数の利用者の就労が実現……。これらの実績が大きなPR効果となり、地域におけるらぽーるの知名度が向上し、いまでは実習先・就労先の開拓にも利用者の確保にもさほど力を注がなくてもよいような状況になってきています。

職員の水野氏、山田氏、篠崎氏
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 全国的に不況だといわれる現在、「障害者が働くことのできる企業を開拓していくことは、まだまだ可能」と話すらぽーる職員の姿や“ハートに火がついた”経営者の姿に、「障害者が当たり前に社会で働き、社会で暮らす」そんな未来がそう遠くないような気がしてきました。


取材日 : 平成21年6月





今回のポイント


@ 自立訓練(生活訓練)事業も含めた他の事業でも、働くことに対する利用者本人の意識・意欲を高めるための“仕掛け”が巧みに用意されている
A 利用者が就労を希望する限り、施設として全力で就労に向けた支援を行なうという強い意志と姿勢がある
B 地域にある各機関との連携・協力体制が整えられており、結果として50社にのぼる実習先の確保と2年半で21名の就労移行を実現している


経営コンサルタント・中小企業診断士 大江 栄

施設概要


施設名 就労移行支援センターらぽーる
設置者名 社会福祉法人東康会
所在地 熊本県宇城市不知火町高良2273番地1
電話番号 0964-32-1777
代表者 理事長
山田 純策 氏
施設種別 就労移行支援事業
障害種別 知的、精神、身体
開所時期 平成18年10月
利用者数 定員12名、登録18名
職員数 5名(常勤5名)
サービス管理責任者1名
 生活支援員1名
 職業指導員2名
 就労支援員1名
FAX 0964-32-1951
連絡担当者 理事・副施設長
山田 健二 氏
事業内容 就労相談、準備訓練、
就労先開拓、アフターフォロー
平均工賃