サービス取組み事例紹介
障害者福祉

宮城県 社会福祉法人 はらから福祉会

施設の豆腐が地域ブランドに! 蔵王すずしろ

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




豆腐づくりで年商1億8000万円


働く皆さんの集合写真

 宮城県と山形県の県境にある蔵王連峰の裾野に広がる深い森に囲まれた蔵王町は、人口13,500人ほどの小さな町です。JR東北新幹線白石蔵王駅を下車して、クルマで40分ほど走った場所に、社会福祉法人はらから福祉会が運営する「蔵王すずしろ」があります。
 決して交通アクセスが良いとは言えません。また、市場環境に恵まれているとも言えない場所にあって、「蔵王すずしろ」は豆腐づくりで年間1億8000万円(関連製品を含む)もの売上実績を上げ、地域になくてはならない豆腐メーカーとしての地位を確立しています。
 昔ながらの街の豆腐製造小売店が減少する厳しい環境下、「蔵王すずしろ」で生産される「はらから豆富」は、“地域ブランド”として固定客を増やし、主要取引先には、三越仙台店、イオンモールエアリ三越名取店(共にテナント出店)、イオングループ、ヨークベニマルなど、一般メーカーでも、なかなか商品を置かせてもらえない一流店が名を連ねています。
 また、授産施設でつくられた“製品”を他の施設に卸すケースは数多く見られますが、「蔵王すずしろ」では、他の障害者施設を対象に一定品質の豆乳の提供と豆腐づくりの技術指導を行う「手づくりとうふ工房」という“事業”の提案をおこなっています。現在、この「手づくりとうふ工房」は、東京、大阪、奈良、滋賀、山口、熊本など全国28ヶ所の施設で立ち上がっており、一種のフランチャイズチェーンのような形態で広がりを見せています。


重度障害者も高い賃金を


豆腐作りの様子

 美味しい豆腐をつくるには美味しい水が不可欠で、豆腐づくりの現場は水仕事が中心となります。
 幸い「蔵王すずしろ」の豆腐づくりには蔵王連峰の表流水をふんだんに使用することができるわけですが、水温はわずかに2℃。利用者(障害者)たちは、早朝6時には作業所に出勤し、冷たい水を扱って真っ赤になった手を休めることなく豆腐づくりに励んでいます。小石澤邦彦施設長が 「利用者(障害者)がいなければ、豆腐も豆乳も湯葉もつくることができません。一般職員が利用者(障害者)たちを支援するというより、一緒にものづくりをしている感覚で働いています」と語るように、彼らは豆腐づくりに欠かせない存在となっています。
 利用者は知的障害者が中心ですが、その半数は療育手帳Aの所持者であって、決して障害の程度の軽い人ばかりではありません。「どのように利用者(障害者)の生産性を向上させているか?」という質問を投げかけたところ、小石澤施設長から「仕事の量と質が彼らの成長の決め手」という答えが返ってきました。
 蔵王すずしろでは、障害の重い人でも作業に加わる機会を創出するために、「大豆を量る」「大豆を洗う」「豆腐を包丁で切る」といった豆腐の製造工程を細分化しています。しかし、細分化すればそのぶん、仕事の量が減り、作業時間が短くなります。そこで、一つ一つの作業を安定的に発生させるために、事業規模を拡大し、一定の仕事量を創出することが大切になってきます。
 また、仕事の質という側面では、単純作業ができるようになった利用者には、少し難易度の高い工程にチャレンジさせたり、やる気を持って働いたらそのぶん工賃に反映されるといった“やりがい”を創出することを重要視しています。
 すなわち、仕事の量を確保するためにも、工賃を確保するためにも、事業規模の拡大が必須ということになります。


2倍の値段でも売れる!


真剣な表情で働く様子

 それでは、どのようにして豆腐の販売量を拡大してきたのでしょうか?
 「蔵王すずしろ」では、売上や利益といった“量”の拡大を目指すためには、“質”を高めていくことが不可欠であると考え、「蔵王すずしろ」でしか作ることのできない付加価値の高い豆腐づくりに徹底的にこだわってきました。
 豆腐をつくるには、“大豆”と“水”と“にがり(凝固剤)”が必要です。「蔵王すずしろ」の豆腐は地元の契約農家が栽培する国産大豆100%、“ミヤギシロメ”と呼ばれる品種で、口に入れた時、大豆の甘みが広がるのが特長です。また、安価に市販されている凝固剤としては大量生産に向いた硫酸カルシウムを使用しているものが多いのですが、大豆の持つ甘みと風味を活かすために昔ながらの塩田にがりでつくる豆腐にチャレンジしたのです。
 こうして製品化された「蔵王すずしろ」の豆腐は、1丁(400グラム)210円で販売されています。大量生産による豆腐の2倍の価格です。それでも大手の食品メーカーが生産することのできない明確に差別化された「はらから豆腐」は、きょうされんや生協と提携して販売されているほか、前述のように、大手流通・小売店でも“ブランド豆腐”として取り引きされています。
 これらの販路は、人とのつながり、地域のつながりをベースにコツコツと開拓されてきましたが、すべては、“障害者施設でつくる豆腐だから”という域を超えて、「蔵王すずしろ」でしかつくることのできない高品質の豆腐にこだわってきたからこそ、販路が開かれたのです。


あきらめない


笑顔で働く皆さん

 運営母体の社会福祉法人はらから会では、「たとえ障害があったとしても、たとえ障害が重かったとしても、一人の人間として、地域で当たり前の暮らしができるように支援する」ことを施設の経営目的とし、また、「月額賃金7万円(※現在は障害者自立支援法の施行を受けて10万円)を目指す」ことを経営目標に置いてきました。
 「蔵王すずしろ」の前進である「はらから共同作業所」で最初に始めた仕事は、陶器づくりだったそうです。陶器は、豆腐と異なりリピート注文のない製品のため、安定した収入が得られず大苦戦しました。なんとか利用者の所得を保障できる商材はないかとアンテナを張り巡らせていたところ、たまたま、土曜市で毎週豆腐の売上が伸びていることを知り、それが豆腐づくりのきっかけになりました。
 その豆腐づくりが徐々に軌道に乗りかけた頃、目標工賃を達成すべくパン製造にも着手しました。8年間、パン製造販売を続けて2000万〜2700万円の売上高を上げるまでになりましたが、試行錯誤の末、十分な工賃を確保するだけの利益を出すことができずに、結果的に、平成16年度でパン製造を打ち切るという意志決定をしました。
 豆腐の原料である国産大豆の価格が高騰し、豆腐事業が赤字になることもありました。しかし、現在は、農家との信頼関係を積み上げて大豆を契約栽培にしているため、一定価格での安定的な仕入れが可能となり、他の豆腐メーカーが大豆の価格高騰で苦戦する中、涼しい顔でいることができます。
 最近は、授産部長の森新一氏が中心となって推進している“手づくりとうふ工房事業”が伸長しているほか、湯葉の生産が好調です。湯葉は百貨店や高級料亭が主要取引先で、豆腐以上に利益率が高く、工賃を捻出するのに大きく貢献しています。
 これらの取り組みは、すべてはらから会が掲げる目的と目標を追求し、あきらめることなく努力と工夫を続けてきたことがカタチになったものに他なりません。
 もしも、「蔵王すずしろ」が月額7万円の手取りを目指さなかったとしたら、一般の豆腐の2倍以上する高付加価値の豆腐をつくるという発想は生まれてこなかったでしょう。あるいは、「人口も少なく広い土地くらいしかない」と悪条件に嘆き、蔵王の恵まれた自然を経営資源に変えることもできなかったかもしれません。
 平成9年の開所当初23,000円だった月額平均工賃は、約10年かけて58,000円に達しています。
 障害者自立支援法の施行により、目標額を10万円に上方修正することになりましたが、小石澤施設長は「今までも増収基調でしたが、ここ2〜3年はさらに高い成長率で推移している」と自信をのぞかせます。
 現在、多くの授産施設が利用者(障害者)の工賃アップに取り組んでいますが、明確な理念がないままに短期的な成果を求め、「障害者には無理」「市場環境が厳しい」とあきらめてしまうケースが少なくありません。今回の取材では、明確な目的と高い目標を掲げ、何年かかってでも、あきらめずに追求していくことの大切さを学ばされました。


取材日 : 平成20年2月

今回のポイント


@ 明確な目的と高い目標を掲げて、有効な方法論を考え、実践し、カタチにしてきている。
A 地域の特性を活かし、どこにもない高付加価値の豆腐づくりをおこなっている。
B パン事業を打ち切って、湯葉や豆腐工房事業に注力する等、リピート率が高く収益性の高い事業に経営資源を集中している。


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 蔵王すずしろ
設置者名 社会福祉法人 はらから福祉会
所在地 刈田郡蔵王町遠刈田温泉字七日原1-729(JR白石蔵王駅)
電話番号 0224-34-1331
代表者 小石澤 邦彦 施設長
施設種類 就労継続B型・就労移行
障害種別 知的・身体・精神障害者
開所時期 平成9年4月
利用者数 40名
職員数 常勤6名(事務員1名)
非常勤(臨時・嘱託)8名
FAX 0224-34-1332
連絡担当者 佐々木 副施設長
事業内容 食品の製造(豆腐・豆乳・湯葉他)
お酒の販売
平均工賃 59,000円


平成21年7月現在

事業所コメント


これからも工賃保障のためみんなで安全で安心な商品づくりを合言葉においしい豆腐作りをしていきます。