サービス取組み事例紹介
障害者福祉

東京都 社会福祉法人 調布市社会福祉事業団

職員と利用者の意識を改革し工賃向上を実現した調布すまいる

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




バイバイプロジェクト


パン作りをする利用者  すまいるは調布市が設置し、調布市社会福祉事業団が運営を行う知的障害者通所授産施設です。同じ敷地内に所在するなごみ(知的障害者入所更生施設)、そよかぜ(知的障害者通所更生施設)とともに平成12年に設立されました。
 当初、すまいるの授産事業はパンの製造販売、平織り、陶芸の3種目を柱としてスタートし、利用者の平均給料はおよそ1万5,000円でした。しかし、当時の施設長太田氏の「給料が安過ぎるのではないか?給料を上げるためにはどのようにしたらよいのか?」という疑問を出発点に、「バイバイプロジェクト(1年ごとに給料が倍になるの意味を込めている)」に取組むこととなりました。
 外部のコンサルタントが同席するプロジェクト会議に職員全員が出席、施設としての目標・方針を決めることから着手しました。目標給料や売上アップの方針を決める際には、「最低賃金を目指すべきではないか」、「3万円くらいが妥当ではないか」、「パン事業一本に絞り込まず、複数の事業をおこなったほうがよいのではないか」など、職員からたくさんの意見が出されましたが、最終的には「パン事業を柱に、平成14年度からの3年間で月額平均給料を5万円にする」ことを目標に、3年間の事業計画を作成しました。
 太田氏は「職員全員が参加してとことん話し合い、目標や方向性を共有しながら事業計画を作成したことが、後々、大きな効果を発揮した」と言います。給料5万円実現の道のりは決して楽なものではなかったけれど、目標設定の原点を共有していることで、大変なことも半分くらいに感じることができたということです。


競争のない世界はない!


パン一つ一つに付けられている値札。コピーにも工夫。  事業計画の作成と並行して力を入れたのは、パンを販売する場所を確保することでした。
 市の福祉課に相談に行き、図書館で情報収集する中で最初に目をつけたのは、施設から車で10分ほどの距離の場所に移転予定のあった東京外国語大学での販売でした。移転してくる前から紹介者を通じて担当者の元にあししげく通い、「障害者の自立のためにパンの出張販売をさせてもらいたい。小さいスペースでよいので、お昼休みの1時間30分だけ場所を貸して欲しい」と訴え、何とかスペースを確保しました。売上は順調に伸びて行きます。しかし、大学は休みが多く、学生が学校に来るのは1年365日のうち155日程度で年間を通して安定的にパンを販売するには不向きであることに程なく気が付きます。
 年間を通してお客さんが来てくれる販売場所の確保が次の課題となりました。そして、ターゲットを“片道20分以内、従業員が1,000人以上の企業”に絞り込んでアタックすることとしました。
 社会貢献の一環で以前より施設の授産製品を購入してくれるといったつながりのあったアメリカンファミリー生命保険がターゲットの第1号。総務部長に面会を申し込み、思いを伝えることで許可を得ることができました。しかし、ここでも、建物内に社員食堂があり、さらには焼きたてパンのコーナーもあって、「正直、がっくりきた」そうです。そんな様子を見て、先方の部長は言ったそうです。「どんな世界であっても、競争のない世界はない。商品やサービスがよければ、お客さんは必ず買ってくれます」。すまいるの職員にとって大いに奮起を促された一言であったに違いありません。


オフィスにベーカリー出現


出張販売先。お客様がパンを選んでトレーにのせて会計。  アメリカンファミリー生命保険での成功が功を奏して、第一生命保険、住友信託銀行、富士重工業(夏のみ)と、次々と外販先の確保に成功、売上も伸張しました。
 計画の3年目である平成16年度には給料5万円を達成、以降、1度も5万円を下回ることはありません。平成19年度の売上は3,544万8,000円。年間の作業日数が245日だったので、1日に平均して14万4,000円以上の売上があることになります。
 漫然とパンを作って売るだけでは、お客様に納得してもらえず、これだけの売上を確保することはできません。
 販路を拡大することと並行してより美味しいパンを作ること、いろいろな種類のパンを作れるようになること、販路別の“傾向と対策”を考えて実行に移すこと・・。すまいるでは実にさまざまなことに継続的に力を注いできました。
 お客様に飽きられないよう新しいパンの開発をする。職員は常にその意識を持っているため、他のパンの専門店が売っているパンの研究に余念がないと言います。同時に月に1度、プロのアドバイザーに指導を受け、新しい商品を開発するためのヒントを得ています。これらの積み重ねにより、すまいるで作ることのできるパンのレシピは300〜400種類にも上っています。
 また、季節ごとにテーマを設定してフェアーを開くといった少しおおがかりな取組みから、テーブルクロスを変えてみるといった小さな工夫まで、職員からたくさんのアイデアが出て、それを実行に移してきた結果も現在につながっています。
 取材当日、アメリカンファミリー生命保険の売り場を訪ねると、42種類のパンとデザート、焼き菓子数種類、ドリンクがテーブルの上に並んでいました。“オフィス内にベーカリー出現!”といった風景に少し圧倒されました。お客様は片手にトレー、片手にトングを持って、行きつ戻りつしながら自分が買うパンを選んでいます。多くの種類のパンを提供できているからこその“行きつ戻りつ”。選ぶ楽しみをお客様に与えることができるだけの品揃えができていることが、すまいるの最大の強みです。


利用者の意識、生活も変化


渡辺施設長  美味しいパンを作り、お客様が喜んで購入する姿を見ることで利用者にも少しずつ変化が現れました。働くことが自信につながり、仕事に対する意識が高まってきたといいます。地域での自立した生活を実現するための支援をしたいとの思いから設定した目標給料5万円。この金額を達成したことで、グループホームでの生活をスタートした利用者もいます。
 今後のすまいるの課題は? 渡辺施設長は、@効率の悪い販路の見直し、A一般市民のみなさんが購入しやすい場所への販路の確保、B給料5万円以上を維持しながら、利用者支援の質を高めていくこと――と言います。
 施設として果たすべき役割・目指すべき姿が明確になっているからこそ、課題も明らかなのでしょう。これら課題のクリアに向けて、すまいるは今後も着実に前進していくことでしょう。

取材日 : 平成20年9月

今回のポイント


@計画策定から実施段階まで、職員全員が目的・認識を共有しながら“バイバイプロジェクト”に取組むことができたこと。
A作戦を立てて果敢に販路開拓をおこなったこと。並行して、商品のレベルアップ・バリエーションの増加に注力し、お客様に支持され続ける努力を継続してきたこと。

経営コンサルタント・中小企業診断士 大江 栄

施設概要


施設名 すまいる
設置者名 社会福祉法人 調布市社会福祉事業団
所在地 東京都調布市西町290番地4
電話番号 042-481-7723
代表者 施設長 渡辺 益男 氏
施設種類 知的障害者通所授産施設
障害種別 知的
開所時期 平成12年
利用者数 30名
職員数 19名(常勤8名、非常勤11名)
FAX 042-481-7074
連絡担当者 施設長 渡辺 益男 氏
事業内容 パンの製造・販売
平均工賃 平均45,965円(月・平成20年度)
URL http://www.jigyodan-chofu.com/sumairu/


平成21年12月現在