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介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第10回 食事姿勢

座位での食事

今回は食事姿勢についてですが、なかでも基本となる、座位で食事をとる場合の姿勢や環境について解説します。
食事をするためには、(1)食事を認識し、(2)食べ物を口の中に運び、(3)食べ物を咀嚼し、(4)食べ物を飲み込むことが必要となります。この一連の流れをどのような姿勢で行うかは、食事を安全かつ楽しく行うための大きな要因となります。
一連の流れのなかでポイントとなるのは(2)〜(4)の動作です。この動作では、手で箸や皿を持ったり、顔をテーブルに近づけたりしますが、結果的に重心を前方に移動させることになります(図1)。このとき、重心が支持基底面の前方に移動するため、腹筋や背筋の力に加えて足の踏ん張る力が必要になります。力を入れやすくするためには、椅子やテーブルを適切な高さに調整することが重要です(詳しくは後述)。なお、背中が曲がっている方の場合、この姿勢で顔を上げるとあごを突き出した格好になります。これはちょうど、人工呼吸を行うときの気道確保の姿勢、つまり空気が通りやすい姿勢となり誤嚥しやすいので、注意が必要です。


図1 食事動作の重心移動

食事動作の重心移動

車椅子での注意点

車椅子で食事をする場合、フットサポートに足を乗せたままだと、食事動作の際に重心を前方に移動させにくくなるため、足をフットサポートから下ろします。
また、一般的な車椅子の座面は、前方がやや高くなっており、傾斜がついています。このため、筋力の弱い高齢者や麻痺のある方は、重心を前方に移動させることが通常の椅子の場合よりも難しくなり、食事が大変な作業となることがあります。この場合、食事のときだけでも、クッションや車椅子の車輪の台などで、座面を水平あるいは前方がやや低くなるように調整すると、食事の動作が楽になります(図2)。あるいは、食事のときは安定した椅子(肘掛けのついたもの)に座り直すのもよいでしょう。


図2 車椅子での食事姿勢の工夫

車椅子での食事姿勢の工夫

環境の調整

食事の際は、テーブルや椅子の高さも重要です。理想的なテーブルと椅子の高さを求めるにはさまざまな方法がありますが、適切な差尺を求める方法が一般的に用いられます。
「差尺」とは、座面からテーブルの天板の上までの高さです。差尺の計算の仕方は座高×1/3−2(〜3)cmです。座高は身長×0.55で計算してもよいです(図3)。


図3 適切な椅子とテーブルの高さ

適切な椅子とテーブルの高さ

なお、冒頭で述べた(3)や(4)の嚥下にかかわる姿勢は、嚥下障害がある方にとって、誤嚥などのリスクにかかわる重要なポイントとなります。医師やリハビリや看護などの専門スタッフと相談しながら、食事環境の調整を行って下さい。

執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)