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介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第11回 排泄姿勢

排泄が円滑に行われることはとても大切なことです。しかし、「尿意や便意を感じてトイレまで移動し、トイレに入って衣服を下ろし、排泄・後始末をして、部屋に戻る」という一連の流れのどこか1つに問題が起これば、排泄障害が発生します。
この過程でベッド上の動作や移動にかかわる部分は、これまで本連載で解説した内容が応用できると思います。今回はこの一連のプロセスの中で、排泄時の姿勢について解説します。
排尿や排便の困難には、さまざまな疾病が伴っている場合がありますが、解剖学的な構造から排尿、排便時の姿勢も影響します。
たとえば排便の場合、寝ている状態と座っている状態では、図のように直腸と肛門の角度(直腸肛門角)が変化します。背臥位(仰臥位)では、直腸肛門角はほぼ90度です(図-A)。座位では、体が前傾した姿勢(図-B)と、背もたれにもたれた姿勢(図-C)でも違ってきます。前傾した座位姿勢では、直腸肛門角120度と一直線に近くなり、排便しやすくなります。また前傾した座位姿勢では、お腹に力を入れて力みやすく(腹圧をかけやすい)、排泄を円滑にします。
座位姿勢をとるには、トイレやポータブルトイレの高さや、座面(便座)の角度、大きさ、形状、肘かけなどが影響します。
高さは、足がしっかり床につく高さが必要です。しかし、立ち上がりや車椅子などへの移乗との兼ね合いで、トイレの高さをあまり低く設定できない場合は、排泄時の足台などを使用するのも方法です。
座面の角度は調整が難しいですが、ポータブルトイレの中にはこの角度が調整できる製品もあります。便座の形状も実にさまざまです。見た目や値段だけで判断せず、生活に必要な機能や姿勢、座り心地などに配慮する必要があります。肘かけや手すりも、トイレに腰かけた時に前傾姿勢がとりやすいように前方にくるタイプもあります。
排尿時の姿勢の影響は、男性と女性で異なります。ここでは膀胱と尿道の角度が影響します。男性は立ってするほうが排尿しやすいのも、この角度が関係しています。
排泄の場面はじっくり観察がしにくい行為の1つですが、それだけに細かな配慮が必要となります。


図 姿勢と直腸肛門角の関係

姿勢と直腸肛門角の関係

執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)