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トラブルに学ぶリスク対策

介護現場で起きた事例を踏まえ、原因とその防止策のポイントをお伝えしていきます。



<執筆>
株式会社安全な介護 代表取締役
山田 滋(やまだ しげる)
<プロフィール>
介護現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。著書に『安全な介護』(筒井書房)、『介護施設の災害対策ハンドブック』(中央法規)など多数

事例㉔:介助中に起きた不可抗力の事故への対応

こんな事故が起きました!

ある特別養護老人ホームで、職員が認知症の利用者の移乗介助をしている時に、利用者が暴れて腕が介護職員の左目の近くに強く当たりました。職員がふらついたため利用者を転倒させてしまい、利用者は骨折し、職員も顔面に大きなアザができました(軽症なので受診せず)。施設では利用者の次女に事故状況を説明し、事故は不可抗力であると理解を求めました。しかし、次女は「高齢の父にそんな力があるわけがない」と施設の過失を主張し、市へ苦情申立をしました。市から説明を求められた施設は、事故は不可抗力であると説明しましたが、職員の診断書の提出を求められてしまいました。

事故原因と防止対策

見守りなどの間接的な介助と異なり、利用者の身体動作を直接介助している時に発生した事故では、無過失を主張することが難しいと考えられています。なぜなら、利用者は身体動作のすべてを職員に委ねており、その安全な介助に対して極めて高い注意義務を課せられているからです。

ですから、このような直接の身体介助中の事故で無過失を主張しようとすれば、「安全配慮義務を尽くしたにもかかわらず防ぐことが困難であったという納得性のある事由」をきちんと説明できなければなりません。

この事故では、介護職員が顔面に強烈な打撲を負っていますから、防ぐことが困難であったという納得性のある事由がありますし、「職員は顔面を殴られても頑張って利用者を支え続けろ」というわけではありません。

しかし、家族は事故の説明を口頭で受けただけで介護職員の顔面のケガも見ていませんし、介護職員は受診もしていませんから診断書を提出することもできません。当然この事故で家族と争いになれば、家族の主張を覆すことが難しくなります。

介助中の事故で無過失を主張するためには、「介助方法などが適切であったこと」など事故につながるような安全配慮義務違反がなかったことを立証しなければなりません。上記の事故の場合でも、「介護職員の移乗介助の方法が不適切であったため、介助時に利用者が苦痛を感じて暴力行為に及んだ」、「車いすやベッドなど介助環境に不備があった」などの事実があれば、やはり過失になる可能性があります。では、無過失を主張するためにはどのような安全配慮義務を尽くしていればよいのでしょうか? 上記の事例で考えてみましょう。

介助中に起きた不可抗力の事故への対応

@ 職員の介助方法(介助動作や声かけ、誘導など)が適切であったこと

A 車いすや介助バーなどの福祉用具がその利用者の移乗介助に適していたこと

B 利用者の身体機能や認知機能が安全に移乗介助ができるような状態であったこと

C 利用者の認知症の状態やその日の体調などを介護職員が適切に把握していたこと

以上のように、事故後に無過失を主張するような場合は、検証項目をきちんと整理して事故状況などの調査を行い資料を保全しておかなければ、施設は無過失を主張するのは難しいでしょう。

トラブルを避ける事故対応

本事例のように、移乗介助中に事故が発生した場合は、たとえ不可抗力的な事故であってもいきなり無過失を主張すると家族とトラブルになりますから、あまり適切とはいえません。とくに「認知症の利用者が暴れた」などが原因の事故では、職員の不注意を認知症の利用者のせいにしていると誤解されるからです。家族に不可抗力の事故を理解してもらうためには、日頃から介助の難しさを家族に知らせておかなければなりませんし、事故の説明にも配慮が必要です。もし、重大な事故で無過失を主張するのであれば、事前に法律の専門家に相談することも必要かもしれません。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成29年3月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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