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医療介護のリスク・マネジメント


 全12回に渡って、医療・介護の現場におけるリスクマネジメントについてお届けします。


<執筆>
弁護士・東京大学特任教授 児玉 安司


第2回:紛争とコミュニケーション・リスク


医療介護における「成果(アウトカム)」と「結果」


 医療介護の質と安全を適切に評価するためには、サービスの成果(アウトカム)、過程(プロセス)、構造(ストラクチャー)の三面にわたって評価の指標を立てる必要がある。
 医療介護のサービスの成果は単なる「結果」ではない。医療介護は障害の悪化を支えつつ人の死の看取りに至るまでのすべての過程を対象にしているのだから、重症者を引き受ければ引き受けるほど「よい結果」を約束できなくなる。医療介護の構造も過程も適切であり死亡や障害に至るまで「成果」をあげていても、「よい結果」を約束することはできない。サービスの過程(プロセス)に死亡や障害という結果が常時生じており、患者・利用者や家族・遺族とともに辛い結果を受け止め、当事者を精神的に支えていく役割までもが医療介護サービスに求められている。
 高齢化が進展していくなかで、医療機関から「元気になって退院」、「すべての機能が回復して退院」する者の比率は低下し、「障害をもって退院」、「死亡して退院」する者の比率は増加していく。介護施設の入所者の重症化が明瞭なトレンドとなり、より要介護度の高い高齢者を介護力の低下した家庭で介護することがますます一般的になっていく。医療介護が現場の努力によって「成果」をあげていても、超高齢化社会のなかで「よい結果」を出すことは難しい。医療介護の質と安全を「結果」で計るのであれば、医療介護の質と安全は、どれほどの資源を投入しても、今後低下していくのが必然である。
 医療の質と安全を最終的に評価するのは、患者・利用者・家族であり、広く国民一般である。その評価は、学術的・技術的な評価とは異なり、コストパフォーマンスを考えたテクノロジーアセスメントとも次元を異にする。「安心」、「納得」、「満足」などの言葉で代表されるような情緒的な側面も含んでいる。医療介護に従事する者は、自分たちが悪くしたのではない、なぜわかってくれないかという嘆きをもつ。
 むしろ、どうすれば患者・利用者・家族から国民一般がわかってくれるか、どのように「顧客満足度」を高めていくかということが課題となる。医療介護の公共性を考えれば、公教育や政府広報なども含めたマクロの情報提供と現場の医療介護サービスでのミクロのコミュニケーションが補いあいながら、国民一般の医療介護に対する「理解度」を高めていく必要もあるだろう。

「医療不信」の時代


 1999年から2006年にかけて、マスメディアが「医療不信」の集中報道を行い、医療事故の隠蔽と医療情報の改竄に厳しい批判が浴びせられたことがあった。2004年をピークとして、医療現場で生じる警察届出は急増し、医療訴訟も史上最高件数を記録した。この時期に医療の質や安全が低下したというべき根拠はなく、むしろ、その前の時期に国民一般のなかに醸成された医療への不満感や不信感が、マスメディアの集中報道という形をとって、爆発的に表現された社会心理的な現象と捉えるべきであろう。
 記事データベースで「医療事故」、「医療ミス」のキーワードを含む記事本数を数えてみると、グラフ1に示すような経年的な推移が観察でき、3つの興味深い現象が指摘できる。第一に、医療事故の報道件数は1999年以前と比較すると、10倍増に迫る勢いで突如急増した。1999年には、大学病院や公的病院における著名な医療事故報道が集中的に行われ、これをきっかけとして、全国の医療機関での医療事故報道が燎原の火のように広がっていった。第二に、報道の激増期に、「医療事故」と「医療ミス」の報道件数に開きがなく、当初の報道は、「医療事故」が起こっていれば直ちに民事の賠償責任や刑事責任が問われるような「医療ミス」があるものという思い込みがマスメディアの側にあったのではないかと推測できる。第三に、報道が鎮静していく時期に、「医療事故」と「医療ミス」の報道件数の差が広がり、事故は直ちにミスではないという冷静な分析がマスメディアに広がっていったと推測できる。


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 刑事事件となった事案に報道が集中する傾向があるのは、他の分野と変わりがない。また、報道が集中した事案が刑事事件化していく傾向も生じやすい。集中報道と刑事手続がポジティブフィードバックの関係となると、メディアフレンジーともいうべき爆発的な集中報道という社会現象が生じる。さらに、明治以来かわらずに存在していた医師法21条(異状死の警察届出義務)にスポットがあたり、医師は医療事故について「疑わしきは警察に届け出よ」という社説を掲げる社が現れるほどの状況となっていった。医療事故の警察届出件数等の推移は1999年に届出件数等の激増が始まり2004年がピークとなっている(グラフ2)。


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 民事の医療訴訟の変化は、グラフ3に示すとおりである。統計を取り始めた1970年には、日本全国で新たに提訴される民事医療訴訟の件数は年間102件に過ぎなかったが、1990年代後半に増加カーブの傾きが大きくなり、ピーク時の2003年には年間1110件と10倍増の提訴件数となった。その後、3分の2程度まで減少して1999年ころの水準に服し、現在に至っている。刑事手続とメディアの関係ほどの急峻な変化ではないが、医療民事訴訟も同じ時期にピークを迎え、その時期の影響からは未だ脱し切れていないのが実情である。


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「医療不信」の教訓とコミュニケーション・リスク


 医事紛争は、医療の質や安全と直接の関連性をもって変動するものではない。むしろ、医療への不満が社会に鬱積していくなかで、民事紛争や刑事手続にその圧力の出口を求めるような傾向が生じ、刑事手続と集中報道の爆発に至ることもある。
 このようなリスクは、サービスの結果そのものから生じるものではない。情報の非対称性と結果の不確実性を前提として、サービス提供者とサービス利用者の間の個々のコミュニケーション、さらに、社会的なコミュニケーションがうまくいっていないことに由来するコミュニケーション・リスクとみるべきである。コミュニケーション・リスクの制御は医療介護のリスクマネジメントの重要な一部分である。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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