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社会福祉法人に求められる新たなガバナンスのあり方


 全6回に渡って、社会福祉法人制度改革において求められている社会福祉法人の新たなガバナンスのあり方についてお届けします。


<執筆>
大阪府立大学 地域保健学域教育福祉学類 教授 関川 芳孝


第1回:ガバナンス改善の3つのポイントは


はじめに

 社会福祉法人制度改革に関する報告書が、社会保障審議会福祉部会において平成27年2月12日に取りまとめられた。社会福祉法人制度に関わる見直しのポイントは、すでに26年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」においても指摘されている。福祉部会においても、こうした制度課題に対して、社会福祉法の改正を目指して、社会福祉法人制度の検討を積み重ねてきた。
 福祉部会では、公益法人制度改革を参考にしつつ、社会福祉法人が、公益性が高い非営利法人として、社会的に信頼されるために必要な制度改正が検討された。議論のポイントは、大きく3つある。第一に、社会福祉法人による内部統制の強化、第二に、情報公開による経営内容の透明化、第三に、内部留保の明確化と地域公益活動の実施である。蓄積された利益を地域社会に還元し、社会福祉法人の公益性を高めるガバナンスの改善がねらいである。
 社会福祉法人には、社会福祉法人の本来の使命にもとづき、公益性の高い福祉経営をめざすことが期待される。具体的には、公益性の高い法人であることを意識し、質の高いサービス提供と効率的な経営により事業収益を拡大しつつ、それを職員の賃金上昇や社会福祉事業への再投資、地域公益活動への還元等につなげる。さらには、経営状況を情報公開し国民に対し説明責任を果たし、社会的な信頼を高め、社会福祉法人の存在価値を高めることが求められる。非課税にふさわしい公益性の高い経営が担保されるために、福祉経営の規律をいかに再構築するかが問われている。
 社会福祉法人制度改革とは、こうした立場から、ガバナンス強化に関する法律上の整備をし、社会福祉法人によるガバナンスが担保される仕組みを制度的にも確立しようというものである。社会福祉法人には、新たな仕組みのもとで、これまでの法人の体制や運営方法を見直し、ガバナンスの強化に取り組み、社会福祉法人の本来の使命にもとづき制度外の福祉ニーズにも対応するなど、公益性の高い福祉経営をめざすことが期待される。

法人のガバナンスとは


 営利法人、非営利法人を問わず、経営組織にはガバナンスが求められる。株式会社については、コーポレート・ガバナンス(企業統治)が議論され、会社法改正においてコーポレート・ガバナンスについての規律が強化されている。大王製紙やオリンパス事件などが背景にあって、不正に対する経営組織内部のチェック体制が強化された。コーポレート・ガバナンスとは、健全で公正な企業活動が行われるように、企業経営を監視する仕組みのことをいう。さらには、「日本再興戦略改訂2014」では、生産性向上により企業収益を拡大し、それを賃金上昇や再投資、株主還元等につなげるためにも、コーポレート・ガバナンスを強化することを求めている。日本経済団体連合会も、「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」において、不正行為を防止するとともに、競争力・収益力を向上させ、長期的な企業価値の増大に向けて、企業経営の仕組みをいかに構築するかという二つの立場から、コーポレート・ガバナンスの問題を論じている。
 また、平成18年の公益法人制度改革においても、公益法人におけるガバナンス、とりわけ内部統治の確立が制度見直しの重要なポイントになっている。旧民法34条が定める公益法人制度では、法人のガバナンスについての詳細な規定が定められておらず、主務官庁ごとに監督が行われていた。これに対し、新制度においては、営利法人に対するガバナンスの仕組みと類似の規律が法律で定められた。
 公益法人自らが、責任をもって自主的・自律的に運営を行っていけるように制度を見直し、法律で内部統治に関する事項が法律で定められた。すなわち、理事会、評議員、評議員会が、法律で定める機関とされ、理事、評議員の役割、義務、責任が明記されるなど、相互の牽制関係が機能する仕組みが構築された。行政の関与は最小限にし、法令で明確に定められた要件にもとづいて運営されるようにルール化する一方、「法人自治を大前提にしつつ、民による公益の増進のため公益法人が制度的に適切に対応できるよう支援」することが、制度改正のねらいとされた。
 この制度改正では、公益法人の経営組織に求める公益性を担保するための規律が具体的に示されているが、公益性の高い法人に対して求められるガバナンスの仕組みは、社会福祉事業を行う特別公益法人である社会福祉法人に対しても、当然要請されるべきものであった。

なぜ、ガバナンスの確立が重要になるのか


 株式会社におけるコーポレート・ガバナンスの議論は、株主との関係で重要な意味をもつ。企業活動が、株主の利益を尊重して展開されるように、執行機関である取締役会を監視する仕組みが求められる。前述のように、会社法は、こうした観点から、監査役設置会社や委員会設置会社の制度を設けるなどの法改正がされてきた。
 これに対し、社会福祉法人には、出資や所有という概念は認められておらず、株主に相当する構成員も存在しない。また、こうした構造は、一般・公益財団法人も同様である。社会福祉法人を含む非営利法人のガバナンスの問題には、公益に関わるさまざまなステイク・ホルダーとの関係において捉えなおし、公益の促進という社会の利害と一致しない行動をとる法人に対し、誰がどのような仕組みによって法人を統治するべきかということが問われるべきであろう。
 すなわち、法人組織において、@誰が経営の重要事項について意思決定するのか、A誰が決定された事柄を執行するのか、B誰が業務執行のプロセスを監視するのかについて整理し、健全で公正な法人運営が担保されるための仕組みを検討し、法律で定めることが必要である。
 社会福祉法における社会福祉法人制度は、意思決定機関と執行機関が未分化でかつ、理事会の位置づけがない。それぞれの役割や責任についても、法律上明記されていない。そのため、法人組織の運営が形骸化しやすく、結果としてワンマンな経営者に対するチェック機能も働かない結果、不正も起こりやすい制度構造となっている。
 基礎構造改革後、社会福祉法人に対する規制緩和が検討されたが、社会福祉法人におけるガバナンスの仕組みが確立していることが前提とされるべきであった。こうしたガバナンスの仕組みが十分に構築されないまま規制を緩和すれば、不正も生みやすい。社会福祉法人制度の本旨から逸脱したような利益至上主義の経営モデルも現れた。こうしたことから、社会福祉法人に対する社会的な信頼も揺らぎ、社会福祉法人の使命や役割に対する市民社会における共感も薄れている。
 社会福祉法人には、市場経済で提供されないサービスを無料・低額で提供し、地域住民の福祉の増進やセーフティネットを構築するなど、社会福祉法人制度創設の原点に立ち返り、非課税に相応しい公益的な法人として、得られた利益の一部を地域に還元し、制度外のニーズに対し事業を起業することが期待される。こうした福祉を目的とする公益活動は、社会福祉法人の信頼を回復するうえでも、経営戦略上必要かつ重要なものと位置づけられるべきである。職員、利用者、地域社会などのさまざまなステイク・ホルダーとの関係を前提にし、社会福祉法人の存在価値を高めることを目的とするガバナンスのあり方を検討することが重要と考える。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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