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社会福祉法人に求められる新たなガバナンスのあり方


 全6回に渡って、社会福祉法人制度改革において求められている社会福祉法人の新たなガバナンスのあり方についてお届けします。


<執筆>
大阪府立大学 地域保健学域教育福祉学類 教授 関川 芳孝


第6回:利害関係者(ステークホルダー)との対話が重要


形骸化したガバナンスの体制がもたらすもの


 東芝における不適切な会計の問題が取り上げられてから、ついに社長が退任する事態にまで至った。東芝の株価は、これがきっかけとなり大きく下がり、株主に与える損害は計り知れない。日本の大手電機メーカーとしての東芝の信頼を揺るがす事態になっている。
 東芝は、一定数の社外取締役を選任するなど、形式上は経営の透明性とモニタリング、けん制機能を備えたガバナンス体制を整備している企業とみなされていた。にもかかわらず、こうした問題が起きてしまったのはなぜか。
 東芝の問題を調査した第三者委員会は、取締役会、監査委員会などの内部統制が機能していなかったと指摘している。経営者が掲げるガバナンスに対する理念と離れたところで実際の経営行動が決められていたに違いない。経営組織においてガバナンスに対する理念や哲学がなかったとは思われないが、結果からみると経営者は事業経営の重要な局面においてガバナンスを徹底させようとしなかった。
 社会福祉法人においても、ガバナンスに対する理念が社会福祉経営者に理解され共有されないと、形式的には法令は遵守されているものの、実際にはガバナンスが機能しないという事態をまねいてしまう。監査等で不正が発見されなければよいというものではない。一部法人の不祥事を契機にし、社会福祉法人の経営においてもガバナンスが形骸化し、実態として機能していないという実態が明らかになれば、国民の信頼を失ってしまう。

公益性を高めるガバナンス


 他方、不祥事を起こさないように監視することだけが、ガバナンスの目的ではない。あわせて、地域の福祉課題に対し公益的な活動に取り組むなど、公益性、公共性を高め、社会的に評価・信頼されるように、経営者に対し公益的な立場から規律づけを行うことが大切である。法改正がねらいとするガバナンスの改善とは、真面目に社会福祉に取り組む社会福祉法人が社会的に信頼されるための経営改革にある。
 社会福祉法人のなかには、あたかも企業を経営するようにビジネスとして福祉の事業を展開しようとする経営者も見受けられる。問題は、不正がないからよしとするのかである。社会福祉法人制度の本旨から、地域貢献事業など補助金や優遇税制に相応しい事業経営のあり方を求めるべきではないかと考える。
 ガバナンスが機能しているならば、理事会や評議員会が、経営者に対して、経営内容をチェックしつつ、利益の一部を地域に還元し、日常生活等において支援を必要とする人に無料・低額な福祉サービスを提供するように求めるなど、公益を重視した経営を目指すように規律づけることができよう。理事会は、予算および決算などの計算書類、事業計画・財務計画の審議においても、社会福祉法人に求められる公益性からみて事業経営が適切であるかチェックする立場にある。評議員会も、定款の変更、計算書類、理事の選任・解任、社会福祉充実計画などが議決事項とされていることから、こうした議決事項の審議を通じて、公益重視の立場からあるべき経営に向けた規律づけが期待される。

ステークホルダーとの対話とパブリック・リレーションの構築


 福祉事業には、利用者・家族、行政、地域社会などさまざまな利害関係者(ステークホルダー)が存在する。公益性の高い経営とは、社会福祉事業を行ううえで、地域の福祉に関わるさまざまなステークホルダーの利益(地域の福祉に関わる不特定多数の利益=公益)に配慮し、法人経営の意思決定を行うことが望まれる。株式会社であれば、ガバナンスの改善として、株主との対話が求められる。社会福祉法人も、公益性を高め、地域から信頼されるためにも、ステークホルダーとの対話、パブリック・リレーションの構築が重要と考える。
 社会保障審議会福祉部会でも、利用者の意見や地域のニーズをいかに法人経営に反映させるかが制度見直しの論点の一つにされている。評議員会が議決機関とされたことから、評議員のメンバー構成が見直されると、地域住民などから法人経営や事業経営について意見を聴取する場がなくなってしまう。そこで評議員会に代わって、地域の代表者や利用者・家族の代表者等が参画する「運営協議会」の設置が提言された。住民からの意見聴取は、必ずしも目新しいものではないが、ガバナンス改善と関係づけて再考してみると、公益に関わる地域の利害関係者との対話としての意味があり、地域における社会福祉法人の存在価値を高める活動とみることができる。

地域協議会設置の意義


 ステークホルダーとの対話を促すもうひとつの仕組みは、「地域協議会」である。「地域協議会」とは、各協議会の代表者、地域住民、所轄庁・関係市町村等によって構成される組織である。社会福祉法人は、「地域における公益的な取り組み」を実施するに当たり、地域のさまざまな利害関係者からなる「地域協議会」において、参加する関係者から意見を聞かなければならない。
 社会福祉法人は、これまでもさまざまな地域貢献活動に取り組んできたが、地域が抱える福祉課題に対応していないものも少なくなかった。こうしたことから、社会福祉法人は、社会福祉充実計画を作成するにあたって、「地域協議会」において住民その他関係者からの意見を聞き、実際の地域ニーズを把握したうえで地域が求める公益的な事業・取り組みを企画実施しなければならない。つまり、社会福祉法人による地域貢献がどうあるべきかは、住民その他関係者との対話によって決まる。
 地域には福祉に関わってさまざまな利害が存在するが、協議会の場を通じてこうしたさまざまな利害と双方向のコミュニケーションが成立する。社会福祉法人の側で対応が必要と考える福祉課題も説明されよう。「地域協議会」での協議検討は、地域が取り組むべき福祉課題についての共通理解の形成にもつながる。ステークホルダーとの対話を通じて、社会福祉法人が取り組む地域の公益活動に対する地域住民の理解が深まれば、事業実施においても住民からの協力も得やすくなろう。こうして考えると、地域において、社会福祉法人による公益的な事業が評価され、社会福祉法人が信頼されるうえでも、ステークホルダーとの対話を「地域協議会」という形で制度化した意義は大きいといえる。


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※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年9月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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