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【熊本県】

買い物できず寂しい食生活の高齢者支援 上天草市のNPO、弁当宅配や移動販売

熊本日日新聞 2018年8月6日(月)
移動販売で山あいの集落を巡回する平田実さん(中央)=上天草市
移動販売で山あいの集落を巡回する平田実さん(中央)=上天草市

 熊本県上天草市姫戸町のNPO法人「おかげさまで」は、弁当宅配、商店経営、移動販売の3事業を展開する。「お年寄りの声に応えるうちに増えていった。“人生最後の仕事”を見つけたという感じです」とNPOを運営する平田実さん(58)。

 NPO法人を設立したのは2014年春。地域の見回り活動をしていて、自由に買い物ができず、寂しい食生活を送るお年寄りが多いことに気付いたのがきっかけ。起業を決意し、勤めていた地元の観光協会を退職した。

 閉館した地元の旅館を調理場に改装し、まずは手作り弁当の宅配業をスタート。平日は毎朝5時に起き、妻の美智子さん(55)と平均35個を作る。午前9時に配達に出掛け、正午までに届ける。午後は仕込みに追われる。

 1年たったころ、姫戸町牟田地区の住民から「買い物に困っている」と聞いた。地区唯一の店が15年3月に閉じたのだ。その年の11月、市の補助金を使って牟田漁港内にプレハブ平屋の「故郷[ふるさと]コンビニ よらんかな」を開店。食品や雑貨など約120品目を扱う。

 移動販売は17年2月にスタート。「近所に店がなく、移動手段もない」というお年寄りの声に背中を押された。毎週水曜と金曜の午後、山間部や沿岸の計10地区を巡回する。

 「3事業の運営はコスト削減にもつながる」と平田さん。移動販売で売れ残った生鮮食品を弁当の材料に回すなど、仕入れの無駄を減らせるからだ。それでも従業員を雇う余裕はなく、夫婦で忙しい毎日を送る。

 6月中旬、上天草市龍ケ岳町の龍ケ岳中腹にある大作山[おおさくやま]地区。天草地域で唯一「日本の棚田百選」に選ばれた景観が広がる山道を、平田さんが運転する移動販売車「よらんかな号」が走っていた。

 車から流れる音楽に誘われ、お年寄りが道路で待っている。「欲しいって言ってた甘酒を持ってきたよ。今日はサラダもあるからね」。気さくな声掛けに、集まった女性客も笑顔になる。

 この日は大作山を含む5地区を巡回した。客は合わせて11人。食料品や雑貨など約1万4千円を売り上げた。ガソリン代など経費を除くと、もうけはわずかだが、「やりがいがある」。

 70代の女性は「普段の買い物は同居する息子夫婦がやってくれるがたまには私が買い物して、負担を減らしてあげたい」と話した。支える家族がいても、移動販売の果たす役割は大きいと平田さんは感じている。

 一方で「海沿いの集落で刺し身が売れるなんて、昔は考えられなかった。漁師の高齢化や減少が原因だろうか」と、地域社会の変貌を案じている。(大倉尚隆)