ニュース
トップ

【埼玉県】

会話が理解の一歩に 川越で中学生が介護の職場体験

埼玉新聞 2018年12月4日(火)
車いすを押して高齢者を部屋まで送る中学生=川越市中台南2丁目の介護老人福祉施設「みどりのまち親愛」
車いすを押して高齢者を部屋まで送る中学生=川越市中台南2丁目の介護老人福祉施設「みどりのまち親愛」

 慢性的な人手不足に陥っている介護の現場。厚生労働省は団塊世代が75歳以上になる2025年度に、介護職員が全国で約33万7千人不足する恐れがあると推計している。

 核家族化が進む中、県老人福祉施設協議会(岡芹正美会長、会員724施設)は子どもの頃から高齢者、介護と触れ合う時間の確保にも力を入れている。

■初めての特養ホーム

 11月6日午後2時、川越市中台南2丁目の特別養護老人ホーム「みどりのまち親愛」に、同市立大東西中学校の2年生男女5人の姿があった。授業の一環で訪れた5人はほとんどが、介護老人福祉施設を訪れるのが初めて。2時間の職場体験を前に、緊張の面持ちで宇藤玉枝副施設長の説明に耳を傾けた。

 特養ホームのイメージを問われた女子生徒は「老人がいっぱいで世話をするところ」と返答。

 笑みを浮かべた宇藤副施設長が、要介護度3〜5の介護を必要とする65歳以上が利用している施設で(1)世話をしている家族の事情などから数日間利用する短期入所(2)自宅で生活する高齢者が昼から夕方まで利用する通所(3)施設に住んでいる入所―のサービスを提供していると説明した。

■高齢者の輪に入って

 高齢者と交流する注意点について、宇藤副施設長は「後ろからでなく正面から声を掛け、車いすで目の高さが低くても目線を合わせる。高音を聞き取りづらい高齢者が多いので声は少し低く、動作を交えながらゆっくりと。敬意を持って接し、不安を与えないように相手のペースに合わせることが大事」と伝授。生徒を交流の場へ送り出す。

 この日は、施設の一角で月2回のカフェを開催中。十数人の利用者がコーヒーやクリームソーダなど思い思いの飲み物を味わっている席に、中学生が入り込んでいく。

 マイペースで飲み物や菓子を口に運ぶ利用者とは対称的に、言葉が出てこない中学生。「好きなものを頼んでいいよ」「おいしいよ」と声を掛けられるが、会話が続かない。

 その時、職員が助け舟を出した。「昔、どんな仕事をしてたんだっけ?」。男性は「とんかつを揚げてた」とにっこり。「どこで?」の質問に「新宿3丁目」と答えると、一気に場が和み、中学生も自然と会話に入り込む。

 円卓を囲む表情は徐々に柔らかくなり、最後は勧められて中学生全員で「もみじ」の合唱を披露。大きな拍手を浴びた中学生は利用者からの「もう1曲!」の声にうれしそうな表情を浮かべた。

 車いすを押して各部屋まで送り、その場でさらに少人数と会話を交わした中学生。その表情は緊張から解放された安ど以上に、充実感が漂っていた。

■印象の違いに笑顔

 体験を終えた中学生は全員、「お年寄りはみんな優しかった」と声をそろえた。女子生徒の一人は「特養ホームといっても、何もできない人ばかりじゃないと分かった」ときっぱり。

 ある生徒が「自分から話し掛けるのは大変だった」と言えば、別の生徒は「もっと積極的にしゃべればよかった」と反省の言葉も。

 「年齢差があって、何を話していいか分からなかった。でも、話し掛けてくれてうれしかった」と胸の内を明かす生徒や、「特養施設に対する印象が変わった。伝わりやすいように、言葉使いや声のスピード、大きさを考えながら話した」と、高齢者を身近に感じて接した生徒もいた。

 交流に引率した山本雅敏教諭は「学校の表情と違い、子どもたちはとても緊張していたが、社会に対する視野が広がったと思う。お年寄りの言葉をどう受け止めるか、今後が楽しみ」と期待を込めていた。

■話し掛ける大切さ/宇藤玉枝・みどりのまち親愛副施設長

 施設を訪れた生徒5人のうち、祖父母と同居している中学生はゼロ。簡単な介護作業や掃除より、お年寄りを身近に感じ、実感してほしかったので、大部分を会話の時間に割いた。

 特養ホームの高齢者も、皆さんの身近にいる高齢者と同じで、会話をしなければ理解し合えない。実際に言葉を交わし、自分から話し掛ける大切さを実感してもらえていたらうれしい。

 社会にこういう施設があると知ってもらい、行事やイベントなど、人生の事あるごとに福祉の視野を広げていってくれれば。将来、福祉の現場で一緒に仕事ができればうれしいですね。