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【高知県】

「君は一人じゃないよ」高知市の児童養護施設保育士・山崎さん

高知新聞 2018年12月7日(金)
習い事を頑張った子どもを「偉いね―」と抱き締める山崎里菜さん(高知市万々)
習い事を頑張った子どもを「偉いね―」と抱き締める山崎里菜さん(高知市万々)

 階段下の固定電話が鳴った。「誰からー、ねえ誰からー」。子どもたちが駆け寄ってくる。受話器を取った山崎里菜さん(26)の腰に甘えるように絡みつき、何度も尋ねる。

 高知市万々の閑静な住宅街にある「前田ホーム」。社会福祉法人「みその児童福祉会」が運営する小規模児童養護施設だ。事情あって家族と暮らせない8〜14歳の6人と、交代制で衣食住の面倒を見る保育士4人が、一軒家で生活している。

 先の電話。親と会う日が決まれば、連絡が来ることになっている。「迎えに行くよ」。そんな言葉が聞きたくて、子どもたちはいつも電話が鳴るのを心待ちにしているのだ。中には半年以上来られない親もいる。「お母さん、(自分が)悪い子やき来んがかな」とつぶやく児童を、山崎さんは「そんなわけないやん、こんなお利口さんおらんわー」と抱き締めた。

 高知市出身の山崎さんは3姉妹の真ん中。二つ下の妹の世話をするのが大好きで、周りから「将来は保母さんね」と言われ、保育士になるのが夢になった。専門学校では、実習先の児童養護施設でショックを受けた。みんな人懐こく、話を聞いてもらいたくて、くっついてくる。親に甘えたい時期に甘えられない裏返し。「僕を見て、あたしを見て」。そんな気持ちが痛いほど伝わってきた。児童養護施設で働こうと決意した。

 同ホームには3年前から。当初は「だまっちょけ」などと乱暴な言葉を浴びせられ、山崎さんの料理だけ口にしてくれない日もあった。気持ちが折れそうになったが、そんな振る舞いの後、子どもたちは決まってそばに寄ってきて顔色をうかがう。「こんな態度でも、見捨てず向き合ってくれるだろうか」。小さな心が、山崎さんを試しているのだと分かった。

 日常の仕事は「親になること」。学校から帰ってくると、心を込めて「お帰り」。靴をげた箱に入れたら「偉いねー」と声を掛け、宿題を見てやりながら「大人みたいな字やねー」と頭をなでる。「もう、そんな赤ちゃんみたいに褒めんとってー」。照れ笑いが広がる。

 山崎さん自身、何でもないことでよく褒められ育った。食べ終わった食器を流しに持っていっただけで母親は「助かるわ、ありがとう」と言ってくれた。そんな言葉の積み重ねが、今の自分をつくっていると思う。

 独りぼっちと思うのか、子どもたちの寂しさは特に、夜寝る時にやってくる。昼間に怒りをぶつけてきた子が「一緒におって」と泣きそうな顔で訴えてきた。「どこへもいかんよ」と抱き締め、胸をとんとんしてやると、安心したように眠った。

 ある日、学校で子どもが問題を起こした。迎えに行くと「何で来たが?」。反省しない態度に真剣に怒った。山崎さんが相手方に謝罪の電話をしていると、「あたしにも代わって」と謝った。

 「山崎のお姉ちゃんて、本当のお姉ちゃんみたいやね」。そう言われて、うれしかった。「君は一人じゃないよ」。血がつながっていなくても、一つ屋根の下の「家族」として心に寄り添いたい。
 写真と文・久保俊典