序 福祉のしごとを志す人へ
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今、なぜ、福祉のしごとなのか

 少子化に伴う“大学全入時代”を迎え、大学、短大、専門学校生はもとより、子育てを終えた家庭の主婦や会社員、定年退職者などが福祉のしごとに注目しています。

 今、なぜ、福祉のしごとなのか。それは少子高齢化に伴い、親が年老いて病気がちや寝たきり、認知症となり、介護の負担が家族に重くのしかかっているほか、疾病や交通事故、労働災害、薬害などによる機能障害や生活障害、さらには住環境や生活関連施設の不備によって社会復帰もままならない障害者、あるいは両親の共働きに伴う子育ての問題などに関心を寄せる人たちが増えているからでしょう。

 また、アベノミクスによって一部で好景気といわれているものの、全体としてはまだまだ経済のグローバル化や円安デフレ不況によって景気が低迷し、各企業が雇用調整に乗り出しています。このため、就職できないニートやフリーター、中途退職者、“派遣切り”や“雇い止め”、“正社員切り”の浮き目に遭った非正規雇用社員、さらには団塊の世代が定年退職後、福祉のしごとに注目するようになったことも考えられます。

 確かに、わが国は高齢者の介護の問題が年々深刻になっており、2015年3月末現在、65歳以上の介護保険の被保険者は約3,294万4,000人に対し、要介護認定等を受けたのは約605万8,000人で、2000年4月に介護保険が制度化されて以来、約2.8倍に急増しています。

 また、疾患による機能障害や生活障害、あるいは交通事故の増加や労働災害、薬害などの影響に伴い、身体障害児・者は約368万3,000人、知的障害児・者は約54万7,000人、精神障害者は約320万1,000人と、こちらも増加の傾向にあります。さらに、保育所の入所待機者も約2万5,000人、潜在的な分も含めると同85万人と、近年、若干改善されてはいるものの、まだまだ十分ではありません。

最近の社会福祉の動向

 周知のように、わが国の社会福祉は長年、貧困な世帯や孤児、虚弱な高齢者などの社会的、経済的弱者に対し、家族や地域の住民が中心となって相互扶助が行われてきました。もっとも、このような問題も時が経つにつれ、政府や地方自治体の責任のもとで解決されるべきであると認識されるようになり、明治以降、さまざまな規則や法律が設けられ、行政の施策として位置づけられるようになりました。

 しかし、今日のように、すべての国民の幸福の追求およびその社会的実現、言い換えれば、国民一人ひとりの自立と社会連帯による社会福祉として取り組まれるようになったのは、戦後、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を三大原則とする新しい憲法が制定されてからです。

 この新しい憲法に伴い、すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が保障され、それまでの“慈恵としての福祉”から、“権利としての福祉”へと転換することになりました。そして、社会福祉に関する6つの法律がそれぞれのサービスの利用者ごとに制定され、その基盤の整備が図られてきました。

 その後、高度経済成長による生活水準の向上や医療技術の進歩による健康寿命の伸長、出生率の低下に伴い、わが国は1970年、スウェーデンやフランスなどに次いで高齢化社会の仲間入りをしました。しかし、この少子高齢化はその後も進行しており、2050年には国民の3人に1人は65歳以上の高齢者という人口減少高齢社会が訪れるものと予測されています(図)。このため、寝たきりや認知症高齢者、障害者、児童などの要支援者やその家族に対する社会保障・社会福祉の整備・拡充がにわかに国民的な課題となっています

 そこで、政府は「社会福祉士及び介護福祉士法」など、各種国家資格の法制化をはじめ、「高齢者保健福祉推進十か年戦略(ゴールドプラン)」など福祉3プランの策定、介護保険法および障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)の制定を柱とした社会福祉基礎構造改革を進めてきましたが、特別養護老人ホームなど社会福祉施設の介護職員やホームヘルパー(介護職員初任者研修修了者)は労働環境の悪さも手伝い、相変わらず不足しているのが実態です。

 具体的には、とくに福祉・介護サービスの分野において、女性の占める割合が高いだけでなく、パートタイマーや非常勤職員が多いため、離職者が顕著なことです。その原因は過酷な労働の割に低賃金であるうえ、社会保険も適用されないなど労働環境の悪さにあります。もっとも、福祉のしごとに使命感を抱く学生や主婦、会社員のほか、潜在的な有資格者も多数いるほか、今後、本格的な少子高齢社会、さらには人口減少高齢社会の到来により、2025年には255万2,000人と現在よりも100万人以上のマンパワーを養成・確保しなければならないことも確かです。

 そこで、政府は2007年8月、従来の福祉人材確保指針を見直し、@労働環境の整備の促進、Aキャリアアップの仕組みの構築、B福祉・介護サービスの周知・理解、C潜在的有資格者などの参入の促進、D多様な人材の参入・参画の促進に努めることになりました。また、2009年4月には介護報酬を全体で3%引き上げたほか、介護職員処遇改善交付金などキャリアパス制度を創設しました。さらに経済連携協定(EPA)にもとづき、インドネシアやフィリピン、ベトナム人看護師や介護士の受け入れなどに努めていますが、介護保険法や障害者総合支援法に代表されるように、「民間活力導入が最善か」「国家資格と類似した民間資格や“ブラック企業”も出回っており、一体、どのような資格や職種、職場が福祉のしごととして望まれているのか」といった声も聞かれています。

内容と特色

 このような情勢を踏まえ、2013年10月、21世紀の本格的な少子高齢社会、さらには人口減少高齢社会に向け、期待される福祉のしごとをつぶさにガイドしたのがこの「福祉のしごと」で、おかげで年間約50万件も検索していただいています。

 しかし、その後、介護保険制度や子ども・子育て支援制度の改正などが相次いでいるため、このたび、介護事務管理士や専門職成年後見人、スクールソーシャルワーカーなど、最近、注目されている資格や指定居宅介護事業所、障害者就業・生活支援センターなどの職場を加え、それぞれのしごとの内容や将来性、主な職場、就業者数、勤務形態、給与水準、就職や資格取得のルート、資格を取得するためのポイント、さらには採用状況などについて、資格・職種別に全面的に改訂しました。


なお、福祉のしごとに関する情報や求人情報は下記のサイトでも得ることができます。

・福祉人材センター
 http://www.fukushi-work.jp/

・ハローワーク
 https://www.hellowork.go.jp/


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 ただし、福祉のしごとは、どのように立派な制度や施設ができても、その担い手であるマンパワーに量的、あるいは質的な問題があれば「宝の持ち腐れ」に終わってしまいます。それだけに、福祉のしごとを志す人たちは、常に利用者の生命や財産、健康、生活、人権を温かく見守り、寄り添いながら、豊かな人間性に裏付けられた高度な専門的知識と技術を駆使し、本人の自立支援を図るべく、職務をまっとうすることが望まれます。「福祉は人なり」といわれるゆえんです。


川村 匡由(かわむら・まさよし)

武蔵野大学名誉教授・博士(人間科学)、1999年、早稲田大学大学院人間科学研究科博士学位取得。専門は社会保障論。主著に『21世紀の社会福祉(全21巻・編著)』『介護保険再点検』(ミネルヴァ書房)、『脱・限界集落はスイスに学べ』(農文協)、『地域福祉源流の真実と防災福祉コミュニティ』(大学教育出版)、『防災福祉のまちづくり』(水曜社)など多数。
 元社会福祉士試験委員、行政書士有資格、シニア社会学会理事、福祉デザイン研究所所長、地域サロン「ぷらっと」主宰など。各地で自治体・社協委員や講演、研修のほか、メディアにも多数登場している。
*個人のHP http://www.geocities.jp/kawamura0515/

 この「福祉のしごとガイド」は、福祉関連の資格・職種、職場についてその概要をご理解いただくために作成したものです。記述内容には正確をきしておりますが、本サイトの情報を利用される際には最新の情報をご確認下さいますよう、お願い申し上げます。