被災福祉施設復興事例紹介
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〜 岩手県 大船渡市 〜

社会福祉法人三陸福祉会

「特別養護老人ホームさんりくの園」の復興事例紹介

取材日 平成26年8月21日
東日本大震災により、死者340人、行方不明者79人、半壊以上の建物3,937棟といった被害を受けた、岩手県大船渡市(出典:大船渡市ホームページ【平成26年3月31日現在】)。その沿岸部で事業を営んでいた社会福祉法人三陸福祉会は、運営する全施設・事業が被災した。震災から3年経った現状を取材した。

被災地域(旧施設所在地)、再建地域(新施設所在地)と大船渡市浸水区域マップ


被災地域(旧施設所在地)、再建地域(新施設所在地)と大船渡市浸水区域マップ

※浸水区域データの出典:国土交通省都市局『復興支援調査アーカイブ』データ


山側へ全面移転した「特別養護老人ホームさんりくの園」

 社会福祉法人三陸福祉会が運営する「特別養護老人ホームさんりくの園」は、海岸から約1kmの所に位置していたこともあり、津波により施設が全流失するという大きな被害を受けました。施設は被災した地点から山側へ全面移転し、それまで沿岸部に点在し展開をしていたデイサービス、グループホーム等の全事業を集約し、一体的に整備しました。そして、平成26年4月にデイサービスセンター、グループホーム、小規模多機能型居宅介護を、同年7月には地域密着型特別養護老人ホームを、同年10月からはショートステイを再開しています。その後、平成27年2月にユニット型特別養護老人ホームの運営を開始しました。

▲ 特別養護老人ホームさんりくの園施設外観 ▲ 隣接するグループホームさんりく、多機能ホームさんりく


改修した元民宿、仮設住宅内で順次事業を再開

 社会福祉法人三陸福祉会は平成4年3月、国の名勝・天然記念物にも指定されている「碁石海岸」でも有名な岩手県大船渡市に設立されました。その後、平成5年4月から特別養護老人ホームさんりくの園、さんりくの園ショートステイ、さんりくの園デイサービスセンターを、平成7年10月からは在宅介護支援センター事業を開始しました。平成12年4月には介護保険制度の施行と同時に訪問介護、訪問入浴介護、居宅介護支援事業を順次開始する等の事業展開を行ってきました。しかし、東日本大震災の津波の影響により、運営する全ての事業所が全壊するという被害を受けました。
 地震発生後、施設職員は利用者をいち早く高台へ避難させようとしました。しかし、この地域一帯は平地が少なく、海のすぐ後ろに山が迫る地形で、上り坂や急な傾斜の場所が多くなっています。そのため、避難は思うように進みませんでした。特に、利用者を乗せた車いすを押して坂を上る際はなかなかスピードが出ません。やっと高台に辿り着いても、そこには先に避難をしてきた人達が大勢いて、さらに上を目指さなければなりませんでした。地理的条件も重なり、さんりくの園は職員、利用者ともに被害を受けました。
 理事長の佐藤さんも津波にさらわれた一人です。佐藤さんは地震発生直後、利用者の手を引いて高台を目指したものの、波に追いつかれ、一瞬のうちに飲み込まれました。近くにあった流木に運よく掴まることができ、一命を取り留めましたが、当時の様子を「車にぶつかったようだった。」と語っており、津波の威力の強さを感じさせます。一時避難後、三陸福祉会は内陸の震災被害の少なかった施設へ利用者を移送できるよう奔走しました。
 震災発生から5ヵ月後の平成23年8月、三陸福祉会は近隣の高台にある元民宿を改修し、デイサービス事業を再開し、同年9月にグループホーム、10月には小規模多機能施設を仮設住宅内にて再開しました。また、日中、若い世代は働きに出かけ、仮設住宅内には独居老人や老夫婦が残るという状況が生じたこともあり、サポートセンター(※)の運営を開始しました。お茶会を開いたり、趣味活動を行い、利用者の心身のケアに努めました。震災から3年経った今でも、この地域には仮設住宅が残っており、サポートセンターも継続して避難者を支えています。

( ※ 応急仮設住宅地域において、高齢者等に対して総合相談やデイサービス、生活支援サービス等を総合的に提供するために設置されたサポート拠点。平成25年11月末時点で被災3県で115か所開設。)

徹底した災害に「強い」施設づくり

 施設再建に伴う資金については、福祉医療機構の災害復旧資金を利用しました。平地の少ない地形のため土地の確保に苦労しましたが、資金の見通しが立ったこともあり、被災した他法人よりも比較的早く着工にこぎつけました。
 新施設は和を基調とした作りで、障子や畳といった高齢者に馴染みの深いものを積極的に取り入れており、各部屋は個人のプライバシーが確保されるような配置となっています。また、震災により旧施設が大きな被害を受けたこともあり、災害に強い施設づくりがなされています。例えば、緊急時に地域住民の避難場所ともなりうるよう、地域災害対策室を設置しました。約150人もの人を受け入れることができるスペースが確保されており、普段は地域住民との交流の場として利用されています。さらに、大型非常電源用発電機の設置により、災害時に流動食を作ることもできるようになりました。井戸を設けて飲料水、生活用水として利用できるようにもしました。備蓄も強化し、今後は地域住民分も食糧等を蓄える予定です。

▲ 災害時には約150人収容可能な地域災害対策室 ▲ 非常時備蓄倉庫には数日間分の食糧や備品を用意


 空調用の配管には、大規模な地震が起きても変形や破断がしにくいように軽量化されたステンレス管を採用しました。さらに、施設内には「非常時ライフラインベンダー」といって、緊急時に手動で中身を取りだすことができる自動販売機が設置されています。スイカ等の電子マネーも利用可能です。震災時にライフラインが使用できずに苦労した教訓が施設各所に活かされています。



▲ 大規模地震が起きても変形、破断のしにくい配管を採用 ▲ 緊急時には手動で中身を取り出すことができる「非常時ライフラインベンダー」を設置

 そして、地域住民との意見交換会議を定期的に行い、結びつきをいっそう強めるとともに、被災前から共同で行われていた夜間訓練を今後も行う予定です。施設内での行事に、地域住民に参加してもらうことにも積極的に取り組んでおり、さんりくの園を身近に感じてもらうことにつながっています。



人材確保に尽力

 震災の影響により、地域一帯が分野・職種を問わず人材不足の問題を抱えています。他県へ働きに出たり、移住してしまう人が多いことが大きな原因のようです。震災前は職員の離職率がこの地域一帯では最も低く、他県から施設見学や実習の依頼が多く来ていたさんりくの園も、現在は人材の確保が大きな課題となっています。
 人材確保のために、まずはさんりくの園を知ってもらおうと、地域住民を含めたイベントや催し物を行ったり、高校・専門学校へ赴いたりとさまざまな取り組みをしています。例えば、地元の高校生による和太鼓の演奏会や、地域の婦人会の方々と「鎌餅(かまもち)」(気仙地方の郷土料理)を作る会を行なっています。「経験の有無や年齢にかかわらず、出来るだけ多くの人を採用したい。特に地域の方は入居者と身近な存在であるため、積極的に採用していきたい。」(さんりくの園総務課長 西村さん)とのことでした。

地域コミュニティ再生の中心的存在へ

 さんりくの園から200mほどの所に復興公営住宅が建設されています。今後、小学校や認定子ども園もやってくる予定で、「震災の影響でバラバラになってしまった地域コミュニティの再生の中心拠点としての役割を果たしていきたい。」(西村さん)とのことでした。

▲ さんりくの園近くに建設中の集団移転地
  小学校、認定子ども園も開設予定

 震災後の、状況がめまぐるしく変わる混乱の中、仮設住宅内や改修した元民宿において常に地域のために尽力したさんりくの園。震災から学んだ教訓を生かし、新たに災害に強い施設として甦りました。今後も地域コミュニティ再生の中心的な存在として、地域住民の安心した暮らしを支える一翼を担っていくことでしょう。


<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人三陸福祉会 理事長 佐藤 敬一郎 氏
法人施設 特別養護老人ホームさんりくの園、さんりくの園ショートステイ、さんりくの園デイサービスセンター、さんりくの園訪問介護サービスセンター、さんりくの園訪問入浴介護サービスセンター、三陸福祉会指定居宅介護支援事業所、大船渡市三陸在宅介護支援センター、認知症高齢者グループホームさんりく、多機能ホームさんりく
旧施設所在地 岩手県大船渡市三陸町越喜来字所通27番地5
新施設所在地 岩手県大船渡市三陸町越喜来字所通91番地
法人設立時期 平成4年3月 施設再建時期 平成26年4月


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