生活困窮者自立支援関連情報
トップ

東京都新宿区・特定非営利活動法人3keys

児童養護施設の子どもへの学習支援により、きっかけ・きづき・きぼうを育む

 独立行政法人福祉医療機構(WAM)が行う社会福祉振興助成事業(WAM 助成)は、国庫補助金を財源とし、高齢者・障害者などが地域のつながりのなかで自立した生活を送れるよう、また、子どもたちが健やかに安心して成長できるよう、NPO やボランティア団体などが行う民間の創意工夫ある活動などに対し、助成を行っています。今回は、WAM 助成を活用した特定非営利活動法人3keys の取り組みを紹介します。

■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年10月号に掲載されたものです。

児童養護施設が求めている学習支援


 児童養護施設は全国に約600施設あり、保護者がいない児童、虐待されている児童など、さまざまな事情により約3万人の子どもが入所している。施設に入所するころには本人の能力・意思とは関係なく学習に遅れが生じてしまう傾向があり、退所後の経済的・精神的な自立を阻んでいることが指摘されている。
 児童養護施設を対象にした調査(※)によると、外部からの支援で最も求められているのは「勉強サポート」となっている。しかしながら、学習支援は短期間では効果が見込めないことや、子どもと支援者の相性や指導教科のマッチングなど、コーディネートの負荷も重いことからニーズに対して供給が追いついていない現状にある。
 このような状況のなか、東京都新宿区にある特定非営利活動法人3keys(スリーキーズ)は、平成23年の設立以来、ボランティアを主体とした、児童養護施設にいる子どもへの学習支援を実践し、成果をあげてきた。
 同法人では、学習支援事業、子どもの権利保障推進事業、セミナーやイベントの開催・講師派遣などの啓発活動に取り組んでおり、「貧困や格差、虐待、偏見などによって、子どもや若者が自信や意欲を失うのではなく、日本に生まれ育ったすべての子どもたちが、環境によらず自立していける社会」を目指している。
 児童養護施設の学習支援に取り組んだきっかけは、同法人代表理事の森山誉恵氏が、大学2年生のときに児童養護施設での学習支援ボランティアに参加したことにはじまる。家庭教師や塾講師の経験が活かせると考えていたが、施設では学習環境やボランティアを受け入れるサポート体制が整っていないことに加えて、学習意欲のない子どもも多いことからボランティアが定着しない現状を目の当たりにした。
 「ボランティアが長続きしないことは、親に見捨てられたと感じている子どもにとって、『再び自分のもとから大人がいなくなる』と、間違った方向に解釈する原因になっていました。それは自分を責める要因につながり、このままではボランティア、子どもの双方にとって、かえって悪影響を与えてしまうことを実感しました。学習支援で成果を出すためには、組織としての仕組みや研修体制を構築する必要性を感じたことから、平成21年に任意の学生団体を立ち上げ、その後NPO法人を設立して本格的に取り組んでいます」(以下、「 」内は森山代表理事)。

※全国児童養護施設調査2011(特定非営利活動法人ブリッジフォースマイル)

                
 ▲ 学習支援の様子。多くの学習ボランティアを集めることで一人ひとりの子どもにあった人選が可能となった ▲ 学習ボランティアの孤立を未然に防ぐため、コーディネーターによる面談をはじめ、勉強会や交流会など派遣後も継続的なフォローを行う

施設の中高生を対象に家庭教師派遣型の学習支援を実施


 同法人の学習支援事業は、東京都内の児童養護施設、自立援助ホーム、母子生活支援施設などに入所する中高生を対象に学習ボランティアを派遣し、1対1の家庭教師型の指導を実施するものである。施設から依頼を受けると、コーディネータースタッフが施設を訪問し、施設職員と子どもの3者で面談を行い、子どもの目標や性格にあったボランティアを選抜し派遣する仕組みとなっている。
 家庭教師型の学習支援とした理由は、人との関わりを苦手にしている子どもが多く、心を開くまでに時間がかかるためである。マンツーマンでじっくりと信頼関係を構築し、どの段階で学習につまずいているのか把握していくことが大事だという。
 ボランティアの選定にあたっては、なかには父親から虐待を受けた経験から、男性や年齢の離れた人と二人きりになることに恐怖感がある子どももいるため、それぞれの子どもの背景にある問題をしっかりとヒアリングし、理想の人物像や注意点を確認していくことが重要となる。
 それぞれの子どもにマッチした人材を派遣するためには、多くの学習ボランティアを集める必要があるが、同法人ではボランティア登録会を定期的に開催。登録会では児童養護施設や貧困・格差のもとで生活する子どもの現状や法人の支援方針についての説明を行っている。個人情報を保護する必要性の高い子どもが多いため、登録会を通じて登録した人のみにボランティアの募集情報を配信し、そこから応募してもらう仕組みとしている。
 登録後には研修会を開催し、児童養護施設にいる子どもの背景への理解を深めてもらうとともに、子どもがボランティアに依存してしまうケースも多くあるため、距離の取り方などについても伝えていく。ボランティアの構成は、大学生、社会人であり、男女がほぼ同数で年齢層も幅広いため、それぞれの子どもにあった人選が可能となっている。


WAM 助成を活用し、学習支援の質・量を高める


 同法人は、平成24、26年度のWAM 助成を活用し、学習支援の質・量をさらに高めることを目的に実施体制の強化・拡充を図っている。
 これまでボランティアに対しては、活動前の研修を実施していたものの、派遣後のフォロー体制が十分でなかったことから、特殊な環境での活動にボランティアが孤立し、定着しないことが課題にあった。孤立する理由として、施設の学習支援では言葉遣いの荒い子どもから「もう来るな」と、暴言を受けることもあり、ボランティアが一人で抱え込んで、精神的に追い込まれてしまうためなどである。
 そのため、平成24年度の助成事業では、派遣後のフォロー体制を構築するとともに、子どもとボランティアをつなぐ重要な役割を担うコーディネーターの養成研修や業務マニュアルの作成を実施した。
 「ボランティアには活動後に毎回報告書を作成してもらい、自己評価や達成度、指導するうえでの悩みを書いてもらうようにしました。それをコーディネーターがチェックをして、精神的なバランスが崩れている予兆がみられると、すぐにフォローや面談を実施する体制をつくりました。そのほかにも勉強会や交流会を定期的に開催し、ボランティア同士が互いの悩みを打ち明けられる場を設けるなど、継続的なフォローを行っています」。

▲ 26年度の助成事業では、支援概要をまとめた施設・ボランティア向けのリーフレットを作成・配布。施設からの問い合わせやボランティアが増えるなど大きな反響が寄せられた

コーディネーターを育成し、手厚いフォローが可能に


 助成事業では養成研修により、新たに6人のコーディネーターを育成し、10人に増やすことができた。さらに、業務のマニュアルを作成したことで、コーディネーターが主体的に活動できるようになった。これによりボランティアに対する手厚いフォローが可能になり、継続して活動してもらえるとともに、トラブルが大幅に減少し、学習支援の向上につながった。
 また、登録会の開催回数も増やしており、ボランティアが増加したことで、より子どもの目標や性格、性別にあったボランティアをコーディネートすることや、施設からの申し込みから派遣までの日数を短縮することも可能になった。そのほかにも、全体の業務フローのマニュアルを作成し、業務を可視化したことで質の標準化・効率化につなげるなど、大きな成果があった。
 なお、平成24年度は今後を見据えた学習支援のサービス概要の見直しにも着手しており、施設との役割や責任を明確にすることを目的に、これまでの無償提供から会費制に変更している。
 「無償によるサービス提供の場合、施設内で稟議を通していないケースもあるため、トラブルが起きた際に責任者が不明確という問題がありました。稟議を通してもらうために利用費を設定したのですが、高すぎても結局利用できなくなってしまいます。そこで、施設は年会費1万2,000円(月額1,000円相当)を支払うと、1人のボランティアが1教科週1回、2時間以内の範囲でボランティア5人までを自由に利用できる、低価格を維持したサービス体系としています」。


さらに広域に支援するための体制を強化


 同法人の学習支援は、施設間の口コミなどから依頼件数が増加し、次第に対象エリアとなる東京都以外の施設からの相談が多く寄せられるようになったため、さらに広域に支援していくための体制強化を図っている。
 この広域支援をするための体制強化は、平成26年度のWAM助成を活用し、「格差の下にいる中高生たちへの学習ボランティアによる家庭教師派遣事業」として実施している。
 同事業では、児童福祉施設等にいる中高生を対象にした家庭教師派遣事業を、さらに広域に支援を届けるための体制強化を目的に、@遠隔地支援のための準備、Aグループウェアやインターネットによるコミュニケーション体制の整備、Bボランティアコーディネートにかかる事務管理体制の強化を行っている。
 遠隔地支援の準備としては、対象エリアを東京都23区外、神奈川県を中心としたエリアまで拡大したため、支援概要をまとめた施設向けリーフレットを800部作成し、対象エリアの約100施設のほか、施設職員が参加する研修会にも出向いて配布した。
 また、対象エリアを拡大するにあたり施設だけでなく、エリアごとにボランティアを集める必要があることから、ボランティアの参加を呼び掛けるリーフレットも3,000部作成しており、なるべく口コミで広がるようにつながりのある大学の教授やサークルなどに協力を依頼して、広く配布している。
 施設・ボランティア向けのリーフレットを配布した反響は大きく、新たに6施設と提携し、20施設に対して学習支援を提供している。ボランティアの登録会も神奈川県で開催し、多くの参加者を集めた。現在、学習支援ボランティア数は240人にのぼるという。

▲ 平成26年度はボランティアの登録会を神奈川県で開催し、多くの参加者を集めた

事務のIT化により、効率性や支援の質が高まる


 遠隔地支援を実施していくためには、スタッフ間の情報共有や事務作業を効率化するシステムも必要となる。
 「対象エリアが広がったことで、コーディネーターに東京都以外に住んでいる人を採用したのですが、これまで報告書などの書類は事務所に来所して提出してもらっていたので非効率な面がありました。そのため、ネット上で業務報告や必要な情報が取得できるツールを導入しました。1人のコーディネーターは8人くらいのボランティアを担当しているのですが、自宅やスマートフォンでも施設情報や派遣状況などを管理できるようになり、よりよいコーディネートにつながっています」。
 助成事業では事務のIT化のほか、事務部門を統括する専門スタッフも雇用している。そのような体制・システムを導入したことにより、遠隔地でもスムーズに対応が可能となったことは大きな成果といえる。
 「当法人は事務スタッフが少ないこともあり、これまでの紙ベースではデータ化が大変な作業でしたが、事務をIT化したことで情報の集計・分析がしやすくなったことも大きなメリットになっています。データに基づいた傾向を把握できることは効率化につながるとともに、支援の質をさらに高められると考えています」。
 学習支援を受けた子どもたちは、成績があがったことを褒めてくれたり、気づいてくれる人がいることで、頑張る意欲や人と関わることに喜びを感じるように変化していくという。これまで自分の将来について考えることを避けてきた子どもが進学を目標に掲げるなど、自信や希望をもつことにつながっている。
 今後の展望については、可能な範囲で学習支援を広げつつ、これまで培ってきたノウハウや集計・分析した情報を発信することで、行政と協働した事業につなげていきたいとしている。
 児童養護施設等にいる子どもたちが、将来の希望をもてるような学習支援が全国に広がることが期待される。

制度化に向けた情報発信

特定非営利活動法人3keys   代表理事 森山 誉恵 氏

 当法人は開設以来、児童養護施設の学習支援に取り組んできましたが、1人の子どもに対して、たくさんの支援者が継続的に関わることで、はじめて成果をあげることができます。そのため、どうしても人件費がかかります。寄付会員からの寄付が主な運営資金となりますが、多くのボランティアが参加してくれるものの、寄付者が少ないのが実情で運営費の確保は常に課題となっています。
 学習支援を当たり前の活動として全国に広げていくためには、一つの団体では限界がありますし、最近は支援団体が増えてきていますので、連携して大きな流れにしていき、最終的には行政の制度にして財源確保していくしかないと考えています。
 平成26 年度のWAM 助成事業において、事務をIT 化したことで情報の集計・分析がしやすくなりましたので、今後は行政の制度化に向けた情報発信にも力を入れていきたいと考えています。


<< 法人概要 >>
法人名 特定非営利活動法人3keys
住所 〒161-0033
東京都新宿区下落合4-6-27
代表理事 森山 誉恵 法人設立 平成23年5月
URL http://3keys.jp/
助成実績 平成26年度 「格差の下にいる中高生たちへの学習ボランティアによる家庭教師派遣事業」 (助成額:192 万5 千円)
事業概要:
児童福祉施設に暮らすなど、十分な学習環境にない中高生向けの家庭教師派遣事業を、さらに広域に支援を届けるための体制強化を目的に、遠隔地支援のための準備やグループウェア・インターネットによるコミュニケーション体制の整備を実施する事業


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年10月号に掲載されたものです。
  月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。