サービス取組み事例紹介
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宮城県 特定非営利活動法人 ほっぷの森

レストランを通じて働く喜びと自信を得る

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




ゆっくり歩み続けるという思いを込めた「びすたーり」


 特定非営利活動法人 ほっぷの森の白木理事長は知的障害者の国際的なスポーツ組織であるスペシャルオリンピックス(以下SO)日本の副理事長兼、SO日本・宮城の理事長として、知的障害者やそのご家族の方々と交流を深めてきました。活動を通じて障害のある人の就労機会が少ないことを痛感した白木理事長をはじめとする同じ志を持つ人たちが集まって、2007年2月にLLPほっぷ(現在特定非営利活動法人 ほっぷの森)が設立されました。
 同年9月に就労移行支援事業の指定を受けて就労支援センターほっぷを、翌年2008年8月に就労継続支援A型事業所のレストラン長町遊楽庵びすたーりを立ち上げました。


びすたーり店内
びすたーり店内

 びすたーりは、築120年の古民家を改装してできたレストランです。平成12年の建築基準法令改定までは大家さんがご自宅として住んでいましたが、借り手がいなければ解体するしかないと空き家になっていました。大変貴重な古民家を残したいという思いが集結してびすたーりが誕生しました。
 店内に入ると、歴史を感じる大きな柱と梁に支えられた高い天井、壁は昔ながらの漆喰、広々とした板目の通路と木製に統一された客席が広がり、やさしい日差しが店内を包み込む誰もが心地よさを感じる重厚な空間がそこにあります。





歴史を感じさせる天井
歴史を感じさせる天井

 店名の「びすたーり」とは、ネパール語で「ゆっくり」という意味です。白木理事長がこの言葉に出会ったのは、お店づくりの構想を練っていた時期にヒマラヤ登山をしたときのことでした。現地のガイドの男の子は当然登山慣れしているので、ゆっくり歩いているつもりでも白木さん達にとっては、ついていくのがやっとでした。そのとき覚えた現地語で「びすたーり、びすたーり」とガイドに何度も繰り返しながら登山したそうです。日本に戻ってきて、障害者が働くレストランをイメージした白木さんは目線を合わせて、いっしょにゆっくりやっていこうという気持を込めてレストランを「びすたーり」と命名しました。




本物のサービスを提供する環境づくりを大切にする


スタッフの働く様子
スタッフの働く様子

 障害者の事業所だからと言ってサービスの低下や妥協はしません。就労継続支援A型事業所として運営するためにも、レストランとして採算がとれることが必要だからです。
 びすたーりでは利用者を「スタッフ」、職員を「パートナー」と呼びます。福祉施設でありながらも「ここは働く場であるということ」「プロとして仕事を通じて社会性を高めること」がスタッフ・パートナーに浸透しています。例えばどうしても調子が悪くお客様の前に立てる状況でない場合は、本人からの申し出やパートナーからの指示で「タイム」をとり、バックヤードで休憩をとることをルールとしています。お客様と接するときは、利用者としてではなく、プロとして本物のサービスをお客様に提供するという、びすたーりのコンセプトがここに表れています。スタッフは高次脳機能障害者と知的障害者、身体障害者(聴覚障害)の11名です。勤務は1日6時間の2シフト制で、休業日の月曜日以外で週5日間のローテーションを組み、ホール、キッチン、事務経理、施設管理で働いています。ほとんどのスタッフが休まないので、シフトの穴埋めなどの心配が要りません。この一年間でやめたスタッフは一人もいません。それぞれの役割や目標が明確になっていることで責任をもって働くことができているからです。スタッフの目標や役割分担を明確にする為に「できること一覧表」で約60項目の評価基準を設けて時給へ反映させています。まずはセルフチェックをして、その後パートナーのフィードバックを受けてできたところを加点式で評価します。また、自分で立てた目標を毎日振り返って取り組む環境づくりを大切にしています。
 ホールを担当するスタッフの斉藤さんは、「アルコール類の飲み物の作り方を覚えること、仕事とプライベートをしっかり区別すること、消耗品の補充をできるようになること、の3つの目標を毎日書いて目指しています。」と何も見ずに目標を言うことができます。毎朝日誌に書いて目標を確認することができているので常に目標や役割を意識しながら働くことができているのです。


徹底した差別化によるお店づくり


世界的なピアノ・ベーゼンドルファー
世界的なピアノ・ベーゼンドルファー

 充実した音響設備もさることながら、仙台在住のテノール歌手の松尾英章さんのご厚意で、世界三大ブランドといわれるベーゼンドルファーのピアノが設置されており、本格的なコンサート会場としても楽しむことができます。音楽発表会やコンサートなど、イベントが頻繁に開催されて地域のお客様の交流の場としても貢献しています。
 主催するイベントは、年に4回の季節に合わせた食材をつかったコースと音楽を提供するディナーコンサートや、月2回(第1、第3土曜日の夜)のライブ(無料)を聴きながら自由に食事ができるもの。その他は、地域のお客様の主催によるイベントが毎週のように開催されています。
 ホテルや一般のレストランなどと違って、食事以外の場所や音響設備の使用料などは無料なので、地域の合唱サークルやコンサートの発表会場として気軽にご利用いただくことができています。


漆喰の壁にスタッフが塗ったハートマーク
漆喰の壁にスタッフが塗ったハートマーク

 食材は自前のびすたーりファームの自家製有機野菜を使用し、料理長はプロの料理人が担当していることからも確かな品質を提供しています。また、ランチは毎日新しいメニューなので、お客様を飽きさせることはありません。ティータイムにはベビーカーで赤ちゃんを連れたママがひとりでゆっくりお茶を飲む姿も見られ、びすたーりらしい雰囲気をつくっています。店舗責任者の菊田代表はレストラン運営の経験者でもあり、お客様へのおもてなしも徹底しています。店舗設計は白木理事長の活動に共感した建築家の協力により、昔ながらの薪ストーブを設置したエントランスや、地域の住民や利用者が作成したデザインを活かした漆喰の壁やアプローチタイルなど、雰囲気のあるお店づくりがなされています。
 サービスも料理も設計も、レストラン運営に必要な要素は、プロの知識を集結させて、徹底して差別化をしたレストランでもあります。
 こうして地域に密着したお店づくりをしていくことで当初から目標にしていた月間260万円の売り上げを上回り、オープンして1年たった現在でも、お昼は50〜60名、夜は30名ほどの多くのお客様が来店されます。また、月間に10組前後の貸し切り予約があるなど、地域のお客様の集いの場としても浸透してきています。


戦略的にお客様の声を集めてサービス向上に役立てる


お客様メッセージカード
お客様メッセージカード

 オープン当初から各テーブルにお客様のご意見・ご感想とご住所等を書いていただくメッセージカードが置いてあります。1年間でなんと約700通ものメッセージカードが集められ、お客様からの直接のご意見をサービス向上に役立てています。このうち300通は住所と氏名の記載のあるものでした。この顧客リストを活用して1周年イベントのダイレクトメールを送り、集客にも貢献させています。寄せられたメッセージには、「接し方が親切」「料理がおいしかった」などお店の努力を評価する意見が多く寄せられています。「レストラン自体を認めていただいたのだと思い、涙があふれてくる」と白木理事長は言います。お客様からいただいたメッセージは大変貴重なお店の財産となるので、朝のミーティングで全員に共有する時間を設けることや、事務スタッフが一件一件パソコンに入力してデータベースとして大切に保管しています。
 また、月に1回のスタッフ・パートナー全員参加のグループミーティングでお店を良くするための話し合いの時間を設けています。そこでは、スタッフが日ごろ仕事を通じてお客様の声や反応を見てきた上でのメニューの提案やサービスの提案が出るようになってきました。スタッフも利用者としてではなく、お店づくりを担う一員として責任感をもってお店づくりに参画している実感のあらわれです。


お互いを必要とする仲間


厨房スタッフの岡崎さん
厨房スタッフの岡崎さん

 スタッフとの関わり方を菊田代表からこう教わりました。「びすたーりは、社会に出る前のトレーニングの場ではなく、私達(パートナー)にとっても障害のあるかた(スタッフ)にとってもお互いが協力し一緒に働く職場。支援しているとか、されているとかの関係を越えて、それぞれができること、得意なことを発揮できるお店でありたい」「私がいつも一緒に仕事をしていて感じることは、彼らは人を優しい気持ちにさせる力があるということ。彼らの優しい流れの中で、レストランとしてのお店づくり、料理、食材、音楽、人と人とのコミュニケーションなどを表現していきたいと思っています。」「私にとっては彼らが必要だし、彼らも必要としてくれればそれが理想的な関係だと思う。お互い歩み寄ったり補い合ってきたからこそ、ここまで表現できたお店」。
 また、厨房を担当するスタッフの岡崎恵子さんは、びすたーりで働くことの喜びをこう表現してくださいました。「厨房で小鉢やみそ汁をよそったり、この頃はぺティナイフを使った下ごしらえなどを担当しています。失敗することもあるけれど、新しいことにチャレンジできるからやりがいがある。お客様に帰る時においしかったと言われることがうれしいです。この1年を振り返りそれ以前にやってきた頃と比べて私でもいろいろできる!っていうことがわかり自信がついたし、うれしい職場になりました」。


ホールスタッフの石川さん
ホールスタッフの石川さん

 ホールスタッフの石川宗宏さんはびすたーりでの成長の実感を語ってくださいました。「最初はパートナーから指示をもらってやってきましたが、今は一人で13種類のカクテルをつくれるようになりました。一年前と比べて生活面でも集中力を高めて、ちゃんとできるようになったと自分の成長を感じます」。
 トレーニングの場としてのお店ではなく、プロとして本物のサービスを提供するお店で得たお客様からの「ありがとう」だからこそ、ここまでスタッフも心から成長や喜びを感じることができるのだと思います。びすたーりの取材を通じて「働くことと生きがい」「スタッフとパートナーが目指すべき職場づくり」を教わることができました。

※ダイレクトメールの送付について・・・個人情報保護法によりダイレクトメールはご本人の同意を得ている必要があります。びすたーりの場合はご本人の了承を得ているものに関して送付しています。


取材日 : 平成21年8月

今回のポイント


@ トレーニングの場とした店舗運営ではなく、スタッフ・パートナーがお客様の満足を第一に考え共に働くお店づくりを実践している
A お客様に気軽にご利用いただけるイベント開催場所として地域に密着できている
B 戦略的にお客様の声を集め、スタッフも改善の意見を出し合える環境づくりをしている


FVPコンサルタント 小嶋 有二

施設概要


施設名 長町遊楽庵びすたーり
設置者名 特定非営利活動法人 ほっぷの
所在地 宮城県仙台市太白区長町3-7-1
電話番号 022-352-7651
代表者 理事長 白木 福次郎 氏
施設種別 就労継続支援A型
障害種別 知的、身体、高次脳機能障害
開所時期 平成20年6月
利用者数 11名
職員数 常勤6名、常勤以外2名
FAX 022-352-7652
連絡担当者 びすたーり代表 菊田 俊彦 氏
事業内容 レストラン運営
平均工賃 時給400〜655円
URL http://www.bistari-nagamachi.com/