サービス取組み事例紹介
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鹿児島県 社会福祉法人 白鳩会 農事組合法人 根占生産組合

地域になくてはならない存在へ 花の木農場

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




南大隅地域の住民にとって、なくてはならない存在へ


セルプ 花の木・花の木農場理念
セルプ 花の木・花の木農場理念

 「私たちは『花の木農場』を、地域のかたにとってなくてはならない存在、地域の方々から助けたいと思われる存在にしたいと思い、日々の活動を続けています」
 営業に同行した車の中で中村隆一郎氏は花の木農場の理念を語ってくれました。セルプ 花の木の施設長で、花の木農場全体の営業・会計責任者も務める人です。
 「花の木農場」は社会福祉法人・白鳩会と農事組合法人・根占生産組合から構成されている施設の総称です。安心安全な食の提供と、障害者・スタッフの垣根を超えて地域の人々が生き生きと働く場を提供することにより、地元に根付いた地域資源のブランドとなっています。


個別訪問をする中村 施設長
個別訪問をする中村 施設長

 南大隅町は少子化や立地が不便なための住民の流出などにより、1970年代初頭には17,000人前後あった人口が2005年には10,000人を割り込むなど、過疎化が進んでいる地域です。そんな中で 「花の木農場」は九州の最南端、南大隅町に37年間の歴史を刻みながら、地域社会に溶け込み、根をおろしてきました。まるで空気のように人々の生活を支える花の木農場が地域の人々に愛されている理由は、全国でも類を見ない先進性にありました。






農商工+「福祉」連携により、地域の活性化に貢献


中村理事長
中村理事長

 花の木農場を設立した中村 隆重理事長は、弟が障害を持っていたことがきっかけで、障害者が自立して生活をできる場を創ることに半生をかけてきました。広大な土地で動物や植物などの自然と触れ合い働くことは、障害者のみならずスタッフにとっても生きがいを感じられる大きな利点があります。







茶畑
茶畑

 南大隅地域は農業や畜産に適した豊かな自然に恵まれ、広大で効率的な経営ができる土地や水源を確保しやすい強みがあります。農業と福祉の親和性・融和性の高さを最大限に生かした経営を実践しやすい環境なのです。花の木農場では、農産物や畜産物の生産による農業、それらの自社加工による工業、そしてアンテナショップ・自社売店による商業を一貫して手掛けています。それらの過程では地元の事業者との連携も図りつつ、農商工と福祉を連動させた価値の連鎖や流通体制を構築しています。
 地域の活性化により日本の成長を促進していこうと、2008年度より国をあげた農商工連携が本格的にスタートしましたが、花の木農場を中心とした南大隅町では、全国に先駆けて農商工のみならず、「福祉」も連携して地域の活性化が進展しているのです。


水耕栽培による最先端の農業を展開


大豆畑&ハウス
大豆畑&ハウス

 レストラン兼販売店「アンテナショップ 花の木」からは、見渡す限りの壮大な茶畑が見下ろせます。その景観あふれる雰囲気は、地域住民の憩いの場ともなっています。単なる農場ではなく、地域の地形や自然を生かした、美観あふれる一種のランドスケープといっても過言ではありません。
 その景観を生かした花の木農場では、東京ドームの5倍以上もある25町歩の農地で、茶、大豆、花卉(かき)、野菜、養豚などの農産物・畜産物の生産・製造・加工・販売をおこなっています。それらの農地では、日中、89名の利用者が、農機の操作、野菜の収穫、雑草の除去などに従事しています。
 取材時には大型の台風が近づいていましたが、ハウス栽培も併用するなど、台風の被害を抑えるための取り組みがなされています。その中でも、工場のようなたたずまいをみせるハウスがあります。そこでは、ねぎやチンゲンサイの水耕栽培をおこなっているのです。


水耕栽培
水耕栽培

 コンピューターにより酸素と養分の比率、水温や気温などを一元管理し、まるで工業品のように安定した生産をすることが可能になります。
 これにより、高い品質を保ちながら一定量の収穫が期待できるため、付加価値をあげていくこともできます。土を介して広がる病原菌の発生を抑制したり、農業につきまとう天災へのリスク回避も可能です。花の木農場が目指す取り組みを通して、農業の新しい未来を感じることができました。






鹿児島発信で循環型社会の実現を


豚舎・1本目
豚舎・1本目

 「今、生まれてきますよ!」
 養豚担当の福里氏は、子豚が誕生する瞬間を逃さずに教えてくれました。豚舎の分娩室を見学させていただき、貴重な場面に立ち会うことができました。利用者も、出産後の羊膜を取り除くなどの出産ほう助を手際良くおこなっており、業務スキルの高さと協働作業の連携の良さが伝わってきます。







たい肥施設
たい肥施設

 この豚舎や牛舎などから出る汚物は職員と利用者が掻き出して、たい肥として花の木農場で再利用しています。ふん尿は自動水洗洗浄により省力化を図るのが一般的ですが、花の木農場では手間をかけて掻き出すことで衛生面の管理を徹底しつつ、回収したふん尿を再利用しているのです。たい肥を作る際には、利用者が雑草の除去をして集めてきた枯れ草やなども混ぜるため無駄がなく、花の木農場の中で資源が循環する仕組みが出来上がっています。また、豚舎などの小屋や柵も、飼育している豚の成長に合わせて最適な生育環境となるように手作りをしています。手間をかけた手作りの循環型社会が、九州最南端の大地からはじまっています。



地域に入り、地域とつながる


 「ここには地域の子供たちが集まり、滑りを楽しんでくれています。」
 セルプおおすみの二階氏に、草スキー場を案内していただきました。他にもソフトボール場や展示用の電車で遊べるスペースもあり、花の木農場全体が子供たちの遊び場となっています。
 レストランはお仕事の合間にくつろいだり、学校の先生方が打合せで使われたりと、終始地域のかたの訪問でにぎわっています。花の木農場で作っている野菜や豚肉を使った安心・安全で新鮮な料理を求めて、遠くは鹿児島市内や宮崎県から訪れるファンもいます。
 また、地元商店や他施設にも参加してもらい定期的にイベントを行うことで、地域住民との交流を図っています。過疎の町では障害者と健常者が触れ合う機会は少ないのですが、これらのイベントはお互いにとって理解を深めるよいきっかけとなっています。
 毎年5月には「チャリティコンサート&新茶祭り」、11月には「ふれあいバザーinおおすみ」を開催して、いずれも3,000名以上の来場が14年以上続いています。ぜひこの機会に、地域全体が盛り上がるイベントに参加して、地方の熱い息吹を感じてみてはいかがでしょうか。


工賃アップのために顧客満足を追求する


パンのPOP
パンのPOP

 今回取材をしていて強く感じたことは、中村理事長をはじめ職員の方々から「お客様のために」という言葉が多く聞かれたことでした。また、「環境の変化に対応するために」「一般の企業との競争に勝つために」といった意識で仕事をされていることが全員の根底にあると感じました。
 福祉だからお付き合いで買ってもらえる時代ではなく、お客様は誰が作っているかではなく、何をどのように作っているかで商品を選択しているのは事実です。福祉を言い訳にせず競争に打ち勝っていくため、具体的な取り組みを進めています。







お茶のPOP
お茶のPOP

 売上を伸ばし情報の受信力・発信力を高めるために、県内の大消費地である鹿児島市や鹿屋市にもアンテナショップを設立したり、スーパーなどへの新規開拓を進めたりしています。自らの販路を持ち、POP(店頭での手書き広告)やパネルなどを通じて製法を紹介し、添加物不使用であることなどもPRしています。こうした地道な取り組みにより、お客様が求める安心・安全ニーズを満たし、花の木ブランドのファンが増えているのでしょう。








豆腐のPOP
豆腐のPOP

 これらにより、最終的には全国平均の3倍近い高い工賃を実現できており、高い工賃を励みにして、スタッフや利用者のモチベーションも高まるという好循環につながっているのだと感じました。









組織を強くするのは、“透明性”と“権限委譲”


一葉入魂
一葉入魂

 高い工賃以外にも、顧客満足度を高め、機動性を確保するために花の木農場が取り組んでいる特徴的な仕組みがあります。それは、“透明性”と“権限移譲”です。業績の良い株式会社などではよく取り入れているシステムです。社会福祉法人、農事組合といった組織体制であっても、一般企業と同様の基準で運営をしているのです。
 「花の木農場では、財務状況や人事情報などの情報開示を徹底しています。経営の透明性を高めれば、トップからメンバーに至るまで考え方のベクトルを合わせることができますし、自分が何をするべきかも自ら考え動けるようになるのです」と中村理事長は語ってくれました。
 花の木農場の各部門責任者は、その部門全体の責任と権限を大幅に与えられ、部門の経営を任されています。部門責任者は定期的に東京でリーダーシップ研修を受けたり、外部の会社で1カ月以上に渡って実務経験を積んだりと、外から学ぶ仕組みもできています。現在は次期リーダーの育成を見据え、現リーダーから業務を通じてマネジメントや技術を学ぶ体制を作っているところです。全職員の能力を底上げするために、「全体職員勉強会」も実施しています。目標管理による新人事制度の導入も含めて、人を育てることに関しては投資を惜しみません。それは、「人が育つことこそが、法人全体を強くする」という強い理念があるからです。その理念は、「一葉入魂」「共汗共有」といった仕事に魂を込めて共に汗をかいて働くといった具体的な日々の行動に支えられているのだと感じました。


南大隅から鹿児島全体、そして全国へ


 「南大隅では地域に根ざしている花の木農場ですが、今後は鹿児島全体、そして全国に対して、もっと活動や商品について知ってもらいたい」と中村理事長は語ります。
 花の木農場の安心・安全で品質の高い商品を知ってもらうことで、お客様の役に立ちたい。これが実現する時に「花の木農場」は地元だけではなく全国になくてはならない存在になるに違いないと感じました。


取材日 : 平成21年10月

今回のポイント


@ 全国に先駆けた農商工+「福祉」連携により、地域の活性化に貢献している
A 水耕栽培など、最先端の事業を展開して、リスク回避や収益性の向上を図っている
B 生産から製造、加工、販売、回収にいたる循環型社会を実現している
C 集いの場の提供やイベントの開催などにより、地域との連携を図っている
D 市場や顧客起点による開発・販売の体制を構築している
E “透明性”と“権限委譲”により、職員個々の能力や組織力の向上を図っている


中小企業診断士 堀切 研一

施設概要


施設名 花の木農場
設置者名 社会福祉法人 白鳩会
農事組合法人 根占生産組合
所在地 鹿児島県肝属郡根占町川北2105
電話番号 0994-24-2517
代表者 理事長 中村 隆重 氏
施設種別 就労移行支援、就労継続支援B型、自立訓練、更生施設
(旧法)平成23年3月1日より新法へ移行
障害種別 知的
開所時期 昭和47年
利用者・就労者数合計 123名
職員数 常勤66名、常勤以外45名
FAX 0994-24-3711
連絡担当者 中村 隆一郎 氏
事業内容 農業、養豚、食品加工(お茶、豆乳製品、豚肉加工、ジェラート製造販売、アンテナショップ経営等)
平均工賃 35,000円(セルプおおすみ)
URL http://www.hananoki.org/