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大阪府 医療法人 北斗会

「きずなロール」がつむぐ就労移行支援の輪 ときヨシエンタープライズ

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




みんなが笑顔になる「きずなロール」


鹿島施設長
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 「私は、『きずなロール』を通じて、働く楽しさを拡げていきたいと思っています」
 ときヨシエンタープライズの施設長、鹿島美和氏は笑顔で語りました。今回取材した喫茶併設の厨房では、利用者が作業の受け渡しなどにおいてお互いに声を掛け合いながら、熱心にロールケーキを作っています。生地のふんわり感を保ちつつ、クリームの塗りすぎに注意しながら量を加減して、丁寧に巻いていきます。決められた基準をクリアする出来上がりになっているか、試食による確認も行います。それは、利用者が自分たちで開発をした「きずなロール」のおいしさを再認識できる瞬間でもあります。真剣な作業の中にも笑顔があふれ、いきいきと働く場をつくりだす「きずなロール」。この「きずなロール」には、利用者 自らが作り育ててきた“誇り”がたくさん詰まっています。


きずなロール
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 ときヨシエンタープライズは大阪府豊中市で、ロールケーキやパンの製造・販売、喫茶店の運営、印刷業務を行う障害者福祉施設です。平成13年に開所以来、福祉工場として就労の支援をおこなってきましたが、平成20年8月に就労移行支援事業に移行しました。鹿島氏は、今でこそ「きずなロール」をきっかけに施設運営への手ごたえをつかんでいますが、平成21年5月に施設長として赴任してきた当初は、どの就労移行支援事業所でもかかえる問題に突きあたり、悩んでいました。





現状からの脱却!


(株)チュラキューブ・中川氏
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 鹿島氏の悩みは、面接の練習や実習先開拓など、就労移行支援として本来やらなければならない業務に割ける時間が極端に少ないことでした。原因のひとつは、福祉工場時代から続けてきたお弁当やパン製造の工程が複雑で作業量も多いことや、販売にも多くの時間を割いており、日々の作業で手一杯の状況だったことです。また、お弁当やパンは賞味期間が短く、つくり置きができないため、利用者の体調に合わせて仕事量を調整しづらいこともネックとなっていました。
 そんな状況の中で、理事長の澤氏から「かねてから親交がある(株)チュラキューブの中川 悠(はるか)代表と連携して事業を見直してみてはどうか」という打診を受けました。中川氏は、地元大阪で活躍する事業プロデューサーです。これまでも企業・団体・人をつなげることで、様々な付加価値を生み出してきました。
 しかし、外部と連携するとなると、連絡や調整などコミュニケーションにも時間を取られます。これ以上新しい業務が増えると、さらに就労移行支援業務に支障をきたすと思い、鹿島氏は断りに行くつもりで中川氏のもとを訪れました。しかし、「中川氏と話し終わった後には、『よろしくお願い致します』と言っていました」と鹿島氏は笑いながら当時の様子を振り返りました。
 外部と連携することになった事業改革は、施設や利用者、職員にどのような変化をもたらしていったのでしょうか。


利用者の高まっていく“誇り”


冷凍ストックできるロールケーキ
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 鹿島氏は中川氏と相談する中で、現状の課題点を踏まえた上で、就労移行支援事業所として、生産活動に今後どのような意味合いを持たせていくべきなのかという認識を共有することから始めました。ただ単に真新しい事業展開を目的とするのではなく、就労につなげることを目的とした生産活動にしたいと改めて認識しました。「製造や販売の仕事を通じて働くことの意識を高めること」「商品を通じて、『ときヨシエンタープライズ』の活動を地域社会に知ってもらうこと」ということです。
 そして、外部と連携していくこのプロジェクトに「ソーシャルロールプロジェクト」という役割を持たせることにしました。「隠し味として使用している紅茶はフェアトレード紅茶で貧困国を支援する」など、一つの福祉施設の事業という位置付けではなく、社会貢献に活動を昇華させていくことを目指したのです。そうすることで、様々な企業や団体を巻き込んでいきました。「おいしく食べて社会貢献」というキャッチコピーを付けて、消費者も「きずなロール」を購買することにより社会貢献ができる仕組みにしています。
 このような外部連携による効果は、様々なところで現れています。自施設だけでは思いつかないアイデアも、外部の人と話し合うことにより新たな気付きを得て実現することもあります。
 例えば、利用者の体調や気分に波があり生産力が一定にならないという課題を話し合ったところ、冷凍保存ができるものをつくれば、日々の生産量にばらつきがあってもつくり置きをして解決できるという結論に達しました。ロールケーキは冷凍保存、冷凍流通が一般的になっており、この課題解決にはぴったりの商材です。
 また、多くの時間をとられていた販売に関しても、インターネット販売をおこなうことで大幅に時間を短縮することができます。このサイトは、地元のクリエイターにデザインを依頼し、高単価の食品販売において大切なシズル感、高質感を追求し、消費者が思わず買いたくなる作りにすることで、好調な販売実績につながる要因のひとつになっています。
 品質の面では、一般企業にも劣らないロールケーキづくりに向けて、パティシエによる実技指導を受けながら、利用者・職員・外部サポーターが一体となって取り組んだことも大きな変化をもたらしました。プロとしての理想のやり方にこだわる職人と、障害者ができる現実的な方法との意識の違いは大きく、途中で話し合いが頓挫したことも一度や二度ではありません。しかし、何度も利用者とできるやり方を話し合い、作業方法も試行錯誤しながら粘り強くその着地点を見つけて、なんとか利用者ができる作業の標準化を図ることができました。講習や試食会では、利用者からも積極的な意見が出されるなど創意工夫をする意識も向上しました。
 「原材料の選定」「製造方法の検討」「販売の工夫」「品質の向上」など、外部の人たちと意見を交わして事業を作りだす過程で、自分たちの仕事に対する誇りも高まってきたのです。


外に出ていくことで、ヒントをつかむ


パブリシティで協力をしてくれた学生たち
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 地元を中心とした連携はこれだけにとどまりません。パッケージは、大阪を拠点とするクリエーターが製作し、大阪府内の福祉作業所が印刷業務を担っています。プレスリリースなどの広報活動は、龍谷大学社会学部の学生がインターンシップの一環として担当しました。一施設ではできなかったことが、連携することにより実現していき、結果的に地域おこしや社会貢献活動として認められて、メディアから取材の依頼も飛び込んでくるようになりました。
 「私はあくまできっかけを作っただけです。鹿島さんをはじめとした職員や利用者の皆さんがそのきっかけを拡げる努力をされているのをみて、周りのかたも共感して動いてくれるのだと思います」
外部の客観的な視点からの、チュラキューブ 中川氏の言葉が印象的でした。
 これらの連携を機に、初めて障害者や福祉施設について知り、考える機会を得た人も多くいました。今では、市役所や市民と定期的に障害者の就労について、打ち合わせをおこなっています。ボランティアとして、サポートをしてくれる人もでてきました。自分たちの活動がメディアに取り上げられ、全国のお客様に届いて「おいしかった」という反応が得られることに、利用者もやりがいを感じています。今まで以上に業務の改善方法などについてアイデアを出し合い、いきいきと働く姿が多くみられるようになってきました。
 その結果、他の事業について見直しをするきっかけにもなりました。
 弁当事業についてはその日に販売する数量を確保するため、作業量にあわせて利用者が無理をして働かなければならないことや、ロスの発生による収益性の低さから、思い切って事業をやめました。パン事業については、同じ法人内の病院で販売する分だけは継続していますが、外部への販売を中止しました。このように、事業の選択と集中を行うことで、時間の使い方も変わってきました。(株)チュラキューブにインターネット販売の業務をアウトソースすることで、今まで営業や販売にかけていた時間を大幅に短縮することができました。鹿島施設長も、本来の就労移行支援業務である面接の練習や、ハローワークや企業との打ち合わせに割ける時間が増えました。これらの事業転換が、利用者にあわせた働き方を実現するだけでなく、収益面の改善や就労移行支援事業所としての本来業務への集中など、多くの課題解決を実現しています。
 外に出ていくことによって、今まで問題としてもつれていた糸が、次第にほぐれていったのです。


自立を目的とした就労訓練


攪拌作業をする利用者
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 就労移行支援事業の目的のひとつは、利用者が一般企業で働き、自立していくことです。ときヨシエンタープライズの利用者は、このロールケーキ事業を通じて経営の厳しさ、面白さを学んでいます。いかにロスを減らしていくか、作業をどのように効率化していくかなどの真剣な議論を重ねて、企業での製造販売業と同様の体験をしています。






生地づくりの作業をする利用者
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 その他にもパティシエのプロからは、「市場で競争していくために必要な意識に接すること」や、クリエーターからはパッケージを作ってもらう過程で、「デザインがお客様に与える印象が購買に大きく左右すること」、また、販売促進の効果として、「パブリシティがかかると注文が大きく増えること」なども、身をもって一般市場の感覚を実体験することができました。
 これらのことは就労を目指す利用者にとっては、一般企業がごく自然におこなっていることや企業で働く上で求められることなどを事前に考える、よいきっかけとなっているのです。

 これらの活動は全て、最終的には就労移行支援を通じた利用者の自立へと、収れんされていくのです。


「きずな」は、自らつむいでいくもの


 「きずな」というと、家族や友人などのように、自然にできるものというイメージがあります。しかし、今回の「きずなロール」の取材を通じて、自ら外に出て、自分たちでアクションを起こして働きかけていくことで、周りの人との共感し合いできあがっていくものだと感じました。日々の忙しさから外に出る機会を失い一般企業や外部団体と触れ合う機会が少なくなると、今までどおりの発想で物事を判断してしまいがちになります。しかし、自ら外に出ることでお客様の考えを聞いたり、自施設にはない人脈や情報などを補完することで、今、抱えている課題を解決するきっかけをつかむことは可能です。「きずなロール」が生み出す付加価値は、自ら外に出て新しい価値観に触れることにより生み出されました。「きずな」は待っていて自然にできるものではありません。どうしても自分たちで解決できない問題があれば、勇気を持って自ら外に出向き、つむいでいく必要があります。
 今回は、就労移行支援事業における「生産活動の目的」を改めて明確化・共有化したからこそ、事業改革が成功に結びついた事例です。なかなか企業への訪問や求職活動の時間がつくれないなど同じような課題を持っている施設の皆様に、もう一歩、外に踏み出す勇気を与えてくれる取り組みだと感じました。ときヨシエンタープライスの「きずなをつむいでいく取り組み」を拡げていくことが、きっと障害者の就労の機会を増やすことにつながっていくに違いありません。


取材日 : 平成21年11月

今回のポイント


@ 外部の視点を取り入れることで、内部のやり方や手法などを見直す等、業務改善につなげている。
A 本来業務である就労移行支援の時間を生み出すために、外部の力を有効に活用し補完している。
B 一般企業・団体と連携することで、就労の際に求められる能力や姿勢を学ぶなど、利用者のスキルアップや自立につなげている。

中小企業診断士 堀切 研一

施設概要


施設名 ときヨシエンタープライズ
設置者名 医療法人 北斗会
所在地 大阪府豊中市服部元町2-6-7
電話番号 06-6865-1210
代表者 理事長 澤 温(ゆたか) 氏
施設種別 就労移行支援
障害種別 精神障害者
開所時期 平成13年9月
利用者数 就労移行利用者18名
職員数 常勤4名、非常勤2名
FAX 06-6865-1620
連絡担当者 施設長 鹿島 美和 氏
事業内容 ロールケーキ・パンの製造販売、喫茶の運営、冊子・名刺等の印刷
平均工賃 時給400〜500円
URL http://www.hokuto-kai.com/shigoto.htm