サービス取組み事例紹介
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神奈川県 社会福祉法人 翔の会

就労支援と地域貢献、両方考え選んだ事業はフランチャイズのたいやき屋さん 夢ある街のたいやき屋さん若松町店

企業との連携や、ユニークな事業を取り上げ、他にはない先進的な事業を展開する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




「働きたい」障害者の声に応えてA型事業を立上げ


夢ある街のたいやき屋さん若松町店外観
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 平成21年11月13日。神奈川県茅ヶ崎市に、就労継続支援A型事業所「夢ある街のたいやき屋さん 若松町店」がオープンしました。茅ヶ崎市初のA型事業所。地域の障害者や家族、支援者等が待ち望んだ開店です。オープンの初日から年末まで、お店はうれしい悲鳴が続きました。1日平均20万円の売上です。「予想を超えるお客様にご来店いただき、無我夢中でやってきました」と施設長の佐藤伸氏は話します。1月に入っても平均10万円の売上を維持。毎日、約200人のお客様が来店する地元で評判の店になりました。「息つく暇もなく、たい焼きを焼いて、利用者の支援どころじゃなかった」。そう言いながらも、各持ち場で丁寧に仕事に取り組む利用者ひとりひとりを誇らしげに紹介します。
 さかのぼること1年半前、平成20年7月に行われた茅ヶ崎市民活動サポートセンターの交流懇談会でのことでした。「地元の企業に就職したい」「もっと働きたい」。当事者の生の声を聞き、その場の誰もが、「地域にもっと働く場を増やせないか」との思いを強くした会でした。この時、この事業を主催したNPO法人NPOサポートちがさきの事務局長 益永律子氏は、障害者雇用をしている都内のたいやき屋を見学したことを思い出していました。「茅ヶ崎にもあんな店ができたらいいなあ」・・思いの強さが出会いを生み出したのでしょうか。その直後に、「うちがやりましょう」と名乗りをあげる福祉サービス事業所が現れました。社会福祉法人翔の会です。


大いそがしのレジ対応をする従業員
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 翔の会は、「誰もが地域で豊かに暮らせるために」をモットーに、児童・障害・高齢の多様な福祉サービス事業を展開しています。理事の斎藤氏は、その頃、あるかたから「店舗にしてはどうかという場所があるので、使ってほしい」という相談を受けていました。実は、クレープ屋、おにぎり屋などのアイデアが出ていましたが、益永さんから「たいやき屋」の話を聞き、早速調査。トントンと話が進み、交流会から3ヶ月後の10月には事業化の本格検討が始まりました。NPOサポートちがさきとの連携により、横断的なプロジェクトとして話し合いが進みます。佐藤施設長は、上司の指示で途中からプロジェクトに加わりましたが、「ニーズがあるなら、それに応える」という使命感が職員にも浸透しているので、たい焼き屋を始める、と聞いても別に驚かなかったとのこと。設立趣旨からして、たいやき屋は就労継続支援A型でという決定は自然なものでした。


FCに加盟するということ・・・「得られる力と、高品質を維持する責任の重さ」


鉄板に並ぶ3種類のたい焼き
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 「夢ある街のたいやき屋さん若松町店」は、株式会社ファンシーコーポレーションが経営するたいやきチェーン「ほのぼのお好み鯛焼き本舗」のフランチャイズ加盟店です。フランチャイズ・システムとは、本部との契約にもとづいて、加盟店は、商標、チェーン名、ロゴ・マークや経営のノウハウを使用することができる仕組みのことです。加盟することで、チェーンの知名度、経営ノウハウ、システムが活用でき、高いレベルの商品、サービスをお客様に提供できるメリットがあります。店で販売しているたい焼きは、「つぶあん」「カスタード」「お好み焼き」の3種類。詳細なマニュアルのもと、絶対の自信を持って、お客様に商品をお出ししています。十勝産、契約栽培の小豆を、店頭で炊き上げていることも特徴で、お客様の支持を得ています。
 夢ある街のたいやき屋さんのサポートシステムには次のようなものがあります。
  ・ 開業支援
  ・ オープンまえ研修
  ・ 原材料の安定供給
  ・ オープン後のさまざまなサポート(各種会議での情報提供、研修、コンベンション、店舗巡回指導など)
 佐藤施設長や利用者のインタビュー中も、指導を受けている本部スタッフの名前が頻繁に登場し、手厚い支援を受けている様子がうかがえます。
 一方で、どの加盟店も同じ水準の商品・サービスを提供できることが前提となり、福祉の甘えは一切許されません。実際、多くの福祉サービス事業所が、チェーン加盟を検討しながら実行できない理由はここにあります。障害者が働いている店である前に、たいやきチェーンの看板を背負っている店として、商品や接客を高いレベルで維持しなければいけないのです。


地域コミュニティの拠点として、「小箱ショップ」を併設


地域コミュニティの拠点、小箱ショップ
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 「本部の理念に共感した点も事業選択の決め手になったと思う」と佐藤施設長は振り返ります。当チェーンは、「本物」のたい焼きで日本の食文化を守るとともに、事業を通じて夢ある社会、住みやすい環境づくりを実現するという社会貢献活動(ほのぼの運動)に取り組んでいます。「利益とともに社会貢献」、翔の会の目指す地域に開かれた福祉サービスの考え方と合致していました。
 たいやき屋の一角には、「NPOサポートちがさき」の1事業から発展した市民団体「コミュニティカフェゆめたい」が運営する小箱ショップが併設されています。たいやき屋にしては広いスペースをどう活用するか、という議論の中で、「小箱ショップ」案が浮上しました。いわゆる「箱くらい」の小さなスペースを月極めで売場として貸し出し、借り手(オーナー)の手づくりした手芸品やアート作品を展示販売するものです。店内でたい焼きを食べながら、壁面のブースを楽しそうに眺めるかたや、たいやきが焼けるまでの待ち時間に商品を手に取るお客様の姿が見られ、店の滞在時間を長くする効果も生まれています。市民に発表の場を提供するとともに、来店したお客様も心地よく、幸せを感じられる場所にしたいというねらい通りの空間が実現。半年間、プロジェクトで検討を重ねた甲斐がありました。現在、42ブースのうち27箱のオーナーが決定し、たいやきとの相乗効果も生まれています。翔の会からみれば、店の半分を小箱ショップスペースとして無償で提供し、広く市民に開放しているという点で地域に貢献できる活動となっています。


「店長になりたい」「企業でも働きたい」・・・高い目標を持つ障害者従業員が好業績に寄与


生地作りをする寺田さん
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 店には現在、10名の利用者(障害のある従業員)が勤務しています。早番、遅番の他、3時間単位の短いシフトを設定し、個々の利用者の状態と希望を踏まえた働き方ができる仕組みになっています。事業開始にあたって、翔の会では、障害者従業員募集の「求人説明会」を開きました。地域の作業所にかよっているかた、失業していて職探しをしていた方などたくさんの人が支援者とともに説明会に集まりました。その中から身体2名、知的6名、精神2名合計10名の利用者が決定しました。
 その一人である寺田さんは、以前は、茅ヶ崎市役所内の福祉喫茶「カフェドットコム」で働いていました。そこでは、主に接客業務を担当していましたが、さらにスキルアップしたいと希望してこちらに来ました。「今は、たい焼きの生地づくりと、レジ、パックを担当しています。14時30分から15時30分の時間はチラシ配りもやっています。 「早くたいやきを焼けるようになりたい。ゆくゆくは企業でも働いてみたい」。具体的、前向きな発言が、現在の充実した生活ぶりをうかがわせます。
 体調管理等への配慮から、3時間の短いシフトで働いている利用者もいますが、「少しずつ時間を増やしていきたい」と意欲を見せているとのことです。
 笑顔のすばらしい増藤さんは、オープンセレモニーで従業員を代表し、次のような挨拶をしました。
 「最初は生地づくり・レジなどからスタートして、是非3年後には焼き台で(たいやきを)焼けるようになりたいと思います。将来は店長を目指しています。まだ慣れないことも多く、緊張の連続ですが、地域の方々、本部の方々、仲間や先輩の温かいご指導を得て、やりがいのあるたい焼き屋でみんなと働きたいです」
 開店から2ヶ月半が経過した今、増藤さんは、店長を目指し、ますます日々の仕事に意欲的に取り組んでいます。「生地のまぜ加減が難しい」「早く作って、と施設長から言われる」「あん炊きの手順が覚えられない」。一方で増藤さんは、店一番の営業マンでもあります。抜群の笑顔と人なつこさを武器に、時間があれば、店頭に出て、たい焼きをPRします。集客、注文にすばらしい効果をもたらしています。
 毎日がプレッシャーとの闘い。これは職員も利用者も同じです。「お客様においしいたいやきをお届けする」という同じ目標を持って、ともに働く職場になっています。これこそがA型事業所です。プレッシャーにも負けずに頑張る利用者の姿に、施設長は、「本物の職場が利用者を育てる」ことを実感する日々です。


シンプルな商品アイテム、多様な工程が、障害者の力を高める職場として好適


笑顔があふれるたい焼き屋従業員
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 個々の利用者の希望を汲み、個別支援計画を作っていますが、たいやきの仕事は、工程が多様で、それぞれの仕事が明確になっている点で、目標や支援方針が組み立てやすいと言います。事前に、数名の職員が本部で研修を受け、「洗い物」「掃除」「生地づくり」「あん炊き」「レジ・パック(包装)」「焼き」といった一連の作業ができるよう訓練されました。施設長やサービス管理責任者の矢澤氏は、工程ごとの難易度や求められるスキルを体得したことにより、利用者の適性に合わせた配置や、今後のステップアップ目標も作りやすかったとのこと。店長候補の増藤さんの場合は、たい焼きが焼けるようになることを目指すと同時に、管理業務を徐々に覚えてもらおうという方針で、在庫管理や発注にもチャレンジしてもらう計画です。
 「商品アイテムが少なく、管理しやすい点も、私たちには合っています」。季節のたい焼きなど、今後商品の種類が増える可能性はありますが、何十種もの多岐にわたることはなく、「つぶあん」「カスタード」「お好み焼き」の3種を、基本に忠実に美味しく作り続けることが基本ですから、正確に、丁寧に技術を極めたい障害者には、挑戦するだけの価値ある仕事かもしれません。


福祉だからと甘えるのではなく、福祉だからこそ、持てる力を地域に還元したい


佐藤施設長
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 オペレーションが心配だったので、特に宣伝はしなかった、にも関わらず、店には行列ができました。近所にたい焼き屋さんがなかったため、地域のかたにとってもうれしい開店だったのでしょう。反響の大きさは、店名で検索した際に挙がってくる市民のブログの多さでもわかります。福祉サービス事業所を応援しようという福祉関係者の声もありますが、たい焼き屋さんとして「行ってきた」「食べてみた」という記事が多数みられます。地域のお客様の支持がいかに得られるか、が成長のバロメーターだとすると、出だしは好調のようです。小箱ショップも予想を上回る売上を確保し、評判も上々です。棚にはセンスあふれる手づくりクラフトが並び、たい焼きが焼けるのを待つ間、お客様の目を楽しませています。
 一方で、オープン景気が過ぎたあとの集客対策、オペレーションの改善、利用者との面談等支援の充実、たいやきを焼ける非常勤職員の育成など、安定経営に向けた課題も山積しています。焦らず、しかしできるだけ早く改善したい課題とのこと。「ひとつひとつやっていきます。これからが大事なところです」。
 佐藤施設長は民間企業勤務を経て、翔の会に入職して12年。法人内の入所施設や法人事務局などを転々としてきましたが、就労支援にはずっと関心をもち、施設を超えたプロジェクトにも積極的に携わってきました。「思いが上司にも伝わっていたのかな」。現在は、複数の就労系事業所の施設長を兼任し、大いそがしの毎日です。


ちらし配りに行く従業員
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 「障害者の働く場を創ること、そのためには、まずこの店を1年、しっかり回すことを考えます。利用者もあと1、2名は増やすつもりです。その上で、この店の成り立ちから考えれば、もっともっと地域に開かれた店にしていきたい。」「たい焼きをもって、地域の高齢者や子どもたちともっと接点を作りたい。コミュニティカフェゆめたいやNPOの連携も強化して、新しいことにもチャレンジしたい。地域の活性化につなげたい。」施設長の夢も広がっています。
 2月からは、たい焼きの配達サービスも試行実施します。普通のたい焼き屋ではあまりないサービスです。配達用の車も寄付してもらいました。看板と同じマークの入った車が近隣を巡回し始めることで、店の認知度アップ、来店数アップも期待できます。ますます忙しい店になりそうです。「利用者が店長」という日の実現も、そう遠くはないように思います。
 フランチャイズ・システムを活用し、就労継続支援A型事業を展開しているひとつの事例ですが、「本部と良好な関係を作りながら、福祉の強みを活かし、利益アップに貢献できることならばこちらからも提案する」「市民に助けてもらうだけでなく、助け合う関係を作る」など、新スタイルの福祉サービス事業所として飛躍を予感させます。今後の取り組みにも目が離せません。


取材日 : 平成22年1月

今回のポイント


@ フランチャイズチェーンに加盟し、高品質の商品・サービスにより就労継続支援A型事業を展開している。
A 店の一部を無償で提供し、市民団体との連携で小箱ショップを併設したことが、集客アップやサービス向上につながり、相乗効果を生んでいる。
B 民間企業のノウハウを取り入れながら、福祉の持つ強みを発揮した新たなビジネスモデルの構築に挑戦している。


コンサルタント 稲山 由美子

施設概要


施設名夢ある街のたいやき屋さん若松町店
設置者名社会福祉法人 翔の会
所在地神奈川県茅ヶ崎市若松町2-27
電話番号0467-84-1883
代表者理事長 菊池 謙一郎 氏
施設種類就労継続支援A型
障害種別知的、精神、身体
開所時期平成21年11月
利用者数10名
職員数管理者1名(兼務)
サービス管理責任者1名(兼務)
常勤1名
常勤以外8名
FAX0467-84-1883
連絡担当者施設長 佐藤 伸 氏
事業内容たいやき製造・販売
平均工賃790円(時給)
URLhttp://www.syonokai.jp/