サービス取組み事例紹介
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三重県 社会福祉法人 夢の郷

サポーターと共にこだわりパンの製造販売で伸びるクローバーハウス

地域住民を巻き込んだ事業スタイルや、自治体との連携をした事業、地域の特産品を活かした事業等、地域と連携をしながら発展する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




地元の小麦粉、卵、野菜……「地産地消」にこだわる


さとのパン  クローバーハウスは、三重県津市の閑静な住宅街が立ち並ぶ高台の一角にあります。母体となる社会福祉法人 夢の郷 では、精神障害者の社会復帰を目的に生活支援、生活訓練、就労支援、グループホームと多岐に渡ったサポートにより、障害があっても地域で暮らせるシステム作りを目指しています。その中で、就労及び就労移行支援の場として、積極的に地域と関わり工賃アップを実現しているのがクローバーハウスです。この名前には、四葉のクローバーにちなんで、「希望、信仰、愛情、幸福」という想いと、また一般のお店のような名前にすることによって、利用者(障害者)に施設というイメージを感じずに働きに来てほしいという願いが込められています。
 クローバーハウスの事業の柱は、「さとのパン」の名前で親しまれているパンの製造販売です。パンの製造に取り組む作業所は数多くありますが、町のパン屋さんも経営が厳しい今の時代、単なるパンではアピールできません。
 この点、クローバーハウスは地産地消をモットーに地元三重県産の小麦粉(ニシノカオリ)、卵などの原料を使用するとともに、冷凍生地を使わずに粉から手作りすることにこだわりました。その結果、地域の方に、おいしくて安全、安心なパンが食べられると大好評で、販売を心待ちにされるお客様を数多く持つことに成功しています。
 パンの販売はお昼までが勝負。朝礼が終わるとすぐにパンづくりが始まります。
 衛生面は厳重に管理され、利用者たちは服装、履物を着替え万全の支度でパン工場に入ります。焼きあがったパンを袋に詰め、シーラーをかけ、さらにパンセットのお客様向けに仕分し、一人分ずつエコバッグに詰めていきます。エコバッグはセット内容によって色を変えており、それに貼るラベルも同色にするなど、間違えが起こらないように正しくセットするための工夫が施されています。また、誰が作業をしてもお客様に安全な商品をきちんとお届けできるように、食パンの口をソフトワイヤーからテープ留めに変え異物混入を防ぐなど、環境保全と衛生管理を徹底するための配慮が感じられました。
 この他にも、お昼にかけて、配達や対面販売をおこない、午後は翌日の下ごしらえや袋に貼るシール、ラベル作りと多くの仕事があり、利用者は充実した毎日を送っています。


5万円の工賃を目指して


さとのパン製造作業  以前、クローバーハウスでは障害者が地域で自立した生活を継続するには、最低8万円程度の収入が必要と試算しましたが、多くの利用者が障害基礎年金2級、月66,000円の収入で、不足分を家族からの援助等に頼っている現実がありました。しかし、精神障害者が働く場合、疲れやすく集中力が続かないこともあり、作業もゆったりしたペースで進めざるを得ず、作業収入は横這いで不足分を補うまでに至っていませんでした。
 そこで、現在、クローバーハウスでは、経営の専門家のアドバイスを受け、月5万円以上を目標にした工賃アップに取り組んでいます。
 具体的には、数多く行なっている作業種目の中から、安定した収入の見込めるパン製造の作業を重点テーマとして、工賃5万円を実現するために年間2500万円の売上目標を設定しました。
 そのためには、1日800個の製造販売が必要となるので、それに必要な生産方法、販売方法を見直していくといったように、目標設定からその達成方法まできちんとしたプロセスで事業計画を作っています。「作業量が増えることで精神障害者の負担も増えるのではないか」という心配もあり、多くの討議を重ねましたが、最終的に自立した生活を実現するという目標を見据えて実行に踏み切ったそうです。
 結果として、事業計画立案前に比べるとパンの販売は3倍近い1500万円程度にまで売上が伸びてきました。工賃についても6時間作業ができる人は月44,000円、全体平均でも月23,000円にアップし、確実に目標に近づいています。心配された利用者の負担も、個人差はあるものの「収入が増えて嬉しい」「やる気、張り合いが出てきた」という声も聞かれるようになり、収入増が喜びにつながっているようです。


固定客をつかめ!


パンセットの仕分、エコバッグへの詰め作業  パン販売の柱となっているのがパンセットの配達です。これは、毎週1回お客様の自宅にお届けするというもので、食パン+菓子パンのAセットと、菓子パンばかりのBセットの2種類があり、月額2500円となっています。この販売方法によると申し込んでいただいたお客様の数によって販売数量の見込みが立ち製造のロスも防ぐことができます。また、一度申し込んでくれると継続的に購入していただけるお客様が多く、売上が安定してきます。
 また、毎週お客様に楽しんでいただけるよう、菓子パンは毎回異なる組み合わせにしており、さらに季節のパンとして、その時季ならではの商品を作ったり、定期的に新商品を追加したりと商品開発にも余念がありません。このような活動がお客様にも好評で、最初は個人宅をまわっての営業活動からスタートしたのですが、紹介や企業を窓口にした申し込みがあり、現在では360件ものお客様が、毎週「さとのパン」のパンセットを楽しみにされています。
 クローバーハウスでは、今後も目標達成を目指して「パンセットのお客様を増やしていきたい」としています。


苦情にも真摯に耳を傾ける


サポーターとの交流の様子  クローバーハウスにはサポーターと呼ばれるお客様がいます。
 サポーターは単にパンを買っていただくだけではなく、クローバーハウスの活動に理解を持って、色々アドバイスをしていただけるメンバーです。会費等はありませんが、このサポーターとの交流を通して障害への理解を深めてもらい、また、パンに対する意見・要望をいただき、商品づくりに反映させています。「こんなパンはどうか」といったアイディアもありますが、時には悪い評価をいただくこともあります。しかし、こうした声を真摯に捉えて商品の改善に役立てています。
 クローバーハウスでは、コミュニケーションツールとしてミニ情報紙を発行したり、新商品の試食会(有料だそうです)にお招きしたりして、サポーターの方々と積極的に交流の場を作っています。こうした姿勢や活動がより良い商品を生み、新しいお客様の獲得につながっているのではないかと感じました。


就労移行にも注力


サービス管理責任者 又市 婦美子 さん  クローバーハウスでは就労移行支援にも力を入れており、年間3〜4人は一般就労に移行しています。
 クローバーハウスでは、地域の工場からの受託で機械部品の分解、組立、仕上げ作業等もおこなっています。これらの仕事は、企業様から指示を受け、決められたルールに従って作業し、納品するという仕事の基本を身に付けるのに役立っています。
 また、パンの製造販売では、多くのお客様と接する中で、良い商品を作ることはもちろんのこと、きちんと接客応対することが重要であることを学んでいきます。
 さらに、クローバーハウスでは、外部講師を招いて、スタッフを含めた全員の勉強の機会をつくっています。例えば、販売士3級の取得の為に講座を開催しました。合格率はスタッフを含めて50%程度ですが、商品販売一つをとっても非常に奥が深く学んだことが多かったといいます。その後、朝礼では接客基本用語の唱和をおこなうなど、学んだことを現場で活かす取り組みも進めています。
 これらのお話から、重点テーマを作って計画的に取り組むことによって成果が出る、そして、次のステップが見えてくるということを強く感じました。
 今後も、障害者の地域で生活できるシステム作りをより確実な形にしていくために「パンの製造販売を柱としながら、常に今の仕事を見直し、改善を進めていきたい」というスタッフの言葉に大きな可能性を感じました。

取材日 : 平成20年7月

今回のポイント


@ 数ある作業種目からパンの製造販売に重点化し、地産地消というキーワードで特化を図った上、明確な目標を持って事業計画を組み立てている
A 特にパンセットという販売形態を開発し、売れる仕組みづくりという営業の基本に忠実な活動に取り組み、安定した収入を得ることに成功
B サポーター制度を作り、地域のお客様との交流を深めながら、いただく意見を商品作り、施設運営に反映させ、より顧客満足度の高い商品提供に継続的に取り組んでいる
C 自前の事業だけでなく、一般就労に向けても作業者のレベルを上げるべく、外部の力を借り、研修、教育を充実させている

経営コンサルタント 今村 忠弘

施設概要


施設名 クローバーハウス
設置者名 社会福祉法人 夢の郷
所在地 三重県津市城山1丁目8番16号
電話番号 059-238-0303
代表者 施設長 中村 立身 氏
施設種類 就労移行支援就労継続支援B型
障害種別 精神障害、知的障害、身体障害
開所時期 平成11年4月
利用者数 31名
職員数 常勤6名 非常勤2名 計8名
FAX 059-238-0304
連絡担当者 サービス管理責任者 又市 婦美子 氏主任支援員 林 清美 氏
事業内容 パンの製造販売(さとのパン)受託作業(製造業、組立、分解)
平均工賃 23,573円(平成19年度)