サービス取組み事例紹介
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愛知県 特定非営利活動法人 楽笑

三谷町を後世に残すために共生できる町をつくる楽笑

地域住民を巻き込んだ事業スタイルや、自治体との連携をした事業、地域の特産品を活かした事業等、地域と連携をしながら発展する事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




障害のある人もない人も皆で働ける場を作りたい!


すぐそばにある三谷漁港
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 愛知県蒲郡市は人口約8万2千人で本州の中心に位置する都市です。市内三谷地区は、波穏やかな三河湾に面しており、年間を通じて温暖な気候に恵まれ、みかん栽培や水産業が盛んなところです。
 特定非営利活動法人楽笑はこの三河湾内の三谷漁港のすぐそばにあります。この辺りは、水揚げされた魚を加工する水産加工所や木造の民家が立ち並ぶ昔ながらの漁師町です。毎年秋開催される「三谷祭」は昔から続く三谷町の最大の祭りです。地域の人々が集まり、人と人とのあたたかいつながりが存在しています。



三谷漁港の様子
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 この三谷町で育った代表の小田さんが福祉に携わるようになったのは、姪の障害がきっかけでした。彼女がこの町でいきいきと働き、暮らすにはどうしたらいいのだろうか、と考えていたある時、福祉に精通しているかたのお話を聞き、自分自身で障害者の職場をつくろうと思い立ったのです。
 「障害者の職場をつくりたい」。思いを地域の人達に話しましたが、反応はいまひとつ。障害者に対する漠然とした不安、一緒に働くといっても、どうしたらいいのか、という心配。地域の人々との対話を重ねる中で本音も聞こえてきました。「障害のある人たちの職場が少ないことは理解できる。けれど私たちだって、働く場所がそんなにあるわけじゃない」
 「障害者のための職場づくり」という狭い視点ではなく、地域の課題全体に目を向けなければダメなんだ、そう気づいた小田さんは「子供が安心して集まれる場所がない」「元気なうちは家の近くで働きたいなあ」といった地域の声に耳を傾け、地域の人と障害者が一緒に働ける事業を立ち上げるに至りました。「世の中の課題をビジネスで解決しよう」という『社会起業』発想の福祉事業所の誕生です。


主婦と障害者が一緒に働ける場所“八兵衛”


八兵衛の外観
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 平成19年5月にパン工房「八兵衛」がオープンしました。職員の大半は主婦と高齢者、常勤3名に対して非常勤は10名。それぞれのライフスタイルに合わせて働いているスタッフが多いためです。小田さんの奥様はそのリーダー的存在です。
 パン工房「八兵衛」は、三谷漁港のすぐそばの民家が立ち並ぶ住宅街に建っています。建物の外装や看板は地域の人達が協力して作成してくれました。その佇まいから手作り感が伝わり、温かい雰囲気を感じさせるお店になっています。子供の集まる場所が少ないという地域の声を反映し、昔ながらの駄菓子屋さんが併設されています。
 パン工房「八兵衛」の名前は地域の人々が付けてくれたそうです。子供もお年寄りも誰もが集う「六兵衛」という店が昔、この地域にあったそうです。それにちなんで、「六」を末広がりの「八」に変え、「八兵衛」と名づけられました。

パンの販売コーナー。約60種類のパンが並ぶ
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 八兵衛には厨房と販売コーナーがあり、毎日約60種類のパンが販売されています。子供が喜ぶキャラクターのパンや家庭的な惣菜パンなど、スタッフである主婦が楽しんで作っているからこそ出来るアイディア満載の手の込んだパンが並んでいます。厨房では「何の果物をのせる?」「桃をのせたら値段が高くなっちゃうね」と商品開発の話題が飛び交っています。製造も販売も、商品開発も主婦たちと障害者スタッフが主体的に行う八兵衛は、明るく家庭的な雰囲気のお店となっています。
 現在、パン工房の売上は1ヶ月約60万円、1年間で約700万円です。店舗での販売以外に、蒲郡市内の病院と大学への週1回の出張販売、地元小中学校の先生や職員への販売をおこなっています。病院と大学への販売は行政からの紹介、学校への販売は主婦スタッフが直接学校へ交渉し、販路を開拓したそうです。


高齢者と障害者の生きがいの場所 干物屋“十兵衛”


十兵衛の外観
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 パン工房が地域に根付き始めた頃、小田さんは障害者の職場を中心にもっと地域を活性化できるのではないかと考え始めます。パン工房では主婦と共に事業を立ち上げましたが、次は、高齢者にも仕事と生きがいを提供したいと考えました。発案から1年後、干物の製造販売という地場産業を活かした酒菜屋「十兵衛」 を立ち上げました。





干物の販売ケース。9種類の干物が並ぶ
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 酒菜屋「十兵衛」は、八兵衛から歩いて1分程の所にあります。十兵衛の建物や看板もパン工房八兵衛と同様に地域のかたの協力で作られました。店内は大漁旗やたるのディスプレイでお洒落な雰囲気。若い年齢層でも気軽に立ち寄れる空間を演出しています。店内の冷蔵ケースには9種類の干物が陳列されています。干物の材料は、市場に利用者と職員が出かけ、旬のものを中心に卸値で購入しています。
 酒菜屋「十兵衛」の売上は、月に55万円程です。店舗販売以外に、大手ショッピングセンター内のスーパー、居酒屋4店に商品を納めており、安定的な販売先を確保しています。また、市内18か所の保育園にも定期的に納めています。この地域では、小さい頃から地元でとれた魚の干物をおやつとして食べる習慣があり、十兵衛の干物は保育園児のおやつとなっています。居酒屋への卸は小田さんの知人の紹介、ショッピングセンターは利用者のご家族の紹介、保育園は行政からの紹介で販路を獲得したそうです。八兵衛、十兵衛共に地域の障害者理解の深まりと、地域で地域を支える昔からの良い連携によって、楽笑が発展してきたことがうかがえます。


仕事を通じて得られた地域の理解


利用者がパンの名前が書かれている札を取り付ける様子
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 楽笑の利用者の表情から、働く楽しさと、これが自分の仕事であるという誇りが伝わってきます。利用者のご家族から、「楽笑に通うようになって、表情が変わった。楽しそうで、毎日に張りが出たようだ」と嬉しいコメントをいただいたこともありました。そんな利用者の姿が、地域の人達の漠然とした障害への不安を徐々に解消してきました。今では地域の人々が道端で利用者に声をかけている姿がこの街の風景となりました。





利用者がとり貝のむき作業をしている様子
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 「利用者の働く姿を身近で見てもらい、十分な労働力になることを知ってもらえば、障害者雇用の道もひらける」。小田さんの夢は広がっています。地元に点在する水産加工業者を中心に、障害者の実習を働きかけ、実習から雇用へつなげたい・・・地場産業である水産加工に関連した事業を選んだメリットが活かせそうです。企業と連携してA型事業を展開することも次の目標の一つ。「地域で誰もがいきいき働ける職場を増やす」。思いを実現するためさまざまな方法を模索しています。









誰もが共生できる、住みやすい街をつくることを目指して


パン工房で地域の主婦と利用者が一緒に働く様子
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ベテラン従業員と利用者が一緒に働く様子
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 楽笑は、地域の協力でお店ができました。主婦やお年寄りの働く場でもあり、地域の人がお客様でもあります。また、保育園や小学校が取引先となっています。楽笑は、どこを切っても地域の人達との関わりがあり、地域の人たちによって支えられているのです。
 昔からの“水産業”とまち全体の“祭り”で繋がり、互いを大切にする三谷町だからこそ、このような地域に開かれた事業所が出来たと考えられます。そしてそれ以上に、楽笑の代表や職員さんが、絶えず地域全体が良くなる事を考え、地域を理解し、地域からも理解されようという姿勢で取り組んできたことが、このような素敵な連携を生み続けているのだと実感しました。近所のつながりで始まった楽笑は、お祭り保存会や消防団、子ども会、三谷町開発委員会、観光協会、行政等の連携までに広がっています。これからもさまざまな連携を生み続け、地域で支えあいながら発展していくことでしょう。

 最後に、代表の小田さんの言葉をご紹介します。
 「今後も、三谷の町の人達が大切にしてきた人のつながりを大事にし、地域全体がよくなる事を考えていきたいと思います。これから10年をかけて三谷の町を活性化し、障害者も子供もお年寄りも誰もが住みやすい街づくりに貢献していきたいと思っています」


取材日 : 平成21年6月

今回のポイント


@開所前から地域の人達の意見を聴き相談しながら、一緒に事業所・店を作り上げた。
A地元の資源(人、産業、文化)を活用し、事業を立ち上げた。
B障害者も高齢者も主婦も分け隔てないダイバーシティ的な理念を掲げ、地域の発展を願い社会起業をした。


経営コンサルタント 矢田 祐二

施設概要


施設名 日中支援センター  パン工房「八兵衛」 ・ 酒菜屋「十兵衛」
設置者名 特定非営利活動法人 楽笑
所在地 愛知県蒲郡市三谷町魚町通12-1
電話番号 八兵衛:0533-69-1169
十兵衛:0533-66-0291
代表者 小田 泰久 氏
施設種別 就労継続支援事業(B型)
生活介護事業
障害種別 知的、精神
開所時期 平成19年
利用者数 15名
職員数 13名
(常勤3名、非常勤10名)
FAX 八兵衛:0533-67-7156
十兵衛:0533-66-0292
連絡担当者 小田 泰久 氏
事業内容 パンの製造・販売
干物の製造・販売
平均工賃 平均約18,000円