サービス取組み事例紹介
トップ

神奈川県 特定非営利法人 横浜市 手をつなぐ育成会

障害者の就労機会拡大・実践的訓練を「お客様に支持される店」で実現する ふれあいショップかもめ

一般就労の実績が著しい事業者、企業内での実習の取り組みなど、一般就労へ向けた取り組みとして優秀な事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




障害者スタッフが主戦力。健常スタッフは全員「サポート店員」と呼ばれる店。


明るく入りやすい外観  「ふれあいショップ かもめ」は横浜市中区のJR根岸線関内駅の高架下にある喫茶店です。駅改札口からは徒歩で30秒あまり。ガラス張りの店内は見通しがよく、入りやすいお店になっています。
 ふれあいショップは、「障害者の就労機会の拡大と、市民の障害者理解促進」を目的として、横浜市が公共施設等に設置している喫茶・売店の総称です。「かもめ」はふれあいショップ1号店として平成4年12月にオープンしました。いわゆる福祉喫茶の草分け的な存在ながら、市民に愛される店として今も輝き続けています。「かもめ」の頑張り・成果を受け、市はふれあいショップ事業を精力的に拡大。現在(平成20年4月)では市内全域に約20ヶ所の店が設置され、多くの障害者が日々研鑽を積み、活躍する職場となっています。
 ふれあいショップ構想は、「かもめ」の運営母体であるNPO法人「横浜市手をつなぐ育成会」が、横浜市に働きかけたことにより実現しました。育成会では、かもめの他に現在2店舗のふれあいショップを運営しています。かもめ開業は16年前。この間、関内の街も大きく様変わりし、環境変化に対応して売上を確保するには苦労も多かったことと思いますが、店内は、そんな苦労を全く感じさせない「のどかで温かな空気」に満ちています。まさに「継続は力なり」。1号店としての責任と自負が伝わってきます。
 ふれあいショップでは障害者スタッフを「店員」、一般従業員を「サポート店員」と呼ぶルールになっています。「皆さんが中心となって働く店です」というメッセージを込めた呼称が、障害者スタッフのプロ意識を育てます。現在「かもめ」は店員の知的障害者4名、サポート店員の常勤3名、非常勤3名で運営されています。サポート店員は常時2、3人ほどです。
 営業時間は10時〜18時で、店員の勤務時間は早番9時30分〜16時、遅番11時30分〜18時の1日5時間。日・祝日は定休日で土曜日は交代制です。店員は接客と配膳を担当。立ち仕事で1日5時間しっかり働ける体力や持久力が求められます。


段階的指導により、店員の着実な成長を促す


ていねいな接客をこころがける店員  「いらっしゃいませ!先に食券をお願いします。」 何気なく席に着いた私たちに、店員の女性が声をかけました。きびきびとした気持ちの良い接客です。店員の業務の中心はお客様と直接やりとりを行う接客サービスであるため、特に念入りに教育するとのこと。行き届いた指導ぶりがうかがえます。朝礼では、早番の店員とサポート店員で、その日行うことや基本の挨拶の復唱をします。挨拶の復唱は店員がリーダーになって掛け声をかけますが、最初は嫌がっていた店員も、次第にリーダーという意識が芽生え、大きな声を出すようになるそうです。
 店員は3つの段階を経ながら、仕事を学んでいきます。第1段階は接客です。@来店したお客様がレジで食券を購入し席に着くと、店員は水を運ぶ、Aお客様から食券を回収して、半券にテーブル番号を書いて、調理場のカウンターに置く、B料理ができたらお客様に配膳し、半券に「済」と書いて、食後にドリンクの提供を行う。ここまでの作業がスムーズに間違いなくできることが第1段階です。
 第2段階は買物です。不足している食材を近所のスーパーマーケットまで買い出しに行ってもらいます。
 第3段階はつり銭準備です。銀行に行って、つり銭を両替します。毎日必要なつり銭の種類や枚数は変わるため、サポート店員が書いたメモ通りに両替機を操作しなければなりません。
 これら3つの段階を経て、さらにおつりの計算ができるようになると、レジの操作をすることができます。
 仕事の種類、店員に任せる範囲、育成手順等が明確であることは、働く力を高める上でとても重要なことです。店員自身にもステップアップの道筋を示すことがチャレンジ精神の醸成につながります。
 ふれあいショップの店員は原則3年という期限つき。3年経ったら一般就労に向けステップアップしていきます。就職先は必ずしも飲食業ではありませんが、「かもめ」で体感した厳しさ、喜び、達成感など「実践の積み重ねで得られた成果」は、就職先でも必ず生かせているはずです。


店舗改善・サービス向上で集客力アップ


黒板POPで集客促進  昨年度、かもめは、床・テーブルの補修、分煙化に伴うレイアウト変更など店の改修を行いました。厳しい経営環境下で頑張ってきましたが、さすがに店舗の老朽化が目立ち、苦慮していたところ、「ふれあいショップパワーアッププログラム事業」が実施されることとなり、この事業の一環で店舗リニューアルが実現しました。この事業は、売上向上に向け、ソフト・ハードの改善計画を提出し、それが妥当と認められれば店舗改修・設備増設等費用を市が上限つきで補助するというもの。「かもめ」は、お客様の立場に立って、リニューアルを行いました。
 ハード面では、正面看板の大型化や、店舗側面に「喫茶・軽食ふれあいショップかもめ」とクリーンシートを貼り、店舗をわかりやすくしました。また、床やテーブルの補修をして、店の清潔感を高め、プロの写真家に依頼して、写真入りのわかりやすいメニュー表を作成しました。
 さらに、昨今の分煙化の流れを受け、補助金では賄えない分煙化工事を自己資金で実施。これまでは客席に2台の空気清浄機を置いていただけでしたが、パーテーションをしていた店舗奥の客席を喫煙席(12席)、入り口寄りを禁煙席(20席)とし、仕切りをガラススクリーンに交換することで、店の快適性を高めることができました。
 ハード面の改善に併せて、ソフト面の充実にも注力。月替わりのお勧めメニューを黒板POPで表示した他、毎月2回(9日と22日)に無料コーヒーサービス券を配布して、リピート対策を図りました。
 改善効果は目ざましく、これまでは中高年のサラリーマンが多かったのですが、女性客やお子様連れが増加しました。安心して入れ、ゆっくりとくつろげるという雰囲気づくり、再来店を促す工夫が客数アップにつながっています。


「繁盛店であり続けること」はもう一つの重要なミッション


 店長の大橋さんはボランティアのときから「かもめ」の開設に立会い、開店後まもなく店長となって以来、この店の運営に携わっています。ふれあいショップは地域に愛されて、何回でも来ていただくための店にしなければならないと大橋さんは語ります。繁盛店であり続けなければ、障害者の職業訓練も、市民の障害者理解も十分な成果を出すことができないからです。
 設備改修はここ数年の課題でしたが、ようやく実現し、リフレッシュした店内で、全スタッフがこれまで以上に張り切っています。それまでもただ手をこまねいていたわけではなく、お客様の要望に応えて、厨房設備の制約はありながらもメニューの充実化を図ってきました。また、お客様が飽きないように月替わりでメニュー開発し、例えばカレーの時には“カレー三兄弟”と名づけて、普通のカレー、かつカレー、ドライカレーの販促を行うなど知恵を絞り、お客様に愛される店づくりを行ってきました。
 「この店は大きな特徴はありませんが、街なかの普通の喫茶店のメニューをリーズナブルな価格で提供することでお客様に支持されていると思います。」この誠実さが店のムードにも反映している点、そして最近都会では少なくなった「きちんとご飯が食べられる喫茶店」であることが、かもめの最大の魅力なのです。
 原材料高騰で粗利益率の確保がさらに厳しいなど経営面での課題はたくさんありますが、「店員の明るい笑顔で乗り切りたい」と大橋さん。長年、店に通い続けてくださっている常連さんもかもめの味方です。
 「一生懸命働いているし、丁寧な応対がとてもいいですよ。」お客様に見守られながら、障害者スタッフは働く力を高め、そして巣立っていきます。


取材日 : 平成20年7月

今回のポイント


@ 障害者スタッフを「店員」、それを健常スタッフが「サポート店員」として支える役割分担、店員の仕事の種類・ステップアップ手順の明確化により、段階的に能力アップを図っている。
A 職業訓練は「にぎわう店」でなければ成立しないという危機感を持ち、「多くのお客様に繰り返しご来店いただける店づくり」を徹底。お客様に愛される店を追求している。

中小企業診断士 有村 知里

施設概要


施設名 ふれあいショップ かもめ
設置者名 特定非営利法人横浜市手をつなぐ育成会
所在地 神奈川県横浜市中区港町2-9
電話番号 045-663-6501
代表者 理事長 田中 栄子 氏
施設種別 横浜市ふれあいショップ事業
障害種別 知的障害
開所時期 平成4年12月
利用者数 4名
職員数 常勤3名 非常勤8名 計11名
FAX 045-663-6501
連絡担当者 店長 大橋 和子 氏
事業内容 喫茶店
平均工賃 50,000円前後