サービス取組み事例紹介
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福島県 社会福祉法人心愛会

施設は“通過点”!就労移行支援に注力するコパン

一般就労の実績が著しい事業者、企業内での実習の取り組みなど、一般就労へ向けた取り組みとして優秀な事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




ともにパンを食べる仲間たち!


パン釜担当の利用者
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 社会福祉法人心愛会は、特別養護老人ホーム、高齢者向けケアハウス、訪問介護事業、高齢者小規模多機能事業所等の福祉事業を福島県郡山市および会津地域で行なってきました。高齢者に特化して事業を展開してきた法人です。
 この法人が、障害者向けの福祉事業をスタートさせたきっかけは、会津若松市内で運営を行なっていた3つの作業所の経営が立ち行かなくなり、ボランティアとしてときおり作業所を手伝っていた三瓶施設長に相談があったことです。法人として3つの作業所をまとめて引き受けることを決定、2年前の平成19年5月に障害福祉サービス事業所コパンがオープンしました。
 利用者の状況・障害特性に応じて選択したのは、就労移行支援事業、就労継続支援事業B型、生活介護事業、児童デイサービス事業の4事業。

コパン店内。暖炉のあるコーナー
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 就労移行支援事業および就労継続支援事業の利用者が携わる事業として、もとの作業所が行なっていたパンの製造・販売を行うことを前提に、焼きたてのパンをお客さまに提供するベーカリーカフェを一緒に立ち上げることとしました。これらの事業に加え、現在は、豆腐の製造・販売、分子模型の製造・販売、清掃業務(クリーンコパン、就労移行支援事業利用者のみ)を行なっています。
 施設名でもあり、ベーカリーカフェの店名にもなっている「コパン」。これは、フランス語で「ともにパンを食べる仲間たち」という意味だそうです。利用者と職員がともに働き・トレーニングに励み、大変さや喜びを分かち合いながら、ともに美味しいパンが並んだ食卓をにぎやかに囲む・・。そんな光景が目に浮かぶような素敵なネーミングです。


メルヘンシックなベーカリーカフェ


メルヘンシック”なドリンクメニュー
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 コパンは、会津若松駅から東北の方向に車で5、6分ほど走った場所にあります。道路から少し高く盛られた土地の上に建つ建物の外観は、障害者施設が運営するカフェであることを全く感じさせない、オシャレな雰囲気が漂っています。オレンジの外壁と煙突がアクセントとなったカフェに向かうのは何ともワクワクした気分です。店内は東側一面が大きなガラス窓になっていて、お隣の会津大学キャンパスの木々を眺めることのできる、とても開放的でくつろげる空間になっています。コパンでは、“シックな雰囲気の中にメルヘンチックな可愛らしさをプラス”した雰囲気を目指しており、それを名付けて“メルヘンシックな店作り”としています。
 カフェでは、同じ建物内のパン工房で製造した焼きたてのパンや焼き菓子をコーヒーや紅茶、季節のフレーバーティーなどと一緒に楽しむことができます。また、パン売場も用意されていて、パンを購入して帰ることも可能です。取材当日も、入れ替わり立ち代りお客様が来店し、カフェで一人お茶をしたり、友人とおしゃべりを楽しんだり、いくつもパンをトレーに乗せて買い物を楽しむ姿が見られました。

パン販売コーナー。毎日、50種類近くのパンが並ぶ
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 パンの新製品開発を担当するのは、パン工房で働く職員と利用者ですが、カフェ部門の職員・利用者がOKを出さない限り、商品化できない仕組みになっています。カフェ部門では、商品を仕入れて販売する立場でしっかりと商品を見極め、「売れる自信が持てないものは、はっきりNOを言う」という姿勢が、本当にお客様に支持される商品作りに役立っていることは間違いありません。同時に、常に美味しいコーヒーを入れるために、毎月、コーヒーショップのマスターから実地指導を受けています。
 はじめは店舗の雰囲気に惹かれて来店したお客様でも、提供される商品がおいしくなくてはリピートにつながりません。コパンでは、一度来店したお客様の心をがっちり掴むだけの美味しいパンとドリンク類があり、「口コミ」でお客様の層が拡大していることが、何よりの強みとなっています。
 平成20年度のパン工房の売上高はおよそ3,000万円(前年度比146%)、うち半分程度がカフェ部門への卸売、残りの半分が近隣の公的施設、病院、企業への注文販売とイベントでの売上などが占めています。カフェの売上はおよそ1,800万円(前年度比215%)。販売内訳は、およそ1,500万円がパン工房から仕入れたパン・焼き菓子類、300万円がドリンク類となっています。


施設は“通過点”。就労移行支援に注力。


就労移行支援事業利用者の山浦さん。一般就労に向けての意欲が高い
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 地域のお客様に愛されるベーカリーカフェ・パン屋さんとしてのコパンは、当然ながら、同時に障害者の就労の場であり、一般就労に向けた実践的トレーニングの場でもあります。
 コパンでは、「施設は利用者にとって通過点にすぎない。障害があっても、社会に出て自身の力を発揮しながら生きていくことが自然の姿である」という考えのもと、就労移行支援にとても力を入れてきました。その結果、開所からわずか2年目の平成20年度は1年間で定員8名中4名の利用者が一般企業への就職を果たすという実績を上げています。
 就労移行支援事業の利用者は施設が行う事業全ての中から、本人の希望で仕事を選ぶことができます。施設内で様々なタイプの仕事・作業を経験することで、一般就労に必要となる力をつけることを目的にしているためです。中でも、カフェでの接客業務は挨拶や適切な言葉遣いがきちんとでき、お客様や一緒に働く職員・利用者とのコミュニケーションが取れ、ある程度とっさの出来事にも対応できる力が要求される難易度の高い仕事となっています。

毎日の勉強会に使われるホワイトボード。基本的な項目を繰り返し学ぶ
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 現在、就労移行支援事業の利用者は5名でうち4名がカフェでの業務を行いながら、一般就労に向けて座学やロールプレイイング形式の“勉強”を支援員の支援のもと毎日続けています。(が、カフェが忙しくて、この“勉強”の時間を取ることが難しいというのが、 “うれしい”悩みです。)
 カフェの現場では、接客・ドリンク作り・洗い・会計など、ほとんどの業務を支援員の指示がなくても利用者がてきぱきとこなしていきます。
 支援員が目指しているのは、社会人として最低限身に付けていなくてはならないことを徹底して利用者が理解・実践できるようになることです。例えば、挨拶の習慣を身に付けることや正しい言葉遣いができるようになること、社会的な常識を身に付け、マナー、ルールを守れるようになること。これらは、どんな職場であっても一様に必要とされるものであるからです。このような支援を受けて、利用者は一般就労を明確な目的と定め、日々の仕事や勉強に意欲的に臨むとともに、自立心を養っていくそうです。
 4名が就職できた理由として、このような丁寧な支援によって利用者が成長したということのほかに、就職先企業との連携を密に取り、地域の行政、養護学校、一般企業、ハローワークとの連携にも力を入れていることが挙げられます。
 利用者が実習や面接に臨む際には職員が同行し、利用者の支援を丁寧に行なってきたこと、万一トラブルが発生した場合には支援員が駆けつけて対応すること、などを企業の人事担当者に熱意を込めて伝えます。就職後も折に触れて企業に出掛け、もと利用者の様子の把握に努めるとともに、人事担当者や職場の同僚たちとの連携を密に取り、企業に安心感を持って障害者を受け入れてもらえるよう努力しています。
 また、会津若松市障害地域自立支援協議会の就労部会や会津地域障害者雇用連絡調整会議に積極的に参加(平成20年度だけで22回も!)し、一般就労に向けた地域の理解を促すとともに、地域の各機関との連携が取れる体制を築こうとしてきました。


点から線、線から面へ


 コパンは会津地域で唯一の就労移行支援事業者です。地域の各機関・企業との連携を図り、障害者の就労移行を進めてきましたが、今年度はさらに一歩踏み込んで会津若松市に企業への啓発活動の推進を要請しました。具体的には、この1年間で200社の企業に足を運んで、障害者の雇用に関する説明を行うというものです。すぐには採用につながらないとしても、まずは経営者や人事担当者の理解を促し、将来的に少しずつ採用が増え、ゆくゆくはグループ就労ができるような企業がでてくればよいと考えています。
 会津若松市での就労移行支援の展開状況が、平成20年度に点から線につながり、平成21年度以降は線を面としていく方向で進展していきそうな予感がします。
 また、就労移行推進に向けた課題として、コパンでは利用者や家族の意識の変化を促す必要性を強く感じています。就労に向けたトレーニングを行うことのできる充分な力を持っていても、就労継続支援B型事業の利用を望み続ける利用者がいるなど、就労に向けての意欲が高まらないケースが散見されるそうです。ゆえに、定員8名の就労移行支援事業の利用者は現状、5名にとどまっています。コパンでは、B型の利用者もゆくゆくは力をつけて就労移行支援事業の利用者に移行するのが自然の流れと考えており、B型であっても、やはり、就労移行への通過点であるとの認識を有しています。そのため、就職したもと利用者をコパンに呼んで、彼らの生活の変化をB型利用者に実際に感じてもらうための取組みに着手する計画を有しています。

施設長の三瓶氏。施設見学は「いつでも大歓迎!」とのこと
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 最後に、施設長の三瓶氏が一般就労をしたもと利用者Aさんのエピソードを紹介してくれました。施設利用料およそ20万円が未払いになっていたAさんは、そのことをとても気にしていました。就職後、Aさんはお給料が出ると、毎月お金を返しに来るようになり、ついに全額を払いきったそうです。最後の支払いを終えたAさんのすがすがしい、自信に満ちた笑顔を見て、三瓶氏はとてもうれしく、熱い思いが込み上げてきたと言います。
 もし、Aさんが就職せずにずっと施設で働いていたら、きっとこのようなエピソードは生まれなかったに違いありません。Aさんは一人の社会人として働き、社会のルールに従って借りたお金をきちんと返すということをやり遂げたのです。Aさんと、彼を支援してきたコパンと職員のみなさんにとって、このエピソードは就労移行支援を推し進めていく上で大きな大きな一歩だったのだろう、と感じずにいられませんでした。このような出来事が将来、コパンで次々と生まれ、語られる日が必ずやってくることでしょう。


取材日 : 平成21年5月

今回のポイント


@ 利用者にとって施設は通過点にすぎないとの思いのもと、丁寧な支援と就職先企業との密な連携を図ることにより、1年で4名の利用者の就労移行を実現した。
A 地域で動き出した就労移行に向けての取組みを、線から面へと展開する機運の醸成に取組んでいる。


経営コンサルタント・中小企業診断士 大江 栄

施設概要


施設名 コパン
設置者名 社会福祉法人心愛会
所在地 福島県会津若松市一箕町亀賀字北柳原52番地
電話番号 0242-93-7566
代表者 理事長
三瓶 英才 氏
施設種類 就労移行支援事業
就労継続支援事業(B型)
生活介護事業
児童デイサービス事業
障害種別 知的、身体、精神
開所時期 平成19年5月
利用者数 60名(定員)
職員数 36名
(常勤23名、非常勤13名)
FAX 0242-93-7567
連絡担当者 常務理事・コパン施設長
三瓶 朝子 氏
事業内容 パン製造販売
ベーカリーカフェ運営
豆腐製造販売、分子模型製造販売、清掃業務 ほか
平均工賃 平均約7,700円(平成20年度)