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宮城県 特定非営利活動法人 ほっぷの森

働くための意欲とスキルを取り戻す支援 就労支援センターほっぷ

一般就労の実績が著しい事業者、企業内での実習の取り組みなど、一般就労へ向けた取り組みとして優秀な事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




高次脳機能障害の就労支援に高い実績


左:深野代表 右:佐々木支援員
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 就労支援センターほっぷは平成20年1月設立の新しい事業所です。運営母体であるNPO法人ほっぷの森の設立と同時に事業が開始されました。利用者の半数は高次脳機能障害者です。交通事故の怪我や脳卒中などの病気の後遺症により、記憶、注意、言語などの脳機能に障害を持つ高次脳機能障害者は、症状のあらわれ方に個人差も大きく、一見しただけでは障害があることがわかりにくいため、周囲の人から誤解を受け、社会から離れて不安を抱えていることが多いといわれています。
 高次脳機能障害者を対象とする福祉サービスはどちらかというとデイケア的なものが多い中で、就労移行支援事業をおこなっている事業者は全国的にも数少ないのが実情です。しかも2年間に8人も一般就労者を輩出しており、先駆的な取り組みとその実績が高く評価されます。
 NPO法人ほっぷの森の前身は、平成19年設立の有限責任事業組合(LLP)ほっぷの森です。当時LLPほっぷの森で実施した県内で初めての高次脳機能障害者を対象とした就労支援講座(宮城県障害者職業能力開発校委託事業)でのノウハウや経験が引き継がれています。


高次脳機能障害者と向き合うきっかけとなった講座


平成19年就労支援講座の新聞掲載記事
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 この「高次脳機能障害者就労支援講座」に集まった受講者は高次脳機能障害をもちながらも、社会復帰を目指す男女9人でした。アナウンサーやコピーライターや大学教授などの専門家が講師を担当し、再就職の為に必要な一般教養を重視した講座を行いました。
 2ヶ月間の講座の期間中、どしゃ降りの大雨で誰も来ないだろうと思った日でも、ずぶ濡れになって来る受講生を見た就労支援センターほっぷ代表の深野氏は、社会復帰に強い意欲をもって参加しているんだということを実感したといいます。
 これにより、高次脳機能障害者を対象とした就労支援移行事業の必要性を感じたのが、NPO法人ほっぷが誕生するきっかけでした。



入所面談を充分に


 高次脳機能障害者の中には、本人も家族も障害を充分に受容していないケースも見受けられます。将来に希望が持てず自信を失ってしまっている人、「働きたい」イコール「昔の仕事に戻りたい」や「昔の自分に戻りたい」という願いを強く抱いている人も少なくありません。どんなにトレーニングを積んでも昔の自分に戻ることはできないという現実の中で、自分はどのようにしたいのか、どうなりたいのかという気持ちを引き出して本人主導の支援計画を立てていく必要があると考えています。そのための機会としてもっとも重要視しているのが入所面談です。面談時間は最低でも2時間、本人や家族の状況に合わせて充分な時間をかけて実施しています。
 面談を担当するのは、自身も高次脳機能障害者の家族を持つ職員です。ピアカウンセラーとしての役割を果たすことで、本人と家族の意思に寄り添うことが出来るといいます。実際多い相談事例は、働き ざかりの夫が倒れてその配偶者が相談にくるパターンです。当事者本人が社会復帰を目指して新たな幸せをつかんでいくためには、家族の理解と支えも必要です。支えとなる家族の悩みや不安を解消することも不可欠なため、家族に対する支援も必要になってくるのです。同じ悩みを持ち、本人・家族の支援で両面から支えることができる職員がいることでも、本人や家族にとっても大きな安心感につながっています。


障害受容のための支援


メモリーノート
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 高次脳機能障害者が就労するための第一関門は、障害受容であるとの考え方から、さまざまな取り組みが行われています。
 ●そのひとつが「就労のための心理学」などといった講座や心理療法(カウンセリング)などを組み合わせた支援プログラムの実施です。
 ロゴセラピーと呼ばれる心理療法は、オーストリアの精神科医フランクルがドイツ強制収容所の体験からどんな絶望的な状況においても、どんな人生にも意味があるということを唱えているものです。「本人が生きることの意味を見出す」上で高い効果が認められており、ほっぷの就労支援プログラムの基本理念を支えているといっても過言ではありません。「生きる意味」はもちろん、ひとつひとつのトレーニングの意味づけを、繰り返し丁寧に説明しています。ロゴセラピーの講師は、事業所の立ち上げ当初よりロゴセラピーの専門講師が担当し、職員へも指導と支援を実施することで支援の質の統一を図っています。
 ●利用者同士のグループミーティング、グループワークを通してのピアカウンセリングも実施しており、障害受容に高い効果を発揮しています。「あの人も忘れるんだ」「何度も同じ話をしているな」などということを目の当たりに感じて、もしかすると「自分もそうなのかな」と自分に置き換えていくことができるそうです。また自分ひとりだと思っていた生活のしづらさは、ほかの利用者も同じように感じている仲間がいるということで心強く感じるという効果もあります。
 ●「メモリーノート」と呼ばれる日誌形式の記録ファイルの活用も障害受容に大きな効果を発揮しています。利用者はひとりひとりが自身の日課、食事、作業の予定や記録をその都度記録していきます。自身の記憶障害について把握することは障害受容に大きく役立ちます。最初から誰もがノートの必要性を認識しているわけではありませんが、記録を続けていくうちに自身の記憶障害の状況が客観的に把握できるようになっていきます。


企業が必要とするスキルと意欲の獲得


就労訓練プログラム
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 就労支援のメニューは1週間単位で設定され、曜日によってブレインジムやドリル(脳活性のエクササイズ)、朝礼や終礼でのスピーチ、メモリーノートの活用法、企業講座(経営者の講演など)、ソーシャルスキルトレーニング(SST)、再就職する為に必要な服装や話し方などのビジネスマナー、文章の組み立て方などです。長期の離職期間があって忘れかけていた「働くために必要な心構え」や「働く意味を考える」など一般教養についての講座も用意されています。
 これらの就労支援プログラムは「企業が必要とするスキルと意欲」を獲得するために行われるものであるという考え方に基づいたものです。したがって支援は、現在企業の第一線で働いている方々の他に、企業経営者、アナウンサー、コピーライターなど様々な専門職の方々と職員がそれぞれの得意分野を担当しています。作業能力の向上を目的とするのではなく、意思の伝え方、コミュニケーションの技術などが特に重視されています。


スタッフとパートナー


スタッフの橋浦さん
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 本人主導の就労訓練という意識を高めていくために、利用者は「スタッフ」と呼ばれます。就職して仕事に就くときには利用者はスタッフになるからです。職員はそれを支える「パートナー」と呼ばれます。何かをしてあげるとか、指導するという意識を極力排除したいという意図です。
 スタッフ(利用者)の橋浦さんは以前の職場に復帰することを目指して訓練中です。
 「最初は意味もわからず自分に記憶の欠落があることも気付かずメモリーノートを使っていましたが、グループ行動の中で自分だけでは気付かなかったことを同じ仲間から指摘されたことで自分の障害を受け入れることができました」。
 「ここでトレーニングしていることで現実を突きつけられることになり厳しい面もありますが、これからの自信にもつながっていきました。今までと違う自分がいることがわかったので不安もありますが、何に気をつけていけばいいかなどわかったことは大きいです。パートナー(職員)とは心を開いて話せるので、精神的な支えとなっています」と、苦しいながらに障害受容できた経緯と、ほっぷの存在の必要性を語ります。
 パートナー(職員)の佐々木さんは就労支援事業としてほっぷが大切にしていることをこう語ります。
 「仕事に就くということ以前にひとりの人間として、自分自身をどう輝かせて生きていくのかが重要で、仕事をしているからこそ感じる『誰かのためになっている』『誰かの役に立っている』という実感が生きる上での張りあいになるのだと思います。どのように生きていきたいのか、その人の人生の意味づけを本人自らが考えることができるようにサポートをしていくのが、ほっぷの就労支援です。」
 強い意欲で社会復帰を目指すスタッフ(利用者)が、それを支える就労支援センターほっぷによって、人生の輝きを取り戻す。このような事業所が今後もますます増え続けていくことで就労への窓口が広がっていくことが期待させられた取材となりました。


取材日 : 平成21年8月

今回のポイント


@ 障害受容を特に重要視しピアカウンセリングやグループワークを豊富に実施している
A 心理療法とソーシャルスキルトレーニングの組み合わせによる「働く意欲とスキル」を獲得できる支援
B 企業経営者やアナウンサーなど企業で働いた経験やノウハウを有する専門家が講師を担当

コンサルタント 小嶋 有二

施設概要


施設名 就労支援センターほっぷ
設置者名 特定非営利活動法人 ほっぷの森
所在地 宮城県仙台市青葉区本町3-5-22-2F
電話番号 022-797-8801
代表者 理事長 白木 福次郎 氏
就労支援センターほっぷ代表
深野 せつ子 氏
施設種別 就労移行支援事業
障害種別 高次脳機能障害、知的障害
開所時期 平成20年6月
利用者数 15名
職員数 常勤3名 非常勤5名 代表1名
サービス管理責任者1名
生活指導員2名
就労支援職員1名
職業指導員3名
FAX 022-797-8802
連絡担当者 佐々木 智賀子 氏
事業内容 就労相談、就労訓練、等
平均工賃
URL http://www.hop-miyagi.org/