サービス取組み事例紹介
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茨城県 社会福祉法人 ユーアイ村

「選択と集中」で収益アップ ユーアイキッチン

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




「買いたい」「おいしい」と思えるお弁当を


茨城県庁舎2階売店「福祉ショップまごころ」

 「ユーアイキッチン」は、配食を中心にお弁当・お惣菜の製造販売をおこなっている知的障害者の就労移行支援施設です。運営母体の社会福祉法人ユーアイ村は、もともと水戸市役所の障害福祉課長を務めていた高橋康暉氏(現・理事長)が早期退職してグループホームを設立したのがそもそものはじまりです。グループホームに入居した利用者(障害者)の働き場所を確保するために「ユーアイ工房(現・ユーアイキッチン)」が開設されました。
 現在、「ユーアイキッチン」では、10人の職員とてんかんやダウン症などの知的障害を持つ11名が働いており、調理こそプロの味を提供するためにプロの調理人が担当しますが、配膳・配達・レジなどの仕事はほとんど障害者が担当しています。
 「ユーアイキッチン」で作るお弁当は、防腐剤や添加物を使わずに手作りされています。「“福祉施設のお弁当”ではなく、お客様が“買いたい”“おいしい”と思うお弁当をお客様の視点に立って提供していきたい」(藤澤利枝事務局長)という考えから、五穀米を使った健康米弁当(牛肉とアスパラガスのオイスター炒め:400円)やデラックス弁当(鳥から揚げ、サバもろみ焼き、ホタテ焼き:600円)など約10種類。「美味しそう」に見えるかどうか、「食べたい」と思えるかどうか、見ばえやお客様の嗜好を重視してメニュー開発されています。
 販売先は、テナントとして入居している茨城県総合福祉会館の各事業所や近隣企業のほか、ユーアイ村が運営を受託している茨城県庁舎2階売店「福祉ショップまごころ」での県職員向け弁当、行事等の予約弁当が中心です。
 県庁舎には生協がありお弁当を販売するほか、社員食堂もあります。今でこそ月商350万円を売り上げ、利用者に平均35,000円の工賃を支払えるまでになりましたが、「福祉ショップまごころ」は、県庁舎の片隅にあるため、わざわざお弁当を買い求めに来店するお客様はそう多くありません。当然のことながら利益も上がらず、開所当時は1ヶ月の平均工賃10,000円を捻出するのがやっとという状況が続きました。


カート販売で県職員の心をつかむ


カート販売の様子

 苦しい状況の中で、ヤマト福祉財団が開催していたパワーアップセミナーを受講したことが藤澤事務局長にとって大きな契機となります。「セミナーの中で、紹介されたビデオの中にスワンベーカリーで働く障害者が給与をもらうシーンがあったの。その時の笑顔が本当に嬉しそうで……私もこんな笑顔がみたい、もっと高い工賃を払ってあげたい、と強く思うようになりました」(藤澤利枝事務局長)
 それ以来、藤澤事務局長は「どのようにすればより利益を上げることができるのか」を四六時中考えるようになりました。そんな折に、特急列車の車内販売でお弁当が売られているのを見て、「カートにお弁当を積んで、県庁の各フロアを巡回したら、売れるだろうな。普段、“福祉ショップまごころ”にお弁当を買い求めてくれるお客様にとっても、自分のフロアにお弁当が届けられたら便利だろうな」と現在のカート販売スタイルを思いつきます。
 そして、藤澤事務局長の狙い通り、自分の働くフロアまで手づくり弁当を届けてくれるランチデリバリーサービスは県職員の心を掴み、配食数は徐々に増えていきます。現在、事前注文のあったお弁当をカートに積み込んで各フロアまでデリバリーするスタッフと、カート一杯にお弁当を積み込んで各フロアで引き売りするスタッフに分かれ、8台のカートを稼動させていますが、このカート販売と「福祉ショップまごころ」での店頭販売を合わせると、県庁だけで一日平均90,000円(約200食)を売り上げるようになりました。


イベント情報をつかめ!


お客様アンケート

 カート販売の実施は、飛躍的な売上アップにつながったばかりではなく、「福祉ショップまごころ」の宣伝にもつながり、県庁の職員とコミュニケーションをとる良い機会になっています。
 県庁の弁当の販売数は、その日によって増減するので、需要を見誤ると売れ残ったものを捨てなければならなかったり、早く売り切れてお客様を逃がすことになったりしてしまいます。
 雪など悪天候の日は、外食する人が減るため販売数が伸びます。また、県庁でイベントが開催されたり、議会が開かれたりしているときにも弁当の需要が増えます。「ユーアイキッチン」では過去の販売実績の統計データを取るとともに、県庁のお客様からイベントの開催予定等の情報収集に努めています。
 カート販売を導入したことで、どこのフロアにどんな潜在顧客がいるのか、県の職員の顔が見えるようになり、お客様とコミュニケーションを取ることで、弁当の販売数を左右する情報を取りやすくなったわけです。
 さらに、「ユーアイキッチン」では、お弁当やサービスについてお客様の意見・感想がもらえるように、割り箸袋の裏面にアンケートをつけています。お客様から「今日のおかずはとても美味しくいただけました」という嬉しい声もあれば、「今日は少し味付けが濃かった気がします」といった率直な意見も寄せられることがあり、商品や調理方法、サービスの改善に役立てています。


あらゆる仕事をしてもらう


大藤哲平施設長

 「ユーアイキッチン」を訪問して感じることは、職場が明るく伸び伸びと働いていること、そして、笑顔が多いということです。こうした職場の雰囲気づくりや工賃アップの牽引者が施設長の大藤哲平氏(31歳)です。
 大藤氏はもともと民間企業の営業マンでしたが、福祉専門学校へ入り直し介護福祉士の資格を取得します。在学中からボランティアで福祉・介護施設で働いていたところに藤澤事務局長の声がかかり、平成16年4月からユーアイ工房の作業支援員として、平成17年8月から「ユーアイキッチン」の施設長を務めるようになりました。
 大藤氏が施設長に就任して取り組んだことは、利用者(障害者)にいろいろな仕事に挑戦させること、利益を残すこと、結果として利用者(障害者)の工賃を上げることでした。「週代わりで業務内容をローテーションしながら利用者にすべての仕事を担当させる」「職員は利用者に手取り足取りサポートしない」というのが大藤氏の能力開発の基本方針で、先入観を持たせないように、あえて他の一般職員には利用者一人一人の障害特性は知らせていません。
 大藤氏が施設長に就任する前は、職員側が利用者のできる仕事を決めてしまう傾向が強かったそうですが、大藤氏の方針によって、「以前は、やれることも人によって限定されていましたが、今は信じられないくらいやれることが増えて、やる気があふれています。県庁に行けるスタッフも少なかったのに、全員が県庁に行けるようになり、全員がほとんどの仕事をできるようになりました」(藤澤事務局長)と言います。


配達先を絞り込む


種類の豊富なお弁当

 大藤氏は利益率を改善するために、一般家庭にも宅配し広域にわたっていた配達エリアを、クルマで5〜10分以内に配達できる建設会社や自動車販売会社など商圏内の事業所に絞り込んでいきました。
 その一方で、県庁の各課60箇所や近隣の事業所に対して、毎週週替わりのメニュー表をファックスするなどの販促活動を強化することで、配達エリアを絞り込みながらも配達車輌を5台から4台に減らすなど効率化を図りながら販売量を増やしていくことに成功しました。
 そして、メニューと原価のバランスを取りながら価格政策の見直しを行い、若干の値上げも断行していきました。
 結果として、数を販売しても忙しいだけで利益が残らなかった以前から比べ、大幅に収益が上がるようになったのです。


「選択と集中」で収益アップ


「選択と集中」で収益アップ

 ユーアイキッチンの職員は朝5時30分に出勤して調理を開始し、障害者たちが出勤する前には一通り料理を仕上げます。障害者は8時30分に出勤し、料理を小分け、弁当ケースに詰めていき、10時30分には県庁や市役所、事業所への配達を開始し、12時過ぎには弁当を売り切って戻り、休憩を挟んで、13時〜15時30分までクリンネスなどの環境整備や翌日の料理の仕込み作業を行うという無駄のない1日を過ごします。
 前述した通り、「ユーアイキッチン」は、事業所向けの配食弁当に特化し、「時間」をランチタイムに「商圏」をクルマで10分圏内に集中させたことで、極めて営業効率がよくなりました。まさしく「選択と集中」によって、工賃をアップさせた好事例と言えるでしょう。
 ユーアイキッチンの将来ビジョンは「ユーアイキッチンで働いている利用者たちが立派に巣立っていくこと、働く場所がないから選ばれる施設ではなく“ユーアイキッチンで働きたい”と、心から望まれる施設にすること」(藤澤事務局長)だそうですが、そのためにも、現在、平均35,000円の工賃をさらに引き上げていくこと、当面は50,000円を目標としています。
 利用者がまんべんなく業務をこなせる状況を鑑みれば、さらに弁当の販売数量を増やしても無理なく営業できるように思われます。まず第一に、@茨城県総合福祉会館、県庁舎、市役所等、既存の販売先でのシェアアップ、第二に、A商品アイテム付加による客単価アップ、第三に、B販売先の増加というステップを踏めば、近い将来、実現可能な目標であると感じました。


取材日 : 平成20年1月

今回のポイント


@ 配達先を製造拠点から10分圏内の事業所に絞り込み、ランチタイムの需要に集中したことで、効率の良い営業を実現させている。
A カート販売やアンケートの実施に代表されるように、積極的に顧客に近づいて市場の変化やニーズをつかむ努力をしており、また、そうした情報をもとに弁当の数量や味を調整していく等、実際の営業活動に役立てている。健康・安全志向のお弁当ながら、見た目を重視してメニュー開発するなど、消費者視点に立っている。
B 障害者の能力を信じて任せるマネジメントスタイルが、やる気や自立心や自信を育んでおり、生産性の向上に繋がっている。


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 ユーアイキッチン
設置者名 社会福祉法人 ユーアイ村
所在地 茨城県水戸市千波町1918
茨城県総合福祉会館1階
(JR 水戸駅)
電話番号 029-212-3775
代表者 高橋 康暉 理事長
施設種類 就労移行支援事業
障害種別 知的障害者
開所時期 平成9年4月
利用者数 20名
職員数 12名
FAX 029-212-3776
連絡担当者 藤澤 利枝 法人事務局長
info@you-i-mura.com
事業内容 配食弁当
平均工賃 40,000円

平成21年8月現在