サービス取組み事例紹介
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愛知県 特定非営利活動法人パンドラの会

高い商品力と取引先との強力な信頼関係 おかし工房パンドラ

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




活気あふれる「おかし工房パンドラ」


パンドラで働く利用者と職員の皆様
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 日本の自動車産業を牽引しているトヨタグループのお膝元、愛知県刈谷市。刈谷駅の周辺には、デンソー、アイシンなどトヨタグループの本社ビルが立ち並びます。「特定非営利活動法人パンドラの会」が運営する「おかし工房パンドラ」は、刈谷駅から車で国道を10分ほど走った小さなショッピングセンターの跡地に、店舗を構えています。






プリンの裏ごし
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 「おかし工房パンドラ」(以下、パンドラ)は、知的障害や精神障害をもつ14名の作業員が働く就労継続支援A型の事業所です。ここでは、プロのパティシエ仕込みのチーズケーキなど洋菓子の製造販売を行なっており、店頭にはクッキーやパウンドケーキなど約20種類の焼き菓子が並んでいます。
 取材当日、朝礼では代表理事の岡部扶美子さんから「昨日は、催事販売で25万円を売り上げました」と成果の発表があり、利用者や職員の皆さんから大きな拍手が起きました。朝礼後も、電話で贈答用のお菓子のまとまった注文が入り、また、開店早々にクルマでお客様が来店し、予約注文が入るなどパンドラの朝は活気に満ちています。
 朝礼が終わると作業員たちは、テキパキと調理器具を用意し、お菓子づくりに取りかかります。
 肢体不自由を併発している利用者、重度の障害をもつ利用者もいらっしゃいますが、器用に片手で卵を割ります。ボールを吸盤で固定できる補助具を利用することで、片手で卵を攪拌することもできます。作業員たちはそれぞれの持ち場で誇りをもって働いているのです。


優れた提案力と高い商品力がユーザーの心をつかむ


こだわりぬいた包装
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 パンドラの特長は、複数の地元大手企業の社会貢献部署と強い関係を築いている点にあります。それによって、贈答用やノベルティの大口注文の受注につながり、また、企業内の売店で出張販売を行なうことで、勤務している社員一人ひとりに直接製品をおすすめすることができ、昨年の事業収入は約2800万円に上りました。
 昨年秋以降の自動車不況のあおりを受けて大口注文こそ減少しているものの、個人需要は堅調だそうで、例えば、09年バレンタインデー商戦は前年比10%増(約70万円)、ホワイトデーは前年比45%増(約42万円)と大きな成果を上げています。もちろん、これだけの成果を上げられるのは、贈答品として利用できる味と品質、また、ラッピングへのこだわり、そして、ユーザーのニーズに合った商品をつくっているからに他なりません。こうしたラッピングは、障害者ではなく、岡部さんら職員の皆さんが担当します。また、商品も、主婦ならではのセンスを活かし職員の皆さんで企画しますが、実際の商品化にあたっては、開所当初からお世話になっているパティシエから技術指導を受けています。

マカロン
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 例えば、バレンタインデーでは、ベルギーチョコを使用した生チョコレートを高級感漂うパッケージで包装します。ホワイトデーには、可愛らしい半球形のフランスの焼き菓子「マカロン(写真)」が提案されるなど、毎年、贈る側の立場に立ったセンスの良い商品を企画販売しています。日常の出張販売についても、焼き菓子だけでは需要が少ないため、調理パンを用意したり、食後のデザートとして手作りプリンや生ケーキを販売したりしています。
 また、アイシン精機では社員証のバーコードを読み取ることで、現金ではなく給与天引きで売店の商品を購入できる仕組みがあるそうですが、パンドラは同社に掛け合い、出張販売でも同様の仕組みで決済できるようにしました。実現にあたっては、同社の重役の後押しもあって、社会貢献部署が迅速に手続きをとってくれました。その結果、「現金だとおこづかいが減ってしまうけれど、給与天引きなら買いやすい」と、デザートを購入してくれる男性客が増え、以前と比べ、売上が3倍になったそうです。


60,000個のクッキーを1つの不良品も出さずに納品


クッキーづくりに励む利用者
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 このように地元大手企業と強固な関係を築き、安定した事業基盤を持つパンドラですが、ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。
 立ち上げ当初、「福祉色で売るのではなく、一般市場で通用するものを適正価格で販売したい」と考えた岡部さんは、地元で評判のケーキ屋さんのパティシエの門戸を叩き、菓子作りの指導を受け、指導の様子をビデオに収録させてもらい、何度も再生しながら職員とともに腕を磨いていきます。
 「いい材料にこだわって、美味しいお菓子を作り続ければ、お客さんがお客さんを呼んでくれる」という技術指導のパティシエの教えを守り続けますが、人通りの少ない店頭での販売だけでは年間1200万円を売り上げるのがやっとで、職員の給料が払えず、やがて資金も底をついたそうです。
 そんな苦しい時期、地元のマスコミが「パンドラの危機」として、窮状を記事として取り上げてくれました。すると、たまたま、その記事を読んだ地元の大手企業から、交通安全の啓蒙に利用する「信号クッキー」2万セット(計6万個)の注文が入ったのです。

オーブンで焼くクッキー
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 6万個という注文数は、パンドラの生産能力をはるかに超えていましたが、岡部さんはこれまでに関係のあったボランティアの仲間を総動員し、一つの不良品も出すことなく納期に納品するという神業的な仕事をやり遂げました。この仕事ぶりとクッキーの美味しさが評判となり、他の地元企業やエンドユーザーに「おかし工房 パンドラ」の名前が知れわたっていったのです。







チャンスを逃がさないスピードと行動力


店頭に並ぶ焼き菓子
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 また、取引先の1社である「デンソー」との出会いは、刈谷市主催の産業まつりでした。催事会場でチラシを配っていたデンソーの社員と出逢った岡部さんは、早速、デンソーの本社を訪れ、社内売店での販売を申し入れました。ところが、当時、パンドラは無認可の作業所だったことから、「信頼性の観点から、法人格を持った相手でないと取引できない」と断られてしまいます。ここでも、岡部さんは引き下がらずに、何ら知識を持たないままに、NPO法人の法人格の取得準備に取りかかります。2001年3月、晴れて法人格を取得した岡部さんは、早速、デンソーに足を運び、社内売店での販売を掛け合います。デンソー側も、「パンドラの会」の理念に共感していたため、岡部さんの熱意に応えるべく、社内売店に入っていた刈谷生協に話を取り付けてくれ、トントン拍子に話が運びました。

生チョコ
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 蓋を開けてみれば、法人格取得後、わずか1週間で、店頭にパンドラの商品を並べることができました。そして、「いい材料にこだわって、美味しいお菓子を作り続ければ、お客さんがお客さんを呼んでくれる」という教えを守り続けていたパンドラのお菓子は、デンソーの社員の間でも評判となり、売上が好調なことから刈谷生協が入っている総合病院内にも商品を置いてもらえるようになりました。
 このようにパンドラは高品質な商品をつくり続けてきたことに加え、積極果敢に行動を起こし、チャンスを活かしてきたからこそ、地元企業との出逢いを縁に変えることができたのです。そして、企業側の立場に立った場合、先の6万個の注文に対し一つの不良品も出すことなく納期までに納品したエピソードに代表されるように、パンドラがプロ意識をもって仕事をやりきるからこそ、安心して取引を続けることができ、また、応援したくなるのでしょう。


ソーシャルビジネス55選に選定される


ソーシャルビジネス55選のトロフィー
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 パンドラの会は、「プロから技術指導を受けて競争力のある商品を製造し、企業との関係づくりに取り組み、事業を軌道にのせている」と評され、今春、経済産業省の「ソーシャルビジネス55選」に選出されました。これは、社会的課題に取り組む全国の事業者の中から、設立動機や事業の継続、発展性などの視点で審査、選定されたものです。岡部さんは今回の受賞に関して、何よりも事業として評価されたことが嬉しかったようです。また、平成20年度実施した経済産業省の「コミュニティービジネスノウハウ移転支援事業」において、岡部さんは他の事業所の商品開発や販売の指導にあたりましたが、なんと3箇所すべての事業所で前年比 1.5〜 2.5倍の売上増を記録しました。ここでもパンドラのノウハウが他の地域で通用し、結果が数字として表れたことが大きな自信につながった様子です。

バレンタインのチラシ
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 「パンドラの会」の「パンドラ」には「どんな困難な中にも希望がある」という意味が込められているのだそうです。昨今の自動車産業の販売不振は、人員削減など地元企業に暗い影を落としており、パンドラの菓子類の売上にも大きな影響を及ぼしています。不況は長期化の様相を呈していますが、パンドラなら、きっとどんな困難にあっても希望を見出し、知恵と行動力で乗り越えていくことでしょう。






取材日 : 平成21年4月

今回のポイント


@ 期待を裏切らず、目の前のチャンスを逃さずやりきる力が地元企業の信頼構築につながっている
A 企業が贈答品として利用できるだけの味、品質、包装へのこだわり
B エンドユーザーのニーズを捉えた商品開発


経営コンサルタント 石田 和之

施設概要


施設名 おかし工房パンドラ
設置者名 特定非営利活動法人パンドラの会
所在地 愛知県刈谷市築地町1-5-4
電話番号 0566-25-3012
代表者 岡部 扶美子 氏
施設種類 就労継続支援A型
障害種別 身体、知的、精神
開所時期 平成8年2月
利用者数 14名
職員数 常勤6名
FAX 0566-23-4373
連絡担当者 岡部 扶美子 氏
事業内容 洋菓子製造販売
平均工賃 52,000円
URL http://www.npo-pandora.com/