サービス取組み事例紹介
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埼玉県 社会福祉法人 入間東部福祉会

園芸特化で工賃アップに取り組む 入間東部むさしの作業所

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




工賃向上へ、プロジェクト始動


チームを率いる小菅施設長
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 「10年前から工賃を上げることが利用者の幸せに繋がると思ってきた」。社会福祉法人入間東部福祉会 入間東部むさしの作業所 小菅施設長の言葉です。
 むさしの作業所は、埼玉県の東南部、武蔵野台地の広がる富士見市にあります。自然豊かな立地を活かし、園芸作業に取り組んでいます。「花苗の生産・販売」が自施設の最大の強みであることは職員全員の共通認識ではありましたが、一方で、利用者のできること、利用者にあった仕事という視点で、木工、ぼかし、簡易加工、ポスティングなど多様な作業をおこなってきました。「工賃を上げたいという思いはずっと持ってきた。コツコツ努力もしてきた。けれど、工賃アップの成果は充分ではない。どうしたらいいのだろう?」
 そんな折、埼玉県から工賃向上事業の施策として「経営アドバイザーによる経営指導・支援事業」が行われると聞き、早速申し込みをしました。平成20年秋のことです。ここから、むさしの作業所の快進撃と、これまでコツコツやってきた園芸事業が、まさに“花開く”ときを迎えるドラマが始まります。


2つの顔で、お客様のニーズに応えるビジネスモデル


出荷を待つ商品
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 むさしの作業所の園芸は、「園芸農家」と「花屋」を兼務するオリジナルの業態であることが、一番の特徴です。花苗を生産し、バザー等で販売している施設は多数ありますが、花を生産・出荷する他、自ら市場で仕入れた花を含め、自前の「フラワーショップ」で販売しているところは、珍しいのではないのでしょうか。たまたま車で10分ほどの場所に川越の花卉(かき)市場があったという事情もありますが、市場取引の権利を取得し花の出荷、仕入れ双方を行うことで、自主製品だけでは応じきれない多様な顧客ニーズに応える体制が整備されていることが、むさしの作業所の強みであることは間違いありません。直販だけでなく、出荷ルートを持つことで、「一斉に出荷時期を迎えた花」を品質の良い状態で売り切ることができ、廃棄ロスのリスクを回避できる一方、自施設では技術的に難しく、生産していない鉢物(シクラメンや胡蝶蘭など)が欲しいというお客様の注文には「仕入れ」で対応することができるのです。公園等の植栽管理も躊躇することなく引き受けられるのは「いつでも、どの量にも対応できる仕組みがあるから」です。


職員全員で「強み」を確認、さらに強みを伸ばす作戦で、「これならやれる!」という計画を策定


園芸作業に精をだす利用者と職員
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 改めて「工賃アップ」を意識したときに、真っ先に注目したのは、この“むさしのスタイル”の園芸事業の強みを活かせば、まだまだ売上、利益を上げられるという点です。園芸事業は「生産して市場に出荷する」「生産して顧客に販売する」「仕入れて顧客に販売する」・・大きく分けるとこの3つの方法により売上を得ていますが、工賃アップのプロジェクト開始時には、それぞれの量や金額がごちゃごちゃで、「どの部分でどのくらいの粗利益が取れているのか」がわかっていませんでした。
 コンサルタントのサポートを受けながら、現状分析を詳細におこなったところ、粗利益の取れる売り方、取れない売り方が数値で明らかになり、さらに、目標工賃を実現するためには、それぞれの売り方をどのような割合にして、全体の売上、利益を確保すれば良いか、作戦を練ることができました。生産計画もより緻密に行い、売上増に連動した生産拡大策を図ることとしました。


市場も利用者の活動の場
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 また、工賃アップという目標に特化して園芸強化策を検討してきたところで、他部門の廃止・縮小という結論が自ずと導かれました。中でも、お客様の注文に応じて長らく続けてきた木工作業をやめるという決断は、むさしの作業所の方向性を内外に示す重要な意思決定となりました。大型の機械は思い切って処分したということです。
 園芸強化策が打ち出されたことで、利用者の仕事にも変化が生まれています。
これまでやっていた作業がなくなり、特に重度の利用者への影響が心配されました。しかし実際にやってみると、適切な作業の切り分けを行うことで各自の個性を生かした仕事を実現できることがわかったのです。現在では、軽度、重度の違いではなく個性にあった作業区分で園芸とその他軽作業とに担当を分けています。


生産拡大を図り、プロの力を活用する


園芸指導の松岡さんご夫妻と
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 栽培用のハウスの建て替えや建て増しで、現在ハウスは5棟になりました。畑の借り入れも増やし、1800u(約550坪)の畑を2つにして、増産体制を整えました。規模が拡大すれば、分業もしやすくなるため、水遣り、花苗ポットへの土入れ、出荷準備等々適性に応じた作業に関われる利用者の数も増えています。
 技術面では、松岡園芸(川越市)の松岡さんから指導を受けています。松岡さんとの出会いは、15年ほど前、前任の担当者が、商品と指導してくれる専門家を探して近隣を飛び込みで回っていたときのこと。細かなノウハウが品質、市場価値を決める園芸の世界で、素人に技術を教えてくれる園芸農家など、簡単には見つかりませんでした。そんな中、松岡さんは、作業所の取組みに深い理解を示し、突然のお願いにも関わらず、快く指導を引き受けてくれたのです。
 出荷時、商品に高値がつくようにするための「並べ方や、水遣りの仕方」、土入れ前の容器の設置方法など伝授されたプロのノウハウが生産性の向上や商品の品質向上につながっています。生産担当の山本さんは「一般市場で通用する花を作るには、プロの力が不可欠。今後も教えてもらいながら生産拡大と高品質化で計画の達成を目指したい」と語ってくれました。「自分たちがやりやすい方法は障害者でもやりやすいだけのこと」。松岡さんの指導には、利用者支援の視点が自然に盛り込まれ、職員も大いに刺激を受けているようです。


市場関係者に見守られ、利用者も活躍


市場にて一般業者と談笑する小菅施設長
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 今回の取材では、出荷、仕入れの現場である川越市場にも同行しました。出荷時には、「むさしの作業所」という名前でなく「むさしの園芸」という屋号を使って出荷しています。これは、いち生産者として一般市場で勝負し、より高く商品を売るための知恵です。出荷先は川越花卉(かき)市場だけでなく、鴻巣花卉(かき)市場、板橋花卉(かき)市場と増やしました。地域毎のトレンドや売れ筋の違いにより出荷先を変更し、少しでも高値がつくよう工夫しています。





市場で積み込み作業を行う利用者鈴木さんと職員
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 取材日はイベントの前日。トラック2台で3トン分の花を仕入れました。せりには利用者も参加し、「仕入れ予定の花が出てきたら声をかける」など、仕入れ担当職員の加藤さんをサポートします。仕入れた花をトラックに積み込む仕事は、彼らが大いに力を発揮する場面です。大量の花を慣れた手つきで運びます。






イベント前日のため仕入れは普段の10倍。トラック2台分!
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 市場の従業員、福島さんは「障害者だからということは意識せず、一般の人と同じように対応している。もうあたりまえのことで違和感もない。今後はより周囲とのコミュニケーションを図りレベルアップを期待している」とエールを送っています。








売り上げ拡大のための、工夫と営業力の強化


直売所での売上は最大2万5千円
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 計画に基づき、売り上げアップ策にも次々取り組んでいます。畑の脇にある遊歩道沿いには無人販売所を設置。施設入り口と共に近隣住民への販売をおこなっています。日々の売り上げは少額でも、看板を立て、花苗の買える場所だと知ってもらうことが大切なのです。
 イベント販売、注文販売については、月次の販売計画を立て、目標管理を徹底しています。これまでも近隣の学校、自治体等にはDMを送付してきましたが、「月次目標が明確なので、迷わず営業活動ができます」と、営業担当の加藤さん。今年度は営業範囲を拡大したり、DMに過去の実績や写真を挿入したりと、小さな努力の積み重ねによって、毎月、目標をクリアしてきました。営業の担当化も販路拡大につながっているようです。


福祉ショップから花屋へ業態変更


最近始めた切花
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 最後に、直営のフラワーショップを紹介しましょう。「フラワーショップふれんず」がその店です。商店街の一角にある店には、作業所で生産した花苗、鉢物のほか、市場で仕入れた鉢物や切花がところせましと並んでいます。以前は多種多様な授産製品を扱う「福祉ショップ」でした。花の生産拡大に伴い、4年前に、花屋さんとしてリニューアル。以来、明るく季節感を感じられる店作りを心がけ、ブラッシュアップしてきました。加藤さんは、「今でこそ花屋としてやっていますが、リニューアル直後は苦労しました。楽しみつつ花の名前、扱い方などを勉強しながらやってきて、ようやく今の形になりました」。と当時を振り返ります。「ふれんず」は、生産農家直販の低価格と、仕入れ商品を加えたバラエティ性という2つの面で魅力を放っています。ひとことで表わすなら、「気軽に買えて、楽しい花屋さん」。取材時は平日午後でしたが客足が途切れることはありませんでした。お客様の1人は「安いし、品数も豊富なのでよく見に来ます。季節毎の植え替え時にはまとめ買いもしますよ。障害者の働くショップかどうかは気にしませんが、接客もいいですよね」と、インタビューに答えてくれました。町に根付いている様子がうかがえます。


商品が映える店内
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 「ふれんず」で働く利用者は10名。一日2名ずつのシフト勤務です。取材日に勤務していた利用者は「店の仕事にも慣れ、楽しいので長く続けたい」と口を揃えていました。
 商機を逃さず工賃アップにつなげるために、今年度から花が売れる春と秋には、土日営業もおこなっています。可能な利用者はもちろん出勤です。このようなフレキシブルな対応を見ても工賃向上への本気さが表れています。
 今年度の目標工賃は17,000円。夏のボーナス(15,000円)、冬のボーナス(25,000円)を加え達成はほぼ確実です。売上は前年比1.5倍。達成状況によっては、計画の上方修正を検討したいと意気込んでいます。
 「工賃向上のためにできることは何でもすればいいと思う。作ったものを売るだけではなく、一般市場で勝負できる体制にしなくては永続的な工賃向上は望めないと思っている」。小菅施設長のさりげなくも熱い言葉が印象的でした。明確な方針のもと、今後も職員と一緒にアクションプランを着実に実行する中で、支援の力、利用者の働く力もさらに高まっていくのだろうな、とワクワクしてくる事業所です。

取材日 : 平成21年11月

今回のポイント


@ 園芸事業の強みを活かし、根拠に基づく工賃向上計画を作成して着実に実行していること。
A 目標の実現に向けた強い意志で周囲に働きかけ、園芸指導やコンサルタントなど外部資源も積極的に活用していること。
B 地域のお客様、販路別のニーズに目をむけ、品質向上、営業強化など、一般市場の競合を意識した経営努力をおこなっていること。

経営コンサルタント 大田 知美

施設概要


施設名 入間東部むさしの作業所
設置者名 社会福祉法人入間東部福祉会
所在地 埼玉県富士見市上南畑3262-1
電話番号 049-252-5270
代表者 理事長 星野 信吾 氏
施設種別 就労継続支援B型
就労移行
障害種別 知的、身体、精神
開所時期 昭和56年4月
利用者数 55名
職員数 常勤8名、常勤以外3名
FAX 049-252-5279
連絡担当者 施設長 小菅 賢一 氏
生産担当 山本 博之 氏
販売担当 加藤 忍 氏
事業内容 園芸、軽作業(カーテンレール、ぼかし製造、等)
平均工賃 11,749円(ボーナス支給別途)
URL http://www4.ocn.ne.jp/~musaku/