サービス取組み事例紹介
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栃木県 社会福祉法人 エルム福祉会

民間にも負けないブランド構築を目指す SELPみなと

事業を活性化し、工賃を伸ばしている事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




下請け受注から自主製品の製造・販売、自主店舗の運営へと舵を切る


ヒカリノカフェ店内@
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 栃木県の北部、大田原市に「SELPみなと」はあります。地域の生活幹線道路に面したおしゃれなカフェ(hikarino caf?:ヒカリノカフェ)では、いれたてのコーヒーやオリジナルメニューをゆったりとした空間で味わうことができます。そのお店の裏には、SELPみなと自慢のスコーンやクッキー、ケーキなどを製造する工房があります。






ヒカリノカフェ店内A
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 事業所の開設は平成16年。当時は周辺の工場の景気も良く、そこから下請け作業を受注することで2万円を超える工賃がありました。しかし、発注元の状況により今後は大幅に受注量が減少することが判明、このままでは先の見通しも持てないことから、思い切って下請け作業を平成18年度末で中止。いったんは工賃が大幅に下がることを覚悟の上で、焼き菓子の製造・販売とカフェの運営および野菜の宅配といった自主事業の運営へと大きく舵を切ったのでした。





県の障害者所得アップコンサルティング事業に応募


プロジェクトスケジュール表
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 平均工賃35,000円の実現を当面の目標に掲げていたSELPみなとでは、栃木県が実施した「平成20年度障害者所得アップコンサルティング事業」に応募、ヒアリング等の選考を経て採択されました。
 仁木淳二施設長は 「よりよい工賃を目指して、利用者に安定した生活を保証することが私たちの使命です。そのためには、まずは障害者年金と合わせて10万円を超えることのできる工賃を実現し、グループホームで暮らせるようにしていきます」と語ります。
 コンサルタントの派遣を受け、平成20年6月からスタートした工賃アップの取り組みは『ビッグシッププロジェクト』と名付けられました。そこには、SELP“みなと”から出港する大きな船、その「大船に乗ったつもりで取り組もう」という気持が込められています。プロジェクトのメンバーは、施設長以下常勤職員が全員参加。法人の理事もオブザーバーとして加わりました。
 プロジェクトの開始にあたり、全員で次のようなゴールを設定しました。
 ・工賃向上を達成する!
 ・皆が「頑張った」ことに対する成果を「数字」で得る!
 ・SELPみなとの今後3年後の姿とそれに至る道筋(=事業計画)を描く!
            ↓
 ・そのために、目指すべき目標を数字で設定する!
 ・そのために、皆がお客様(受注先)やお互いに対して、やるべきことを明確にして、実行する!
 ・そのために、前例にとらわれずに、SELPみなとの将来について大胆に考える!

 プロジェクトのリーダーは秀恵美子さん、サブリーダーは渡邉雅紀さん。組織の役職には関係なく、自主的な立候補で決めました。


SWOT分析から具体的な改善の取り組みへ


売場の改善
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 最初に、自分たちの「強み(S)」・「弱み(W)」、自分たちを取り巻く環境の「機会(O)」・「脅威(T)」を客観的にとらえるために、事業所全体および各事業部門別(スイーツ部門・カフェ部門・野菜宅配部門)のSWOT(スウォット)分析を行いました。







SWOT分析表
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 【SWOT(スウォット)分析】カフェ部門一部抜粋
●強み よい材料を使っている、設備が整っている、テイクアウト商品が充実、焼き菓子はすべて手づくり・・・など
●弱み 新商品開発に時間がかかる、販売に対する意識が低い、仕入れ商品の売り上げ構成比が20〜25%になっている・・・など
●機会 コーヒー店からアドバイスをもらえる、ホームページの立ち上げにより広い範囲での存在認知が期待できる・・・など
●脅威 「福祉の店」といわれることがある、材料の高騰が進んでいる・・・など
 プロジェクトミーティングを行う中で、メンバーからこれらの意見があがってきました。
 そして、そこから得られた基本方針をもとに、まずは短期間で成果を出すための取り組みを具体的に検討し、平成20年8月から21年1月にかけて集中的に実行しました。その時の主な取り組みは次の通りです。
【スイーツ部門】
 ・これまで販売先として主力であった道の駅や直売所の売場陳列・在庫管理の改善(機会ロスの撲滅)
 ・新規取引先の営業開拓(県内大手のよつ葉生協(カタログ宅配)との取引開始)
 ・Yahoo!ショッピングにWebショップの開設(販路を広げる)
【カフェ部門】
 ・新規配布用のショップカードの作成(ヒカリノカフェの認知度を高める)
 ・新メニューの投入(ランチ需要に応えるための薬膳キーマカリー等の投入)
【野菜宅配部門】
 ・既存顧客へのアンケート調査の実施(新サービス実施の潜在ニーズを探る)
 ・新規客開拓のためのチラシ作製、ポスティング活動の実施(日時を決めて集中的に)


新メニュー「薬膳キーマカリー」の投入
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 その結果、改善に着手した最初の半年間(平成20年8月〜平成21年1月)で、平均工賃は前年同時期と比べ、18,034円が20,095円へと11.4%アップしました。部門別にみると、スイーツ部門は13,266円が17,371円に、カフェ部門は36,166円が37,444円に上昇、野菜宅配部門は、主力となる利用者が体調を崩して従事できなくなった等の理由で、残念ながらやや減少という状況です。スイーツ部門は、平成20年12月に事業開始から初めて平均工賃が30,000円を超えるなど、大きく躍進しました。
 また、プロジェクトにおいては、短期的な改善の取り組みだけでなく、並行して今後3年間の中期計画も立案しました。3部門別と施設全体の計画について、それぞれ年度を上期・下期に分けた6期間分の数値目標・取り組み課題を具体的に整理し、計画3年目の平成23年度には、平均工賃35,000円を達成する計画が出来上がりました。
 プロジェクトリーダーの秀さんは平成20年度の取り組みを振り返って次のように話しています。
 「福祉とは違った観点で第三者のコンサルタントに入ってもらうことによって、固定観念を少しずつ打破することができました。これまでは作ることだけに一生懸命でしたが、“作るからには売り切りたい!”という気持ちが強く出てきました。最初のころは慣れませんでしたが、今ではずいぶん皆で意見を出せるようになってきました。再来年度には数字にもはっきりあらわれてくると思います」
 平成20年度のプロジェクトが終わった後も、プロジェクト時に学んだPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を意識して継続しています。ちなみに、平成21年4月〜12月の平均工賃は約22,000円までアップしています。


高級スーパーの中にスイーツ部門の常設売場を開拓


三枡屋での常設売場
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 SELPみなとでは30名の利用者のうち、スイーツ部門に22名、カフェ部門に4名、野菜宅配部門に4名が従事しています。したがって、事業所全体で平均工賃をアップしていこうとすると、従事者数が多いスイーツ部門で稼ぎ出す付加価値を大きくしていかねばなりません。
 栃木県北部には三枡屋(みますや)という高級スーパーがありますが、今回のプロジェクトを進めながらメンバー全員が「この店で自分たちが作ったスイーツの販売ができたら・・・」と願ってきました。民間での販売にも耐えられるように、商品の中身はもちろん、パッケージデザインにも磨きをかけてきました。ベンチマーク(目標となる)店舗や商品をいくつか設定し、メンバーがお客になって実際に利用・購入をすることで、SELPみなととして取り入れられることは積極的に取り入れました。「お客様の立場に立って、よいと思ったことはどんどん真似よう」の精神です。


三枡屋でのオリジナルギフトセット
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 三枡屋とは試作品づくりを行いながら引き続き何度も交渉した結果、平成21年5月の母の日イベントから、念願の常設販売ができることになりました。店頭では試食販売も積極的におこなっていて、利用者も売場に立ちます。売場づくりに関しては、三枡屋のプロのバイヤーからのアドバイスを受けながらレベルアップを図っていて、現在ではどこに出店しても恥ずかしくないくらいレベルアップしています。







「ヒカリノカフェ」ブランドを地域で育てる


とちぎナイスハートバザールinけんちょう
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 平成21年12月8日、栃木県庁1階ロビーで「とちぎナイスハートバザールinけんちょう」が開催されました。県内の福祉事業所が一堂に会して、選りすぐりの商品を販売します。もちろんSELPみなとも毎回出店。
 「お客さんに喜んでいただけるときが一番楽しい。やりがいがあります」とこの日の利用者の担当の高橋君人さんと二戸茂樹さん。二人は手際よく陳列から商品の袋詰め、お金のやり取りまでこなします。お客様の中には“ヒカリノカフェ”ブランドを目当てに足を運ばれるかたもいらっしゃるようで、用意したホールのシフォンケーキやクリスマスギフトセットなどが飛ぶように売れていきます。午前10時から午後3時までの販売で、目標売上の10万円を超えることができました。
 最後に、事業部長の渡邉さんは次のように語ってくれました。


ナイスハートバザールへの出店
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 「ヒカリノカフェの名前の通り、利用者の皆さんには仕事を通して常に“光”を放つ存在であって欲しいと願っています。そのためにも、働く場は福祉を看板にするのではなく、あくまで味や雰囲気を追求する本格的な商品製造・サービス・店舗をコンセプトに運営していきます。これまでで地元の情報誌やブログなどにもずいぶん取り上げられるようになってきました。もっともっとヒカリノカフェ・ブランドを地域に定着させたいと思っています」





取材日 : 平成21年12月

今回のポイント


@ 受注元の先行きを読んで思い切って既存事業をやめ、新規事業へ転換した。
A 工賃アップコンサルティング事業に進んで応募、プロジェクトに主体的に取り組み、派遣終了後も、工賃アップを継続している。
B Yahoo!ショッピングにWebショップを開設したり、地元の高級スーパーとの取引を開始するなど、商品レベルの高さを武器に、民間同様の営業を行っている。

中小企業診断士 西野 公晴

施設概要


施設名 SELPみなと
設置者名 社会福祉法人 エルム福祉会
所在地 栃木県大田原市本町1-2701-229
電話番号 0287-23-6106
代表者 理事長 青 秋男 氏
施設種別 就労移行支援、就労継続支援B型、自立訓練(生活訓練型)
障害種別 知的、身体
開所時期 平成16年4月(平成9年9月 法人認可)
利用者数 28名
職員数 常勤8名 パート2名
FAX 0287-23-6106
連絡担当者 施設長 仁木 淳二 氏
事業部長 渡邉 雅紀 氏
事業内容 クッキー等焼き菓子の製造・販売、ヒカリノカフェの運営、野菜・果物宅配
平均工賃 22,000円/月
URL エルム福祉会 http://www.nasuinfo.or.jp/FreeSpace/elm/
ヒカリノカフェ  http://store.shopping.yahoo.co.jp/hikarino-cafe/index.html