サービス取組み事例紹介
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北海道 特定非営利活動法人農業塾 風のがっこう

農業を基盤とした新しい障害者就労のモデルを創造する「農業塾 風のがっこう」

当機構の「長寿・子育て・障害者基金」助成事業で、障害者の就労支援に積極的に取り組んでいる事例を紹介します。

インタビュー風景(動画)




教育と農業の専門家「農業塾 風のがっこう」


「農業塾 風のがっこう」の長谷川豊さん
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 「農業塾 風のがっこう」は同法人の専務理事で酪農学園大学教授の長谷川豊さんが、将来の日本農業を背負って立つ若者の人材育成を目指して立ち上げた法人です。
 法人の役職員には北海道の元教育長や大学、高校の先生、農業の研究者などが名を連ねており、教育と農業の専門家が中心となっているのが特徴です。
 同法人は障害者福祉への取組みとして、これまでは道立の「太陽の園農場」という社会復帰訓練所の受託運営などを行なっていました(現在受託は行なっていません)。
 現在は、法人の専門性を生かし、農業を基盤とした障害者の自立・就労を支援するシステムのモデル作りのために、北海道苫小牧市にあるレストラン「彩菜房き・き」と連携した事業を展開しています。



大学の講義のような農業実習カリキュラム


 レストラン「彩菜房き・き」は就労継続支援A型事業所の飲食店です。札幌市に農場を持ち、利用者はレストランか農場を選んで働くことができます。
 ここで働く支援員と利用者に「農業塾 風のがっこう」が「農業」について指導しています。農業基礎、植物学概論、栽培法概論などの学科に71時間、野菜などの栽培や加工実習などの実技に229時間、合計300時間の大学の講義のようなカリキュラムが組まれています。
 長谷川さんは「中途半端なことを教えても農業経営はできない」と言います。自然相手の農業ですので、農作物を育て、収穫を得るにはその時々の状況に対応しなければなりません。農業を事業としていく上では、このように多くの時間をかけて学習する必要があるそうです。



ジャムの加工に取り組む利用者の 柳岡裕市さん
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 取材当日はイチゴジャムの加工作業と、農場で赤カブ、赤大根、聖護院大根の種まきの作業などのカリキュラムの実技の様子を見せていただきました。
 ジャムの加工作業は「彩菜房き・き」で行いました。カリキュラムとしてジャムの加工実習を行うのは今日が初めてとのことでしたが、指導者の説明に利用者各々が真剣に耳を傾け、テキパキと作業をしている姿が印象的でした。



赤ダイコンの種をまく利用者のみなさん
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 一方、農場で行うカリキュラムでは広さ60アール(1アールあたり100平方メートル)の広大な土地にアスパラガス、とうもろこし、人参、小豆、空豆などの農作物を5アールごとに栽培し、その生産等を学習しています。
 農作業の時間は8時30分〜11時30分と12時30分〜15時30分の3時間ずつとなっています。
 「彩菜房き・き」の利用者は精神障害者のかたがほとんどですが、農業をするようになって規則正しい生活が送れるようになったという効果もあるそうです。
 農場での指導は長谷川さんと同法人の監事で酪農学園大学教授の岡田正裕さんがしましたが、今回教わったことの一つに、種をまく間隔が30cm程度のときは、履いている靴を定規の代わりにするというものがありました。例えば、26cmの靴なら4cm足したぐらいのところを目安にして種をまくと良いということなのですが、30cm間隔といって靴を利用する発想には驚かされました。



作業の内容を確認する生活支援員古田さん(左)と 長谷川さん(右)
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 長谷川さんはこう言います。「座学を教室の中でやっても農業は身に付かない。ホワイトボードを畑の中に持って行って、農作物や土を見ながら学習するから理解できる」と。そんな長谷川さんに対して生活支援員の古田敏和さんは「先生なので教えかたが上手で理解しやすいです。ですから、私も利用者に適切な助言ができるようになり、結果的に利用者との間に今まで以上に信頼関係が生まれたように思います」と言います。



消費者から求められるのは安全、安心な食品


ヒトデ粉末をまく利用者のみなさん
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 長谷川さんが教える農業では化学肥料、農薬は一切使用しません。
 農場では農薬の代わりにアブラムシや野ねずみが嫌うヒトデに微生物を混ぜた粉末をまいていましたが、粉末の袋を開けただけで辺り一面に強烈な匂いが漂い、皆さん「クサイ、クサイ」と言いながらも、笑顔で楽しみながら、畑にまいていました。
 通常農薬は1年間に7,8回の散布で済みますが、この粉末の効果は2週間程度なので、頻繁にまく必要があるそうです。農薬を使わずに農作物を生産するということは、大変な手間と労力がかかるものだと思いますが、その分、収穫の喜びも大きくなるものと思います。
 収穫した農産物は「北のめぐみ愛食フェア」で販売することも計画されているようです。愛食フェアとは長谷川さんが会長を務めている産地直売市のことで、生産者が消費者と対面販売し、安全・安心な食品を提供することをコンセプトとしています。「農業塾 風のがっこう」では以前から愛食フェアに出店していますが、「彩菜房き・き」での出店は初めてです。
 生活支援員の古田さんは「対面販売のため、利用者のコミュニケーション能力の向上も期待できる」と言います。
 「顔」の見える対面販売は消費者が安心感を得られる一つの方法です。



「生産から加工、販売」を障害者が担う


 また、長谷川さんは「商品がどのように作られて、どのように加工され、どのような経緯で今ここにあるのかなどをきちんと説明ができると、消費者は安心して買うことができる。農家が生産だけではなく、販売まで担うことができれば、売上も増えるのではないか」と言います。
 しかしながら、農家は忙しく、なかなか販売までを担うことは難しいのが現実のようです。
 そこで、「農業塾 風のがっこう」では障害者のかたが農家に入り、農家と一緒に生産を行ない、加工や販売までを農家に代わって行なえるモデルの構築に取り組むことにしました。
 生産者である農家としては、新たな人手の確保の他、通常では取引できないような規格外の生産物の利用方法も加工に慣れた障害者から教わることで無駄をなくすことができるかもしれません。
 また、農家と苦労をともにした障害者のかたが農作物を販売することで消費者への説明に説得力を持たせることができ、より高い販売効果も期待できます。
 障害者には農家での農業や加工、販売などの新たな就労の機会が生まれます。
 さらに、農業の技術が身につけば、農業を都会の人に教えるインストラクターのような仕事など、農業を基盤とした新たな職業が生まれることも期待できるのではないでしょうか。



北海道に広がる農業を基盤とした新しい障害者就労のモデル


「農業塾 風のがっこう」の先生と彩菜房き・きのスタッフ
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 取材して驚いたことがあります。「農業塾 風のがっこう」と「彩菜房き・き」はとても信頼し合っている様子が伺えたので、かなり以前から付き合いがあるのかと思いましたが、このような取り組みが始まったのはつい最近のことだそうです。
 平成21年4月に長谷川さんと彩菜房き・きの代表渡辺典子さんが知り合い、長谷川さんの事業プランに渡辺さんが賛同し、今のような取り組みが始まりました。
 渡辺さんと知り合う以前は、「農業塾 風のがっこう」が農業にチャレンジしたい障害者を公募して、農業を教える計画でした。
 実際に札幌市社会福祉協議会の協力により公募したところ、60名以上の応募があり、農業への関心と需要が高いことがわかったそうです。
 しかしながら応募いただいたすべての人を受け入れるのには難しく、特定の人を選ぶのも難しいこともあり、公募での事業実施は残念ながら実現しなかったそうです。
 そうした中、渡辺さんの協力を得たことにより、今後、福祉に新しい風を起こせる農業を基盤とした障害者の自立を支援するシステムの構築ができることと思います。
 こうしたモデル事業が今後各地で展開されていき、これから北海道では、障害者自らが作った農産物を自ら加工して、そして自ら販売していく、そんな光景が多く見られそうです。




取材日 : 平成21年8月

機構の助成事業について


 今回取材した「農業塾 風のがっこう」の事業は平成21年度「長寿・子育て・障害者基金」助成事業の一部です。
 農業を通じて農村と障害者、団塊世代を繋ぐ役割を果たすため、障害者や団塊の人たちに生産、加工、販売を指導し、収穫、加工した商品を、自ら販売すること、それらの工程を仲立ちしながら、農村を理解し、コミュニケーションをはかり、農業が不足している労働力の確保と障害者のかたが住民の一人として地域で安心して暮らせるようなシステムのモデル構築を行なう計画です。

 このような助成事業については毎年9〜10月にかけて翌年度に実施する事業を募集していますので、ご興味・ご関心のあるかたは基金事業部までお問い合わせください。


施設概要


施設名 農業塾 風のがっこう
開所時期 平成16年12月7日
設置者名 特定非営利活動法人農業塾 風のがっこう
利用者数
所在地 札幌市南区南沢3条2丁目15番15号
職員数 非常勤17名
電話番号 011-571-3387
FAX 011-571-3387
代表者 鎌田 昌市 氏
連絡担当者 長谷川 豊 氏
施設種別
事業内容
障害種別
平均工賃
URL http://www.kaze-school.com/index.html