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【熊本県】

患者を無料送迎 芦北町の百崎医院 唯一のタクシー会社撤退で

熊本日日新聞 2018年2月8日(木)

川元マサ子さんに体の具合を尋ねる百崎志伸院長(左)=芦北町

「お変わりないですか?」「階段上るとに息苦しかっです」

 1月下旬、熊本県芦北町田浦の百崎内科医院の診察室。院長の百崎志伸さん(50)は、川元マサ子さん(84)の体調変化に耳を傾けた。この医院は2015年秋、患者の無料送迎を始めた。田浦地区唯一のタクシー会社が撤退し、高齢患者の「通院に困る」という訴えを聞いたからだった。

 川元さんも無料送迎を利用。自宅のある波多島地区から峠を越えて通院する。以前は約1キロ先の肥薩おれんじ鉄道駅まで自転車をこぎ、列車で八代市の病院に通っていた。「送迎は本当に助かる。通院はやっぱり近場がいいね」

 移動手段が乏しい過疎地で、高齢者が自宅に住み続けるのは難しい。医療や介護が必要になればなおさらだ。やむを得ず、入院や施設入所に至るケースは少なくない。内閣府の12年の意識調査で、5割以上が「自宅で最期を」と望む一方、8割近くが病院で亡くなる現実がある。

 山間部の吉尾地区にある吉尾保育園は1995年、県内で初めて介護の必要な高齢者が集うデイサービスセンターを併設した。きっかけは、近くの80歳前後の男性が施設入所の決定を苦に自宅で自ら命を絶ったこと。運営する本村憲裕さん(65)は「移動手段がなくても、自宅で老いることができる環境が必要だった」と振り返る。

 隣の大岩地区から通う鬼塚クミエさん(83)は、園児との触れ合いが楽しみだ。園舎とは約10メートルの廊下でつながっている。「おはようございます!」。元気に駆け寄る園児の手を取り、「また大きくなったね」と声を弾ませた。

 「介護が必要なくても、買い物や自炊に困っているお年寄りは多い」と本村さん。町の委託を受け、保育園の給食室を使って配食事業にも取り組む。園児の定員割れが続き、経営は楽ではない。地方の実情を把握せず、都会の待機児童の解消だけを重視する国の施策を恨めしく思う。

 標高約400メートルに位置する上原地区で暮らす80代の男性は、透析治療のために週3日、20キロ以上離れた病院に送迎車で通う。地区に延びる道路は、降雪や路面凍結で寸断される恐れがある。このため冬場は体調を見極めながら、必要なときは入院する。地区に住み続けながら透析治療を受けるには、ほかに手だてはない。

 県内各地で積雪を観測した1月12日、男性はベッドで透析治療を受けていた。「家に電話したら、1センチぐらい雪が積もったって」。自らの体調とともに、地区のことが気になる。「暖かくなって米作りをするのが楽しみ」。自宅に戻る春を心待ちにしている。(福山聡一郎)

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