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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

「介護老人保健施設経営セミナー」報告【東京会場】
「介護老人保健施設の未来への経営戦略を探る」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、社団法人全国老人保健施設協会と共催して平成22年9月17日、全社協・灘尾ホールにおいて、介護老人保健施設経営者等を対象に「施設経営の持続可能性を探る」と題して介護老人保健施設経営セミナーを開催しました。
 本年6月に閣議決定された『新成長戦略 〜「元気な日本」復活のシナリオ〜』においては、「強い経済」、「強い財政」、「強い社会保障」を一体的に実現していくことが打ち出されましたが、この中で、介護分野については、今年度において、介護サービス提供体制(マンパワーを含む)に関する今後の需要予測を踏まえたグランドデザインを策定し、平成24年度において、地域包括ケア推進の法体系等の整備を行うなどとする工程表が示されたところです。
 制度の持続可能性が重要となる一方で、住み慣れた地域で暮らせるよう必要なサービスの提供体制を整備していくことが強く求められる中、今後の改革の方向性はどうなるのか。また、平成24年度には診療報酬及び介護報酬の同時改定も予定されていますが、これに向けて、施設経営者はどのような舵取りを行っていけばよいか。
 このセミナーでは、これからの介護老人保健施設のあるべき経営の姿を見通すとともに、報酬の同時改定を見据えた経営改善策に係る情報提供や、施設経営に当たって先進的な取組みをされている経営者からの実践事例報告等を通じて、安定した施設経営を実現していくためのヒントを、皆さんとともに考えることを目的としています。

介護老人保健施設経営セミナー風景


 最初の講演は、社団法人全国老人保健施設協会 常務理事 平川 博之 氏から「介護老人保健施設の未来への経営戦略を探る」と題して、講演が行われました。
 講演内容は、介護老人保健施設をとりまく現状を確認するとともに、未来の経営戦略として地域包括ケア研究会報告書から読み取れる方向性と、介護老人保健施設のあるべき姿として、介護老人保健施設の機能、介護職員のキャリアアップについて考える、示唆に富んだものでした。

 介護老人保健施設をとりまく現状では、日本の人口はピークを越え減少傾向にあるが、75歳以上の後期高齢者は2025年にかけて増加し、要介護(支援)認定者数も755万人に達する。特に埼玉県や千葉県など大都市圏において後期高齢者は2倍となるところもある。
 この中には元気な高齢者もあるが、高齢者単独、夫婦のみの世帯も多く、生活ができるのか、また、認知症を有する高齢者も増加するなど、大きな問題がある。
 平成22年度の介護保険給付費は、7.3兆円であり、保険料も3,000円から4,000円、さらに今後5,000円に上がる見込みである。
 サービス受給者も407万人で、居宅系サービスは206パーセント増となっている。
 また、介護職員の離職率は、全体で18.7パーセント、施設介護職員等は21.9パーセントと、全産業平均の14.6パーセントを大きく上回っている。
 賃金も、全産業に対し低く、せめて准看護師並みに引き上げる必要がある。
 今後、人口の減少に伴い生産年齢人口も減少し、2025年には働く人の1割が医療・介護分野の人材となるという推計もある。
 地域包括ケア研究会報告書からは、介護老人保健施設のあり方に関する事項を見ると、介護保険施設は、在宅復帰支援(リハビリテーション)、認知症対応、医療ニーズへの対応等の機能を重点化することが必要とされている。また、地域包括ケアシステムの構築に向けた当面の改革の方向性(提言)では、包括的なケアマネジメントが前提であり、ケアの標準化として「自立支援型介護」、「予防型介護」や、自立支援に向けた目標指向型ケアプランの作成などの方向性が示されている。
 地域包括ケアを支える人材の観点では、良質なケアを効率的に提供するための人材の役割分担として、2025年におけるそれぞれの人材の役割が示されているが、医師の眼から見ると、階段を横ずらししているだけで本当に大丈夫かという疑問符が付く。
 このほか、サービスの質の評価に基づいた介護報酬体系が構築されること、介護保険施設類型化の再編においては、施設の類型によらず、実際に果たしている機能に着目して評価できるようにすることなどが示されている。
 また、介護人材養成については、多様な経歴の者が参入できるように間口を維持し、段階的な技能形成を可能とすること、実務者が身近な地域で無理なく、効率的に学習できるよう、多様な教育資源を活用する仕組みを講ずることが重要である。
 介護老人保健施設の役割として、包括的ケアサービス施設、リハビリテーション施設、在宅復帰施設、在宅生活支援施設、地域に根ざした施設の5つを挙げている。
 包括的ケアサービス施設としては、利用者の状況に応じた「目標と支援計画」により利用者の尊厳を支えること、リハビリテーション施設としては、生活機能の維持・向上、「よくする」機能、地域に根ざした施設としては、ボランティアの受け入れ、見ていただくことにより地域の信頼を得ることが重要である。また、今後の介護老人保健施設のイメージとして、大規模・多機能を挙げている。
 介護労働者の悩みや不満は、賃金が低いこと、夜勤への不安と社会的評価が低いことで、希望としては、能力を評価して欲しいこと、資格による手当てが欲しいことなどであったが、キャリアアップシステム(全老健版キャリアアップシステムを説明)の導入が職員の確保・定着の大きな要素となっている。実際に、本人と上長との面接により本人の考え方、思いを知ることが大切である。
 最後に、介護老人保健施設は住まいとは異なる多くの機能を持っているなかで、現実の人員配置は基準の3対1を超える2.2対1である。財政が厳しいことは分かるが、実際のやっているものを評価し、報酬に反映して欲しい。

 なお、このセミナーの模様は、機関誌WAM12月号に、中林梓氏の講義を中心に掲載させていただきます。
 また、今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。


    【講演内容】
    ○「介護老人保健施設の未来への経営戦略を探る」
    <講師>社団法人全国老人保健施設協会 常務理事 平川 博之 氏

    「介護老人保健施設を中心とした融資制度について」
    <説明者>独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部 医療審査課 川森 大輔

    ○「同時改定を見据えた介護老人保健施設の経営対応」
    <講師>株式会社ASK梓診療報酬研究所 代表取締役・所長 中林 梓 氏

    ○「老健に求められるサービスー在宅生活支援のために」
    <講師>医療法人社団心司会 介護老人保健施設しょうわ 理事長・施設長 佐藤 龍司 氏

    「限られた経営資源を活用する手立て〜介護老人保健施設の経営分析参考指標から〜」
    <説明者>独立行政法人福祉医療機構 経営支援室長 中村 善一