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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「医療経営セミナー」報告−【東京会場】
「医療機能の分化・連携を通じて地域完結型医療に至った病院の経営とは」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成23年2月18日(金曜日)都市センターホテルにおいて、医療機関の経営者等を対象に「地域完結型医療の実現に至った病院経営のノウハウ」と題して医療経営セミナーを開催しました。
 国民的課題である「地域医療の再生」を図るためには、医療機能の分化・連携(「医療連携」)を推進することにより、急性期から回復期、そして在宅医療に至るまで、地域全体で切れ目なく必要な医療が提供される「地域完結型医療」を実現していくことが、極めて重要になっています。
 平成24年度までの現行の医療計画では、4疾病5事業ごとの医療連携体制の構築が求められているところですが、国においては、昨年末より、地域医療連携等の点でより実効性の高いものとすることを目的に、医療計画の見直し等について検討が始まっています。
 こうした中、今後、地域の医療機関にとっては、医療機関等相互の結びつきを一層密にするとともに、連携の強化等を通じて経営の持続可能性を高めていくことがますます求められています。
 今回のセミナーは、地域医療の最前線で活躍される講師の実践事例を通じて、地域完結型医療の実現に至った病院経営のノウハウを研究するとともに、各医療機関が、地域で生活する方々の安心・信頼を確保しつつ、安定した経営基盤を構築するための具体的な方策について、皆さんとともに考えることを目的としています。
 最初の講演は、「医療機能の分化・連携を通じて地域完結型医療に至った病院の経営とは」と題して社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院理事長 神野 正博 氏にご講演いただきました。
 講演内容の要旨は、次のとおりです。
医療経営セミナー風景
 (講演要旨)
 医療・介護をめぐるキーワードの一つ目は人口減少と少子高齢化であり、高齢化による有病率の上昇、医療・介護の負担の増加、また、その担い手の問題である。二つ目は医療崩壊と地域崩壊の問題であるが、これは表裏一体の関係にあり、患者の98パーセントは通える範囲の人であり、地域の人口減少は更なる患者の減少につながることから地域を崩壊させないためにも地域への貢献が必要となる。三つ目は社会保障費削減の問題であるが、社会保障費を増やすことは難しく、予防や健康増進、効率化、選択と集中などにより増益を図る必要があるほか、日本では専門医が多いが総合医・家庭医などプライマリーケアを充実する必要がある。このような中で自分たちの立ち位置を考えることが重要である。
 医療もサービスであるが、サービスの本質は、「品質」、「コスト」、「アクセス」と「アフターサービス」で、「品質」、「コスト」は公定化されており差別化は難しく、また、「アクセス」についてはフリーアクセスとなっている。しかし、退院後の「アフターサービス」については差別化が可能であり、面倒見の良いところが選ばれる。
 2008年11月の社会保障国民会議の最終報告によれば、2025年における医療・介護のマンパワーの必要量が大幅に増加し、また、医療と介護の合計は90兆円を超える見込みで税金と保険料により賄うこととなるが、消費税アップのための資料となってしまったところもある。
 同報告書の2025年病床数の推移予測のB3シナリオでは、高度急性期病床26万床、一般病床49万床、亜急性期・回復期病床40万床であり、DPC病床50万床とすると
25万床(26万床+49万床−50万床)が一般病床となる。
 入院医療の方向性を考えると、第一の道は「急性特化・DPC」であり、多くの国・公立病院との競合、第二の道は「慢性特化」であるが、介護療養病床の行方は良く分からないなどリスクがある。第三の道は「専門特化」、第四の道は「ケアミックス」、第五の道として「医療〜介護〜福祉〜関連サービスの統合」であり、地域一般病棟や地域との協働によるケアミックスを越える地域の見守り、地域安心サービスの提供など地域包括ケアである。
 四病院団体協議会における定義としては、地域一般病棟とは「地域(一次医療圏・生活圏)において、連携を中心として地域医療を支える、地域密着型の病棟(病院)であり、その機能は、@急性期入院(軽度・中等度)に24時間体制で対応する、A救急医療における連携機能を持つ、B急性期以降の入院機能連携を行う、病棟(病院)である。
 平成22年度診療報酬改定を見ると、全体改定率でプラス0.19であったが、救命救急など高機能部分が評価され、大学病院などでは収入増となっている。次期改定では、医療と介護の同時改定となるが、慢性期、在宅、訪問看護などとの連携と退院調整等の評価が対象になると考えられる。また、DPC調整係数の廃止など議論の対象となっている。
 能登中部医療圏の高齢化率は30.6パーセントであるが、このような中、社会医療法人財団董仙会として、恵寿総合病院を核に、診療所、介護老人保健施設を運営し、、社会福祉法人徳充会においては、特別養護老人ホーム、ケアハウス、身体障害者更生・援護・授産施設などを運営している。
 なお、国際医療福祉大学大学院医療経営管理学科の高橋泰教授が構築された「2次医療圏データベースシステム」がインターネット上で無償提供されているが、計算してみると、2035年には高齢化率40パーセント以上の医療圏が大幅に増加する。
 「けいじゅの3つのビジョン」は、
・面倒見のいい病院を目指します
 −医療〜介護〜福祉〜保健のシームレスな連携
・選ばれる病院を目指します
 −患者、地域住民、医療機関、行政、学校、企業、そして医療職から選ばれる
・とことん地域密着します
 −地域における連携から雇用確保・地域振興
であり、ビジョンに基づいて活動をしている。
 情報システムについて1994年の診療材料、薬剤のIT管理から積極的に取り組んでいる。現在では「けいじゅヘルスケアシステム」として各施設ネットワークを結ぶとともに、コールセンターを設けて多施設、多制度にわたる患者情報・患者サービスの一元管理を行っている。例えば、脳卒中の地域連携パスにおいては、能登中部医療圏の8割をカバーしている。
 地域に安心サービスを提供するためには医療がないと進まないが、診療報酬が増えていかない中で、地域包括ケアを中心に、他の産業とコラボレーションするなど、地域に密着した地域完結型医療の提供が必須である。
 
 午後からは、『地域完結型医療の実現に至った病院経営のノウハウとは』と題して、実践事例を踏まえながら、パネルディスカッションが行われました。


・パネラー 医療法人財団慈生会 野村病院 理事長・院長 野村 幸史 氏
       実践事例@ 「野村病院が目指す地域完結型医療の実践」
・パネラー 社団法人徳山医師会 オープンシステム徳山医師会病院
       会長・理事長 岡本 冨士昭 氏
       実践事例A 「地域連携に対する徳山医師会病院の取り組み」
・パネラー 特定医療法人社団高橋病院 理事長・院長 高橋 肇 氏
       実践事例B 「シームレスな医療・介護連携の実現に向けて−医療・介護連携ネットワークの現状と、
               共有すべき情報のあり方−」
・コーディネーター  独立行政法人福祉医療機構 理事 瀬上 清貴

 
    【全体プログラム】
    「医療機能の分化・連携を通じて地域完結型医療に至った病院の経営とは」
    (講師) 社会医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長 神野 正博 氏

    「医療機関に対する福祉医療機構の融資制度について」
    〈説明者〉独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部

    パネルディスカッション 『地域完結型医療の実現に至った病院経営のノウハウとは』

    「これからの事業展開を進めるうえでの経営分析の活用−2009年度 病医院の経営分析参考指標から−」
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 経営支援室