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◆◆ 平成23年度 ◆◆

平成23年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「介護老人保健施設経営セミナー」報告−【東京会場】
「地域包括ケアシステムの中の経営の在り方とは」

 福祉医療機構

  当機構の経営支援室は、平成23年11月8日全社協・灘尾ホールにおいて、「地域包括ケアシステムの中の経営の在り方とは」をテーマに、来年予定されている診療報酬・介護報酬の同時改定の動向も視野に入れながら、先駆的な実践事例の紹介と併せて、今後の介護老人保健施設の方向性を探るとともに、将来に向かって持続可能性のある経営基盤を確立するためのご参考としていただけることを目的として、介護老人保健施設経営セミナーを開催しました。

 セミナーの冒頭、当機構理事長の長野からの挨拶に続き、今回のセミナーの共催者である公益社団法人全国老人保健施設協会 会長の山田和彦氏よりご挨拶をいただきました。
 山田会長は挨拶の中で、2025年の地域包括ケアの時代に向かって舵をきった法改正があったことから、今日のセミナーが、2025年に向かっての長期経営戦略の糧となるだろうと期待しており、経営実態の説明により全国の仲間がどういう状況にあるかということを客観的に知るよい機会になると思うと述べられていました。

 また、山田会長におかれましては、開催のご挨拶に引き続き、「今一度原点から見つめ直す介護老人保健施設の役割」と題した講演をしていただきました。
 講演の概要は、次のとおりです。

1.(介護)老人保健施設の創設から現在まで
 まず、復習の意味も含め、介護老人保健施設の誕生からその後の歴史についてお話しします。
 昭和60年の社会保障制度審議会の意見書において、特別養護老人ホームと医療機関の両施設を統合し、それぞれの長所を持ちよった中間施設の検討が必要とされました。
 その後、昭和62年に全国7か所でモデル老人保健施設の指定がなされ、翌63年には老人保健施設が誕生、平成12年には介護保険制度がスタートし現在に至っています。
 現在、約3800施設・約35万床が整備されています。
 また、老人保健施設は認知症の問題等を早期に認識し、年度毎にテーマを設け常にチャレンジをしてきた歴史もあります。
さらに、老人保健施設は開設(創設)当初からリハビリ専門職を必置とした我が国唯一の施設であり、リハビリ施設としての覚悟をもってこれまで運営してきたところです。

2.介護老人保健施設の現状と課題
 介護老人保健施設の現状としては、ベッド数の増加に伴い、要介護度の重度化(平成13年  3.11→平成20年3.28)、平均在所日数の長期化(平成12年184.8日→平成19年277.6日)が生じており、最近の平均在所日数は1年近くになっているというデータもあります。
 また、在宅復帰率の低下(平成6〜7年は60数%だったが、年々低下し、平成19年は31%)も起こっており、各種データからもこれらのことが読み取れます。
 一方、介護給付費分科会における介護老人保健施設の位置づけとしては、在宅復帰、在宅療養支援のための拠点となる施設、リハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設とされており、地域の拠点であることが再確認されました。
 各種データから見た課題としては、介護老人保健施設の入所者の状態像が介護老人福祉施設(特養)の入所者と大きな差が見られないことや、退所の状況等についても在宅に復帰していないのではないか等の指摘があり、本来、介護老人保健施設が果たすべき役割を果たせていないのではないかということが大きな課題であると感じています。
 リハビリテーションについても、施設によりリハ職員の配置にばらつきが見受けられ、通所リハと通所介護が似ている等の指摘があることも課題となっています。

3.介護老人保健施設を取り巻く状況
 人口構造の変化から、現在は1人の高齢者を3人で支えている社会構造になっておりますが、少子高齢化が進行する2055年には1人の高齢者を1.2人で支える社会構造になると推計されており、また、高齢者人口の増加に伴う認知症高齢者数の増加も問題であり、2010年では208万人の認知症高齢者が2025年には323万人、現在の約1.6倍に達すると推計されている状況にあります。
 これに伴い、介護の担い手(介護職員)の確保が重要な問題となり、現行のサービス水準を維持・改善しようとする場合、労働力人口に占める介護職員数の割合は、2007年から2025年にかけて、倍以上になる必要があると見込まれています。

4.介護老人保健施設に期待される役割
 制度の創設や大きな改正が行われる際、必ず研究会が設置されているという経緯があり、研究会の報告書に記載される内容は、その後の改正で必ず取り扱われるものであるとこれまでの経験から認識しております。
 そうした観点から2008年の「地域包括ケア研究会」の報告書をとり上げ、その内容から今回の改正の内容をひも解くことにします。
24時間地域巡回型訪問サービスの基本的な考え方のポイントは、介護サービスと看護サービスの一体的な提供、24時間の安心・安全の提供の2点です。
 こうしたことから、在宅を支える介護老人保健施設としては、可能であれば積極的に参画もしくはバックアップしていくことが大事であり、リハビリについて言えば、介護老人保健施設は将来の地域のリハビリ拠点のトップランナーとしての位置にあると思っています。
その拠点になれるか否かは、その地域の整備状況や、各施設の考え方によるところが大きいです。

5.地域包括ケアと老人保健施設
 地域包括ケアシステムとは、日常生活圏域において、24時間365日、安心・安全でケアのできる状況を作ることです。
 地域包括ケア研究会報告書の内容から何点かポイントを挙げると以下の通りです。
  ・介護保険施設は、在宅復帰支援(リハビリテーション)、認知症対応、医療ニーズへの対応等の機能を重点化。
  ・リハビリテーションスタッフが重点配備された施設を中間施設として位置づけ。
  ・こうした機能を持たない介護保険施設は「ケアが組み合わされた集合住宅」として位置づけ。
  ・「ケアが組み合わされた集合住宅」では、基本的な見守りと生活支援サービスが提供され、医療・看護・介護サービスは外部の事業者から外付   けで提供
  ・介護保険施設類型の再編では、施設の類型より機能を評価
   こうしたことからも、長期的な展望として、介護老人保健施設を地域で戦略的に整備・展開していくことが大切であると考えています。

6.2025年の介護老人保健施設
 地域包括ケアの拠点を担うことができる候補先としては、介護老人保健施設や介護老人福祉施設(特養)等5つほど挙げられるが、その中で、最もバランスがいいのは介護老人保健施設だと思っています。
 また、認知症ケアにおける介護老人保健施設の位置づけについて、介護老人保健施設は中間施設としての役割を担っていけると思っております。
介護老人保健施設における課題は次の3つです。

 @入所の長期化
 A在宅復帰率の低下
 B介護老人保健施設利用中の医療提供
 それぞれの課題に対する対策としては以下の通りです。
 @単なるケア付き住まいの提供ではなく、介護老人保健施設らしく維持期リハビリを積極的に導入し、利用者が生きがいを持って、その人らしく地域で暮らせる入所を目指すこと。
また、認知症ケアにも積極的に取り組む必要があること。
 A在宅で安心して暮らせる環境の構築が必要。
在宅ケア支援機能の充実を図ることにより在宅復帰の促進を図ること。
24時間365日在宅で安心して生活できる体制の整備が必要であること。
 B在宅と同じ医療提供環境の構築が必要。
介護老人保健施設内で可能な医療提供については報酬上も担保される体制を構築し、医療体制(医師、看護師、検査設備等)の充実を図るとともに、提供する医療の範囲も検討する必要があること。
 具体的には、一般的な治療が施設内でもできる介護老人保健施設とするということ。
また、早急に検討・注意しなければならないこととしては、療養病床再編の二の舞にならないために、介護老人保健施設に対して起こりうる批判に対しどう応えるか、ということを考えておかなければならないということであり、今のうちから現場でその解決法を示していくことが必要です。
 そのためにも、他職種協働で必要なサービスを提供すること、生活機能の維持・回復に努めること、利用者の状態にあった住まいへの復帰に努めること、在宅ケアの支援を行うこと、地域との連携と地域ケアの拠点としての役割を果たすこと、が必要となります。

 これからの介護老人保健施設は、在宅ケア支援施設として限界まで在宅で暮らせるように挑戦をしていかなければならず、在宅ケア支援の中核的施設=在宅支援型老人保健施設というのが、将来の方向性だと考えています。

7.介護老人保健施設の目指す方向性
 これまでの話しをまとめると、今後の介護老人保健施設は、総合在宅ケア支援センターというかたちにすることが将来像ではないかと考えています。
その中で必要になるものとしては、相談機能、訪問・通所・入所・トリアージの機能、地域支援機能等が挙げられると思います。
 地域を支える支援センター的な介護老人保健施設へ発展していくだろうと思うし、そうなっていきたいという気持ちをもちながら、今後もやっていきたいと思っています。

 以上のような話しのあと、当機構の医療貸付事業の紹介を行い、午後からは「介護老人保健施設を地域連携の要の施設へ」として公益社団法人全国老人保健施設協会の常務理事で医療法人博愛会・医療法人和香会・社会福祉法人優和会 理事長の江澤 和彦氏から、また「在宅復帰率を高めることによって見えてくるもの」として公益社団法人全国老人保健施設協会の常務理事で医療法人生愛会・社会福祉法人生愛福祉事業団 理事長の本間 達也氏からそれぞれ講演をいただいたほか、「経営指標から見る介護老人保健施設の経営状況」として当機構の経営支援室から説明を行いました。


 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspx
です。
    【講演内容】
    今一度原点から見つめ直す介護老人保健施設の役割
    <講師>公益社団法人全国老人保健施設協会 会長 山田 和彦 氏

    「介護老人保健施設を中心とした医療貸付の融資制度について」
    <説明者> 独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部 医療審査課

    介護老人保健施設を地域連携の要の施設へ
    <講師>公益社団法人全国老人保健施設協会 常務理事
          医療法人博愛会・医療法人和香会・社会福祉法人優和会
          理事長 江澤 和彦氏

    在宅復帰率を高めることによって見えてくるもの
    <講師>公益社団法人全国老人保健施設協会 常務理事
           医療法人生愛会・社会福祉法人生愛福祉事業団
           理事長 本間 達也氏

    経営指標から見る介護老人保健施設の経営状況
    <説明者> 独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営支援課