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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「保育所経営セミナー」報告−【大阪会場】
「認定こども園の実践と未来への経営課題」

 経営支援室 経営企画課 岩崎 博道

 当機構の経営支援室では、平成23年2月4日(金曜日)、毎日新聞ビル・オーバルホールにおいて、保育所の経営者等を対象に、「子ども・子育て新システム構築の動きと保育の役割」と題して、保育所経営セミナーを開催しました。
 2010年6月、国の少子化社会対策会議においては、幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的なシステムの構築を目指し、「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」が決定されました。
 これを基に、基本制度ワーキングチームをはじめとする3つの作業グループが設置され、平成23年の通常国会への法案提出に向けて検討されているところです。
 子ども・子育て支援に関する具体的な政策展開が待たれる中、保育所経営者の皆さまは、こうした大きな変化の潮流の中にあって、難しい舵取りを求められています。
 今回のセミナーでは、国の政策検討の最新動向と先駆的実践者の方々からの講義を通じて、これからの保育に求められる役割は何か、そして、如何に安定した経営基盤を構築すべきかを考えることを目的としています。
 このコラムでは、社会福祉法人東明会 認定こども園飯沼保育園 理事長 東ヶ崎 静仁 氏 による「認定こども園の実践と未来への経営課題」をテーマとした講義について、ご紹介します。

 東ヶ崎氏が経営する認定こども園 『飯沼保育園』は、水戸市から10q程度南に向かった東茨城郡茨城町(人口約35,000人)に位置しています。
 この保育所は、もともと認可保育所として経営されていましたが、近隣の公立幼稚園の廃園に伴い、平成22年4月に保育所型の認定こども園として、定員90名の保育部に加え、定員30名の幼稚部(3・4・5歳各10名の認定)を組み込み、新たなスタートを切りました。
 講演内容の要旨は、次のとおりです。
社会福祉法人東明会 認定こども園飯沼保育園 理事長 東ヶ崎 静仁 氏
 認定こども園を実施するにあたっては、自治体からの条件として、保護者負担が公立幼稚園と同額の、授業料4,000円、給食代(任意で選択)3,400円という内容であった。茨城町からは、人件費相当分として1名分の補助金を受けることができたものの、厳しい運営状況のなかでのスタートであった。
 認定こども園の導入にあたっては、認可保育所としての定員弾力化、特別保育は何ら変わりなく実施しており、基本的には幼稚園機能を加えるだけというイメージである。 以前、民放テレビで認定こども園が取り上げられた際、認定こども園という制度はやや複雑だというケースが紹介されていたが、どれも幼稚園から認定こども園に転換した事例を取り上げている。認可保育所をベースにした認定こども園は、自身の実感として、比較的進めやすいという認識を持っているとのこと。
 利用者負担について、認定こども園は利用者との直接契約であることから、当園では保育部も幼稚部もこちら側(事業者側)が徴収することとなった。保育所費用徴収の国基準は、以前は十数階の階層があったものが現在八段階となり、階層毎の間差額は広がってしまった。保育部では、利用者の前年度所得に応じて利用料を徴収することとなるが、最初の三か月間は、前々年度所得をベースに暫定で支払っていただくため、利用者からすれば、所得がボーダーラインを超えた場合、予想を超えた金額を支払うこととなり、負担感が大きくなる。当園では、該当の利用者には分割支払により対応しているが、負担感の増大を緩和する何らかの工夫が必要となろう。
 認定こども園のメリットとしては、@保育所利用以外に幼稚部利用が増加したこと、A利用者の就労の有無に関わらず柔軟な利用が可能になること、B直接契約により入所の判断は保育所側の裁量になること、C保護者にとって、短時間・長時間利用の選択肢が増えたこと、D子ども自身にとって、生活リズムが確立できること、などが挙げられる。また、この他のメリットとして、間接契約から直接契約になったことによって、利用者の「滞納」が減少したことが特筆すべき点である。これは、保育料の徴収義務者である市町村と利用者とが顔を合わせることのない現行の支払関係から、保育所(サービス提供者)と利用者とが直接顔を合わせる支払関係になったことが大きい。事実、現在まで飯沼保育園では滞納がゼロである。
 次に、デメリットとしては、@幼稚部の定員は、混合保育の保育部での受入れ制限があること、A利用者との直接契約方式をとることにより、事務手続きが煩雑になること(保育部・幼稚部共に保護者負担分の直接徴収となること、入所決定(解除)・徴収額決定(変更)の市町村と利用者の二か所に通知すること)、などが挙げられる。
 最後に、認定こども園制度についての経営課題の指摘があった。利用者との直接契約となる認定こども園では、利用者の滞納が生じた場合、契約の解除が可能である。しかしながら、解除に関しては、現状何のガイドラインもない状態であるため、例えば、「あの認定こども園は保育料を支払わなくても入れてくれる」という噂が広まった場合は施設の経営に大きく関わってくることとなる。新システムという新たな仕組み作りが進められているところではあるが、これには注意が必要であるとともに、何らかの制度・政策的な手立てが必要ではないかとのことであった。
 最後に「親というものは、子どもを生んですぐに親になるものではなく、子供の成長とともにだんだんと親になるものである。これまで、当園では放課後児童保育、一時保育等の保育に関する色々なニーズに対応してきた。これからも、社会の要請に応じたニーズに対応していくこととしたい」とのことばで講義が締めくくられた。

 その他の講義は、次のとおりです。

    【講演内容】
    「幼保一体化を巡る動きとこれからの保育所経営」
    <講師> 仁愛大学人間生活学部 子ども教育学科 教授 西村 重稀 氏

    「保育を巡る国の動向と課題」
    <講師> 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 保育課 課長補佐 杉原 広高 氏

    「良質な保育サービスを目指すための保育所経営の視点とは」
    <講師> 社会福祉法人鐘の鳴る丘友の会 さくら第2保育園 園長 堀 昌浩 氏

    「社会福祉法人における保育所経営の視点〜平成21年度認可保育所経営分析参考指標から〜」
    <説明者> 独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課長 千葉 正展

     経営支援室では、これからも、福祉・医療の経営に関するトピックをテーマに、学識経験者、現場の実践者などを講師に迎え、経営セミナーを開催させていただきます。
     今後の開催予定は、
    http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspx です。
     お申込みは、Webからも可能ですので、是非、ご検討ください。