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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「障害者施設経営セミナー」報告−【東京会場】
「障害者制度改革をめぐる最近の動向について」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成22年9月3日、全社協・灘尾ホールにおいて、障害者施設経営者等を対象に「インクルーシブな社会を目指して〜障害者の就労支援の現状と課題」と題して経営セミナーを開催しました。
 本年6月、国においては、障害者制度改革の推進のための基本的な方向を決定するとともに、障がい者制度改革推進会議の第一次意見を最大限尊重し、障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備を始めとする障害者に係る制度の集中的な改革の推進を図ることとしました。
 この中では、「障害の有無にかかわらず、相互に個性の差異と多様性を尊重し、人格を認め合う共生社会の実現」が謳われていますが、こうした一連の制度改革は、障害者施設の経営にどのような変革をもたらすのでしょうか。
 今回のセミナーでは、制度改革をめぐる最近の動向について理解を深めていただくとともに、就労支援分野において共生社会を先取りする取組みをされている方々の実践事例のご紹介を通じて、今後、障害者の就労支援を図る上でどのような事業展開が必要かを考えることを目的としています。

障害者施設セミナーの風景(左)とテキスト(右)

 
 最初の講演は、内閣府政策統括官付障害者施策担当参事官 関 英一 氏 から障害者制度改革をめぐる最近の動向についての説明がありました。概略は次のとおりです。

 障害者制度改革の推進体制については、内閣総理大臣を本部長とし全ての国務大臣で構成する「障がい者制度改革推進本部」の下に、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者、学識経験者等で構成される「障がい者制度改革推進会議」、さらに部会として「総合福祉部会」が設置されている。秋には「差別禁止部会」が設けられる予定である。
 推進会議では平成22年1月から審議を開始し、6月7日は「第一次意見(「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」)を取りまとめた。これを受けて、国では、障害者制度改革の基本的方向と今後の進め方、さらに平成25年度までの11分野の工程表等が閣議決定された。
 「総合福祉部会」では、4月から「障害者総合福祉法」(仮称)制定に向けた論点整理が行われおり、平成23年8月を目途に同法案の内容について提言を行うため、10月からは各論点ごとに作業チームによるさらなる論点整理が進められることとなっている。

 その後、法政大学名誉教授 松井 亮輔 氏から「インクルーシブな社会実現への課題と展望−障害者の雇用・就労を中心に−」と題して講演が行われました。概略は次のとおりです。

 わが国の障害者の就業率は40.3%、福祉的就労に従事している者を除くと31.9%で、労働年齢の非障害者の就業率69.8%と比べ半分以下となっており、障害者が、非障害者と平等に労働参加できるよう対策が求められている。
 2008年の障害者の平均賃金(月額)は、身体障害者が25.4万円、知的障害者が11.8万円、精神障害者が12.9万円である。知的障害者及び精神障害者は1か月の最低賃金(約12.6万円=713円×8時間×22日)程度と低い。
 更に、一般雇用施策と福祉的就労施策に2元化され、障害者の権利性は欠如されている。
 障害者権利条約 第1条【目的】では、「障害がある人すべての人権および基本的自由を完全かつ平等に享受することを促進し、保護し、確保すること、および障害のある人の固有の尊厳を尊重する。」として、障害のある人を具体的には例示していない。
 第3条【一般原則】では、障害のある人の固有の尊厳と個人的自立性の尊重、差別されないことや完全かつ効果的な社会参加と社会での受け入れの尊重など、7つの原則が示されている。
 第27条【労働及び雇用】では、障害者の労働権を保障するとともに、障害者に対して開放され、障害者を包容し、及び障害者にとって利用しやすい労働市場及び労働環境において、障害者が自由に選択し、又は承諾する労働によって生計を立てる機会を有する権利を含む、としている。
 そして、あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関し、障害に基づく差別を禁止している。
 また、職場において、合理的配慮が障害者に提供されることを確保することとされているが、合理的配慮とは、施設の改造、備品・設備の取得又は改造など過度の負担等を求めるものではない、としている。
 推進会議での雇用・就労をめぐる主な論点では、一般雇用(障害者雇用促進法)における「障害者」の定義は広いが、実際には各法に基づいているなど定義や範囲の見直し、雇用率、ダブルカウントや納付金制度などの検証・検討、福祉的就労における労働法規の適用や最低賃金を保障するための賃金補填制度の導入、一般就労と福祉的就労の相互間の移行を可能とするシームレスな支援の仕組みの整備などがある。
 現在、障害者雇用については雇用行政及び労働政策審議会で、福祉的就労については福祉行政及び社会保障審議会で別々に対応しているが、両者にまたがる横断的な課題については、障がい者制度改革推進本部等において対応するとともに、さらに労働政策審議会や社会保障審議会との協議なども必要である。
 EUでは、施設は最小限にし、地域で働くことを積極的に進めており、そのためのサポートセンターの役割が増している。
 働くことは、単に働く場の確保だけでなく、人としての尊厳にふさわしい生活を維持しうるだけの収入を伴う、働きがいのある仕事を確保することであり、そのための社会的条件整備(インクルーシブでアクセシブルな共生社会づくり)が不可欠である。
 そのため、多くの団体と力を合わせて、また、地方で皆様のご意見を聞きながら、一緒に問題解決に取り組んでいきたい。

 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。


    【講演内容】
    「障害者制度改革をめぐる最近の動向について」
    <講師>内閣府政策統括官付障害者施策担当参事官 関 英一 氏

    「インクルーシブな社会実現への課題と展望−障害者の雇用・就労を中心に−」
    <講師>法政大学 名誉教授 松井 亮輔 氏(障がい者制度改革推進会議構成員)

    「障害者福祉施設を中心とした融資制度のご利用について」
     <説明者>独立行政法人福祉医療機構 福祉貸付部福祉審査課

    「社会的排除をなくす第三の就労の道」
    <講師>特定非営利活動法人共同連 事務局長 斎藤 縣三 氏
              (障がい者制度改革推進会議総合福祉部会構成員)

    「C・ネットふくいの経営戦略 自立と社会参加に向けて」
    <講師>社会福祉法人コミュニティーネットワークふくい
                    専務理事・施設運営担当 松永 正昭 氏

    「セントラルキッチンかすがいにおける就労支援の取り組み」
    <講師>社会福祉法人薫徳会 常務理事 三田 明外 氏