福祉医療経営情報記事
トップ



 

◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「精神科病床経営セミナー」報告−【東京会場】
「愛媛県南宇和郡愛南町の精神保健医療福祉 〜これまで、今、これから〜」

 経営支援室 経営企画課 筒井 迪代

 経営支援室では、福祉・医療施設に対する経営支援事業を行っており、その一環として各種経営セミナーを開催しています。
 今回のコラムでは、12月に東京にて開催した「精神科病床経営セミナー −入院医療中心から地域生活中心へ−」の中から、(財)正光会 御荘病院 理事・院長の 長野 敏宏 氏 による「愛媛県南宇和郡愛南町の精神保健医療福祉〜これまで、今、これから〜」をテーマとした講義について、ご紹介します。

セミナー風景

 長野氏が経営する御荘病院は、愛媛県南宇和郡愛南町という人口2万5000人、高齢化率は30%を超えるという小さな町にあります。そんな地方の町で長野氏は、地域一体型病院を目指して、地域で「共に働き、共に暮らす」経営をひたすら追求してきました。
 そのためには、障害者であっても、高齢者であっても、役割を果たす場があること、つまり地域の支援力を高めるネットワーク作りが重要だというものです。長野氏は、かつて「収容型病院」と呼ばれてきた精神科医療から脱却し、病院が地域住民として医療にとどまらず、地域振興、環境保全、就労支援を通じて地域貢献を行う、これまでの精神科病院では考えもつかないような様々な取り組みをされてきました。
 その1つが、平成18年に立ち上げたNPO法人ハートinハートなんぐん市場です。
 この法人の理念である様々な立場の住民が共に参画し、地域活性化につながる産業を興したい、自分達の街が活き活きあり続けるようにとの思いから、従業員は障害の有無に関わらず同条件で雇用し、また多職種の人によって経営されています。このようなことができるのも、事業がビジネスとして成り立っていることが大前提です。事業の一例として、レストラン、温泉・宿泊施設の経営や農業、観葉植物のレンタルなどがありますが、すべて「エコ」をキーワードに地域振興や環境保全を目的として運営されていることが特徴の1つでもあります。開始3年で事業規模も1億円を越え、地域性を活かして今後も新たなビジネスを展開していこうとする先駆的な取り組みは、障害を持つ方の就労支援となるだけでなく、地域に大きな経済効果をもたらし、また、住民同士や地域を越えたネットワークを生み出しています。
 このような事業との関係から、御荘病院は「精神科専門医療で患者さんを集める」病院ではなく、地域のかかりつけ医として、また地域における精神科医療の必要性が最小限になることを目指して、10年間で149床から65床まで精神科病床の緩やかなダウンサイジングを行ってきました。代わりに、訪問看護など他職種との連携や、小規模多機能型居宅介護など福祉サービス事業の拡充、他団体との協働により、地域全体の資源創りに参画しつつ、全体のバランスを大切にしながら地域で足りないニーズを法人が担っていくことにより、精神科医療における「入院医療中心から地域生活中心へ」を具現化してきました。
 また、上述のような福祉サービスの拠点が街中に点在することで、人材を含めた法人の経営規模も維持することができます。更には、収益のバリエーションも、診療報酬だけでなく、介護報酬や自立支援給付費といった幅広いものとなることで、「身の丈」に応じた安定した経営を維持することができますし、合わせてNPO法人の安定経営にも繋がります。
 御荘病院が目指す病院経営は、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」の中でも大きな課題となっている統合失調症や認知症の方の社会的入院をなくし、また障害者も高齢者も住み慣れた地域の中で共に暮らしていくための理想的なモデルだと感じました。
 講義の最後に、長野氏は「入院医療中心から地域生活中心への転換はとにかく時間がかかる、でもそれぞれの地域、病院にあった方法で前に進み始めないと、患者さんも、地域も、病院も大きな痛手をおってしまう、そのことを認識して私達は取り組んでいかないといけない」、との熱い思いを伝えて下さいました。受講いただいたお客様からも、「非常に衝撃的であったが、勇気をもらった」、「サービス提供者側からの視点ではなく、本当に必要なものが何であるのかを教わった」等のご意見をいただき、これまでの精神科医療に対するイメージや固定観念を覆し、これからの病院経営を見直す大きな一助となったのではないかと考えています。
 経営支援室では、これからも、福祉・医療の経営に関するトピックをテーマに、学識経験者、現場の実践者などを講師に迎え、経営セミナーを開催させていただきます。
 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。
 お申込みは、WEBからも可能ですので、是非、ご検討ください。
    【講演内容】
    ○精神科病院の地域移行を通して経営を考える
    (講師)医療法人社団翠会 成増厚生病院 理事長・院長 新貝 憲利 氏

    ○精神科病院を取り巻く現状・課題と将来展望
    〈講師〉独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
    精神保健研究所 社会精神保健研究部長 伊藤 弘人 氏

    ○愛媛県南宇和郡愛南町の精神保健医療福祉〜これまで、今、これから〜
    (講師)財団法人正光会 御荘病院 理事・院長 長野 敏宏 氏

    ○精神科病院の経営実態からみた安定経営へのヒント
    ―平成21年度病医院の経営分析参考指標から―

    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課長 千葉 正展

    ○医療貸付事業に関する融資制度のごあんない
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部 医療審査課