福祉医療経営情報記事
トップ



 

◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

「医療経営セミナー」報告【東京会場】
「急性期医療の在り方を考える −医療政策の方向性をどう読み、医療経営をどのように安定化させるか−」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成22年7月9日全社協・灘尾ホールにおいて、病院経営者等を対象に「急性期医療の行方とこれからの経営戦略」と題して医療経営セミナーを開催しました。
 平成22年度の診療報酬改定では、救急患者の受入れの推進、病院勤務医の負担軽減、質が高く効率的な急性期入院医療等の推進など、急性期医療の再建に関する項目について、重点的な評価がなされたところです。
そうした中、国が導入したDPCの手法は、「医療の質」と「経営の質」の改善を促すための重要なツールとして大規模病院を中心に着実に普及して来ており、地域の急性期医療を担う民間医療機関にも、ベンチマークを通した経営改善への取組みが浸透しはじめています。
 そこで、当セミナーでは、DPCをキーワードとして、急性期を中心とした医療機関の経営戦略、病院経営マネジメントの本質及び現場からの実践的な取組みの考察の3つの観点から、急性期医療の将来を展望するとともに、地域で生活する方々の安心・信頼を確保し、安定した経営基盤を構築するための具体的な道筋を考えることを目的としています。

<講師>独立行政法人福祉医療機構 理事 瀬上 清貴

 
  最初の講演は、当機構の理事である瀬上から「急性期医療のあり方を考える−医療政策の方向性をどう読み、医療経営をどのように安定化させるか−」と題して、病院経営上の問題点、今後の医療政策の方向性等について説明が行われました。講演の概略は次のとおりです。

 我が国の私的医療機関は、建設設備資金としての借入金残高が概ね8兆円、運転資金としての借入金残高が概ね3兆円あり、その償還や利払いはもとより、人件費や各種経費の支払いのため、毎月適切な資金調達に大きな努力を強いられているなどキャッシュフローの相対的な不足をきたしている状態にある。
 また、最近の福祉医療機構でのリスク管理債権発生の原因を見ると、高齢者専用賃貸住宅など複数施設運営による経営体力の低下、必要な人員の確保ができない、金融機関の貸出態度の変化、過大投資など経営見通しの甘さにより資金不足に陥るケースが見受けられる。
 さらに、当機構の「病医院の経営分析参考指標」によれば、一般病院における医業利益率は0.5パーセント、税引き後の利益率は0.3パーセントであり、減価償却費4.8パーセント分を合わせると5.1パーセントがキャッシュフローとなる。しかしながら、借入金元金償還分は7.8パーセント相当あり、その差額2.7パーセントを支払うために、資本を毀損する、新たな負債を負っているなど、厳しい経営状況にある。
 平成22年度の診療報酬改定を振り返ると、社会保障審議会医療保険部会と医療部会に示された診療報酬改定の基本方針のポイント、平成21年8月26日の社会保障審議会医療部会に示された診療報酬改定の基本方針策定における「患者から見て分かりやすく、患者の生活(QOL)を高める医療を実現する視点」、「質の高い医療を効率的に提供するために医療機能の分化・連携を推進する視点」、「我が国の医療の中で今後重点的に対応していくべきと思われる領域の評価の在り方について検討する視点」、「医療費の配分の中で効率化余地があると思われる領域の評価のあり方について検討する視点」に沿って改定が行われたことがわかる。
 改定内容をみると、救急搬送受入れの中心を担う二次救急医療機関を評価する救急管理加算の増など急性期医療の機能強化、DPCの新たな機能評価係数の導入、休日リハビリテーション提供体制加算など回復期リハビリテーションの機能強化を図ること等で、増収を図ることができる。
 これまでの医療制度改正の経緯からみると、5〜6年間隔で改正が行われ、いずれも改正に先立って3年前には具体的な検討が始まっていることから、2010年、2011年は次期医療法改正の重要な検討時期となる。
これまでの経緯から国会の付帯決議は重く、その内容が次回改定の方向性を示していることから、次期医療制度改革に向けた課題として、第5次医療法改正(2006年)の附帯決議では、地域医療における介護も含めた連携、小児科・産科の医療資源の重点的かつ効率的な配置などがあげられている。
 また、社会保障国民会議報告書では、医療・介護にかかる需要の増大とサービス確保のための将来の財源確保が大きな課題であるとし、構造改革経済路線から転換し、社会保障の持続可能性に加え機能強化が必要であり、2025年時点でのあるべき社会保障の姿と、2015年・2025年の所要額、さらに消費税換算率を提示している。
改革シナリオでは、「選択と集中」の考え方に基づいて、病床機能の効率化・高度化、地域における医療機能のネットワーク化、医療・介護を通じた専門職種間の機能・役割分担の見直しと協働体制の構築等を図る内容となっている。
 さらに、民主党の医療介護関係の政策では、社会保障国民会議の報告書の内容は民主党のマ二フェスト等においても包含されており、また、新成長戦略において「ライフ・イノベーション」による健康大国の実現が掲げられ、健康大国戦略の工程表、実現すべき成果目標が示されている。
 2012年には診療報酬と介護報酬の同時改定もあり、そのような中で、国民の求める医療に対する選択と集中、医療機能の分化と連携の強化に向けた対応が必要であり、経営戦略と経営ビジョンを定め、そのためのリーダーシップの発揮と人材育成が、医療経営の安定化を図る上で重要となる。

 なお、当セミナーの内容については、月刊誌「WAM」9月号にて掲載を予定しています。
 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。


    【講演内容】
    ○「急性期医療のあり方を考える−医療政策の方向性をどう読み、医療経営をどのように安定化させるか−」
    <講師>独立行政法人福祉医療機構 理事 瀬上 清貴

    ○「DPCデータの医療マネジメントへの応用」
    <講師>産業医科大学 医学部公衆衛生学教室 教授 松田 晋哉 氏

    ○「転換期の病院経営(地域民間病院の試行錯誤から)
    <講師>社会医療法人財団石心会 理事長 石井 暎禧 氏

    ○「これからの事業展開を進めるうえでの経営分析の活用」
     <説明者>独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課

    ○「医療貸付事業のごあんない」
    <説明者>独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部 医療審査課