
訪問先の病院で、足の血流を評価する看護師の岡林裕代さん=左(写真はいずれも越知町の北島病院)
足にできたほんの小さな傷。糖尿病や血流障害のある人が放置していると、傷口から感染症を起こし、下肢切断など手遅れの状態に至る場合もある。こうした足病変にいち早く対応しようと、岡村病院(高知市入明町)が「訪問フットケア」を2018年から続けている。看護師が郡部の病院や施設を定期的に訪れ、治療が必要かどうかを見極めている。
■多い高齢者
「お元気でした? 足を診せてくださいね」
高岡郡越知町の北島病院。診察台に横になった70代男性に、看護師の岡林裕代さんが声を掛けた。岡林さんは岡村病院の救足センター主任。北島病院を毎月訪れ、数人の患者を経過観察している。
患者はほとんどが高齢者。下肢の動脈が詰まる「閉塞(へいそく)性動脈硬化症」による足のしびれ、冷え、潰瘍、壊死(えし)を抱えている。
70代男性は岡村病院で治療し、現在は北島病院で人工透析を受けている。足病変から感染が広がり、一時は切断の恐れもあったという。
岡林さんは男性の足を念入りに観察し、触診で温かさを確かめ、超音波で血流を確認。「歩く時に違和感がある」という訴えを聞き、「血流は大丈夫だけど、1回先生に診てもらいましょうか」。その場で予約を取り、診察日を伝えた。
こうした訪問フットケアは岡村病院で治療を行い、経過観察が必要な患者が対象。5月は岡林さんが郡部を中心に病院や介護施設5カ所を回り、計20人を担当。「特に独り暮らしの高齢者が高知市の病院に通うのは大変。患者が我慢して手遅れになる前に、こちらから訪問しようと考えました」と振り返る。
■予測難しく
糖尿病や血流障害のある人、人工透析を受けている人などは小さな足の傷に感染を起こしたり、血流が足先に届かなくなったりすることがある。放置すると、真っ黒に変色する「壊疽(えそ)」などの状態となり、最後は下肢の切断に至る。
足病変の識別や、悪化の仕方、スピードは患者によって異なるという。岡村病院の岡村高雄院長は「予測は難しい」とし、80代患者を例に挙げた。
患者が足の痛みを訴え、受診したのは今年1月末。閉塞性動脈硬化症で右足は既に手遅れだった。
数日後に右足を切断し、左足には血管を広げ、詰まりを取るカテーテル治療を行った。しかし、3月初旬の訪問時に左足の血流が悪化しており、再入院。再びカテーテル治療を行い、訪問で経過観察を続けてきたが、4月下旬に悪化。1週間後に再治療し、現在も経過観察を続けている。
「足病変は一気に進む場合があり、治療のタイミングが大切。少しでも様子見の判断をしていたら、左足も切断に至っていたでしょう」
通院時の負担に加え、新型コロナウイルスによる受診控えも足病変の様子見につながっている。「『何科で診てもらえるのか分からない』という声も依然としてある。下肢の潰瘍や壊死への理解を医療現場でもっと深めていきたい」と岡村院長は語る。
■気軽に連絡
訪問フットケアでは、訪問先のスタッフと一緒に患者の足を診ながら、確認するポイントを伝えている。「通い続けることで関係ができ、病院や施設から『ちょっと気になる』と連絡をもらえるようになった」と岡林さん。北島病院透析課の看護課長、徳弘恵利さんは「専門の看護師に来てもらえるのはとても心強い」と喜ぶ。
足病変の進行などで下肢や足の指の切断に至る患者は国内で年間1万人を超えている。
「足の指1本でも切断すれば生活の質は低下するし、指1本が足1本につながっていく」と岡村院長。「訪問フットケアは足病変の早期発見と、医療現場への理解促進の二つを目指す取り組み。一人でも多くの足を救うため続けていきたい」(門田朋三)